ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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ジョウト編
第1話 噂の後輩。


 

 

 

 

 

 腕に抱えた分厚い本をカトンと書棚に仕舞って、レホールは嘆息した。

 苛立ちと疲労が多分に凝縮された吐息だった。

 

「ああ疲れた」

 

 首を巡らせる。古代神話研究室の床に積まれた本はまだまだあり、全て片付けるにはうんざりするほどの労力と時間が要ることをこれでもかと主張してくる。

 

 再び溜息をついたところで、ゼミの扉が開いた。

 

「おや、お片付けですか。精が出ますね」

 

 そう言って微笑んだのはこの研究室の主──古代神話研究の第一人者と謳われる教授であった。どうせ無駄だと知りつつも誘ってみる。

 

「ぜひ教授もご参加を。

 やってみると案外楽しいものですよ?」

「折角のお誘いですがお断りします」

 

 案の定、完璧なスマイルを1ミリも崩すことなく言われ、レホールは盛大に舌打ちしてから本棚に向き直った。

()()()を上手に避けながら教授が笑う。

 

「アカデミー広しといえど、私にそんな態度を取るのは貴女ぐらいのものですよ」

「特定の個人に媚びを売ることは信条に反しますから」

「ふふ。だから貴女が好きですよ」

「それはどうも」

 

 そっけなく突き放す。

 

 ちなみに、彼の言うことは自惚れでもなんでもない。

 なにしろこの教授ときたら金髪碧眼白皙多才、何をやらせても絵になるという傑物なのだ。大抵の女生徒は入学早々一目惚れをかまし、ファンクラブに光の速さで入会し、先んじようとする不心得物を成敗することに余念が無い。そんな彼女らが言葉の綾でも「好きです」なんて言われようものなら、天まで舞い上がりそのまま降りてこなくなるだろう。

 考古学以外に興味のないレホールだからこそゼミに入ることを許され、今日まで研究に打ち込めているのである。

 

 レホールが本の山をひとつ持ち上げる。

 稀覯本ばかりで扱いには細心の注意を払わねばならないそれを、まるでその辺の三流雑誌ででもあるかのようにひょいひょい本棚にぶちこんでいく様は、本好きが見たら卒倒しかねまじい適当さだ。

 

 彼女にしてみれば本好きが何故そんなにも後生大事に管理するのか理解できない。書物などしょせん知識や知見を紙の束に纏めたものに過ぎず、中身を覚えてしまえばそれきり役目の終わるものではないか。

 

『誰もがアンタみたいに一度読んだだけで完璧に記憶できる超人ばっかだと思わんでくださいよ。俺のような凡人はね、何十回何百回と読んで初めて覚えるんですから』

 

 不意に、昔言われた小言を思い出し、レホールの口許に微笑が浮かんだ。

 

 世界を見たいと旅に出てから3ヶ月。

 あの後輩は、今頃どこで何をしているだろう。

 もともと筆無精な男だが、最近ではメール1本寄越さない。便りがないのは元気な証拠というが…………。

 

 一応不定期にレポートは届いているらしく、教授が精読しているのを見たことがある。

 ちらりと横から覗いた時、びっしり赤ペンを入れられているのを見て『ご愁傷さま』と祈ったものだ。

 

「元気ですかね、あの男は」

 

 何の気なしに話題を振ると、教授は「元気そうでしたよ」と答えた。

 

 レホールが振り向く。思いもよらない返事だった。

 

「……見たんですか?」

「ええ。街中で。なんなら話もしましたよ」

「いつです?」

「ついさっきですが」

「────なるほど」

 

 散々目をかけ世話してやった恩も忘れて、帰ってきたと連絡すらしないわけか。

 

「どこに行くとか言ってました?」

「川へ水浴びに行くと言ってましたねえ。ポケモンたちを洗ってやるとかなんとか」

「ちょっと出てきます」

 

 上着を引っ掴み足早に研究室を出る。後ろで教授が「行ってらっしゃい」と手を振っていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 キキョウシティの近くでポケモンたちの水浴びに適した川と言えばサボ川だろう。街のはずれを囲うように流れる河川で、水深は浅く、澄んだ水がさらさらと流れている。

 夏は子供たちの格好の遊び場だが、11月のいまは水温が下がり、身を切るように冷たい。

 釣り人すら近づかない場所である。

 

 果たして目当ての人物はそこに居た。

 カブトプスとヤミカラス、色違いのアマルスに騒がしいヌメラ、そして見たこともない金ピカのポケモンと、楽しげに水浴びをしていた。

 

「…………風邪をひきたいのか貴様は」

 

 呆れながら声をかければ、びしょ濡れの男がぱっと顔を上げた。

 

「あれ、先輩! どしたんすかこんなところで」

「その言葉そっくり返すぞ。まさかこの季節に屋外でポケモンを洗うやつがいるとはな」

 

 普通はポケモンセンターの共同シャワーなどを使うものである。お湯も出るし。

 

 相手は照れくさそうに頬をかいた。

 

「いやあ、ゴーシェ……あ、アマルスのことなんですけどね、こいつが冷たい水を好むもんだから」

「りう」

 

 真っ白いアマルスが心地よさそうにヒレを震わせる。

 レホールが眉をひそめた。

 

「仲間が増えてるのはいいが……ルギアはどうした?」

「いますよ? ────ああそっか、レヴィ! 

 神秘(しんぴ)布陣(まもり)を敷いてくれ」

「げるぅ」

 

 ヤミカラスが鳴き、翼を広げた。

 淡い虹色の幕が周囲に拡がっていく。

 

「変身も解除していいぞ」

「げっ」

 

 頷くや、ヤミカラスの体が光に包まれる。次に瞬きしたとき、そこには桃色の薄衣を纏ったルギアが立っていた。

 

「げぅるるるる」

「よーしよし。覚えてるかレヴィ? 昔この人とアルフの遺跡で遊んだこと」

「んげぇ」

 

 顎の下を掻かれながら問われても、ルギアはどこ吹く風だ。まるで覚えていないらしい。

 レホールは驚きに目を瞠ったあと、ようやく言葉を口にした。

 

「今の技は何だ」

「技じゃなくて、この羽衣の力です。旅の途中に貰いまして、なんにでも変身できるんですよ」

 

 なんにでも変身できる道具。

 それはもう、神話に出てくる神器レベルの希少な物ではないのか。そんなものをくれるとはどんな人物だ。

 数多のツッコミが喉元まで出かかったが、愉しそうに洗う姿を見て、ひとまず飲み下した。

 

 男子三日会わざれば……などというが、3ヶ月ぶりに逢う後輩は、ずいぶん雰囲気が変わっていた。

 

 黒いくせっ毛は背中半ばまで伸びて、雑に1つに括っている。どこか甘ったれたところのあった風貌も、よほど鍛えられたと見え、精悍な顔つきになっていた。

 

 けれど、ほんの一瞬、遠くを見るような眼差しをするのはどうしたことだろう。

 黒い瞳に世を儚むような色が差しこむのは、いかなる事情があるのか。

 

 レホールはそのほうが気になって、しかし尋ねることは憚られた。

 普段の自分なら直截に訊くだろうに、なぜだか口に出来なかったのである。

 

 だから、ありきたりな挨拶を述べた。

 

「なにはともあれ、お帰り、アシタバ」

 

 後輩はにこやかに笑った。

 

「ただいまっす、先輩!」

 

 

 

 

 


 

■レホール

キキョウアカデミーの生徒。美人。

 

■アシタバ

主人公。なにかと不憫。

 

 




というわけで第2部1話目です。

待っていてくださった皆様、大変お待たせ致しました!
これからまたアシタバたちの冒険が始まります。
第1部では毎日更新でしたが、こちらでは奇数日更新となります。

よければ感想高評価おなしゃす!
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