「どうしてカズマは……どうしてこんなことになってしまったのでしょう。取り返しのつかないことを……」
「儚い……儚い犠牲じゃった」
そう言って涙を堪えているのは千束とたきな。
何があったのかの説明は割愛するけれど、様々な事情が重なってカズマがお巡りさんに連行されちゃったのを私たちは目撃してしまったのよ。
でも……これはしょうがないことだったの!
だってスカートはいてたカズマさんが女子トイレに入って、ストレスかなんかで急に雄叫び始めて……
あのときのカズマはストレスやらなんやらでメンタルが保てなかったんだわ。
だからドナドナ連れて行かれたのは悲しいことだと思うけれど、この事実は受け入れるしかないものだって私は思ったの。
でも、それでも私があのときあんなことをしなきゃこんなことにはならなかったんじゃないかって、そう思わずにはいられなくて。
「私があのとき、あのとき嘔吐くのを我慢できてたら……こんなことには……」
「あっくん、あっくんは何も悪くないんだよ。これは……借金にまみれたカズマの辿る悲しき末路だから……気にしないでなんて言わない。でもいつまでもくよくよしてちゃよくない気がするんだ、私は」
「ちーちゃん……そうね、そうよね! 私、今は亡きあの人のためにも生を謳歌するわ! そして悲しき末路を辿らないようにするわ!」
「そう、その調子だよ!」
「いや、誰が悲しき末路だよ!!」
玄関の方から聞こえてきたのはどこか懐かしい声。
驚いてばっと声の主の方へ向くと、今日はカツ丼を食べて一晩泊まってくると思ってたカズマさん。
「か、カズマ……どうして生きて……!? 死んだはずじゃ!?」
「無事生還だよこのヤロウ! 確かに罰金とか科されかけたし社会的に死ぬ一歩手前だったから言い得て妙な気もするけど!」
ちーちゃんのボケに元気よくツッコミいれちゃって、思った以上に元気してたみたいでよかったわ!
このままカズマさんが帰ってこなかったらおいしい夕飯が食べられずに魚の干物になっちゃうところだったし、帰ってきてくれて嬉しいわ!
それにしてもその日のうちに帰ってこれるなんてびっくりよ。
そう思いながら私は電話をテーブルの上に置いて。
「カズマさんおかえりー! 予想より早いお帰りだったじゃない、どんな手を使って脱走してきたのかと思ったわ。てっきり……」
「俺が逮捕されて孤独房飯してたかと思ってたのか? というかその電話、どこにかけようとしてた?」
「そ、そんなこと…………一瞬脱獄してきたから指名手配されてると思って110番に連絡しようだなんて思ってないわよ?プイッ そ、そんなことよりお料理作ってくれないかしら?」
「そんなことってなんだよ顔を背けんな! 疚しいこと何も思ってないならコッチヲミロッ」
か、カズマさんが
やっぱり警察に来てもらおうかし……い、いやぁねぇカズマさんってば、別に私は何かやましいことがあるわけじゃあないのよ?
確かに私たちはさっきまでテレビをつけてカズマさんの帰りを待ってたわ!
だから頭を手でつかんで無理矢理正面を向かせないでほしいんですけど。
あんまり痛くないアイアンクローが顔から離れて、視界が開けるとそこには暗黒微笑したカズマさんが。
「それで? 110番以外にどんな疚しいこと考えてたんだ?」
「い、いやぁねカズマさん! お巡りさんに連れて行かれちゃったからいつテレビに映るのかって思ってただけで、別にカズマさんが重罪を犯したわけじゃないって、すぐ釈放されるって信じてたわ!」
「てんめぇ、それ絶対信じてなかったろ! そもそも罪は犯してないし何事もなく釈放されたわ!」
「まあ兎にも角にもニュースにならないでよかったわね! もし全国報道されてたらきっとこうよ。『先日のお昼、東京都のトイレで変質者が現れ、その後逮捕されました。犯人は「俺の息子が戻った!」や「俺は女じゃない! 信じてくれるか!?」などと支離滅裂な言動を繰り返しており、動機の調査は難航しているとのことです……』みたいな!」
「やめろよ! 確かに俺はそんなこと言った気もしなくもないが、事実を織り交ぜて偽の報道作成すんなッ」
私のリアリティーを追求した報道の真似はどうだったかしら。
実際にあり得た話に聞こえるでしょう?
私は思わずフフンと鼻を高くして天狗みたいになってると、私の女神センサーがカズマさんの不穏な動きを感知してしまったの。
「あ、あのぅカズマさん? その手をわきわきさせてるのを見てるとものすごく嫌な感じを覚えるんですけど……やめてくれないかしら」
「俺は今、お仕置きしなきゃぁいけない衝動に駆られてる。誰も爪がのびるのを止めることができないように、衝動は誰もおさえる事ができない。わかるだろ、アクシズ教なら」
「わ、私、カズマのこと前々からそこはかとなーくいい感じだって思ってたの! だからやめてほしいんですけど……」
「何がそこはかとなくだよ! 問答無用だッ」
「いやあああ! カズマのスティール対策に今の今までパンツはいてこなかったのにこんな時に限って新品のパンツを盗られる生きっ恥をかかせられるっていうの!? スティールはやよスティールはいやぁぁああッ!」
「ならば……アイアンクローッ!」
「ギャッ!?」
「誰が好きでお前のパンツ盗るか!」
本日二度目のアイアンクロー!? 私の読みが外れたわ!?
……でもまあ、所詮カズマさんは私たちパーティーの中でも最弱。
魔法使いのめぐみんごときに負けるのに私がこの程度でダメージを受けると思って?
……このあと私はマッド-アイの言ってた「油断大敵」の意味を初めて知ったわ。
まさかカズマさんが『パワード』までかけてくるとはつゆほども思わなかったの。
私に繰り出してきたその技、アイアンクローは薄い皮膚と、血管、そしてそのすぐ下にある頭蓋骨をいっぺんに締め付ける。
この攻撃の本質は『破壊力』ではなく『相手に与える苦痛』の甚大さであると思い知ったわ。
大男から赤子まで等しく感じる絶大な痛みを繰り出す、肉体的ダメージは他の攻撃手段に比べて遥かに脆弱だけれど、こと「痛みを与える」という一点に関しては他の追随を許さない。
そんなあらゆる人体の耐久力を貫通しうる妙技をくらった私は……
痛みに悶絶して撃沈し、床に転がる以外の選択肢は用意されてなかったわ。
そんな光景を目の当たりにしているちーちゃんが。
「わ、私は信じてたよ! もちろんカズマはそんな心配いらないって! 全国報道されることはないって信じてたよ!」
「さすがマイベストフレンド、自称駄女神とは一線を画するな」
「そうそう、私は信じてた、カズマは大きな犯罪はしてないって! カズマが捕まるんならセクハラとか、セクハラとか……あとセクハラとか! とにかくそう言うやつだからすぐに出所してくるって信じてたよ!」
「オイッ、俺のことを一体どういう目で見てきたのか教え……いや、もっと聞きたいところだが心抉られそうだからやっぱりやめてもらおうか! 余計なこと話そうとしたらそこに転がってる駄女神と同じ目にあわす!」
「いや、でもちーちゃん、さっきカズマが警察に捕まったわってミズキやクルミに言いふらしたら面白そうだって言って電話してたじゃ……いたい!? なんでちーちゃんじゃなくて私なの!?」
私がリークしたのは私自身のことじゃなくてちーちゃんのことなんですけど!
というか本日三度目のアイアンクローなんですけど、さっきやられたばっかりなんですけど!
ああっ、カズマさんカズマさんさっきより力強くありませこと!?
頭をつかんでる指が頭蓋骨にめり込んでる気がするんですけど、こめかみにクリティカルヒットしてるんですけど!
私が無言で「ギブなんですけどっ」ってカズマさんの肩をバシバシ叩いて、解放されると、ちーちゃんに続いてなっちゃんが。
「そそそ、そうですよ! 私だって基本的に常識的なカズマのことは信じてましたとも!」
「たきなぁ! 心の友よっ! ……とか言って本当は千束とアクアみたいに」
「違いますから! 私は違いますから信じてください! 考えたらすぐにわかることでしょう」
「何が?」
「小賢しいカズマなら用意周到に計画するはずです。たとえばトイレに防犯カメラと称して設置したりしてですね。ブツから犯人特定されて逮捕されるならともかく、突発的な犯罪を起こす短絡的な人ではないはずです!」
「た、たきなもっと頑張って! 今の言い方じゃあカズマが凶悪犯にランクアップしてんのよ! ぜっんぜんフォローになってないからもっと頑張って!」
「いいんだ千束……一応俺が無実だって信じてたみたいだし俺はそれで十分……グスッ」
「いやいや泣いちゃってんじゃんカズマ!」
「泣いてねぇし」
カズマとちーちゃんがなにか言っているけれど、私は別のことを考えてて耳に届かなかったの。
なっちゃんたら……カズマの本質をよく理解してるわね! ってね。
確かにカズマはさえないヘタレに見えるけど、実はやるときはやるアクシズ教の鏡!
スティールで何かを盗むにしても報復されないように手を打って捕まらないようなギリギリを攻めるし、なんなら国家転覆の罪で死刑になったことがあるカズマさんよ!
ただし一つ間違いを指摘するとすれば、カズマさんは紛う事なきアクシズ教模範生……そんな男が計画的だって言うのは間違いよ。
だってアクシズ教は今を楽しくをモットーにしているの。
過去を振り返らずウジウジしない、未来を考えてソワソワしない。
ただ今という大切な時間を楽しく生きるのがアクシズ教よ!
そんな私たちの辞書に計画性なんて文字はないわ!
ただの突発的な天才的ひらめきのまま、本能のままに行動しているにすぎないのよ!
なんて考えていたら……
「いたいっ! いたいわカズマさん! この攻撃は本当にどうして!? というかさっきからなんで私のこめかみばっかりピンポイント攻撃するのよ! やるなら私じゃなくて二人になさいよ! 共犯よ! 同じ穴の狢よ!」
「いや悪い、つい反射で。さっきから心の中で『俺がアクシズ教だ』みたいな事実に反してること考えてる顔してたから……」
「えっ、もしかしてカズマさんってば私と以心伝心なのかしら!? これがいわゆるツンデレってヤツかしら!?」
「やっぱり考えてやがったなコイツ!」
「まあまあ、夫婦漫才はその辺にしときなよ」
「誰と誰が夫婦だよ!」
「今するべきはカズマが無事に戻ってきたことを祝して打ち上げじゃ打ち上げ! からーげとコーラ持ってこーいっ!」
「私はコーラじゃなくてシュワシュワがいいわ!」
「本当に昼間吐いたやつの台詞じゃねぇ!」
別にいつ何を食べたっていいじゃない、女神は太らないんだから!
それにお昼の分は結局胃の中から出ちゃったしね、とってもお腹減ったわ!
だけど……ちーちゃんに関しては昼間のラーメンはどこ行ったのかしら?
ま、まさかこれが10代の恐るべき消化代謝能力とでも言うの!?
****
翌日。
カズマさんに「お前のゲロで息子が帰還したときの気分なんだが、Gの成分と甲殻類の成分が同じだって食ってる最中に聞かされたときと同じ気分だわ……」なんて言われたわ。
けど戻ってきてよかったじゃない。
そんな会話をしながら喫茶リコリコで今日も借金返済頑張りましょーっと気合いの入らない言葉でやる気を入れる。
私のお仕事はきれいな富士山のミネラルウォーターより綺麗で清らかで美しいアクシズ教の聖水を客さんに出したり、コーヒーを淹れるときの水を出したり……
なんかウェイトレスさんじゃなくてウォーターサーバーとして契約したんじゃないかって気分なんですけど。
まあ休憩時間が長くて、クルミたちのボードゲームに参加してるだけでお給金がもらえるようなものだし、現状に満足しているわ!
そんな私の優雅なブレイクタイム中に小鳥(と言う名のカズマさん)のさえずり。
なんて優雅で楽しい職場なのかしら!
「クルミさん、いえ、クルミ様! 嘘だって言ってくれよ! 俺に前科が付いて大変なことになるところだったって言うのは嘘だよな!」
「嘘も何もあるか。千束からカズマが捕まったって聞いたからボクの力を駆使して日本警察から救い出してやったんじゃないか。ホレ、一千万」
「い、いや、待て! もし、俺がこのまま取調室へ連行されてたら前科付きになってたかもしれないし、何かしらの介入してくれたことはマジ感謝する。だがこの俺を誰だと思ってる……自慢じゃないが俺は身内が招いた負債を一身に引き受けた男、借金
「そうは言ってもなぁ……。このままボクが情報操作かけなきゃ今頃オマエ『世界のマヌケな犯罪者たち100連発』に出演する羽目になるところだったぞ?」
「アクアの言ってたことが形は多少違えど現実になるところだった!?」
「そんな危機的状況をこのウォールナットが何もなかった状態にしてやったんだ。感謝するなら見返りをくれ」
「確かに感謝してるぞ? でもさすがにこれ以上の借金背負ったら無理だって! 返済どころか生活困窮するって! だからお願いだ、仲間の好だと思って今回は無料で……いや、無料とはいわないからせめて値下げしておくれよぉ!」
「一応世界随一の手腕を持つこのボクにしては破格の値段なんだぞ? すでに9割り引き済みだ」
「もう一声! 9割引お願いしますよ!」
「1パーセントしか払わないつもりか!?」
話を聞く限りだけど借金がほとんど2倍になってるわね。
今回は私、何も悪くないわよね?
確かにカズマを水が滴るいい男にしちゃったのは私だけれど葛藤したあげく女子トイレに入ったのはカズマだし……
ま、まあ大丈夫よ!
カズマさんってば豪運の持ち主なんだからギャンブルとか馬娘すればなんとかなるって日本の聖典こと漫画には描いてあったわ!
もし駄目でも黒服の人が借金返済のお手伝いのために強制地下労働施設に連れて行ってくれるらしいし、そこでは焼き鳥とかキンッキンに冷えた缶ビールが名物だとか、チンチロとかいう娯楽があるみたいだしね!
「大人しく借金返済頑張れ。せめてもの情けで利子はなしにしておいてやるから」
「よかったじゃないカズマさん! ダクネスのお家事情に首突っ込んで20億の借金したこともあったし、利子がない今のうちに一儲けできれば割となんとかなるわよ!」
「いやいや! ここ日本なんだぞ!? 土地を転がしも難しそうだし、ギャンブルは年齢規制されてるし! 珍しくまっとうな方法で借金返済目指してるんだ! 2千万……これを一体どうやって返せばいいってんだ!?」
「ギャンブルに行けばいいじゃない、カズマさん。調子乗ってないときだったらそういうの強いんだから今すぐ賭け事しにいけば……」
「話聞いてなかったのか? この国ではそう言うのできないんだよ、年齢的に!」
「でもでも、カズマってば戸籍あってないようなものでしょ? なら年齢偽って行けば」
「だからこそヤベぇんだよ! 無国籍かつ年齢不詳の輩が大金荒稼ぎしてたら警察に目ぇつけられるだろ!」
「でもクルミちゃんに頼めばそんなのちょちょいのちょいじゃない」
あたいったら天才ね!
そうすれば一瞬で借金返済完了するじゃない!
私の中に秘められた才能の一部を垣間見た気がして、何だか自分自身のことなのにそれでも末恐ろしく感じたわ……
でも何故かかわらないけどカズマは私の言葉を否定してくる。
「わかってる、わかってるわ。今のカズマはツンデレのツンが多めの時期ってだけよね」と大人な私はさらりと意見を聞き流してみる。
「バカ! お前バカ! 偽造したパスポートで一体どれだけの奴らが空港でお縄になったと思ってんの! そんなリスキーすぎることできるかってんだ!」
「いや、ボクなら国の情報機関やDA情報部を乗っ取って正式に偽造した本物を作成することだって。それで今まで姿くらましとかしてきたしな」
「今何つった!? 国の情報機関を乗っ取る!? 正式に偽造した本物って何!? サラッと恐ろしい所業を暴露するなよ! マジこっわ!」
「ちなみにリコリコの仕事なら経費からだが、個人でそういうの頼む時は……今日の金額より値が張るぞ?」
「はいはーい! 私ハワイ旅行行ってみたいわ」
「何言ってんのお前!? 俺の借金増やして何が楽しいの!?」
「でもよく考えてみてカズマさん」
「何も考えなくていい気がするが一応聞くぞ。何を考えろって?」
「これからお正月になるじゃない? そしてお正月といえばセレブな芸能人が挙って豪遊しに訪れる場所よ! 一儲けのチャンスだと思わないかしら?」
カズマは訝しんだ。
もしかして今の説明で靡かない精神の持ち主だったのかしら?
アクシズ教の子たちなら今の説明で「初詣はアクシズ教神社で!」みたいなちょっとテンション高すぎて私でもよくわからないけど熱心に宗教勧誘に乗り出してくれるのに、カズマはそんなことないのかしら!?
そんなことを思っているとちーちゃんが。
「ワイハ!? 今ワイハに年末年始の旅行行って豪遊三昧するって言った!?」
「どんな耳してんだよ! んなこと言ってないわ!」
「でも確かにハワイに行くみたいなこと言ってたよね?」
「ああ。アクアのマルキュウが正月に豪遊してきた人相手に商売すれば一儲けできるって言い出してな」
「⑨って何よ! 青い空、白い砂浜! 寒い冬をも暖める太陽照りつける南国のハワイよ! せっかく日本に来たんだから行ってみたいじゃない!」
そうよ、この水の女神アクアにぴったりな正月といえば水に囲まれた島に行くことよ!
青と白、清楚な水を司ってる私のイメージにぴったりじゃない?
もちろん寝正月っていうのも捨てがたいとは思うわよ?
でもそういうのはアッチの世界でもできるし、ここでしか味わえない体験をするっていうのもなかなか乙な考えなんじゃないかしら!
カズマには響かなかった説明みたいだけど、ちーちゃんは深く考え込んでどうしようかって考え込んでるわね。
そんな考える像みたいに唸っていたちーちゃんが一つ頷いて。
「いいねハワイ! よし、いこうか……!」
「ちょ、おい千束?」
「やったわ! ハワイよハワイ! 豪遊贅沢三昧よ!」
「いや、行くとしても働きに行くんだからな? バカンスを堪能して借金返済に支障来すようなことすんなよ!?」
「ハワイに行くんですか?」
「いや、行かないからたきな! もし行くとしたらの話をしてるだけで……というか俺たちリリベルとかリコリスには国籍せいで入国とかそういうの無理だろ、クルミも非協力的だし……」
「カーズマったらぁ! なぁに心配そうな顔してんのよ、だーいじょぶダイジョブこのスーパーエリートリコリスにお任せあれ! 実は策はもうすでにあるのだよ!」
「俺の心配そうな顔はその変な作戦を実行しなきゃ明るい顔になると思うから実行すんなよ?」
「せーんせっ!」
「まさか……今実行してる!?」
何かちーちゃんが店長さんにくっついてるわ……
これってもしかして!?
「ち、千束!? まさかの秘策って色仕掛けですか!? しかもなんとなくうまくいってる気がするのはどういうことでしょう!?」
「か、かかk、カズマささsん? たったたきなっちゃん? これってもしかしなくても禁断の親子同士の恋愛とかそう言うやつなのかしららr? アクシズ教の女神の私的にはもちろんいいとおお思うし血が繋がってないからそういうのも……と、とにかく常連さんたちに言いふらさないと!」
「いやいや!? 俺その情報知らないんだが!? 来週そんな重大なヤツ控えてんのに何普通に仕事したりしてんの!? というかカレンダーになんか『任務で宿泊してきます! (^_^)ゞビシィッ』って書いてるなって思ってたらソユコト!? いやドユコト!?」
私は急いでこの噂話を広めようと思ったの。
だっておめでたいことだし、祝うなら早いほうがいいかと、そう、よかれと思って広めようとしたんだけど、それを遮るようにちーちゃんがニコニコ笑顔で帰ってきてこう報告したの。
「作戦成功! ブイッ!」
「なんてこと! なんてことなのこの子! ただの元気っ娘かと思ってたのに実はこめっこちゃんに勝らずとも劣らずの魔性の女の子だったなんて! 恐ろしいわ……」
「まさかの成功ですか!? まさかミカ店長、いくら自分の娘のことが好きだからってこんなにあっさりと!?」
「ど、読唇術で見たありのままの会話を話すぜ! 千束が色仕掛けしてると思ったらry」
「みーんなー! 来週の来週、再来週にはハワイ行こーぜーっ! めでたい日にはめでたいことをするのがぁ ち・さ・と・流! 今度は夏服を買いに行こう! 向こうの海水は20度近いぞー! 泳ぐから水着もしっかりチョーイス! うおっほー! こりゃ楽しくなってきちゃー!」
ちーちゃん、楽しそうでいいわね!
一瞬魔性過ぎて驚いちゃったけど私も楽しくなってきたわ!
年末年始はハワイよーっ!
千束のミカに対する色仕掛けByミカ(ミカフィルターがかかって見えてない部分)
私の背中に無言で近づいてくる陰があった。
その陰はトンっと私の背中にもたれるように、甘えるように腰に手を回してきた。
「せんせ」
「千束……どうしたんだ、急に抱きついてきて。仕事中だぞ?」
「あのさ、来週のことなんだけど……」
「ああ、手術の件か。……不安か?」
「……うん、ちょっと」(そういうわけじゃないんだけど、それ終わったらハワイ行きたいなーなんて思ってみたり)
「そうか。心臓が落ち着くまでこうしてるといい」
「そっか……この心臓ともお別れか」
「そういうことに、なるな」
自分の命を今まで支えてくれたこの心臓に思い入れがあるのだろう。
普段の天真爛漫で溌剌とした声は隠れ、なんとなく言葉にしづらいのか、私の着物の裾をきゅっと弱々しくつかんだ手は離れない。
「……ねぇせんせー」
「なんだ」
「手術、成功するかな?」
「ああ、成功するとも。なんたって救世主さんが来てくれる予定だ」
「そっか、また私、助けてくれるんだ。私、救世主さんみたいに世界の役に立てたんだ……」
「ああ。そうだな、千束は頑張った……」
「じゃあさ、手術成功したら……私、行ってみたいところあるんだよね」(ハワイなんだけど、リコリスだし、無理かなって思って言い出せなかったの。……行けるかな?)
「どこでも好きな場所を言って行ってみろ、私は千束の父なんだからな」
「……ありがと、お父さん」ニコッ(みんなーっ作戦成功! ブイッ!)
強いな、あの笑顔は。
私のような嘘ばかりの後ろめたい人間には眩しすぎる。
だからこそ本当に、大事で、可愛い、私たちの娘だ。
そうだろう? シンジ……
アクアのお給料の実態:0円/時
実は給金は発生してない。というか雇用してない。
監督者がいない中でアクアに働かせたら借金が増えると思い込んだカズマのせい。
しかし仕事っぽいことやらせないと仲間外れだと思って駄々捏ねるアクア。
それが起こらないようにカズマがいい感じに調整した結果、アクアはウォーターサーバーという職を手に入れた。(50円/L)
ほとんどカズマが頑張って働いてる分のお金を見て自分が稼いだ分だと思っている。
そんなアクアがかわいいと思っている作者