このリコリスのパンツにスティールを!   作:桃玉

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前回の続きです。


狂った殺人鬼から逃走を!By カズマ

美少女二人に声をかけられたと思ったら銃で撃たれかけ、公園まで全力疾走して、すっかり酔いが覚めた。

 

それにしてもヒドい目に遭った……

まさかあんな美少女が拳銃を持ってるなんて、俺が異世界にいる間で日本の治安どうなっちまったんだよ!?

そもそも第一遭遇者が結構な犯罪者って俺の運どうなってんだよクソったれッ!?

エリス様に次いで高いと自負している俺の幸運値、まさか異世界においてきたのか!?

……いや、転移早々美少女に介抱されたのは幸運だったけども一瞬だけの幸せじゃなくてもっと一生幸せにさせてくれ!

 

 

「はぁ……。にしてもここ、日本なんだよなぁ。ウィズには実家を当てにするっつったけど実家に帰ったってなぁ……」

 

 

そう、俺は死んで異世界転生したからこっちの方ではもうとっくの昔に故人となっているのだ。

この世界の医者に『死因:トラクターに轢かれたと思い込んでショック死(笑)』とか書かれたことに対して名誉毀損で訴えたくても、親に「俺だよ俺! 和真だよ!」とか連絡したって無意味だ。

幽霊として化けて出たと思われたらまだいい方で、俺の死に様聞いて吹き出した家族のことだ、俺の声を聞いたところでオレオレ詐欺だって思われるのがオチで、脳血管と電話共々ぶち切れるであろうことが簡単に想像できてしまう。

久しぶりに会いたいなと思ってみたけど、そんな凶暴な家族の元に返りたくねぇわ。

そもそも家に帰ろうとしても自力で帰れる距離なのか?

まあつまり何が言いたいかって言うと俺は絶賛無国籍かつ迷子かつ無一文ってことだ。

 

 

「……ど、どど、どうすりゃあいんだ!? このままじゃ俺、警察に追われるお尋ね者で、もし捕まったら不法滞在で帰るまでの一年刑務所生活……せっかく日本に帰ってきたのに全部牢屋生活なんてやなんですけど!?」

 

 

ゼロどころかマイナスから始まる監獄生活(一年過ぎるまで強制監禁で帰れない)何て嫌すぎる!!

日本は異世界と違ってどこに泊まるにしても金がいる。

……つまり俺は覚悟を決めなくちゃいけないって訳か。

 

 

 

 

カズマは 冒険者から ホームレスに 転職した。

 

 

 

 

俺は公園のベンチを陣取り、ゴミ収集所にあった段ボールを拝借し、春先の薄ら寒い風で風邪を引かないように段ボールの中に入り、さらに包まる。

 

……俺、段ボールに入れられて道端に捨てられた捨て猫の気持ちなんだが?

まあ、体が冷えなきゃそれでいい。

 

……そう言えばめぐみんは「蛙の中ってぬくいんです」って言ってたが、もし段ボールが雨に濡れたら蛙で暖をとれば省エネになるかな?

そして雨がやんだらティンダーで蛙を炙って食べれば最高にエコじゃないか!

 

 

「なんて素晴らしいんだってちがああああうッ!」

 

 

どうして日本に来てホームレスしなきゃならないんだよ!

そうだよ、俺が酒を飲んだ勢いでウィズの魔道具を使ったからだよ、過去に戻れるなら過去の俺を一本背負いして地面に埋めてやりたいッ!

 

マジで後一年もあるのにどうする!?

公園のベンチでぬぅぉおおおと頭を抱えていると近づいてくる足音を察知した。

 

誰かと思っていると何故か敵感知スキルに反応があり嫌な予感が。

でも今回に限っては、ヤンキーか何かがかつあげに来たんだとしたら絶好のタイミング!

私利私欲に塗れた鉄槌を下すついでに正義を語ってお金を寄付してもらお!

 

かつあげしていいのはかつあげされる覚悟の有るやつだけだぁぁああ!!

俺の前に現れたのが運の尽き!

これで当面の飢えはしのげるぜ、ヒャッハー!

 

……と俺はスティールしてから逃走する準備をしようとして、目の前の存在がアクシズ教並にヤバい奴だってことに気づいた。

 

 

「こんばんは、捨て猫少年。こんな夜更けに公園で思い耽って……黄昏るには遅すぎる時間にどうしたのかな?」

 

 

目の前にいたのは金髪で堀が深く、下瞼の睫毛がはっきりとしているスーツ。

俺はこの容貌を見たことがある。

吉良吉影、ジョジョの奇妙な冒険第4部に登場するイカれサイコ連続殺人鬼で、相手を触ったら爆死させられる能力を持っているラスボスにそっくりだ。

ちなみにそいつが連続殺人をする動機は手が好きすぎて欲しいから。

そんなイカレやろうと遭遇しちまった。

 

スゥ……いや落ち着け、俺。

ここは東京で杜王町じゃないし、目の前の人からは敵意はなさそうだ。

そもそも漫画のキャラが現実にいる訳ないじゃないか!

そうだ、目の前のこの人はただ吉良吉影に似てるだけの他人だ。

 

……いや待て?

だとしたらヤンキーでもないのに敵感知スキルが反応しまくってるのは何でだ?

もしかしたら何かがきっかけで爆発するタイプの人かもしれない。

とりあえず刺激しないようにしないと……

 

 

「こんばんは……何かご用でしょうか」

「……その、段ボールからは出ないのかね?」

「出ません、ここが俺の聖域なので」

「そ、そうなんだね? まあそのままでも話はできるからそのままでもいいが……」

 

 

困ったような顔をして話を続けようとする吉良吉影(仮)。

冷徹なサイコパスキャラっぽい言動じゃないが、まだ俺の中での警戒心は下がっていない。

むしろあんなおかしなこと言っても話をやめようとしない姿勢にうちのパーティーメンバー以上のヤバさを感じる。

 

 

「それで、君は見たところ身なりはきれいだがどうしてこんなところで段ボールハウスを築いているんだい? ご両親と喧嘩でもして家出したのかな?」

「……あるお店で食べてたら羽目を外しすぎて、お金がなくなりました。天涯孤独の無一文です……」

 

 

何だってこんな惨めな嘘をつかなきゃいけないんだ!

本当はアクアがゲロって追い出されたせいなんだって言いたい!

でもここは日本でお酒を飲んだって言ったらいろいろと問題あるししょうがないんだ……ううっ

 

 

「それは、一人では何かと大変なんじゃないかい? よければ私が力になりたいのだが……えっと、君の名前は何と言うんだい?」

 

 

すんごい聖人来た!?

さっきまで殺人鬼扱いしてごめんなさい今すぐ段ボールから出ます!

 

……と思いかけたが、やっぱり怪しいわこの人。

具体的に言うとアクシズ教みたいに目が青く光ってる気がする。

 

道端で出会った途端に自己紹介して名前を聞き出そうとする人に関わるとか碌なことないだろ。

アルカンレティアで思い知らされた悲劇を俺は忘れない……あんなので喜ぶのはうちのドMクルセイダーくらいだ。

 

俺の本能的な拒否感は反応しっぱなし。

いつぞや我が妹(アイリス)にされたような誘拐か、それともところてんスライムを凌ぐほど危険な白い粉か、はたまたダストの尻を狙ったアクシズ男貴族と同じか。

何にせよ、こんなときは話をとっとと切り上げて逃げるに限る!

 

 

「……素性のわからない人には名乗ってはいけないと親が言ってた、というか実体験で学びまして」

「なるほど、それはいい心がけだ。人間警戒しすぎて死ぬなんてことないんだからね。ところで大人のお節介だが、こんな真夜中に起きていると睡眠不足による肌のくすみやクマが出てくる。心なしか顔色が優れないようだが大丈夫かい? 私としてはお酒で微睡むよりホットミルクをお奨めするよ」

 

 

今の会話で俺の中から逃走の二文字が選択肢から消え失せた。

何故かって?

こいつが吉良吉影である可能性がぐーんと上がったからだ。

 

ふぅ、もしそうだとしたら俺の転移後人生、一日も経たずに終わった。

……何とか生き延びるには大人しく投降して従順な僕にならないとなのか。

 

いや、まて、早まるな佐藤和真!

落ち着いて考えればアニメの世界に転移なんてあり得るだろうか、いやない!

 

相変わらず敵感知スキルは役に立たないが、何故かこの吉松という人から逃げたいと本能が叫んでいる。

俺にできることは吉影(仮)に捕まる前に逃走することだ!

口先八丁で敵を欺き、パーティーの中でも一番の逃げ足を誇る俺を捉えられるかなッ?

スキル『逃走』ッ!

 

 

「俺は夜型だからコーヒーの方が……いやなんでもないです!! そ、そうっスね! じゃ、じゃあ俺も早く家に帰ってホットミルクでも飲んで熟睡しないとですねああーっともうこんな時間だ家に帰って急いで寝ないとではありがとうございましたさような……!」

「すまない、今のはちょっとした話の掴みとして話しただけなんだ。実は本題は別にあってね。こっちを見て話を聞いてくれないかい?」

 

 

ああっ!? 肩捕まれて回り込まれた!?

しかも触られたとき本能がこいつと関わっちゃいけないとビビビッとヤバいくらい反応した。

そして俺のお尻がキュッとなった。

 

……あ、これあれだ。

アクシズ教の狂信者で男好きな奴に絡まれてるときと同じだ。

あのときはスキル『バインド』で何とか逃げられたが、今回は縄を持ってないし俺の生殺与奪の権を掌握された気分。

んでもって蛇に睨まれた蛙ならぬ、ジャイアントトードに睨まれたアクアの気分だ。

 

思えばさっきの敵感知スキルの反応は長らく鍛えられた俺に対する警報だったのかもしれない。

本来の敵感知スキルは敵意を持つ相手しか感知できないこのスキル。

俺が頼りにしてきたスキルが主人の危機を本能や勘として知らせてくれたのかもしれない。

 

 

その警告を無視した俺は貞操の危機。

 

大声で叫んで死なば諸共一緒に刑務所送り……したら一緒の牢屋に入ることになって、そんな狭いスペースに猛獣と二人きりとか無理すぎる!?

どうすればこの状況を打破できるんだ!?

 

この人が吉良吉影であれ何であれ俺は屈しない……屈しな……屈し……

うん、人は話し合いができる、争いはよくないよな。

解放されるまで大人しくして、最終的にヤバい状況になったら目潰しコンボ食らわせてここから脱走しよう。

 

吉松からの問いかけからここまでわずか1秒。

俺は意を決して首をゆっくりと動かし話しかけた。

 

 

「手短ニオ願イシマス」

「そうだね、私も限られた時間を有効に使いたいタイプの人間だ。気構えなくてもいい。まずは私の素性について話そう。……何故耳を塞いでいるんだい?」

「スミマセン、何カ悪寒ガシテ本能的ニ。続ケテクダサイ……」

 

 

ヤバいやつのこと考えてたらめぐみんとダクネスがパーティー加入ときのこと思い出したわ。

目の前のヤバそうなやつに比べたらお前たちはまともな……いや、大概だったな。

何ならめぐみんは一日一回爆裂魔(法使い)、人的被害はないから慣れてただけで地形破壊と生態系崩壊させて凶悪すぎんだろ!?

ふぅ、何かお前らのこと思ったら目の前の奴なんてへみたいなもんだって思えてきて心落ち着いたわ。

それはそれとしてさっさと逃げたいけど。

 

 

「何か諦めた顔をしているところだが、君にとっても悪い話ではないんだよ?」

「結構です……」

「私はアラン機関という組織に属している者だ。最近はマスメディアに謎の組織として取り上げられることが多いが聞いたことは?」

「ないけど結構d……」

「才能を支援する組織なのだが、それでも噂程度に聞いたことは?」

「ないけど結k……って聞けよこら! じゃ、じゃなくて」

 

 

危ない、アクシズ教みたいに話が通じない人だったから思わず口調が……

ってか才能を支援する組織ってところで既に怪しさというか胡散臭さを感じるわ。

 

いやでも落ち着け俺、俺は長男だしやればできる子だ!

なるべく刺激をしないようにしないと……

 

 

「あの単刀直入に聞きますけど、俺みたいな凡人にその機関が何のご用で?」

「ああ、簡単に言えば支援させてくれないか? ということなのだがどうだろう」

「……」

 

 

メッッチャ詐欺師の香りプンプンだ。

俺はほとんど運だけでやりくりしてきた男だぞ。

ロリ魔法使いのめぐみんに筋力ステータスで負ける……何か泣けてきたが、才能のなさの自覚と人より冴えてる勘を舐めんなっ!

 

 

「実は先程君が銃弾を避けていたのを偶然見てしまってね」

「偶然ですか……」

「ああ、偶然だ」

「……」

「我々はありとあらゆる類い希なる才能を、貧富の差関係なく、頭が狂っていようと、犯罪者であっても、学業やスポーツの才にとどまらず、非人道的な才であろうとありとあらゆる素晴らしい神からの贈り物を支援する。……それで偶然君を見つけ、その身に宿る才能を支援したいと思ったのだが」

 

 

嘘だッッ!!

偶然であってたまるかストーカー野郎!

俺はノーマルだ、男に追いかけられる趣味はない!

目の前のこいつからはアクシズ教並みのヤバい雰囲気がヤバい……

てか銃で撃たれかけてたところ見てたなら助けろよ!

 

それに俺のこと過大評価、それと思った以上に闇深で表でも活動している狂った裏の組織すぎてゲボりそうなんだが?

そもそも俺に才能なんて……高校生活の代わりに異世界生活だったから知識もない、レベル20以降伸びしろなくて筋力ステータスもロリっ子魔法使いに劣る、この俺に……ううっ

……俺、何で二回も自ら地雷踏み抜きに行ったんだろう。

 

 

「……いやいや、だ、だとしても! そもそもあれはまぐれですから、甚だしい勘違いですから! ってことですから俺に構わないでお引き取りくださいどうぞ!」

「避けたのを否定はしないんだね、それだけで支援を受けるには十分だ。さあ、君もアランチルドレンにならないか?」

 

 

もしかしてコイツ鎌かけやがったのか!?

こんな怪しい組織の支援というかお世話なんて受けたくない!

ああもうっ、日本にきて早々、どうして変な奴らとしか遭遇しないんだ!?

異世界でなら!

……

うん、初っぱなあの駄女神だったな。

どっちも変な奴らしかいないし変わんねぇや。

 

 

「賢い君なら断ることなんてしないと私は確信しているよ」

「も、もし断ったら……」

「……」ニコ

 

 

何も言わずに微笑むな、何か意味深で怖すぎる!

俺、これ断ったらどうなる!?

 

 

「い、一度親に確認を取らないと……ってことで一回持ち帰らせて頂いても?」

「電話を持っていないのかい? もしそうならここで掛けてほしいのだが」

「……ハイ」

 

 

こんな地獄のような状況で諦めにも似た悟りを開いた俺の顔には和やかな笑みが宿った。

 

さようなら、俺の平穏。

こんにちは、不吉な展開。

 

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