それは、俺が異世界から帰って早々のこと。
殺人鬼、アクシズ教、ストーカー、この世の全ての悪事を結集させたような男に出会ってしまった俺は、現実的にキラークイーンみたいなスタンド使いがいる訳ないと結論を出したのだが、無一文、暗殺少女に命を狙われている可能性、故人だから戸籍もない、極めつけにしつこい宗教勧誘……そんなに不幸に嫌気がさして。
「さあ、カズマ君。ここが今日から君が働く職場だ」
「ありがとうございました! 俺、これで最低限の生活は何とかなりそうです!」
「この程度、支援のうちに入らない。……しばらくしたらまた会いに来るよ」
「いや、結構本当に十分満足してますから! ……馬小屋生活と比べるまでもなく上等だし」
「何か言ったかな?」
「い、いいえ何も!」
……俺は渋々、本当にやむを得ずアラン機関という死ぬほど怪しい組織の支援を受けることになった。
い、いや待ってくれ!
実際テレビで見たり聞いたりする分には「崇高な理念を掲げてるなぁ」とか思うが、いざ自分事になると絶対関わり合いたくない俺だ。
転生前自宅警備員としての職を極めた俺はしつこい宗教勧誘相手に激戦を繰り広げ、死闘の末、二度と悪質な宗教勧誘はしませんと涙ながらに誓わせた……
そんなカズマさんが何の考えもなしにこの支援を受けたわけないじゃないか!
そう、これにはエベレストより遥か高く聳え立つ壁とチャレンジャー海淵より暗く深い理由がある!
理由その1。
この人を頼らなかったら自分一人現代日本を一年間自給自足で耐え抜くなんて無理難題にも程があるし、でなかったら刑務所の中であの日のように冷えたスープと固いパンを「自分は悪くないんだ……ううっ」と涙しながら喉に押し込む生活だ。
終わり。
……何だって?
理由その1しかないびゃないか?
フリーレ○は牢屋生活でも読書して楽しんでた?
スゥー……現代っ子舐めんなッ!
ここ1、2年、大金はたき、試行錯誤して現代に近い暮らしを手にした俺の執念見ても耐えられると思ってんのかッ!
そんなわけで手のひらを返して吉松さんの下僕(自称)になった俺は仕事先を斡旋してもらい、定職に就くことに成功した。
ようやく唯一俺の中で常軌を逸してる豪運先生が頭角を現し始めたか!
全く、俺のステータスはシャイだな、誰に似たんだか……
こうして俺の新・日本生活は始まった。
****
「やあ、一ヶ月ぶりだね。元気にしていたかい?」
「やあ……じゃないわこの野郎!」
「元気そうでよかったよ」
俺は聞き覚えのある声に筋肉痛で悲鳴を上げる腹筋を酷使して声を張り上げる。
と言いつつも久しぶりの休日で布団から起き上がる気力がな……じゃなくて極度の筋肉痛で一っつも体を動かせないから枕に顔を埋めた状態だ。
「邪知暴虐、悪辣非道、殺人鬼、悪魔、人でなし! 俺、言いましたよね! 職場は寮完備の土日祝日休みのアットホームなところがいいって言いましたよね!? それが一日体験してどうよ、地獄だったわ! 一ヶ月放置すんなよ!? そして裏の仕事紹介すんな!」
「すまない、枕のせいで声がこもって何を言っているかうまく聞き取れないのだが、つまりリリベルの仕事は向かなかったということかな?」
ふー……
だが根本的な解決、具体的には俺の職場チェンジをするには言わなきゃいけないことがある。
俺はやるときにはやる男だ……重い頭をあげて、一言もの申してやる!
「すみません、俺の体力じゃ訓練ですら耐えられません。別の職場での仕事を希望します……」
と俺は頭を深々と下げた……!
ハッ、何てことだ!?
俺の中の良心が仮にも恩人に罵声を浴びせるのはよくないって囁いてくる!
何て欲に忠実なんだガッデムマイハートエンジェル!
「印象よくして次の転職は良いところにしてもらえないかなぁ」なんてこれっぽちしか思ってなかったのに!
「ふむ、しかしだねカズマ君。君の戸籍はないのだから受け入れ先が限られているんだ」
「で、でもたまに訓練サボってるときに限って虎杖さん(某呪に関係ない)が来て『何だね、アランチルドレンなのに判断が遅い!』ってビンタされるのはもう嫌なんです!」
「監視カメラがあるのに堂々と休もうとする君も大概だね……」
何だって!?
あの場所は監視カメラない穴場だと思ってたのに、油断を誘って炙り出すとは何て巧妙な罠なんだ!(自爆)
「じゃ、じゃあ戸籍ないなりに一般的なアルバイトできませんかね?」
「あるにはあるが……」
「ですよねー……次こそはしっかり休憩場所を探さないとって今何て?」
「実は私の旧友が経営している行きつけの喫茶店があってね、あそこなら君の要望通りだろう」
「あ、怪しすぎる!? さっき言い淀んでたし何か企んでるだろ!」
「なかなか鋭い目を持っているね。だが、私のちょっとしたお遣いを頼まれてくれるだけでいいんだ、あまり警戒しなくてもいい。だからその物影から出てきてくれると嬉しいんだが……」
ちょっとしたお遣いってナニ!?
内容を伏せずにわかるように説明しないあたり厄介ごとな気がするんだが!?
「そのお遣いの内容ってなんですか? 俺、無茶振りさせるくらいならやりたくないんですが……」
「本当に簡単なものだよ。そこでの生活を私に伝えてほしいんだ」
え、拍子抜けなんですけど……
本当にそれだけか?
(毎日取り組んでサボらなければ)夏休み日記の課題と同じくらい楽ちんな仕事だし、何なら経過報告だから割と適切って感じがするんだが?
……騙されるな佐藤和真!
裏を読むんだ、どうしてそんなことが必要なのかを読み取るんだ!
……まさかっ、そのお店に侵入してスパイ活動でもしろってことか!?
「吉松さんの友人なら裏の仕事してるってことですよね!? そこの情報を持ち帰るってことはスパイ活動ってことじゃ……」
「私の友人と言っただろう? この任務で君への危害はないから大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあ何でそんな変な任務を……」
「実は生き別れの娘が働いていてね。まだ10代だ。彼女がちゃんと(殺しを)してるか心配で……」
「親バカかっ! というか生き別れとか言うパワーワードが!?」
「仕事柄、悲しませないようにと縁を切って海外で活動していたせいで忘れられただけさ」
「お、おう……」
なんだよこの人……
育児放棄ではないだろうし、娘に火の粉がつかないように遠ざけ、何年も顔を合わせてなくて忘れられたとか悲しすぎるだろ!
……よしわかった!
この佐藤和真、不肖ながらそのお手伝いさせていただきます!
「……恥ずかしいので黙っていてほしい以外の要望はないよ。娘がちゃんと(殺し屋を)してるかを継続的に確認したいだけだからね」
「もちろんです! もし娘さんが危機的状況に陥ったら俺が身を挺して守り抜きますとも!」
「……彼女がそこまで危機的状況になるとも思えんがね」
「何言ってるんですか! 最近世の中物騒で、この前吉松さんと出会った日にJKに発砲されたの覚えてるでしょ!」
「確かにそうだったね。だがあまり娘とくっつきすぎると私が妬いてしまうから節度はよろしく頼むよ?」
「は、はい!」
こうして娘との交際は許さないと圧をかけられながらも俺の新生活が始まった。
****
翌日、俺は無事リリベルとかいう物騒な仕事(ずっと訓練期間で実戦無し)を離れ、といっても脱退は自体できなかったが、新たな職場、喫茶リコリコの前に着いた。
ここが俺の職場か……
吉松さんに紹介された割には普通でよかった。
「ねね、ヨシさんヨシさん! その紹介したカズマ君ってどんな人?」
「ああ、先日知り合ってね……」
喫茶店にしては随分と賑やかな店中から吉松さんの声がする。
耳を澄ますとゲームをしている大人の声や接客の声。
ギルドの五月蠅さに慣れてなきゃ昔の俺だったら入りたくても入れなくて、家の方にゴーバックしてた。
が、異世界にて成長したネオカズマさんはこの程度じゃひるまない!
昔、スタバ○クスにてショートのことをスモールって言って幼なじみに笑われた苦い思い出の古傷は……癒えていないが、それでもここでのバイトを楽しみにしてきたんだ!
……別に前の仕事から脱却できた喜びと混同しているわけじゃない。
俺は希望の扉を開けた。
「へい、らっしゃっせー! ……あ」
「あ……」
「…………ど、どぉも~?」
出迎えてくれたのは元気溌剌な店員さん。
それだけならアットホームな感じでいいなと思ってたのに俺と店員さんは顔を合わせた途端硬直してしまった。
何でかって言えばその店員さんは一月前に会っ出た発砲JKの相方、警察ごっこで距離を詰めてきた人だったからだ。
吉松さんもこちらに気づいたようで手招きをするが俺は身の安全を第一に考えそれを無視し、一言。
「スゥー……。間違えました」バタン
「何も間違えてないからドア閉めんな! たきなぁ! お金がないお客さんが逃げようとしてる!」
バタン「ぅおおおい!? 俺は何も飲食してねえだろ! 勘違いされるから人聞き悪いこと言うな銃刀法違反野郎!」
「野郎じゃないですぅ! 未成年飲酒くんを現行犯逮捕ぉっ!」
しまった!
弁明するためにドアを開けたら捕まるし、弁明しなかったら無銭飲食したと思われあの銃刀法違反女子高生に蜂の巣にさせる……なんてできた作戦なんだ!
だが、異世界で魔王を討伐し、この前までリリベルとして筋力トレーニングさせられてた俺が無抵抗でホイホイやられると思うなよ!
油断を誘って逃走してやる!
「ぎゃ! 襲われる!? ス、スキンシップいきなり激しいのはって近い! それに柔らかい!」
「……急に抵抗なくなったんだけど、どした~? 体調でも悪いn」
かかったなアホが!
と思ったのも束の間、体を密着され動けない状態に持って行かれてしまった。
このまま暴力を振るおうものなら俺は社会的に抹殺されてしまう!
ことごとく俺の作戦をぶち壊すとは……まさかこいつ、頭きれるタイプか!
「くっ、最近強制的に訓練させられてる俺が力で勝てないなんて……くっオークに襲われたトラウマが!」
「あーっ! 乙女に言っちゃいけないこと言ったなあ! 鉄拳制裁じゃあ!」
「全然拳関係ない関節技きた!? 女子が男に足を絡めるなんてはしたないぞ! あ、ちょ、肩が外れr……」
****
「二人とも元気なのはいいが、いい大人だろう? 店の前で騒ぐこと、もといプロレスごっこはしないでくれ」
「「はい、反省してます……」」
店長さんに怒られた。
何で俺が怒られなきゃなんないんだ! 武力行使されたの俺の方だぞ理不尽すぎる!
男女平等な現代において先に暴力を振るわれた俺の方に正義はある!
「よぉしー! これで反省は終わり! さぁてと、少年、えっとカズマ君であってるよね? ヨシさんの顔に免じて先の素行は許して進ぜよう!」
「カズマです。一応言っとくが俺は18で少年じゃない。それに暴力振るったのはそっちだ。よろしくどうぞ?」
「私17だけどタメでいいよ? ってことでこれからよろしくぅ。せんせー仲直りの印にスペシャル大盛りで!」
「ぐほぁ……!」
「何か向こうで店長さんが吐血してるんだが? なんか無理させてんじゃないだろうな千束……さん?」
「ああ、大丈夫だいじょーぶ! あれは休憩すれば直るから。……ってかなぁんだよぉ、その躊躇いがちなさん付けは。ここでは私が一番の先輩だけど千束でオッケーぃ、私もカズマって呼んであげるから! どぉーよ、女の子に呼び捨てされる気分は? 惚れちったかぁ?」
「……ハッ」
「鼻で笑われた!?」
……もしかして美少女っていうのは奇天烈な色物しかいない法則でもあるのだろうか。
先輩店員だからといって俺の方が年上なのにタメ口でいいとはいかに?
とにかく、こいつが吉松さんの娘だって線は真っ先に消えたな。
髪色も瞳の色も違うし、性格も外見も似つかない。
後でしっかりわからせ(セクハラ)て上下関係どっちが上か決めさせよう。
「へい、たきなカモォンヌっ!」
「変な呼び方しないでください」
って何最終兵器呼んでるんだ卑怯だぞ!
澄ました顔してる黒髪が俺の方を見るなりため息をつく。
……言いたいことがあるんなら聞こうじゃないか!
「……それで何ですか? 食い逃げ犯が皿洗いのバイトをうちですることになったって話ですか?」
「食い逃げじゃねぇよ!」
わかってて言ってるだろ……
こいつもさっきの元気が五月蠅い奴と同様にヨシさんの娘じゃないってことで後でスティールかけて「この人パンツはいてなーい!」って言って痴女認定してやる!
「カズマさんでしたっけ?」
「はいカズマです」
「先ほど物騒とおっしゃってましたが、確かに今思えば先日の件なら少々申し訳なかったとは思います……」
「少々!?」
あれで少々とか日本の治安悪いの何なのセントルイスなの!?
某名探偵と死に神がいる世界なの死ぬの!?
「ですが今の時代、いつ何時変質者が現れてもいいように護身用の武器は必須です」
「護身用!? 過剰武力じゃ……」
「護身用です」
「……でも実弾じゃなかったk」
「護身用です」
「……」
「護身用です」
「………………そ、そーですよねー! 俺は最初から知ってましたよたきなさん!」
前言撤回。
たきなさんは反省ができる非常にいい人だった。
だからさっきの冗談の一つや二つ、たった今心が広くなった俺は犯罪行為じゃないらしい銃の所持及び発砲と恐喝を見逃すことにした。
決して敬語と圧と拳銃に屈したわけじゃない。
「わかればいいんです。犯罪行為……ではありませんがお互いに見なかったことにしましょう」
「そうそう! お互い平和に、そして友好的にいきましょーう!」
「……何か譲歩してあげるみたいな雰囲気で騙されそうになったけど、初っぱな手出してきたのはそっちだろ!? 俺は前科にはならないから別にその提案に乗んなくてもいい気が……」
「ああ、
手を振ると手招きしてくる刑事さんらしき人。
……今の日本って警察にゴマすれば犯罪行為しても揉み消してもらえる時代なのか!?
ふーん……何それ怖い!?
「千束ちゃん、こっちに来て一緒にボドゲしないかい? クルミちゃんが強くて強くて……どうかおじさんたちのカタキを……!」
「しょーがないなぁ、このじゃんけん無敗の千束さんが加勢してあげましょー!」
「今なんて? 無敗!?」
「ってことで私は仕事に戻んなきゃなんで新人後輩の指導は任せたー!」
「なあ質問に答えろy」
「ちょ、千束さん!? 私もまだ一ヶ月ちょっとしか働いてn」
俺とたきなさんの声を無視してボードゲームに参加し始める不良先輩店員。
この中で一番先輩であろう千束が指導しなくて俺はどうすればいいと?
それにこの神様との対戦を除けば無敗である俺を差し置いて最強を冠するとどうなるか、今度野球拳させて泣かせよう。
「……こうなった以上私たちしかお店の調理をする人はいません」
「あれ、店長さんは? ほかの店員さんは!?」
「店長は……もう力尽きてます。きっと不慣れな仕事で疲れてしまったのでしょう。それと今日のシフトは私と千束さんだけです」
たきなさんが指差す方に視線をやると真っ白に燃え尽きた、というより体中に生クリームの泡をくっつけて項垂れている店長さんが。
「今日はキャンペーン中みたいで、特大パフェの注文が多いのでそれを盛り付ける練習から始めましょうか」
「……はい、ありがとうございますたきなさん」
「私、年下ですよ? 敬語じゃなくていいのですが」
「いえ、尊敬できる方には敬語をつけるので! ご指導よろしくお願いします!」
銃で脅された相手にタメ口なんか無理です!!
それと不良店員より頼りになるので敬語を使わさせていただく所存であります!
数時間後……
「いいですか? ここは、こう、角度が肝心ですので……」
「おおっ、スゴいですたきなパイセン! 遊び歩いてるどっかの先輩とは格が違う!」
「いえ、私もまだまだです。それに佐藤さん、教えたばかりなのに器用ですね。私も負けてられません、新人同士励んでいきましょう」
「はい!」
結構真面目なたきなさんとは仲良くなった。