このリコリスのパンツにスティールを!   作:桃玉

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本日からファントム第15話、はっじまーるよー
本編(幻覚)の詳細はリコリコラジオ第15回をチェック!


この傷ついた気分に転換を!Byたきな

例の借金2億円事件から一夜明け。

アクアの卓越した土木建築技術によって昨夜に出来た巨大な空気孔は跡形もなく消え去り、代わりに華麗な装飾が入った壁が。

その壁を気に入った依頼人の姿が確認できたとかできなかったとか。

そんなことはさておき、今日の営業に支障はなく、私たちは料理の準備を始めていた。

 

 

「ちーちゃん、頼まれたキャベツここに置いとくわよ? 目を離すと逃げちゃうから早めに火を通すといいわ」

「何言ってるかわかんないけどあっくんサンキュー!」

「いえいえ~、じゃあ私はクルミのこと起こしてくるわね」

「ほいほーい。……んじゃ、私も取りかかりますか! 三角巾キュ! エプロンキュッキュ! そしたら~フンフフフ~ン♪ 粉を溶いてー♪ キャベツ刻んでぇー♪」

「私、調味料の準備とホットプレート温めておきます」

「はいはぁいたきなサンキュー!」

 

 

時刻は営業開始前の8時ちょっとすぎ。

料理の準備と言ってもほとんど私たちの朝食みたいなもので、千束は朝からお好み焼きをチョイスしたみたいです。

私はカズマが焼きそばに使っていたソース、鰹節、青のりを少し拝借してテーブルの上に置いておく。

 

千束の鼻歌が続く中、ホットプレートの上でくるりと回る生地。

少しサイズが小さめな気がしますが巧いものですね、綺麗にふっくら焼き上がった。

私がやったら歪な形になる自信があります。

 

両面茶色い色がつき、あとはソースと削り節、それから青のりを散らせば完成でしょう……

そう思っていたのですが、千束はその生地を店長の方にバトンパスした。

 

 

「ほいせんせー! 鼻歌忘れないようにね?

「はいよ。……ええと、餡子を挟めばーおいしーどら焼きー」

「いよっ! かんせーい! みなさーん召し上がれぃ」

「いや、キャベツの存在理由ないじゃないですか! ねえカズマ!」

「……ん? ああ、そうだな……」

「いや、いやいやいや、そこは『キャベツはサラダ用か? どら焼きでサラダってどういう神経だよ!』とか『先生に何やらせてるんだ!』とか言うところでしょ。私はボケ担当! わかる? ツッコミ待ちしてるんだよ私は。プロなら仕事しっかりしてよ!」

「……プロじゃねーよ」

 

 

カズマの気怠げな声。

ツッコミにキレがない。

というか本当に千束は何やっているのですか!

店長まで協力してくれたのに滑って……そもそも千切りキャベツはどこに行ったんですか!

私が調味料用意したの意味ないじゃないですか!

心の中で私はそんなツッコミを入れる。

 

もし、もしも今日一日中このペースで千束にボケ散らかされたら……私の身が持たない。

カズマに熱烈なツッコミを入れてほしいと公言した千束はカズマがしっかり調子を取り戻すまで一生ボケるに違いない。

私はこの危機的状況を乗り切るために。

 

 

「千束、それから暇人は集合してください」

「ねえたきな、なんで私だけ強制参加なの? もしかしてだけど私のこと暇人認定した?」

「あっ、お集まりいただきありがとうございますミズキさん」

「オーイ、私んこと無視すんなよぉ~!」

「無視してません、都合の悪そうなことを右耳から左耳に流してたら聞こえなかっただけです」

「今都合が悪いって言った!?」

「それではこれよりカズマのツッコミにキレがない件についての会議を行います」

「また都合の悪いことだからって聞き流された!?」

 

 

別に暇そうにしていたから千束を呼んだわけじゃありません。

千束のせいで私の生活が危うくなりそうだったので、その原因たる千束にも参加してもらおうと思っただけです。

ええ、決して千束が店長を巻き込んで変なことをしてたのを見て暇人筆頭だと思ったわけではありません。

 

 

「という訳で千束。ツッコミにキレがないカズマをどうすれば元気づけられますかね? まずは、どうしてツッコミにキレがなくなってしまったのかという原因より元気を取り戻してもらう方法を考えたいと思っているのですが……」

「あー……確かに昨日あんなことがあって、あっくんとクリスさんのことを叱った後は割と爽やかな感じしてたけどねぇ。結局あの巨額の絶望があるって事実は変わんないことに気づいてメンタルがやられたんじゃ……。ミズキはどうよ」

「んー……そーねぇ、概ね同意よ。借金返済すっつぉーっつってハワイに来たのに増えたから、落ち込んでるのは確かよねぇ。それに今まで休みなく気張って頑張ってたでしょ。それで今まで気力で何とか保ってたやる気とかモチベがどっか行っちゃったんでしょうね」

「そうですね、私もそうだと思います。今までカズマは住み込み過重労働を強いられていましたし、働いても働いても借金返済に給金が消えていくこの生活が続くと思うと……私なら耐えられませんね。夜逃げも視野です」

「なんかその言い方だと私の家の家政婦業がすんごいブラックに聞こえるからやめてくれない?」

 

 

そんなことを言われても、スキルを高めれば個人営業で高級料理店並の料理を提供できるカズマを結構適当に使ってますよね……

まあ、カズマ本人もそれを了承してますし私が口を出すのはお門違いかと思ってあえて口は出しませんが。

 

 

「……何よその何か言いたそうな顔は」

「そんな顔してました? 特に何もないので気にしないでください」

「あっそう? それならいいんだけど、私たちの仲なんだから遠慮しないで言ってくれよ相棒? 黙ってたら私泣いちゃうー」

「もちろんです。いつも傍若無人を体現している千束に遠慮なんてするわけないじゃないですか」

「ちょいちょい、それはそれでひどくない?」

 

 

言えない。

千束がブラック企業の社長で、従業員という名の労働力を馬車馬のように働かせてる、カズマを飴と鞭で使ってる想像をしていたなんて言えない。

というかどうしてこの千束って人はこういう時に勘がさえてるのでしょうか。

私、そんなに言いたげな顔してましたかね?

何かショックを受けた千束が私の背中に指をツンツンと突き立てて抗議の意を示してきましたが、それを見てミズキさんが。

 

 

「乳繰り合うんだったら外でしてきなー」

「ち、乳繰り合ってないわ!」

「顔赤くしてムキになっちゃってぇ!」

「はいはい、今は会議中ですよ。話し合いに集中してください」

「ちぇー」

「ちぇーじゃありませんミズキさん。千束も過剰に反応しないでくださいね」

「ええー、でも私はコールアンドレスポンスを大事にしてて、誰かのリアクションに対して何かしらの反応しなきゃ気が収まらないっていうか……」

「過剰に反応しないでくださいね。千束はやろうと思えばできる子なんですから、いいですね」

「……はーい」

 

 

少し不機嫌そうにほっぺをプクーと膨らませながら頬杖をつく千束。

この2人を絡ませると絶対騒がしくなるのは何なんでしょうか。

ここにアクアが挟まったら取り返しのつかない騒がしさになりますよ……

 

 

「ではここからは今まで出し合った原因に対してどのようにアプローチしていけばいいか。つまりカズマを元気にするには何をすればいいかについて議論します。案がある人は……」

「はーいはいはいはいはいはーい! やっぱり気分転換が一番でしょ、仕事のことも借金のことも一回全部忘れてラウラウ食べこー! 私が奢っちゃる!」

「いいじゃなぁい。でも千束はまだまだおこちゃまねぇ」

「ああぁん? そんなこと言うってことはもっといい案があるってゆうんか、ミズキぃ」

「もちろんよ、カズマは大人の味を知ってる男……となればグルメもいいけどハワイのお酒漁りの旅で嫌なことを強制的に忘れさせればいいの。五臓六腑に染み渡る旨い酒が至福なのは酒飲みなら誰でも知ってること」

「いやいやいや、そんなの体に悪いでしょ! もっと疲れた体を労れよ! 栄養じゃ栄養! やっぱりハワイの海で自然を満喫して、健全に動かして疲れた体にスパイス料理ぶち込んだ方がいい!」

「……いや、二人ともカズマのことを連れてハワイ満喫したいだけじゃ」

「そそそ、そんなことないし! 言っておくけどちゃんとカズマのことを考えて、かつ自分の好みを取り入れてだね……」

「そうそう、千束の言うとおりよ。私たちは自分が満喫しつつ、ついでにカズマも元気になってほしいだけで……」

 

 

そう言えばこのリコリス、やりたいこと最優先を座右の銘にしている自由人でした。

ミズキはミズキで酔っ払いですし、カズマのことをついでと言いましたよ今。

別に自分のやりたいことを言ってくださいと言ってるわけではないのに、自分の行きたい場所言い合い合戦になって……

でもカズマのことを考えて案を出してくれているのは確かなので否定の言葉とかを入れづらいですね。

 

 

「では一応お酒が飲める食事処をこちらで押さえておきます。では他に案はありますか? 気分が晴れる場所とか知っていれば……」

「知ってる知ってる! ガイド的にはね、雄大な景色を一望できるダイヤモンドヘッドもいいし、気になる木のモアナルア ガーデンズパークも捨てがたいなぁ……あっ、私あそこも行きたいカメハメハ大王像!」

「ガッツリ観光する気満々ですか! せめて一カ所に抑えてくださいカズマが元気になるどころか疲れ切ってしまいますよ……」

「えー、どこもいい場所なのにぃ……」

「そりゃそうかもしれないけどねぇ。いい千束、それにたきな。大人ってのは基本遠出を嫌うの、疲れるから。そんなところ行くんだったらねぇ、ビーチに行ってマッチョメンを見て目の保養にする方が疲れないしいいのよ」

「マッチョ見てウキウキするのはミズキだけじゃ。カズマは……」

「カズマの目の保養は私が一肌脱げばいいのよ。水着の美女がそばにいてあげるからってね」

「きっつ……」

「うおい、今キッツって言ったな! いけないこと言いおったな!?」

 

 

ミズキさんがそんなこと言いながら、千束のメイド服のエプロンを掴みスカートをズリ下ろそうとして、それに対して必死に抵抗する千束。

 

しかし、ミズキさんの言うことも一理あるのかもしれない。

カズマも色欲に忠実なところがあるので、もしかしたら目の前の海でフリフリの水着を着るだけでやる気が漲ってきたーとか言うかもしれない。

とすれば移動のための費用もかからないですし、おいしいお店も知っています。

おいしいご飯だけでなくお酒も飲めるようですし、これでいきましょうか……

 

私は千束の反撃コブラツイストの餌食となっているミズキの方を見ながら。

 

 

「計画は練れました。一先ず今日はこのまま働き、定休日である明日実行しましょう」

「ええー! 私今日行きたかったー!」

「別に遠出するわけでもないので行ってもいいのですが、今日はカズマが死んでるので流石にお店が……。戦力外の私はともかくメイド長どころか千束も行けないでしょう? ……行くなら一緒に行きたいのですが、明日では駄目でしょうか」

「…………千束、しっかり変な男連れて来ないように教育するのよ?」

「わかってるって。この無自覚天然たらしが暴発しないようにしっかり教えとくわ」

「いや、私のことを何だと思って……。こんなこと親しい人にしか言いませんよ。千束とミズキさんだからこそ言ってるのであってですね……」

「……無自覚って怖いわぁ」

「ねー」

 

 

コブラツイストの体勢のまま、ミズキと千束は赤い顔を見合わせてそんなことを。

よくわかりませんが、どうせくだらない事でしょうと思い、私はその場を離れカズマの方に。

万が一明日予定が入っていたら意味がないのでその確認をと思い。

 

 

「カズマ? 大丈夫……ではなさそうですね」

「ああ、たきなか。なんか疲れてるんだか、眠れてないのか、やる気がイマイチ出なくてな……」

「テーブルの上に突っ伏して、疲れているなら向こうの休憩室のベッドを使っていいですよ? なんなら眠っても構わないですよ? 私たちでなんとか店を回しておきますので」

「ありがとな……」

 

 

ああ、この人重傷ですね。

顔色が心なしか悪いですし、人に優しくされただけで涙まで流しかけてるとは……

言葉を選ばなくては泣いてしまうかもしれませんね。

 

っと、そうでした、明日の予定を聞かないと。

気分転換なんて気休めにしかならないかもしれませんが、それでも少しくらい楽になってくれたらうれしいのですが。

 

 

「その、実は明日ビーチで遊ぼうって話になりまして、カズマも一緒にどうかなと誘いに来たのですが……どうでしょう。できれば一緒についてきてもらえると嬉しいのですが」

「……ビーチ?」

「は、はい。その前に水着を選びにショッピングモールに行ったりするかもしれませんが、その、皆で一緒に……」

「……水着? 千束とこの前買ってた気がするんだが、また買いに行くのか?」

「ちょっと可愛らしいものを着てみようかと思いまして……千束だけでは変に目立つものを選びそうなので、一緒に回ってくれると頼もしいのでお願いしたかったのですが……その、駄目、でしょうか……」

「行く」

「すみません無茶なことを言い出して、お疲れのようですし止めて…………今なんて?」

「行く。俺一緒に行くよ!」

 

 

一瞬耳を疑いましたが、カズマがガタリと勢いよく椅子から立ち上がる。

さっきまで病んでいたのに一体どう言うことなんでしょうか!?

 

 

「たきなに頼まれちゃ仕方がない、お前は暴力的なところを隠せば完璧なんだ、俺がしっかり似合うヤツ選んでやる!」

「暴力的ってどういうことですか!? い、いや、といいますかいきなり椅子から立って大丈夫なんですか!? いきなり立つとめまいとか……」

「ああ大丈夫だ問題ない! というかこんなところで悠長に落ち込んでる暇はないんだよ! 明日水着なんだろ! 浜辺で遊ぶんだろ! 働けるときに働いて明日は息抜きしようそうしよう! メリハリが大事だっていうしな!」

「い、一応言いましたけど、行くかもって話ですからねー!?」

 

 

カズマはシャッキリ立って厨房で料理を始めた。

いや、予想外です、そんなに喜ばれるとは思っていませんでした……

水着と聞いてテンションを上げていたので、意外と私や千束の水着にも需要があると思っていいのでしょうか。

まあ、そんな事をしなくてもカズマが元気になったので、つい先日水着を買ったというのに、二度買うというわざわざ余計な消費する必要もありませんが。

そう思っているとようやくプロレス技を解除した千束とミズキさんが。

 

 

「……男って単純ねぇ」

「いや、あれはたきなが魔性なだけでしょ」

「そうかしら? というか明日カズマのためにって理由だったのに、理由消失したわね。結局水着買いに行くの?」

「それは行くわ! それはそれ、これはこれだから。たきなも行くよねー?」

 

 

そんな声が私の右耳から左耳へと通り抜けていった。

明日は普段通り休みですかね。




安楽少女(人間を養分にするモンスター)×ミズキ(マッチョメンを目の保養にする27歳)

ハァ゛ー……チッ、さっきの連中、筋肉の付きよくて目の保養になりそうだったのにヂッヂッ、アァ゛ー……なーんがいけなかったんかなぁ……こうか? お兄さんチッチ一緒に、チッ、遊ばチッチ、ない、チッ……

エリス様はいつ帰還するのだろう……

  • モニョモニョの件が終わったら
  • ハワイ編が終わったら
  • 常連客として居座る
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