ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第13話 いきなしバトルは勘弁して。

 

 

 

 

 シェードジャングル。

 アーカラ島の北部に生い茂る大密林で、人の手が一切加えられていない天然の迷路である。

 

 遥か昔、アローラを踏破した某探検家が記した名著《南国探検記》に、迂闊に入りし者容易に抜け出すこと能わず、と記されていることから見ても、故郷のウバメの森と同じに考えない方が良さそうだ。

 

 ウラウラ島から高速艇を飛ばし、かなう限りの速度で島を北上した俺たちがジャングルの入口に着く頃には、もうとっぷりと暮れていた。

 

 一応ヘッドライト付きのヘルメットを被っちゃいるが、わずかな光は闇を強調するばかりで、いっかな役に立ちゃしない。

 得体の知れない鳥の鳴き声が響き渡り、背筋がぞーっと冷えこんだ。

 

 やばい。

 夜の森、すげー怖い。

 

 だが背に腹は変えられん。

 この森に実ると云われるスーパーラムの実がなければ、ライチュウが延々と苦しみ続けることになる。

 

「うし、行くz」

「ちょっと待ったァ!」

 

 一歩踏み出しかけた俺たちを、朗々とした声が遮った。

 

 振り向けば、妙齢の女性が背後から、俺に指を突きつけていた。きりりと引き締まった眉が鋭く吊り上がっている。その眼差しには明確な敵意がこもっていた。

 

「そこのアンタ! シェードジャングルは神聖なる試練の場よ。キャプテンの許可もない癖に、ナニ勝手に入ろうとしてんの!」

「あ、えと、その」

「問答無用ッ!」

 

 彼女は気合声を発しながら、ルガルガンを繰り出してきた。禍々しい目つきに曲がった背筋、真夜中の姿の岩狼である。

 

「切り裂けルガルガン!」

「っ、だあぁもう! カブトプス(カブルー)!」

 

 何が何だか分からんままにカブルーを繰り出し応戦する。2体のポケモンががっぷりと組み合った。

 

「化石ポケモン──! やるわね、アンタ」

 

 女性が不敵に笑う。

 エキゾチックな耳飾りがリンと揺れた。

 

「せっかくの岩タイプ、じっくり観察したいけどこれでおしまいよ! ルガルガン、噛み砕け!」

 

 太い牙がカブルーの肩口に食いこみ、堅牢な硬殻をあっさりと砕いた。特性が《砕ける鎧》であることを差し引いても恐るべき威力である。

 

(柔くなったところを狙われたら不味いっ!)

 

「激流を纏え! アクアブレイク!」

 

 ルガルガンは真昼と真夜中、2つの姿があるけれど、いずれも岩単タイプ、水を浴びれば怯むはずだ。

 

 しかし俺の目論見は外れた。

 危険を察知した狼が、主人が命じるより早く飛び退っていたからである。

 

 おかげで相棒の水飛沫は虚しく噴き上がるだけに終わった。

 

「ナイスよ、ルガルガン。ブレイククロー!」

「ルガァッ」

 

 電光の迅さで凶暴な爪が迫る。カブルーは辛うじて身を捻ったが、躱しきれず右脚に深い傷を負った。

 

 堪らず膝をつくカブルーを見て、勝ち誇った高笑いがあがる。

 

「ふふん。さあどうするの坊や。

 まだ悪あがきするつもり?」

「…………そーっすね」

 

 ぱち、と指を鳴らす。

 カブルーの上体がぐっと屈んだ。

 

 もう一度、ぱち、と鳴らす。

 無事な方の左脚に力が籠った。

 

「まだ勝負は、ついてないっすから」

 

 ぱちん! と指を弾くと。

 カブルーの背から水流が勢いよく噴き出し、凄まじい速度で狼に肉薄した! アクアジェットによる奇襲攻撃、痛くないとは言わせない! 

 

 ところが敵も然る者、慌てず騒がず指示を下した。

 

「甘い! カウンターで迎え撃て!」

 

 ルガルガンの右手が拳を握りしめる。

 地面すれすれに疾走(はし)るカブルーを上から殴りつける気満々だ。

 

 残念だったな。

 

「甘いのはそっちだ!」

 

 ぶつかる直前、カブルーは地面に刃を突き立て急制動を掛けた。ルガルガンの拳は間を外され、何も無い空を殴りつける。ガラ空きの胴体へ、アクロバティックな体勢のまま再びアクアブレイクをお見舞した! 

 

 今度は避けられることなくモロに直撃し、ルガルガンが地に()せる。

 

「そ、そんな…………っ!?」

「ふいー」

 

 額に滲む汗を拭う。

 上手くいってよかった。

 カブルーを労い、彼女を見やる。

 

 ちっと手荒い方法だったが、先に仕掛けたのはそっちだし、まあおあいこってことで。

 

 女性トレーナーは驚愕にわなないていたが、俺と視線がぶつかった途端、きっと眦を厳しくした。

 

「────そう。アンタに手加減は無用ってことね」

「えっ」

 

 まって、まだやんの? 

 ここからお話し合いするんじゃねえの? 

 狼狽える俺の視界に赤いものが掠める。なんとか起き上がり、トレーナーのそばに侍ったルガルガンの影だった。

 

「もう容赦しない。全身全霊で叩き潰すわ」

 

 言うや、両腕を交差し、舞いのような動きを見せる。

 立膝をつき、腰をひねり、両肘をぐっと曲げた時、ルガルガンに異常なほどのパワーが宿るのがわかった。

 

「は、えっ、えっ!?」

「喰らいなさい、祖先より代々伝わる(いわお)の力…………!」

 

 相手の目が、くわっと見開かれた。

 

「ワールズエンドフォールッ!!」

 

 大いなる気迫に合わせ、ルガルガンが天に吼える。つられて見上げた俺は絶句した。

 いつの間にか、巨大な岩石が空中に出現し、今にも落ちなんとしていたからだ。

 

 

「ウソだろぉぉおおおお!?」

 

 

ずどごぉおおおおおんんんんん! 

 

 

 俺の悲鳴は、巨大岩石の衝撃音に掻き消され、誰の耳にも入らなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「はあ…………はぁ……はあ…………」

 

 肩で息をしていた女──ライチは、不意に現れた気配に振り向いた。

 

「誰っ!?」

 

 よもやあの大技から逃げ遂せたかと戦慄したのも束の間、木陰からのっそり出てきた人影の正体に気づいて目を丸くする。

 

「あなたは、ウラウラの……!」

「…………」

 

 姿を見せたのは先ほどまで戦っていた青年ではなく、隣の島のキャプテン・ウキビだった。

 

 彼は何を言うでもなく、ライチをじっと見返した。

 気まずい沈黙が辺りに満ちる。

 何か言おうとライチが口を開きかけたとき、ウキビがようやく言葉を発した。

 

「────先の男。知り合いかね」

「え? い、いいえ。初めて見る顔です」

「初対面の人間にいきなりZ技を使うのかね、君は。随分乱暴な話だな」

 

 ウキビの口調に詰る色があるのを悟り、ライチは頬を赤く染めた。

 

「お、お言葉ですが! こんな時間にキャプテンの許可もなくジャングルに近寄る人間は、不審者以外の何者でもないでしょう! キャプテン代理として当然のことをしたまでです!」

「…………だとしても、事情ぐらい聞くべきだと思うがね。代理の権限を振りかざして力押しに事を進めるのが君の正義か?」

「う…………」

 

 正義感の強いライチにとって、これは痛い台詞だった。

 おもわず押し黙る。

 

「言い訳の前に、己の正当性を省みることだな。

 それで? 件の人物はどこだ?」

「え、と、直撃はしていないはずですが…………」

 

 すっかり逆上していたとはいえ、トレーナーに当てないだけの分別は残っていた。衝撃で失神くらいはしているかもしれないが、命に別状はないはずである。

 

 散乱する岩片を見やっていたウキビが、ある一点を見つけて眉をぴくりとさせた。

 

「あれを見たまえ」

 

 指さす方に目を移し、ライチも気づく。

 

 岩と岩の隙間に隠れるようにして、地面に穴が空いていた。ワールズエンドフォールで出来た穴では無い。

 例えるなら、鋭い爪か鎌を持った生き物が掘ったような(うろ)であった。

 

「穴を掘って逃げたの…………!?」

 

 あの一瞬でそんなことをしてのけるとは、トレーナーもポケモンも、相当の手練である証左だ。

 

「あいつ、何者────?」

 

 眉を顰めるライチに、ウキビが言った。

 

「私はあの男に用があった。だが君のせいで行方知れずだ。済まないと思うなら、居所を突き止めて私に知らせろ。暫くハノハリゾートに泊まっている」

「は、え、ちょっと!?」

 

 言うだけ言って、ウキビは振り返りもせず去っていった。

 

「なんなのよ、一体」

 

 ライチが毒づく。

 しかし無論、それに応える声はなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 シェードジャングルの北側を細々と走る道がある。

 絶壁と森に挟まれた8番道路である。

 

 その端に、突然土が盛り上がり、1人と1体が姿を現した。泥や傷で満身創痍のアシタバとカブルーであった。

 

 命からがらなんとか逃げた2人だったが、もはや疲労困憊し、指一本も動かせない。

 瞼を閉じ、地べたに横たわるアシタバに、軽快な足取りで近づく人物がいた。

 

「おやおや? おーやおや。これはなんとしたことでしょうねえ。観光地に泥まみれの青年とは。いかにも()()()()の御仁のようだ」

 

 声音には、どこか含み笑うような、面白がるような気色があった。

 

 男である。

 この南国に白衣を羽織り、汗ひとつかいていない。

 

 特徴的なひと房の青い髪を指先で弄びながら、アシタバの顔をしげしげと覗き込んだ。

 

「うーん。見た目はどこにでもいる冴えない学生のようですがねえ」

 

 そこへ、別の声が加わる。

 少女のように可憐だが、凛とした響きのある声だった。

 

『待て。そいつには覚えがある』

「おや、お知り合いで?」

『数ヶ月前に一度会っただけだ』

「ふぅん? ずっと洞窟の奥深くで過ごしていた貴女と出逢うとは、中々興味深い素体だ。俄然興味が湧きましたよ。彼の口から物語って貰うとしましょう。オーベム!」

 

 ボールから呼び出したオーベムにサイコキネシスを使わせ、アシタバとカブルーを持ち上げると、悠々とした足取りで現場を後にした。

 

(今の声…………どこかで…………?)

 

 意識を失う直前、アシタバは茫洋と考えていた。

 

 懐かしい声だ。

 あれは、誰の声だったっけ。

 

 思い出そうにも思考は意味のある形を成さず、ベッドに寝かされた瞬間ぷつりと途切れた。

 

 

 

 

 




というわけで13話。
別名出したいキャラ出しちゃう欲爆発回。

思ったより間を空けず投稿できましたが、今後もこのペースで投稿できるかは未定です。
かなりバラつくと思われます。
それでも構わねえという剛の人!
ぜひついてきてくれよな!

さて、ラストのふたりは誰でしょーか。
即バレしそう笑

よければ感想高評価おなしゃす!
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