私情で色々とごたついていまして、執筆の時間や気力が無い状態が続いていました。
これからは時間がかかるかもしれませんが投稿していきますのでよろしくお願いします。
「ヘルメット団の羽振りが良い、だと?」
「正確にはカタカタヘルメット団だけどな」
場所はブラックマーケットの端っこ。
ボロボロの露店で買ったうどんを隣の食事スペースでとある女子達と食べていた。
彼女達はキヴォトスに来て初めて戦ったスケバン天使達で、こうして偶然会ったらブラックマーケットにある飯屋で一緒に食う仲になっている。
そんな彼女達から聞いたのは万年資金不足のヘルメット団が新品の装備を使っているという話だった。
ヘルメット団はキヴォトスに幅広く活動している不良グループ。
カクカクヘルメット団とかジャブジャブヘルメット団とか分派があるらしい。
後、スケバン達とは犬猿の仲っぽい。
奴らの食い扶持はカツアゲや強盗等の犯罪行為で、そんな奴らが銃を買える程の潤沢な資金があるわけが無い。
きっと、金を提供している人間がいる筈だ。
「だが、他のヘルメット団みたいに無差別に襲ってるわけじゃない。提供元の思惑が絡んでいる。そうだろ?」
「よく分かってるじゃねぇか。連中はアビドス高校を襲っているらしい」
「アビドス………あの砂漠地帯の?」
アビドスはブラックマーケットからそう遠くない場所にある。
砂漠化が進んでいる地域で徐々に暮らせる場所も減っていき、自然と住人も減っている過疎地でもある。
何でそんな砂に埋もれた土地を回りくどい事して奪おうとしているのかねぇ?
「まぁ、いくら考えても俺達には関係ないか」
「あぁ、そうだ。ついでに伝えるけどアンタ、ゲヘナの風紀委員会から目を付けられているみたいだぞ。このブラックマーケットにも風紀委員らしき生徒も時々見られているらしい」
「風紀委員会?」
風紀委員会ってあのイオリとかいう銀髪ツインテールがいる組織だよな。
アイツら、俺の事を前から知っていたっぽいけど、ここまで執拗に目をつけられる事なんてあったっけ…………
あーーーーーーー、あったなぁ(目そらし)
「その目は心当たりがあるんだな………」
「いや、公衆の面前でパンツ一丁になっただけで──」
「「「残当」」」
「解せぬ」
ちょっと長めの朝飯を終えスケバン達と別れて家の前まで帰ってくると、そこには見知った銀髪が一人。
マンションの廊下の真ん中で堂々と仁王立ちしたハルナは笑顔でビシッ、と俺を指差した。
美人だしスタイルもいいから、何やっても様になるなぁ。
「昼食へ行きますわよ、ツツヒコさん!新たな美食が私達を待っていますわ!」
「えぇ………朝飯食った所なんだけど………」
「勿論、食事の代金は出します!前に手当てしてくれたお礼ですわ!」
「え?いや、その気持ちだけで十分だから」
朝飯食った後で食欲湧かないし、二回行動するのはダルい。
ハルナの脇を通り部屋に入ろうとした瞬間、ズボンの襟がガシッと掴まれた。
それはもう、ズボンが引っ張られてパンツが言えそうになるくらいに。
「うおっ!?」
「昼食へ行きますわよ!ツツヒコさん!新たな美食が私達を待っていますわ!」
「俺、その言葉に対してハッキリ断ったよね!?何でもう一回言ったの!?ゲームのNPCか何か!?」
「昼食へ行きますわよ!ツツヒコさん!新たな美食が私達を待っていますわ!」
「分かった!分かったからその手を離せ!ズボンが脱げるんだって!パンツ見えちゃうの!あ、ちょ、らめぇぇぇええええ!?!?」
そんな感じで、強制的に連れ出された俺と楽しそうにしているハルナが電車を乗り換えて着いたのは、まさかのアビドス自治区だった。
朝に話題にしていた場所へその日に行く事になるとは………
まだ砂漠に覆われていない都市部を暫く歩くと雰囲気があるラーメン屋があった。
「真ん中のテーブル席へどうぞ!」
ハルナの後ろを追う様に店の暖簾をくぐると、猫耳ツインテールの店員さんが案内してくれた。
見た感じ高校生くらいだし、アビドス高校の生徒なのかもな。
注文を済ませて、改めて周りを見渡す。
人気店なのか俺達以外の客もひっきりなしにラーメンを啜っていた。
厨房を見ると調理しているのは柴犬の店長だけみたいだし、俺達が注文したラーメンが届くのはもう少しかかりそうだ。
「結構、混んでるな。座れてラッキーだな」
「この過疎地でもあるアビドスでも人気で他地域から態々来る人もいらっしゃるみたいですよ」
「ほー、人通り少ない道筋で人気なのは本当に美味いラーメンって事か」
「えぇ、とっても楽しみですわ」
待っている間、ハルナとそんな他愛ない話をして、話題はあの『先生』にまで至った。
「え?お前らって先生に会った事あるの?」
「えぇ、何回かお会いしてましたわ。前は全裸でプールに入ろうした疑惑で風紀委員会に捕まっていて、トリュフの匂いが染み込んだパンツを必死に嗅いでましたわよ」
「ごめん、急な情報過多で脳が停止しそう」
何で全裸?
何でトリュフ?
何でパンツ?
何で嗅ぐの?
情報が完結しないんですが?
俺、いつの間に無量空処に引きずり込まれた?
「あー、うん、子供みたいな変態なんだな………」
「変態具合で言えばツツヒコさんも相当かと思いますけど」
「は?俺はちゃんとブーメランパンツ履いたんだが?」
「下着でしたけど?」
ハルナ、中々に強い正論を持ってるじゃねぇか………
ここは引き分けで手を打とう。
「その先生ってブラックマーケットでも噂は聞くけど、簡単に会えるのか?」
「シャーレに行けば会えると思いますが、何時も仕事でキヴォトスを走り回ってるから難しいですわね」
シャーレって連邦生徒会の所属だけど、簡単に言えば学校や生徒の悩みを解決する何でも屋みたいな組織だしな。
忙しいのは当たり前か。
「先生に何か頼みたい事ありますの?」
「まぁ、依頼と言うよりお願いに近いな」
「と言うと?」
「俺の個人的な頼みだよ」
曖昧な返事をする俺にハルナは首を傾げた。
と、ここで少し尿意を覚える。
「すまん、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「料理が来るまでに戻って下さいね。麺が伸びてはいけませんので」
「へいへい」
ハルナに軽く返事しながら席を立ち、店の奥のトイレへ入る。
用を足しながら先程聞いた先生の情報を整理する。
先生なぁ………
曰く、『人間の大人』だから一目見れば分かるらしい。
この世界だと大人と言えば動物かロボットだしな。
情報から察するにキヴォトスにおいて人間の大人は先生一人だけ。
しかも、更に激務でシャーレに居ない事が多いし、広大な学園都市で先生を探すのは苦労しそうだ。
そもそも面も分からねぇし。
案外、伊地知さんみたいに老けてたりして。
会ったことの無い先生の顔を想像しながら、手を洗いハンカチで拭きながら、トイレを出る。
「あ、すみません」
「あ、いえいえ」
扉を開けたら目の前に『人間の大人』がいてぶつかりそうになり、反射的に謝罪しつつ脇を通り過ぎようとする。
その大人も反射的に会釈してトイレへと入ろうとしていた。
いやぁ、珍しいな。
このキヴォトスに『人間の大人』がいるなんてなぁ──────って。
「いたぞ!!!いたぞぉぉおおおお!!!」
「え?何!?本当に何!?宇宙人でも居たの!?」
「停学中の三年、眞茅 筒彦だ」
「連邦捜査部シャーレ担当顧問の蔵峰 ウツシ。よろしくね、ツツヒコ」
俺と先生は向かい合いつつ自己紹介をする。
先生は俺の自己紹介に答えつつ、毒気の無い笑みを見せてくれた。
先生は『くせっ毛が特徴的な青年』と言うのが第一印象だ。
良く言えば穏やかな顔つき、悪く言えばヘラヘラしている顔だろうか。
何処にでもいるような平凡な男、それがこの蔵峰 ウツシ先生だった。
こうして人間の男が二人出会うのは何かの縁だ、と言うわけでカウンター席だった先生はこっちのテーブル席に移ってきてもらった。
「先生の武勇伝は聞いているよ。何でも全裸でパンツを嗅いだって」
「待って待って待って!?色々と省略し過ぎじゃない!?確かに間違っては無いけど、それだと救いようのない変態になっちゃうよ!?」
「まぁ、大人だし色々とストレスが溜まるから仕方ないとは思うぞ。でももっと他の発散方法を試した方がいいんじゃないか?例えば、運動とかさ」
「フォローしつつ的確なアドバイスしないでよ!」
「でもツツヒコさんも同じくらい変態──」
「シャラップ、ハルナ」
何か言おうとしたハルナを制する。
全く、油断も隙もねぇぜ。
「実は君の事は前々から知っていたんだ。『ブラックマーケットにいる人間の男が賞金稼ぎをしている』ってね。それに、ハルナからも君の事は聞いてるよ。『美食研究会の準会員で少し乱暴な所もあるけど、時折見せる優しさが素────」
「先生?」
「ところで酢昆布って美味しいのかなぁ!?」
いい笑顔を浮かべているハルナに、何かを喋ろうとした先生は汗をダラダラ流しながら無理矢理話題を変えた。
すげぇ、笑顔ってあんなに圧力かけれるんだな(小並感)
ふと、ハルナと目が合うと彼女は顔を赤くしてプイッ、と視線を逸らした。
え、何、その反応?
色々と気になるんだが?
「そ、そう言えば、ツツヒコさんは先生にお願いがありましたわよね?」
「え?…………いや、今はいいや」
「もしかして悩みがあるのかい?遠慮しなくてもいいんだよ?」
「悩み相談じゃなくて………説明が難しいと言うか、理解が難しいと言うか………」
「はい、おまたせしました!柴関ラーメン三丁です!」
俺が言い淀んでいる中、ラーメンを持ってきた店員さんにより会話は打ち切られる。
一人づつ丁寧にラーメンを置いていくが、先生の所は心無しか力強く置かれた。
文字で現すなら『ドゴンッ』と言った感じ。
それでもスープ一滴も零さないのは店員さんのテクニックが計り知れないという事である。
「セリカ、なんか私に冷たくない?」
「熱いうちにどうぞッ!!」
先生の一言にジロリ、と睨み付けながら店員さんは去って行った。
その目は『いつもいつもバイト中に来るんじゃないわよ、バカ!!』と言う感情が孕んでいた。
どうやら店員さんは先生と知り合いらしい。
気持ちはよく分かる。
仮に俺がバイトしている最中に五条先生とかの高専連中が来たら、全力でドロップキックして叩き出すな。
まぁ、五条先生に攻撃なんか当たらないんだけどさ。
「料理も出揃ったし話はここまでにして食べようぜ」
「………そうだね。話し込んで麺が伸びたら食材にも悪いし………あっ」
「どうしたよ、先生………げっ」
何かに気づいたのかのような反応をする先生。
そこで俺も同じように気づいてしまった。
俺達の視線の先には気に食わない店があれば爆破させるテロリストが居ることを。
そんな俺達を知って知らずか、既にハルナは食事の挨拶を済ませ優雅に麺を啜っていた。
固唾を飲む俺と先生。
ゆっくりと咀嚼し味わうハルナの一挙手一投足に注目する。
何で飯食べている所を見るだけで、こんなにドキドキハラハラしないといかんねん。
「ん、見た限りでは豚骨醤油ラーメンかと思っていましたが、僅かに魚介の風味がしますわね。これは魚粉でしょうか?しかし、味が散らかってはなく、纏わりがある………とても美味ですわ」
ハルナはレンゲでスープを飲んで周りを見渡す。
「それに調理の丁寧さは勿論、整頓された店内の清潔さ、客を尊びながらも明るく出迎える接客、全ての要素がマッチした素晴らしい店ですわね」
溢れ出たハルナの笑顔に俺と先生はドッ、と疲れが襲ってきた。
二人してテーブルに頭を付ける光景にハルナら少しムッ、としていた。
「あ、危ねぇ………柴犬の店長のフサフサがチリチリになるかと思ったわ………」
「良かった………ハルナのお眼鏡にかなったようだね………本当に良かった」
「失礼ですわね。私は見境無く爆破なんてしませんわよ」
ハルナの言葉に全力でツッコミたくなったが、そんな気力も出ないので俺と先生はラーメンを食べる事にした。
ラーメンを食べ終わった後は先生と連絡先を交換して今日は解散となった。
先生にはちょっとしたお願いがあったが、今日は連絡先を交換できたし良しとするか。
人間、平和な空間に生きてると急な非日常に対して『日常のこと』として処理してしまう事がある。
所謂、『正常性バイアス』と呼ばれるものだ。
自分は呪術師故に死とは隣同士な環境であるので、非日常には割と敏感な方だと自負している。
自負してるんだけどなぁ………
「全員、動かないで!」
「ん、手を後ろに組んで腹這いになるべき」
「はーい、皆さ〜ん、言う事聞いて下さいね♬」
「うへ〜、既に外部との連絡は切ってあるから抵抗は無駄だよ〜」
「ど、どうしましょう………」
「おおぅ、本物の銀行強盗だぁ………」
ロボットの銀行員に銃を突き付けるのは目出し帽(一人だけ何故か紙袋だけど)を被った女子達。
現代日本ではまず有り得ないであろう光景に俺は脳死でそんな言葉しか出なかった。
目をパチクリさせてしまう俺は正に『正常性バイアス』のそれだった。
やっぱキヴォトスの日常には慣れねぇわ、うん。