我がおバカなご主人様、千束が迷推理ショーをしてくれた。
俺が爆裂事件の犯人らしい。
……確かにあのとき、千束が「本当の魔法使い」って言ったときに俺は顔を青ざめさせて挙動不審になったかもしれない。
そしてトリックに対する推理もあながち本質を突いてたのかもしれない。
だが、俺を犯人扱いしたのは大間違いだったな!
その恨みはしっかりここで清算しなくっちゃぁなあ!!
「むっきゅー……」
「うし、制・裁・完・了! これに懲りたら適当なアリバイでっち上げて人を馬鹿にしないように!」
「くっ、こんなに完璧な推理だったのに……まさか真犯人は相当の策士! 私を欺くために巧妙な罠を……」
「お前は罠に嵌まったんじゃなくて勝手に段差のない場所で躓いただけだろ」
二重の極み(単なる二回連続の拳骨)を頭に食らって撃沈してたはずなのに復活早いなオイ。
……ってそんなことしてる暇なんてない!
この事件の真相!
どうして俺はこの事件の真相に気がつかなかったんだ!
火薬を使った跡もないのに爆発したのはどんなトリックか……魔法しかないだろそんなの!
ここ異世界じゃなくて現代日本だから千束に言われるまで念頭になかったわ!
俺は異世界に嫌気がさして故郷帰りしたくなって日本に来たわけだが、あのウィズの魔道具の効果は一度きりじゃない可能性がある。
アクアがどうして日本に来たのかは酒で記憶が飛んでるせいで不明だが、もしあの魔道具の効果で来たんだとすると、向こうの異世界から他の誰かがやってくるなんてことも否定できない……
そして爆発……いや、爆裂と言えばあのアクセル随一頭のおかしい爆裂娘ことめぐみんしか思い浮かばない!
ほんっっとうちの馬鹿どもが次から次へとすいませぇぇえんっ!!
「なあアクア」
「アクアよ! どうしたのかしらカズマさん」
「しぃーっ! 千束のおかげで誰が頭のおかしい爆裂魔だか目星がついた」
「ほ、ほんとうに!? この中の誰が犯人なの!? 何でコソコソって話すのよ、早く犯人を捕まえましょ!」
「なんでこの中に犯人がいるって思ってんの!? めぐみんだよめぐみん!」
「あっ、そうゆーこと?」
「おっ、わかってくれたか……」
「つまり私にトリックの再現を手伝ってほしいから内緒話がしたいのね!」
うん、何もわかっちゃいないなこいつ。
一応トリックの再現は確かにお前がいればできるよ?
俺がアクアにドレインタッチして莫大な魔力を吸い上げ、その魔力を消費して爆裂魔法放てばいいんだからな。
……東京の地形破壊して、俺の借金増やそうとして楽しいか!
もしそんなことを本気ですすめてるんだったら一回自分の頭にセイクリッド・ハイネスヒールか何かかけるべきだと思う。
そんなこと思っているとたきなが興奮気味に俺の方に顔をずいっと寄せてくる。
「カズマカズマ!」
「カズマです」
「一体誰が犯人かわかったんですか!」
「い、いやナニモワカッテナイヨ」
「私聞いてたんですよ、さっきアクアとコソコソ話してたでしょう? トリックの再現が何とか……ぜひ私にも教えてほしいです!」
「えっとだな、今の段階では俺の心当たりも確証がないし、加えてソイツがどこにいるのかもわからない。ならはっきりしたことがわかるまで説明の必要はないだろ? やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に、だ」
「ですがわたし、気になります!」
私、気になりますじゃねぇんだよアホぉ!
爆裂魔法とかいうアホな魔法があってとか説明でもしてみろ。
千束の推理を聞いて呆れるんだったら俺の推理を聞いたところで同じように呆れるだろうが!
えっ、何だって?
犯人の外見がわかってるんだったら情報を共有して、被害が拡大する前に捜索願でも出した方がいいんじゃないかって?
だが断る! 俺は話さない!
だって馬鹿正直に話せば絶対バスを爆破させた分の借金が俺に請求されるだろ!
あとちょっと、あと1ヶ月もしないうちに借金を完済できるんだ!
これ以上増やされたら敵わない!
というわけで極秘に調査して誰にもバレずにひっそりとこの事件を終わらせることで借金を増やさない算段だ。
……これ以上、俺の平穏を崩させはしない!
すぐにとっ捕まえてやめさせてやるから待ってろよ、めぐみん!
**翌日**
「はぁいっ丁2丁3丁! カウンターの三名様にヒヨコのカップケーキ!」
「あいよー千束! 今持ってくー!」
「よろしくぅ! ってか何でまたうちのお店人気になってるの!?」
「アクアに聞け、勝手に新商品開発してバズらせた張本人だろ!」
「そんなこと言ったって昨日カズマが犯人捜索するぞって言ってたでしょ?」
「確証も何もないって言ったろ? だから一人で探偵の……そう、勘とかで犯人を捜し出してくるって話だったのにどうして首突っ込んでくるんだよ」
「べ、別に尾行して犯人確保の一番おいしい瞬間をかっ攫おうとか思ってないよ? じゃなくてカズマの都合あるのにどうしてこうも悪い時に繁盛しちゃってんの!? いやめっちゃ嬉しいことなんだけども! ……それでどうしてこんなことになっちゃったのよあっくん!」
めぐみんを探し出そうとしたその翌日。
俺は一体何をやってるんだろうか。
いや、昨日で休日が終わって今日から出勤して働いてるだけなんだが。
「都合が悪いってどういうことよちーちゃん! 今回は何も悪いことしてないわよ、ただ私が昨日暇してこっそりゼル帝のカップケーキを作ってお店の宣伝に使ったらこうなっちゃたのよ、みんな私の素晴らしい作品にくびったけってわけね!」
「くびったけとか今日日聞かねぇな……実年齢不詳な女神様や、本当のところ何歳だ?」
「ちょっと女子に年齢聞くのは禁忌よ! もう一度その口でおかしなこと言おうものなら蚊に刺されない代わりに寝るタイミングで蚊が耳元に集る呪いかけるわよ!」
「切実にやめてくださいお願いします……とでも言うと思ったか! もう蚊のシーズンは終わってるんだよ馬鹿が!」
「ちなみに呪いの効果は10年近く……」
「ごめんなさいアクア様許してください」
寝るときに限って耳障り悪いあの音に悩まされるとか地獄か!?
昔かけられた腹が痛くなったときに限ってトイレに誰かが入ってる呪いと同じくらいたち悪いわ!
お前はどうしてこうも人が嫌がる呪いをかけることに才能があるんだよ!
「あっ、それと! この子、キングスフォード・ゼルトマンの種族はシャギードラゴンよ! 体毛が生えてる珍しい希少種で、歴としたドラゴンなんだから! ひよこじゃないわよ!」
「えっ、これってヒヨコじゃないの!?」
「いや、ヒヨコで間違いないぞ千束。今じゃすくすくと育ってトサカの生えた立派なニワトリになってたわ。……いやぁ親と子は似るもんだなぁ」
「それってどういうことよ? もしかして私のこの頭のチャームポイントとゼル帝の王冠みたいな頭がにてるってこと?」
「いや3歩歩けば忘れるってところ」
「誰が鳥頭ですって!」
お前の場合は酒飲むと全部忘れるから似たようなもんだろ。
お前に愛されたせいで無駄に魔力が多いだけのヒヨコ……を模したカップケーキ、リアル過ぎるって話題なんだよなぁ……
人によってアクアの超リアルバージョンか俺の通常バージョンのどちらを選ぶかはそれぞれだが、カップケーキのカップ部分をクッキーとホワイトチョコで卵の殻っぽくするのは共通で、お客さんにも好評だ。
……って違う!
こんなことしたらめぐみんを探す暇なんてなくなっちまうじゃないかってことだよ!
「俺が何とか事件解決の糸口を見つけようとしてんのに、それを妨害するやつは鳥頭だろ!」
「で、でも借金返済には一歩前進じゃない!」
「だから! このままだとさらに借金が増える可能性があるんだ!」
「どういうことなの!?」
「えっと、今日からカズマと私とで人捜しの旅イン東京する予定だったのにこんなに繁盛してちゃそんな時間ないってこと、わかったかいあっくん?」
「おい、妙に論点ずれてるし、行くの俺だけだかんな? お前は連れて行かねーよ?」
「あっ、勝手について行くだけなんでお構いなくぅ」
いや構うわ!
というかもうすでに一緒にめぐみんを探そうとするの隠そうとする気ないだろ!
そして俺を尾行したとして誰がめぐみんかわかんないのにどうやって手助けしようっての?
たぶん足手まといになる未来しか見えないからすっこんでろ!
「はぁ……それじゃあ容疑者アクア。何か言い分は」
「な、なんか私悪い子みたいになってるんですけど! 繁盛して悪いことないでしょ! そ、それに私、考えたのよ!」
「やめとけよ」
「何も言ってないのに全否定しないでよバカズマさん! いい? 昨日めぐみんを探すってカズマ言ったでしょ? でもこの大都会を探そうって言っても面倒くs……闇雲じゃ探そうにも見つからないわ!」
「今めんどくさいって言ったか?」
「言ってない。……それでね! 私の完璧な頭脳はひらめいちゃったのよ! 探そうとしなくてもいい、逆に考えるのよ、向こうからこっちに来てもらえばいい……ってね! でも私たちを見つけてもらうには大きな目印が必要でしょ?」
「だからバズらせたってか?」
「そうそう! 最初はちょむすけばっかり目立って気にくわないからゼル帝で対抗しようとしただけなんだけど、これって借金返済にも役立つしいいアイディアじゃない?」
た、確かに犯人が自首してくれるみたいに自ら顔を出してくれる方がこっちの労力もかからないし、最初の動機がどうであれ借金返済にも役立つ。
クルミに魔女のコスプレをした中二病を探してくれって言って探させる予定だったから、別に闇雲に東京中を探そうとは思ってなかったが、アクアの考えにしては抜けがない……
「お前……本当にアクアか?」
「ちょっと一発殴ってもいいかしら」
「夢かもしれない……頼む」
「か、カズマさんがダクネスになった!? こんなのカズマさんじゃない! 私のカズマを返してよこのエムマ!」
「誰がエムマだ!」
「悪しき憑きモノよ、清き拳を食らいなさい! ゴッッドブロオオォォオオーーッッ!!」
「フルカウンターッ」
「ひでぶっ!!」
「ふー……俺のアクアを返しやがれ偽アクアがっ!」
女神の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳、相手は死ぬ!をクロスカウンターで迎え撃ち、技を食らったのは偽物のアクアだ。
いくら夢だとはいえ、流石にアクアに殴られるのは我慢ならなかった。
許せ、俺の幻想が作り出した理想のアクア!
「ちょちょちょい! なぁにやっとるんじゃお前!? このあっくんは本物じゃい! 確かにいつもより賢すぎて気持ち悪いけども友達を信じてやらないのは最も恥ずべき悪徳じゃ!」
「友達に対して気持ち悪いとか言うお前の方がよっぽどだぞ!?」
「私は看病して善と悪を打ち消し合うからセーフなの!」
アウトだよッ!
なんかもうその発言自体いっぱいいっぱいアウトだよ!
そんなこと思ってジト目で千束を見ていると、接客を担当していたたきなが来て。
「二人とも忙しいのでいい加減仕事してください! というかミズキさんが歴戦の猛者たちと死闘を繰り広げてるので早く救援を……」
「ボドゲ大会で最近調子がいいジンとクルミを相手にして負けかけてるのを歴戦の猛者たちと……って表現するのやめようか! この平和そうな喫茶店が急に殺伐とするから」
「ですが何故かクルミの口車に乗せられたミズキさんが『ボクたちに勝つまで給料発生しない』という内容で戦っているので、私から仕事してくださいと言っても勝つまで待っての一点張りで……」
「それで俺と……」
「私に……ボドゲ大会に加わってほしいと? いよっしゃ! いっちょミズキの救援にいってくわ!」
「違います。ふざけてないで真面目に仕事してくださいってことです。ミズキさんは今日のところは欠勤扱いにしておきましたのでよろしくお願いします」
悲報、ミズキ、今日はいないもの扱いにされる。
まあしょうがないよな、忙しい日にボドゲして仕事しないんだから、働かざる者給金もらうべからず!
はぁ……千束とアクアのせいで無駄に口動かして疲れたから休んだ気がしないわ。
だが俺は仕事のプロフェッショナル、カズマ!
すぐに切り替えて接客に励むのだ!
「いらっしゃいま……せ……」
「よォ……カズマじゃねェか。オマエさんここでバイトしてたんだなァ? 俺ァ知らなかったぜ、俺とオマエの仲なのに教えてくれねェたァ水くせェじゃねェか……」
「人違いですわよ?」
「あァ……そう言うことかァ。知り合いに自分の普段とは違う姿見せるのは恥ずかしいっつー思春期真っ盛りな思考かァ? まァ気にすんな」
「気にするわ!」
「とりあえず、これ……写真のブツを寄越せやゴラァ!」
「……ヒヨコ、ですか?」
「あァそうだ。これで俺のチョイ恥ずい部分は見せたぜェ? 片方が恥ずかしがってんのに俺も恥ずかしい部分曝け出さないとバランスがとれねェかんなァ」
「は、はあ?」
「つー訳でヒヨコ出せや! この店のちょむすけ……だったかァ? あの味が忘れられなくてよォ…リピーターになりにわざわざ足を運びに来た俺のこともてなせや」
「ちょむすけも追加ですねー」
「あァそうだ。早めに頼むぜェ? コーヒーは前のとおんなじだァ」
「はーい、ちょむすけ1丁、ゼル帝1丁、いつもの1丁!」
俺の料理は真島さんをも虜にしてしまったらしい。
俺はびびりながらマニュアル通り注文を承った。
……テロリスト相手に正体を知られつつもよく頑張ったと思う。
というかここの常連になるっつったかコイツ!?