カズマです……偽造パスポートで海外出張が決定とです……
カズマです……千束が手術するとです……
現在は夜が深まり、外は雪がちらちら舞っている……はずだ。
外の様子は確認してないが、きっとこの寒さ的にそうに違いない。
そんなことを考えながら俺はトイレからリビングに戻る。
リビングは明るく暖かく、千束だけがホームシアターセットで映画を見ていた。
他の二人はいつも通り、たきなは22時前にスヤスヤと就寝、アクアは酒で潰れてスカーっと寝息を立てている。
……俺は意を決して声をかけた。
「千束、少し話がある」
「な、なぁに? そんな改まった顔して……あ、もしかして告白とか!?」
「あー、えっとだな……」
「あのね、私はカズマのこと家族みたいに思ってるし好きだけど、あくまでお母さんとしてだからそう言うんじゃなくて、そのぉ、ごめんね?」
目を気まずそうにそらしながら「困っちゃったな~」と頬をかく千束。
いや、なんで告白もしてないのに勝手に俺のこと振ってんだよ!
「俺だって別に千束のこと恋愛対象として見たことないしそういう話じゃねぇから! だから俺の精神を無意識アタックすんなよ!」
「えっ、そうなの? びっくりしたぁ、そんな真剣な顔して私んとこ来たから早とちりしちゃったじゃん! もぉっと早くに言ってよ~」
「勝手に勘違いして俺のメンタルをヘコませたやつの台詞か!?」
「まあまあまあ。それで何の話をしにきたんじゃい? 相談?」
「いや、実はクリスマスの日なんだが……」
クリスマス。
それはリア充にとっては恋人とイチャコラする甘酸っぱい日だが、借金返済のために社畜の階段を一歩ずつ上っている俺にとってはクルシミマスと言っても過言じゃない日。
外出するカップルが多いからそいつらをターゲットにすれば、普通お一人様のところお二人様のセットに誘導でき、単純に売り上げは二倍!
そんな日を休みにするわけがない。
俺はこの日を「リア充どもどんどん経済回せオラァっ!」っていう日にする予定
「おうおうクリースマース! ってことはあっくんとデートかい? ほんならば恋愛そーだんまっかせんさーい! この恋愛マスターチサトゥがぁ、華っ麗に恋を成熟させるキューピッドとして相談に……」
「そうじゃないわ!」
「あ、そっか。二人はもう夫婦だもんね!」
「いやいやいやないないない! 俺はあいつの保護者みたいなもんだわ夫婦じゃなくて!」
「初よ初よのう! そんな照れ隠ししなくてもぉわーしはわーってるって!」
「いいや、わかってないから! そもそも話っていうのは千束、お前自身のことだ」
「えっ、わ、私?」
「そう。千束、クリスマス、何か予定入って……」
「やっぱ私のことを!? へー、ふーん、そうなんだぁ……って浮気はよくないよ! いくら私が魅力的だからって……」
「……フッ」
「!?」
勘違いしまくってるアホを小馬鹿にしたように鼻で笑ってやった。
そもそも俺とアクアが夫婦的な感じで落ち着いてるのが癪だが、生憎千束に対してもそう言う感情は持ってないんだ。
だってそうだろ、ペットとか娘とかを恋愛対象として見られない、そういうことだ。
「コイツは俺の妹みたいなやつだよ」とか言って実はめちゃくちゃ気にしてるとかではない。ほんとです。
だから俺は千束の胸部を凝視して話しているなんてことはない。
「そもそも恋愛とかデートの話じゃねぇよ。クルシミマスの日、俺は借金返済のために死力を尽くす予定だったんだ! 覚悟しろバカップルども、俺のために金じゃんじゃん落としてけ! ってな」
「く、クルシミマス? な、なんでそんなカップルを目の敵にしてんの!?」
別にカップルを憎んでるとか、そういうわけじゃないぞ?
だってめぐみんとか、ダクネスっていう美少女たちに囲まれた生活をしてたし、何なら一緒にお風呂に入るくらいだ。
嫉妬なんてするわけないじゃないか、うん。
ただ忘年会とかで稼げない喫茶店にとってクリスマスは正月前の唯一の稼ぎ時なんだ。
本気も本気、幸運値上昇の魔法まで使ってセルフマネーキャットとしてガンガン稼ぐ!
……予定なんだが、一つ、心配事がある。
「まあお仕事頑張るってゆーのはいいことだと思うけどね、私にそんな仕事の相談って……あっ、もしかして人手足りなそうだからお仕事手伝ってってこと? あいやぁ、実はその日はちょーっとどうしても外せない予定があるんじゃわ。ほら、カレンダーにかかってるでしょ?」
「……」
「……あれ、どぉしたカズマ? そんな厳しい目つきして……」
千束は用事がある、ただそれだけならそこまでの問題じゃない。
千束の分の給料が俺の稼ぎに入る、代わりに人手が足りなくて俺が燃え尽きるだけだからな。
だが千束の用事の「内容」について、俺は詮索するつもりもなかったのに聞こえてしまった。
「お前、何か隠してるだろ」
「え!? な、何かなぁ~? 私わかんなぁい、ピューヒュー」
「口笛も誤魔化すのも下手くそかっ!」
「へ、下手じゃないやい! 先生もカズマも私渾身の演技を馬鹿にしやがって! 笑顔には定評がある千束さんとは私のことじゃい!」
「素の笑顔の話だろ! おとなしく白状しろ! 俺はおまえの隠してること、全部わかってるんだ、自白すれば罰は軽くしてやるから話すこと話せ!」
「つ、罪犯してないのに罰は確定なんか!? え、なに!? どれのこといって!?」
どれって何だよ!?
もしかしなくても俺に黙ってただけでコイツ、かなりやらかしてやがるのか!?
……本当に聞きたいこととは違うかもしれないが、もののついでだ、暴露話を黙って圧かけながら聞いておこう。
「もしかしてカズマが大切にしてた変なプラモデルの首を折ったこと!?」
(それ、もしかして俺が行方不明届け出した『アクア作:変形合体デンドロメイデンのミニバージョン』のことか? 前もどっか行っちまったことあったし、アクアの無駄のない無駄な技術で自律機能搭載してんのかと……)
「それともそれをそのまま勝手に持ち出したこと!?」
(大丈夫、何も問題なんてないじゃないか、落ち着けサトウカズマ。あのプラモは変形合体って言うだけあって合体前バージョンもある仕様なだけで壊れたわけじゃない。所在がわかれば修復不可能って訳だ)
「それともクルミのところに持って行って直してちょーだいって道端の花とお菓子をお供えしたこと!?」
(よし、クルミのとこだな! まだ間に合う、明日の朝一にリコリコ行って変にいじって自爆スイッチを押してしまう前に!)
「それとも結局直せなくてそのままこっそり墓石立てて土に埋めたこと!?」
(そ、その場所について詳しく! 牛乳パックから作られたデンドロメイデンは高レベルの耐水性を獲得している、万が一雨が降ってる場合でも壊れない! 何度でも蘇るさ! だから埋めた場所教えろ!)
「それともそれともやっぱーり、やっぱーり考え直して焼却炉で燃したら爆発したこと!?」
「うん、新しい罪が増えたな」
「ああっ、こっちじゃなかった! それじゃえーっとぉ……どれ!?」
本当にすべて洗いざらい吐いて懺悔してほしい。
今ならげんこつ一発……と思ったが、流石に物理攻撃を罰として与えるのに躊躇する。
人工心臓置換手術。
それとなくリコリコのみんなに聞いて回ったが、ミカ店長とミズキさん以外、つまりクルミ、たきな、アクアは千束の手術があることを知らない様子だった。
もちろん俺も知らなかった、今日の昼くらいまでは。
「クリスマスの日の予定」
「あ……い、いやぁあっはは」
「笑ってごまかしても無駄だ。俺は読唇術スキルを会得してるからな。今日店長を説得するときにお前、言ってたろ手術とかなんとかって」
「……ふっふっふ、私のトップシークレットを見破るとは、やるなキサマぁ? はぁ……」
俺がそう言うと千束は観念したかのようにため息をつき、両手を体の横に伸ばす。
「人類は十進法を採用しました」って言ってるように見えるポーズだ。
そして……地べたにビダンッと倒れ声を張り上げた。
「聖者は十字架に磔られましたッッ! 殺すなら殺せーっ! 無抵抗な私に攻撃できるもんなら攻撃してみろうわあああん!」
「どうしてそうなる!? それに別に俺たちに教えてくれたっていいだろうに……もしかして言い出しにくかったのか? だったら俺からみんなに伝えておくかr」
「いや! どうせ手術するってバレた後の展開なんてわかりきってるんじゃい! きっとみんな心配するし、そう言うしんみりした感じっていうか、気遣われてるなって感じになるんよ! そんな雰囲気は私に合ってないんじゃい!」
「わ、わかった! 別に俺からみんなに話すことはしないから! だから向こうで寝てる二人に気づかれる前に一先ず落ち着こうか!」
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「……私、盗み聞きはよくないと思うんだよねぇ」
「悪かったって。でもそう言うお前だって前に店長のメール見て俺に潜入調査させたろ」
「うぐっ。そ、それは見えちゃったんだもん! わ、わざとじゃないし……」
「だったら俺だってわざとじゃない。……おい、なんだよその『本当はわざとなんじゃ……』みたいな顔は! 確かに俺に対する生の評価のために読唇術で悪口とかをこそっと聞くことはあるが千束の話はたまたま耳に、というか目に入ってきただけでわざとじゃないぞ!?」
「ほんとにぃ~? 私ぃ、夜食作ってくれないと信じられなーい」
「……単に罪悪感を食べたいだけだろ」
「ごめーさつぅ!」
コイツ!
やっぱり気遣わないで一発ぶん殴っておくか……
そんな衝動に駆られつつも心臓が悪いんだったらまずいなと理性で抑え込み、即席麺とトッピングの次郎系野菜セットを鍋にぶち込む。
そして罰としてゆで上がった麺と野菜に俺の必殺技「ネギアブラ」をぶち込んでニキビを増やしてやる!
これこそ俺が編み出した誰も不幸にならない効果絶大の攻撃だ!
「こちら、罪悪感スペシャルでございます、大家様」
「夜食にがっつりラーメン……カズマや、お主も悪よのう」
「いえいえ、それほどじゃあ。……デザートに炒飯をおつけしますか?」
「ヤバい! もしかして天才か?」
「はいはい、熱々のうちに食べな。火傷には気をつけろよ?」
「いっただっきまーす! あちぃっ!?」
火傷に気をつけろって言ったのに口に含んだ初手で火傷する千束。
それでも箸は止まらず、幸せそうな顔してすすっている。
……ほんと、本能に忠実に生きてるよなコイツ。
ちなみに俺は食べない。
いい匂いすぎて自らの策中に自らがかかるところだったが、ギリギリ自爆しなかった。
我ながら危なすぎるトラップだぜ……
そんなこと言っているうちに爆速で食べ終えた千束が満足そうに。
「ごちそーさまー! 流石カズマ、家の料理でも一手間加えておいしくする一家に一台欠かせないねぇ!」
「そりゃよかった……ってかこれで俺がわざと盗み聞きした疑いは晴れたってことだよな?」
「うんうん私大満足! 私が潜入調査してって言ったときと同じ、疑いは晴れた!」
千束も元気になってくれたみたいだし、俺の疑いも晴れてよかった……
一瞬そう思ったが、ふと潜入調査という言葉に引っかかりを覚える。
何が引っかかってるんだ?
そう思いながら記憶を思い起こすと、引っかかりの原因を見つける。
……あのとき吉松さん「カズマ君への支援だが、彼が千束に対して人工心臓を贈ると希望した、という体で人工心臓を千束へ贈ればいい」って言ってたよな?
ってことは俺の支援される権利勝手に使われた!?
吉松の野郎、やりやがったなっ!
いや、千束のためになると思えば……
でも俺の借金が完済できなくなりそうでも支援金があるっていう保険がないなったぞ!?
「ありゃ? 急にどした、そんな頭抱え込んじゃって……」
「千束……いいんだ、お前は何も知らなくて……これは俺が抱えてる問題なんだ」
「ちょちょちょい! 私の秘密知ってるじゃん! 友情っていうのは秘密を交換し合えればより深まる、そう思わない?」
「互いに秘密っていう名の人質を預けられる関係だからって話だろ! 因果関係が逆転してないかって思うんです。……だからじわじわにじり寄るなよ!」
「私たち、そういう関係でしょ?」
「隠し事してたヤツに言われたくねぇ……」
「まあまあ、教えてみなさいよ! 吐いちゃえば私みたいに楽になれるかもよぉ?」
「お前の場合一周回って吹っ切れただけじゃないか?」
「まあまあまあまあ!」
ったく、コイツは俺のラクラク借金完済手段を潰したこと知らないでニコニコして……
まあ、今の借金分で千束の命一つ救えたって思えば安いもんかもしれないな。
手術当日はクリスマス、きっとエリス様も見守ってくれるし、成功するだろう。
この幸運値が高いおかげで魔王まで倒してしまった俺が言うんだから間違いない。
「まあいいか、話しても。その手術用の心臓、俺が提供者だって話だけだし」
「えっ、今なんて!?」
「お前が俺の借金完済ルートの一つを台無しにしてくれって言ったんだ」
「本当になにそれ、そんなこと言ってなかったじゃん!? 全然意味わかんないんだけど!?」
「別になんだっていいだろ?」
「よくないわ! 私の心臓提供!? 借金完済ルート!? 説明せい!」
千束が俺を揺さぶって何か言ってくるがめんどくさいから耳に栓をして無視を決め込む……
この大変ながらも素晴らしい日常が途切れないのなら、それ以外なんだっていいのかもしれないな、なんて思いながら。
そしてクリスマスが訪れたその日、俺は心臓の手術成功を祈るように、いつかエリス様がしてくれた魔法を唱えた。
「
最終回みたいなタイトルですが、続編希望の声がある限りきっと物語は続く……