「か・ず・ま・くーん!!」
「へ……千束なんだyちょわーーっ!? スカート捲るなよ! 俺はセクハラで訴訟も辞さない覚悟だぞ!」
「ハァ……なんだい、今日の中身は短パンかよ、しけてんにぇ」
「俺のパンツに需要を見出してるアホがいるぞオイ!?」
「それはそれとしてさっすがカズマ! ちょっと筋肉質だけどなかなか似合ってるじゃん!」
「俺に女物の服似合うとか……それ褒め言葉だと思ってるんなら一回医者行けよ」
なんで……なんでまたこんなことになっちまったんだ。
それはハワイで営業し始めて2日目。
昨日のKAKIGOORIの噂を聞いてやってきた観光客や地元住民がやってきてずいぶんと繁盛した。
正直言って俺と店長さんだけだったら人手が足りなくて大変なことになってたと思うほどだった。
そう、実は今日から千束とたきなも働いてくれてて、おかげでハワイ限定の新メニュー、KAISENYAKISOBA(具材は海女さんアクアが素手で調達)もしっかり売れて俺の懐はいつぶりか温かい。
……まあ帰ったらこの金は借金返済のためにATM行き。
実質ゼロ円生活を強いられているようなもんだ俺は。泣
さて、そんなこんなで大盛況だった今日も営業終了時間が来たので店じまい。
アクアには片付け中に余計なことして散らかしたりしないように砂浜で砂いじりさせてるが、それ以外のメンツは次の仕事に向けて準備中だ。
というのもリコリスとしての仕事が入ったみたいで依頼者が来るらしい。
正直面倒ごとはごめんなんだがなぁ……なんて思っていると「依頼者は凍えたペンギンよ~」とはミズキの声が聞こえてくる。
俺はふざけた名前の依頼者だななんて思いつつも千束たちとともにヒョッコリと顔をのぞかせる。
「ハァ~イ! アーユーイナチュゥラボー?」
「アローハー」ビヨンビヨン……
「浮かれてんじゃねぇぞテメェら……」
ミズキにそう指摘される浮かれた二人を尻目に俺は。
クルミの頭でうにょんうにょん唸ってる飾り……後でアクアに買ってやろ
……なんてくだらないことを考えてた。
いや、待ってくれ言い訳を、言い訳をさせてくれ!
アクアは意味わからんものに興味を示す習性がある。
例えば変な形の石コレクションが家にあったり、入浴施設の牛乳瓶の蓋なんかをコレクションしたり……
つまり、そんなことをするくらいだ、アレを買ってやれば夢中になって一週間は静かにしてくれるに違いない!
ってなんで俺は誰に対して何で言い訳をしようとしてたんだ!?
何故か弁明しなきゃいけない衝動に駆られ脳内で必死になってしまった。
が、なんとか途中で正気を取り戻した俺は一歩遅れつつも依頼者の方を見る。
そこにいたのはヒョロヒョロのガリガリで、今にも倒れそうな男が一枚のメモを持って立ってた。
……なんかめぐみんとの出会いを思い出すな。
あのときのめぐみんは「我が名は……」って名乗り上げたのにその後「三日も何も食べてないのです……」っつって俺にたかり出すような頭がおかしいやつだった。
思えばあの時から「頭のおかしい爆裂娘」の片鱗はあったなぁ……
そんなことを思っているとヒョロガリの依頼者が。
「ミ、ミッかもナニも食べてナイのデース……ハナシする前にナニかメグンでほしいデース……」
「うーっわ、そりゃ大変じゃ! ヘイ料理長! 依頼人に何か食べ物を……!」
「あ、あのぉワターシ、KAKIGOORIを食べターイデース」
「はいはーい! KAKIGOORI一丁入りまーす!」
「……氷だからカロリ-ゼロだろ」
「ねー、聞こえたー? いっちょめいっちょめーワーオだよー!」
「もうシロップの原液でも飲んでろよ」
三日も食べてないくせに割と余裕そうな依頼人……
絶対三日も食べてないは嘘だろ!
ただ単純に俺のところのKAKIGOORIが気になって注文しただけだろ!
そんなことを思いつつ注文を承った俺の手は止められない。
アクアに親指突っ込んでもらって浄化させた水を氷をフリーズで生成。
そう、水は結局のところ煮沸せずともアクアの出汁があれば十分だったことに気づいて、無駄な労力とコストを削減したんだ。
そんでもって氷を削りあげたらば……さいこーに美味しいのにほとんどカロリーゼロと言っても過言じゃないスーパーでジャパニーズなデザートの完成だ!
「へーい、おまちどーさん」
「ワオッ! コレィがKAKIGOORI! ウーマイ! ……頭イターッ!」
即席で作った氷だからな。
アイスクリーム頭痛が出たらしい。
これが一般的な日本のかき氷を食べるときの通過儀礼だ……
その身をもって日本を感じるがいい!
……別に出会い頭早々にかき氷を強請る図太さにムカついて即席で氷を生成したとかじゃないからな?
「なあミカさん。あの人が依頼者で間違いないのか?」
「まあそうだな。細かく言うとあの男が『凍えた』――フローズンという依頼者で、ここにはいないがもう一人『ペンギン』と言う二人で依頼したらしい。何でも店の営業がうまくいかないらしくてな」
「つ、ま、りー。アンタはものの2日でここまで人気になったじゃない? それを見込んで仕事を教えてほしいそうよ」
「そうだったんですかミズキさん?」
「そう。だから今口ん中いっぱいにかき込んでるかき氷も、仕事を成功させる秘訣を知るための一環としてオーダーしたっぽいわよ」
「なるほど。つまりこの『冒険者ギルドで冒険者になろうとした時冒険者になるより商人になることを進められた』生まれついてのスーパー商人な俺に依頼が来た、って訳か」
「そこまで言ってない」
なるほどなるほど!
異世界転生のテンプレを知り尽くした俺にはわかる。
つまりこれは俺がマネジメントに入ることで自らの店の売り上げだけじゃなくて依頼者の店からもお礼金やらが入って借金返済に一派近づくって訳だな!
よーし!
そうとなれば早速俺もバンバン働いて稼ぎまくるぞー!
****
依頼者と会ったその翌日。
俺は張り切って「マネジメントするぞーっ!」て感じで経営店までやってきたのだが。
「もしもしたきなさんや」
「どうしましたかカズマさん?」
「俺の聞き間違えじゃなきゃ喫茶店で働くんだよな?」
「ええ。喫茶店でですね」
「……メイド喫茶とは聞いてないんだが」
「私も聞いてません」
「……」
「……」
「なあ、今からでもキャンセルしないか? 詳しく聞かなかった俺にも非があると思うが、リコリコで培ってきた経営術を武器に戦おうとしてたのに早速出鼻をくじかれたぞ」
「ですがカズマならなんとかなるのでは? ほら、私よりそういう文化に詳しそうですし。カズマの財欲と色欲に従って、欲望のままに荒稼ぎすればうまく稼げそうなものですが」
「それはそうかもしれない。だがアクアと千束が張り切ってるぞ?」
「やる気があることはいいことじゃないですか?」
「わかってない、たきなさんは何もわぁってない! いいか、千束だけならまだしもだ、アクアまで張り切ってるだろ? 二人の相乗効果で赤字になる未来しか見えない!」
「ですが今断ったら違約金が発生しますし、二人が何かやらかさないように私たちで監視しておけばいいのでは?」
それができれば苦労しないんだよなぁ……
だってさ、普段と違う環境ってだけでイレギュラーが発生しやすいんだ。
俺は知ってる。
アクセルの街では割と平穏に過ごせていた気がするが、ちょっと王都とかアルカンレティアとか紅魔の里に行けば絶対なんかに巻き込まれるってことを俺は知っている。
だからこれから俺はどんどん酷い目に遭う気がする。
今は嵐の前の静けさってやつだ。
「ハァー……気が進まない」
「ほーぅれ! なにそんなとこでぼさっと突っ立ってんの! フローズンさんが用意してくれたメイド服! どーよ似合ってるぅ?」
「似合ってるんじゃないか? ミカさんがスマホのカメラで連写するくらいには」
「もーせんせーったら。メイドとの記念撮影は有料なんだぞぉ? 今はサービスで無料写真撮影会続行したげるけどぉ……ほれ、メイドさんのハートこうげきー!」
「ち、違うんだ、愛らしさのあまり記念に一枚写真に収めようと思ったら連写が止まらなくt、本当にどうやって止めればいいんだ!? クルミー助けてくれー!」
機械音痴のミカ店長。
焦ってスマホのシャッターボタンを長押ししてるのに気づいてないらしい。
面白いから何も言わないでおこ。
千束が普通のポーズに飽きて荒ぶる鷹のポーズとかグリコのポーズとかをし始めた段階で俺はその場を離れて支給された服を着替えに更衣室に足を運んだ。
そんで冒頭に戻るって訳。
働きに応じてマネジメント料を支払ってくれると勘違いした俺はノコノコ依頼者の男について行ったが運の尽き。
支給された服はメイド服。
意味もわからず思考を放棄して着替えた結果こんなことになってしまった。
「いや、俺はマネジメント担当じゃないのかよ!」
「なーに言ってんの、このカフェはスタッフーが足りてないから経営者だろうと何だろうとメイド服を着る決まりなのよ! ほら、向こうのミズキを見てみぃ?」
「いぇーい! 海辺にあるメイド喫茶だからマッチョメン眺めつつ仕事できるなんて……目の保養ねぇ! ああ、あそこから私のことを見つけて捕まえに来てくれないかしらぁ……」
千束に促されるまま向こうの方を見ると年甲斐もなく張り切ってる三十路の姿が。
まあ三十路に見えないほど肌はツヤツヤしてるし、疲れ知らずで生き生きしてる感じで、違和感ないくらいメイドとして溶け込んでる。
が、マッチョ目当てで生き生きしてるんで残念感が拭えない。
「ってちょっと待て!? さっきこのカフェはスタッフーが足りてないから経営者だろうと何だろうとメイド服を着る決まりだーみたいなこと言ってなかったか!?」
「そーよ。だからちょっと服がキツいミズキも無理矢理着て接客することになって……」
「いやいや、そうじゃなくてまさかとは思うがミ、ミカ店長までメイド服を着るなんてことないよな!?」
「流石カズマってば察しよしねぇ。つまりそゆことよ」
「いやだーっ! もしそんなことになったら俺の抱いてた憧れのミカさん像がドンガラガッシャーンって音出しながら崩れる! なんとしても阻止しなければ!」
「あ、いや、そういう予定だったんだけどって話が続くから安心して? ね?」
「安心した」
よかったよかった。
まさか筋肉ムキムキのゴリマッチョがメイド服着てたらと思うと……
店長の尊厳も破壊される気がするし、そう言うのの被害者は俺だけでいいんだ。
まだ俺なら男子高校のノリで女装する感じだし、店長までもが被害者にならずにすんで俺の心の傷は浅い。
「なんかね、最初の方は先生のサイズでの用意があったらしいんだけど……」
「何でそんなビッグサイズの用意があるんだよ!」
「なんか別のアルバイトさん……一週間前くらいから雇ってるらしいんだけど、その人がその服着ててね、合うサイズがないんだって」
「店長に合うビッグサイズの服着るバイトさんがいるのか!?」
「うん、シフト的に営業開始時刻までには来るんだって。その人のサイズ以外だと先生の鍛え上げられたマッソーがビックバンしたタイミングで服が弾け飛ぶらしんよ」
「ビックバンって何!? 服がはじけ飛ぶって何!?」
「ってな訳で先生は厨房に籠もるか私らんとこのキッチンカーの方で仕事するって」
「……いろいろ突っ込みどころしかなかったが、とりあえずはわかったわ」
そんなミカさんにぴったりの服を着る人と一緒に仕事か……
きっと俺より身長が高いお姉さんなんだろう。
外国なら俺より身長が高い女性は珍しくもないだろうし、普通なのか?
そんなこと思ってると営業時間外なのにも関わらず店の扉が開く。
すらりとした高身長で綺麗な濡烏の長髪。
朝日の逆光でよく見えないがメイド服を着ているし、きっとさっきまで話していた噂のバイトさんだろう。
俺は早速コミュニケーションで今後の仕事を円滑にできるよう挨拶をしにいく。
「おはようございますー! 本日から一緒に働くことになりました、マネージャーのカズマです! どうぞよろ、し、く……」
そこまで言って、逆光がなくなり全貌があらわになってく。
そして俺は気づいてしまった、そのメイドの正体に。
「……何やってんすか、ジンさん」
「……」テレッ
「何照れてるんすか。別に『知り合いに職場で働いてる場面を見られてしまった、恥ずかしー』とかそういう次元の話じゃないでしょ!」
俺の眼に映ったのは由緒正しいタイプのメイド服を汗一つ書かずに着こなす、サイレント・ジンだった。
ジンさんは喫茶リコリコの常連客にして、勝手にセ○ムし始めたお節介焼きの甘ちゃんだって認識をしてたんだが……
どうしてか、今はメイド服着て女装してる面白おじさんと化している。
「おっ、サイレントさぁんじゃないかぁ? ボクとお揃いの服着てるけどよぉく似合ってるぞぉ? どうしてこんな面白い状況になっているか教えてくれよ~サイレントさぁん?」
「……」プイッ
「おいクルミ、先輩が拗ねちゃったろ! いろいろと状況が面白すぎてからかいたくなる気持ちはわからんでもないが、ここにいるのは俺たちの倍メイド経験があるおじさんだぞ。もっと先輩メイドに敬意を払え!」
「……」コクリ
「ほら! お前の大好きなサイレントさんもこうおっしゃってるぞ!」
「何も言ってないだろ……。理解はしたが」
なんでジンは一言も話してないのに意思疎通できてるんだろうか。
そして今もなお、一言も声を発さないのに接客の時はどうしているのだろうか。
そんな様々な不思議について頭をひねらせつつ、俺たちのメイド生活が幕を開けた。
「……え? 営業開始してこの店一週間なのか? じゃあ一週間前から働いてるジンさんは最古参のメンバーなんだな」
「……」ドヤー
「って、メイド喫茶にいるメイドさんってジンさんだけなのか? それが原因だろメイド喫茶流行んないの!」
「……」シュン