停学中の呪術師がキヴォトス入り   作:鉄の字

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納得いくか、いかないか

 

 

「背中の毛濃いね〜♩パパヤパヤ〜♩」

 

 

青空晴れ渡る午前。

俺はパチンコの主題歌を口ずさみながら、日用品を買いにブラックマーケットを歩いていた。

 

キヴォトスでは銃を持っていないと不良などに絡まれる確率が高まるのだが、俺がブラックマーケットを中心に賞金首を狩りまくったから俺に絡んで来る奴は格段に減った。

おかげでブラックマーケットの不良達は大人しく俺はこうして悠々と歩けるわけである。

 

あの呪霊を祓ってから数日経った。

キヴォトスにいる呪霊がアレだけとは考えられない、そして、あの呪霊がアツコちゃんを執拗に追い掛けていたのも気になった。

 

連絡先交換しようとしたがアツコちゃんはスマホを持っていないらしく、そう言えば俺も持っていないのに気づいた。

取り敢えずアツコちゃんには呪力を込めたマガジンを幾つか渡し、俺の住んでいる場所も伝えておいた。

 

アツコちゃんは花が好きで何も予定が無い日は花屋にいるらしい。

キヴォトスに花屋なんて山ほどあるんだけどなぁ。

 

別れ際のアツコちゃん、表情は分からなかったけど楽しそうに見えたな。

まぁ、悲しい顔するよりは遥かにマシだ。

 

しかし、知り合いも増えて来たし、スマホ買った方がいいかもしれないなぁ。

美食研究会は勝手に近づいてくるから連絡必要ないんだけどね。

 

 

「出会いがなくても〜♩脱毛しなくても〜♩転職しなくても〜♩…………お?」

 

 

丁度、美食研究会の事を考えているとハルナが目の前を歩いていた。

しかし、その姿は煤に塗れており、右脚を痛めているのか引き摺りながら歩いている。

 

 

「あら、ツツヒコさん。こんな所で奇遇ですわね」

 

「おいおい、そんなにボロボロになってどうしたんだよ」

 

「先程、料亭を爆破しましたの。繊細な料理に煙草の臭いが移っていましたので。そしたら火薬の量が多かったのか巻き添えを食らってしまいましたの」

 

「海原雄山かよ………いや、流石に料亭爆破しねぇか」

 

「有名な料亭でしたので楽しみにしていたのでガッカリですわ。帰ってシャワーを浴びませんと………では、ツツヒコさん、綺麗な姿になってからまたお会いしましょう」

 

 

見るからにションボリとしているハルナ。

ズリズリ、と負傷した脚を引き摺りながら帰ろうとするハルナの後ろ姿は何処か虚しさを覚える。

 

 

「ハァ………何時も元気な馬鹿がしょげてると、こっちまで気が滅入るんだよ」

 

 

頭をガシガシと掻きながらハルナを追い抜きしゃがむ。

 

 

「おら、乗れ。俺の家に向かうぞ。手当てしてやるから」

 

「し、しかし………」

 

「いいから、乗れよ。早くしないとお姫様抱っこでゲヘナまで突っ走るぞ」

 

「それは困りますわね………」

 

 

おずおず、と言った感じで俺の背中に乗るハルナ。

いつも美食とか言って結構な量食べてるけど、めちゃくちゃ軽いな。

そんな言葉が喉から飛び出しかけたが、女性に体重の話題は失礼だと思い留まる。

 

 

「ツツヒコさん、いつもは部屋に来るなって仰るのに、今日はどうしたのですか?」

 

「このままお前を放っておいたら『納得』できねぇんだよ」

 

「納得?」

 

「『納得』は全てにおいて優先される事だ。納得出来なければ永遠に凝りの様に残り、いざと言う時の判断を鈍らせてしまう。俺は納得行く人生を送りたいんだよ」

 

 

そこで目を閉じる。

思い出されるのは小さかった頃の記憶。

 

母親と父親と姉。

襲いかかる呪霊。

俺をクローゼットの中へ隠し、笑顔を向ける三人。

隙間から見える殺戮。

気づけば三つの墓の前に三角座りする自分。

隣に立つサングラスの男。

泣きじゃくる俺。

 

父さん、母さん、姉さん。

俺はまだ納得出来てないよ。

どうして、俺を生かしたんだ?

どうして、俺を愛してくれたんだ?

 

記憶と思考の中から浮上し、言葉を紡ぐ。

 

 

「──そんで、足引きずるお前をそのまま行かせたら、助けなかった自分に納得出来ず、頭の中でモヤモヤしたまま過ごす羽目になるから助けた。それだけだ」

 

「フフッ………筒彦さんって本当に優しいですわね」

 

「自己満足の何処が優しいんだか」

 

「それはつまり傷付いた私を放っておけないと言う事でしょ?ならば、貴方は優しいですわ」

 

 

呪霊を祓い、呪詛師を殺す。

それは呪術師として生きるなら逃れなれない。

優しい奴なら殺害に躊躇い、引き摺ってしまうかもしれない。

 

だが、俺はそんなの感じない。

俺の人生を後悔なんかで邪魔されたくない。

俺の記憶を殺した奴らで埋め尽くしたくないだけだ。

 

そんな奴が優しい?

ハルナは変わってるな。

いや、呪術師としての俺を知らないから、そう言えるのだろう。

 

 

「…………そういう事にしとこうか」

 

 

背中の感触からハルナが俺の背中に顔を押し付けるのが分かる。

ハルナの体温が心臓に届く程に温かく感じた。

 

その温かさを感じながら、ブラックマーケットの道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年12月24日、日没後の京都にて。

ビルが建ち並ぶ大通りの真ん中で二人の男が堂々と立っていた。

一人は細目と口髭の剃り残しが特徴的な老け顔で強面の男。

もう一人は一筋の剃り込みがある短髪が特徴的な筋肉質な体を持つ男。

 

そんな二人、秤 金次と真茅 筒彦は車を通らない大通りを埋め尽くさんとする呪霊を前に淡々と話をしていた。

 

 

「金ちゃん、俺はやっぱり納得行かねぇよ」

 

「またその話かよ。いい加減にしろよ」

 

「何時も言ってるだろ?『納得は全てにおいて優先される』って。金ちゃんが『熱』を愛する様に、俺にも譲れない部分はあるんだよ」

 

「こんなにしつこいのは元カノが高専の結界の前までストーキングして来た時以来だぜ」

 

「え?それと同等なの?酷くない?」

 

 

避難が済んだ車も通ってない道の上でそんなコントを繰り広げる二人。

そんな二人を他所に呪霊の大軍との距離は百メートルを詰めていた。

 

 

「もう数十秒したら、あの大軍こっちに突っ込んでくるぞ」

 

「ごめん、やっぱり納得いかねぇ…………」

 

「あー、うぜぇ、コイツ………」

 

「だって金ちゃん………だって────」

 

 

『そろそろコイツ殴ろうかな』と考えつつゲンナリとする金次。

筒彦は涙を堪えた目を金次に向けた。

 

 

「────何で俺が五万円スって、金ちゃんが大当たり引いてんだよ………!!」

 

「パチンコってそう言う風に作られてんだよ」

 

「納得出来ねぇ………この任務が終わったらもう一度打ちに行くぞ。次は必ず当たる気がするんだ、金ちゃん………!」

 

「一番カモにされる奴の台詞だな、それ…………ほら、来るぞ。『お前の方』が多数に対して強いんだからとっととやれよ」

 

「野郎オブクラッシャー!!」

 

 

雪が降ると言われたクリスマス・イブの夕方。

最悪の呪詛師によって行われた大規模テロ『百鬼夜行』の後、ネチネチと五月蝿い上層部をぶん殴ってケツにパチンコ玉突っ込んで裸でビルに吊し上げて停学になってしまったのは、また別のお話。

 

 

 




今回は筒彦の執着してる部分と人を殺める事に対しての向き合い方に触れています。
『納得』いかなければひたすらに引き摺る面倒くさく、死生観は釘崎に近いです。
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