このリコリスのパンツにスティールを!   作:桃玉

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第4話直前の話です


この楽しげな喫茶に戯れを!By カズマ

リコリコで働き始めてから早一ヶ月。

たきなパイセンに仕事内容をあらかた仕込まれ、アルバイトから正規の従業員として雇ってもらうことに成功した俺は新たなメニューやサービスの開発に勤しんでいた。

料理スキルのおかげでスパイスからカレーも作れるし、ケーキをパティシエの如くきれいに作り上げられる俺の腕の見せ所だ!

 

 

「店長ーさーん、深煎りコーヒーに合うチョコレート、バタークッキー、アイスクリーム出来上がりました! 結構自信作なんですがメニュー加えませんか? パフェの具材にできるし絶対売れる自信あり! どうっすか?」

「うむ~……この店は和のイメージだからなぁ。千束パフェが売れたのはわかっているし、お客さんからも復活させてくれと要望があるが……」

「それならなおさら一回食べてみてくださいよ、思わず俺の給金アップさせちゃいたくなるできですから!」

「……わかった。一ついただこう……って美味いッッ!? そこらの店と遜色ないぞ!? チョコも高級品のように輝いて……本当に手作りか!?」

「テンパリングは感覚でできるっていう特技があるんで」

 

 

貴族のダクネスに「知らない食べ物だが家の料理長の新作と言われてもわからん……まさか一冒険者が作ったとは誰も思わないぞ!?」と言わせたこともある俺の料理だ。

目をかっ開いて驚くがいい!

ついでにここの店でしか働けないせいでひもじい生活をしてる俺のお給料を上げてくださいお願いします!!

 

 

「いや、しかし……店のイメージが……」

「店長! (俺の困窮した生活的に)渋ってる暇はないんです! この店がどれだけ赤字だったか……主にあそこの不良の逆ぼったくりのせいでこのままじゃ倒産しますよ!?」

 

 

そう、こないだの千束なんちゃらパフェのせいで大赤字で、ここ一ヶ月はその赤字を帳消しにするので手一杯だった。

昨日、ようやくマイナスがゼロに戻ったから給金アップを願って腕をふるったのだが……

 

 

「……正直に言おう。千束にパフェをしばらく作らせたくない。少くとも私の心のダメージが癒えるまでは……」

「そ、そうっすか……」

 

 

どうやら店長さん、軽くトラウマになっているらしい。

もしや千束はトラウマメーカーなのではないだろうかと思いつつ、この店のコンセプトに合ったお菓子を考える。

 

 

「うーん……なら和菓子の羊羮とかどら焼きとかどうっすか? あんこ使ってるしコーヒーとマッチすると思いますよ?」

「……そうだな。このコーヒーと合うように試作品をいくつか頼んでもいいか?」

「もっちろんです! この正規従業員、佐藤和真にお任せあれ! あんな量と見た目の豪華さだけのパフェに負けるどころか圧勝してみせます!」

「よろしく頼んだ」

 

 

心からのよろしくを受け取った俺は早速材料を冷蔵庫から取り出す。

……無国籍じゃなきゃ今頃幅広い料理を提供する若き天才シェフとして引っ張りだこだったろうに。

そんなこと思いながらお客さんたちとババ抜きをして、手札が悪いのか「むむむ……」と頭を抱えている給金ドロボーを見る。

 

今日は忙しくないからお店のことそっちのけで遊んでても問題はない。

でも、一般的に言ってあの勤務態度は公私混同しすぎなんじゃないのか?

店長さんは仏と言っても過言じゃないくらい怒らないから、ここは俺が勤務態度についてビシッと物申してやろう!

 

 

「おい、不良! 遊んでばっかないで仕事しろ!」

「おーいミズキ~、言われてんぞ~」

「そーだそーだ! クルミとカズマの言うとおり働かんかい酔っ払いめ!」

「遊んれる奴らに言われたくありましぇん! いっぺん顔洗って出直してこぉい!」

「そうだそうだー! 仕事しろゲーマーども!」

「えっ、突然の裏切り!? カズマはこっちの味方だったはずなのにどうして!? ……あっ! もしかしてゲーム人数的に私たちの方に入れないからヤキモチやいてんのぉ?」

 

 

べ、べっべ別にぃ! う、羨ましいだなんて思ってないんだからな!?

それに勝手に味方認定したのはソッチだろうが!

四人で賑やかにしてる声を聞いて混ざりたいなとか、そんなことちっとも思ってないんだからな……メッチャ嘘です、羨ましすぎです。

だって楽しそうだし楽そうだし俺だって遊びてぇよ!

そう思っていると酔っ払いが千束たちの方をじっと見て。

 

 

「れきる男はねぇ、傷ついら乙女の心を慰めてくれるのれ忙しいのよぅ! 冷たいあんたらとは違ってねぇあったかい温もりをくれるお酒とかじゅまはわらしんのよぅ……」

「ちょ、ミズキさん? いくら縁談がうまく行かなかったからって飲み過ぎじゃ……って近い! 近すぎだし酒臭い!? は、離れ、離れろください酔っ払い! 目ぇ据わってて怖ぇから!」

「んああ、照れてんのぉ? 近う寄れい! 隣に侍ってお酌しろぉ……ムグッ!?」

 

 

いい男と言われて悪い気はしないが、あくまで酔っ払いの戯れ言。

酒臭い息を感じながらそんな言われてもムードもへったくれもないわ!

そしてゲーム連中は興味を失ったのかテーブルに視線を戻し、俺を助けようとする気配は一切ない、この薄情者!

 

仕方なしに厄介な酔っ払いを引き離すため力ずくで脱出し、近くにあったクッキーを口の中に詰めてやる。

素朴なおいしさにやられた酔っ払いはご機嫌な様子で口をもぐもぐ動かしてクッキーで奪われた水分をワイン(すり替えてブドウジュースにしておいた)で取り戻すというループに入った。

クックック、計画通り……!

 

 

「……随分と酔っ払いの扱いに慣れてるな」

「まあ、はい……仲間のうち一人、酒癖が悪いやつがいて、そのせいですかね。それに店長もミズキさんと何年も仕事してるなら俺よりベテランじゃないですか」

「確かに、それもそうだな」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

しばらくしてどら焼きの生地の分量を秤とり、ホットケーキミックス風の液が完成したのだが、時刻は15時、小腹も空いてきたし少しだけパンケーキでも作って小腹を満たそうとフライパンで焼き上げた。

 

 

「うし、完成! 試作だが、我ながら上出来すぎて自画自賛するわ」

 

 

どら焼きの生地にクリームとあんこを乗っけたホットケーキスペシャル!

……今は和菓子ってより洋の気分なだけで、分量をミスって生地が均等サイズにできなかったわけじゃない。

静かに手を合わせてフォークを持とうとしたそのとき……

 

 

「ちょ、タンマタンマ!」

「このゲームにタイムとかないでしょうに……」

「ホラ、さっさと出すカード出せよ~、順番決めのじゃんけんで勝ってイキってたのに何渋ってんだ? ホレ、早く! 早く!」

「こんのリス~っ! 誰かのせいで出せるカードないから困ってんでしょうがっ!」

「クルミ、革命されたせいで取っておいたいいカードが全部パーなんですよ。今にもちゃぶ台返しされそうなんで煽らないでください」

「……たきなも煽ってるだろ」

「?」

 

 

後方でまたもや賑やかな声が。

振り返って見てみるとさっきのババ抜きで負けたのか肩をガックリ落としながら苦いコーヒーを啜る常連の人と、その穴を埋めるようにたきなパイセンが入れ替わって大富豪をしていた。

 

……最近、あのたきなさんも一緒に混じって楽しんでるよな。

そう、あの、ファッションになんか一切興味さず、真っ白なパンツしか持ってない(想像)、真面目が服を着て歩いていると言っても過言じゃない、たきなさんが、だ!

俺がいないところでいつの間にか千束に誑かされ、いい感じの仲になっちまったせいで……

きっと純白が朱に交わったせいで邪悪に染まってしまったんだ!

くそっ、どうして俺は千束の非道を止め、たきなさんを魔の手から守れなかったんだ……!

と拳を握りしめ、真面目に思っていたとき。

ゲームに大敗北したのか、一文無しどころか借金をたくさん抱えた大貧民が「うがあああ!」と叫び海老反りをして……

 

 

「おっ?」

「……」

 

 

……生え際を見せつける不良大貧民と目があってしまった。

何ガン飛ばしてんだぁ? ケンカ売ってんのか! と絡まれたくなくて目をそっと反らす。

 

 

「な~になになんだこっち見てぇ? わたしんこと呼んだぁ?」

「呼んでない」

「いや呼んだよね? 呼んだろ今呼んだろ!」

「呼んでないつってんだろ!?」

「まあどっちでもいいけどね! てか甘くていい匂~い! 何を隠しているのかなぁ?」

「これは俺のだぞ! 何か食べたいなら向こうのチョコでも食ってろよ、ほら、あそこにあるから」

「ラッキー! じゃあ遠慮なくいただきまぁす!」

 

 

トラえもんの源氏とタメはれるお風呂好きーのようなこと言いながら甘い匂いを嗅ぎ付けてやって来た不良。

厨房に入って俺の自信作を一口で放り込むと、少し口の中で転がし、目を輝かせる。

 

 

「何このチョコうんまっ! 男二人で何こそこそしてるのかと思ったらもしかしてパフェの材料買ってきてパフェ作り~ぃ?」

「い、いや違うぞ?」

「またまたぁ、先生ってば嘘下手なんだから……私の目を欺こうたってそう上手くはいきませんよぉ! でもぉこんな美味しい材料を集めた点は評価して、試食者第一号に指名してあげようスウィーツ大好き乙女男子たち!」

「ぐほあ……ッッ」

「違うっつってんだろ話聞けよ、お前の先生死にかけてるぞ!」

「別に照れなくてもいいのにぃ。甘いのが好きなのは……」

「だからそうじゃなくって俺の試作品を新メニューに加えるかどうか意見聞いてただけなんだ! だからパフェ作りはしませんさせません! というか、店長の心を労るんだったらやめてさしあげろ!」

「えっ? これカズマが作ったの? スゴッ!? プロじゃん、何でうちで働いてんの!?」

 

 

その言葉、お前にそのまんま返すわ。

何でプロ暗殺部隊の連中が喫茶店経営してんの?

ここでの喫茶店外の仕事にちょっとだけ触れて、そんでヤクザとか警察とか、ボランティアでやっていい範疇を超えてるって驚いたのは記憶に新しい……

 

それにあの馬鹿シンジ……もとい吉松さん、喫茶店で働く娘を見守ってほしいって言ったから涙流して任務を引き受けたけど、ここが喫茶店以外にいろいろ危険な仕事をやる何でも屋だって知らなかったんですけど!?

今度会ったら呼び出して詳しく問い詰めてやる……!

 

と思っていると不思議なことが起きた。

目の前にあった俺のホットケーキスペシャルが皿を残して虚空の彼方に消えていたのだ。

 

一瞬のことで驚愕し、慌てて周りを見ると怪しいやつが一人。

そして横の方を見ると俺に背を向けて黙っている千束。

……後ろから見てもわかるくらいにほっぺを大きく膨らませていた。

 

とりあえず俺は笑顔を作っておやつドロボーの肩に手をおいた。

 

 

「……なあ? 俺のおやつ知らないかい? 怒らないから正直に言ってごらん?」

「んな、なんふぉほとは、わ、わふぁらあいふぁ(何のことか、わからないなぁ)……。うふぉうふぉ(うそうそ)! ほとはわはひははふぇちゃっ(ホントはわ私が食べちゃっt)

「何言ってるかわかんないから怒るぞこんのじゃじゃ馬がっ! 俺のおやつ返せよ! この口が俺の楽しみを奪いやがったのか!」

「ひゃーっ!? ひょ、やめっ……!? いはひ! いはひから! ……」

 

 

この後、口の中の食べ物がなくなるまで頬を引っ張り続けた。

一分以上かかってようやく食べ物を飲み込めた凶悪犯の言い分を聞こうと指を外す。

 

 

「いたたた……」

「それで? 言い訳を聞こうじゃないか……」

「い、いやぁ、ご、ごめんね? というか口いっぱいになってる私に話させるのはルール違反でしょうよ……話せないのに」

「よぉし、申し開きはないようだし再開するか!」

「待って待って!? 勝手に人の食べたのは悪かったからもうあれは勘弁して! ……いや、チョコ食べたときおいしかったじゃん?」

「おう、ありがとう。……で?」

「パンケーキもちょーおいしそうだったからつい……。味見しようとしただけだったんだよ? でも今まで食べたことのある奴の中でダントツ甘くておいしかったから……」

「止まらなかったと?」

「……はい」

 

 

いや、料理人的にはうれしいんだが?

でも食の恨みはなんとやら、男女平等主義のこの俺だ。

このままでは気が収まるはずがない。

 

……いい機会だ。

これを機に上下関係をしっかりさせてやろう!

いくら年功序列制があろうとも、俺の方が上だってわからせる!

 

 

「テメェは俺を、怒らせた……! 覚悟しやがれ! スティー……」

 

 

そこまで言いかけて、俺は転移してきたときのきっかけを思い出した。




デジャブを感じたカズマ君…… 果たしてどうなる
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