ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第16話 脱法シェードジャングル。

 

 

 

 

 さすがアローラの太陽は強烈で、昇ったばかりの朝陽を浴びせたらたった1時間で洗濯物が乾いてしまった。

 

 暑さに疲れはじめたアマルス(ゴーシェナイト)をスノウボールに戻し、全員でアクロマさんのモーテルに戻る。

 当の本人はぱりっとした白衣に袖を通し、パソコンを叩いていた。

 

『戻ったぞ』

「おや、お早いお戻りで。……ははあ、泥を落としてみればなかなか好青年ではありませんか」

 

 俺の周囲をまわりながら容赦のない視線を注いでくる。

 俺はドギマギしながらリネンを差し出した。

 

「ど、どうも。あの、これ洗濯してきました。

 ベッドに掛けてもいいですか?」

「お願いします」

 

 快諾され、シーツを広げる。もう1人手伝いが欲しいところだったが、カブトプス(カブルー)は両手が鎌だし、ゴーシェとヌメラ(メルティ)は手がない。ルギア(レヴィアタン)に変身させるわけにもいかないので、必然1人でこなさねばならなかった。

 

 こんな時にサーフゴー(フーゴ)が居れば楽なんだが、あいつホントどこ行ったんだ。

 

 何とか終わらせると、コーヒーのいい香りが漂ってくる。アクロマさんが鼻歌交じりに淹れていた。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 使い込まれたマグカップを受け取る。コーヒーにはバターが落としてあって、普通のものより格段に濃厚だった。

 

「うま」

「私の仕事には欠かせない飲み物ですよ」

「仕事……っていうと、なんかの研究員さんとかですか」

「ええ。科学者の端くれですよ。よく分かりましたね」

 

 アクロマさんが目を丸くする。白衣姿を見た時からもしかしてと思っていたが、予想が的中した。

 

 読者諸君のなかには、「白衣なら医者だって着るだろう」と思った人もいるかもしれない。なぜ俺がわかったかと言えば、彼の目つきや言動がゼミの教授によく似ていたからだ。

 

 とくに、己の興味関心をとことん突き詰める性格が如実に現れているところなんかは、瓜二つと言っても過言じゃない。いっそ親戚とか兄弟と言ってもらった方が納得できるレベルである。

 

「なんの研究をしてらっしゃるんですか」

「ふむ。ひと口で言うのは骨が折れますが、そうですねぇ。いうなれば、"限界の超越"というところでしょうか」

 

 アクロマさんの目がキラリと光った。

 

「ポケモンは実に面白い生命体です。人間より遥かに小さな個体でも、万物を焦がす灼熱の炎を吐いたり即死するような毒を宿すことが出来る。それらは鍛えれば鍛えた分だけ強くなりますが、いずれ限界を迎えてしまいます。

 けれどねアシタバさん。壁があれば超えたくなるのが人情というもの。古往今来、限界を突破する手段が世界中で模索・研究されてきました。

 このアローラとて例外ではありません。

 Z技という言葉に聞き覚えは?」

「いえ、初めて聞きました」

 

 素直に頭を振る。

 ダイマックスならガラルで見てきたが、《ぜっとわざ》というのは初耳だ。

 

「なんでも、()()を使う時には特別なアイテムを身につけ、不可思議な舞を踊るそうです。

 そうして繰り出される技は、実に素晴らしく恐ろしいパワーを秘めているのだそうですよ。

 いいですねえロマンですねえ! 私はそれをこの目で見たくてアローラまで来たのです!」

「…………んぉ?」

 

 思わず声が出た。

 思い当たる節があったからだ。

 

 昨日の夜、俺と対峙したルガルガン遣いの女性は、見たこともない踊りのあと、聞いたこともない技名を叫び、常識外れの巨岩を落として俺を半死半生の目に遭わせた。

 

 ただの岩落としや岩石封じとは次元が違う、もはや隕石と言って差し支えない威力。命があったのが奇跡である。

 

 あれぞまさしく、限界を超越した技といえるだろう。

 

「ワールズエンドフォール……だっけか」

 

 口の中で呟き、片手を上げた。

 

「すんません。それ、たぶん見ました。

 ってか喰らいました」

「ほほう!」

 

 アクロマさんの瞳がいよいよ輝き出した。

 

「それは貴重な体験でしたね! いかがでした?」

「死ぬかと思いました」

 

 いやまじで。ほんとうに。誇張なく。

 穴掘って逃げてなけりゃ今ごろミンチだったろう。

 

 ────だけど、あの技を俺とカブルーが撃てるようになったら、この先どんな敵も怖くなくなるんじゃなかろうか。それこそ、ロケット団を壊滅させることだって出来るかもしれない。

 

「…………Z技、でしたっけ。

 俺にも使えるんでしょうか?」

「無論です」

 

 科学者があっさり頷く。

 

「そもそもアローラの島めぐりとは、キングやキャプテンたちからZ技を継承する儀式のことなんです。

 あなたも島めぐりに参加し、彼らの眼鏡にかなえば教えて貰えるでしょう」

「なる、ほど?」

 

 そのキャプテン代理に瀕死になるまでボコられたんですが、こんな俺でも認めてもらえるんでしょうか。

 アクロマさんに言っても詮無いことなので黙っておく。

 

 ふと、クチート(ヘリオドール)から聞いた話を思い出した。

 

「別件なんですが、この島のキングとキャプテンが毒を盛られたって噂を聞きましたけど、本当ですか?」

「ああ、その件なら私も小耳に挟んでいますよ」

 

 そう言って、アクロマさんは自分が知ってる情報を惜しみなく聞かせてくれた。

 

 ────話を纏めるとこうだ。

 

 曰く、アーカラ島のキングとキャプテンは長年連れ添った老夫婦であり、キャプテンが岩タイプ遣いなのに対し、キングは鳥ポケモンのエキスパートだという。

 2人で仲睦まじくこの島の治安を担っていたが、ある日突然相次いで病に倒れ、今でもベッドから起き上がれずにいるそうな。

 孫娘が懸命に看病しているそうだが、症状は一向に良くならないらしい。

 

「それが病ではなくて、正体不明の毒の影響ではないかと噂になっているようです。真偽のほどは分かりませんが、それがなにか?」

「ウラウラにも、毒にやられたやつがいるんです」

 

 今度はこちらがライチュウの件とヘリオドールの見解を手短に話す。

 アクロマさんは終始興味深そうに耳を傾けていた。

 

「ふむふむ。で、貴方はそのライチュウを助けるためにシェードジャングルまで来たと。なら、あまり時間を浪費してはいけませんね。早速向かうべきです」

「いや、ただ、例のキャプテン代理って(ひと)にまた見つかったらめちゃくちゃ面倒くさそうだなって」

「であれば、見つからないように忍び込むほかないでしょうねえ。この8番道路はジャングルの真北を走っています。南に下れば入れますよ」

「それって不法侵入では?」

 

 指摘すると、アクロマさんは目をぱちぱちさせ、いきなり噴き出した。

 

 

「あっはっは。何を言うかと思えば。

 いいですかアシタバくん。法律と常識はね、破るためにあるんですよ」

 

 

 絶対違うと思う。

 そうツッコミたかったが、得体の知れない圧に、同意することしかできなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 1時間後。

 

「いでっ、いててっ」

 

 脛どころか腰まで覆いそうな下生えを必死に掻き分け、あちこちに擦り傷をこさえながら、俺は何とかシェードジャングルの端っこに辿り着いていた。

 

 陽は天高く昇っているというのに、あまりに木々が密に茂っているせいで薄暗い。夜ともなれば、己の手すら覚束無くなるだろう。噎せ返るような草の匂いを嗅ぎながら、滝のように流れる汗を拭った。

 

 ちなみにヘリオドールは来なかった。ゴーシェほどではないが、彼女もこの暑さには辟易していると見える。

 

「なあ、重いんですけど」

 

 頭の上に陣取るレヴィに文句を垂れる。

 この鳥、伝説の雛のくせして滅多に飛ぼうとしないのだ。いつだって人様の頭を止まり木扱いしやがる。

 

 ちったぁ遠慮してくれませんかね。

 お前最近重いんだよ。

 

「どこにあんだ、スーパーラムの実ってやつは」

 

 マリエシティのジョーイさんから採ってきてくれと懇願された果実は、ジャングルの(ヌシ)だけが食べることを許されるという。大層甘美な味わいで、どんな病も立ちどころに治すんだそうだ。

 

 だが最悪なことに、実の外見が分からない。

 ジョーイさんも詳しくは知らないらしかった。

 

 スーパーと銘打つくらいだから普通のラムの実とは違うんだろうが…………。

 せめて色くらい調べてくるんだったな。やっちまった。

 

「いっそヌシが現れて教えてくれないもんかねえ」

 

 愚痴まじりに呟いた、その時だった。

 

 頭上の枝が大きく揺れ、耳をつんざくような絶叫が大気を揺るがした。

 

「なァっ!?」

 

 咄嗟に両耳を庇い、左に飛ぶ。

 理由は無い。勘である。

 だがその反応は正しかった。今の今まで立っていたところに、何かが凄まじい勢いで叩きつけられたのだ。

 

 見れば、楕円形の硬い木の実だった。当たりどころが悪ければ死んでもおかしくない代物である。

 ぞっとしながら慌ててカブルーを呼び出した。

 

「誰だ!」

「げるるぁっ!」

 

 誰何の声に返ってきたのはまた木の実だった。

 しかも今度は一気に4つ。

 カブルーが全て斬って捨てると、樹上に緊張感が走ったのがわかった。

 

「クキキ──ッ」

 

 喚きながら、影がいくつも落ちてくる。

 木の実を小脇に抱えた猿────ナゲツケサルの群れだった。その数、およそ10頭。

 

「多勢に無勢かよくそったれ! レヴィ、吹き飛ばせ!」

「げるるるるるる!」

 

 指示に応え、レヴィがモクローの短い翼をばたつかせる。生まれた颶風にナゲツケサルが2頭、遥か彼方に吹っ飛んでいった。

 

「カブルー!」

 

 次いで、カブルーが先頭のサルに肉薄する。手の中の木の実を斬り落とし、頸に峰打ちを喰らわせて昏倒させた。

 

 7頭のナゲツケサルたちが顔色を変える。

 なまなかな獲物ではないと悟ったらしい。

 陣形を変え、俺たちを包囲した。

 

(メルティも出すか……? いや、下生えに邪魔されて何も出来ねえな)

 

 ゴーシェはこの茹だるような暑さじゃ活躍する前にやられちまう。つくづくフーゴが居ないのが痛い。

 

 じりじりと狭まる包囲網に舌打ちした、次の瞬間。

 

 ナゲツケサル達が俺たちの後ろに目を留め、一斉に跪いた。そのまま石像のようにビクともしない。

 

「な、なんだ?」

 

 呆気に取られた俺が振り向くと、数メートル離れたところに見知らぬポケモンが立っていた。

 

 しかも、2体も。

 

 1体は厳しい面構えの熊だった。

 リングマよりもツンベアーよりも数倍デカい。

 額に満月のような痣が浮いていて、筋骨逞しい巨体に、鋭く曲がった鉤爪が恐ろしい。

 俺たちを睥睨する隻眼には、冷酷な光が灯っていた。

 迂闊に動けば八つ裂きにしてやると、その眼差しが告げている。

 

 もう1体は、四足歩行する熊の背中にちょこんと乗っかって俺たちを見つめていた。

 

 半纏を羽織ったようなボディ。

 猫耳のような一対の角。

 手にした棍棒は長く太く、凶悪なトゲまでついている。

 しかし得物に反して、顔つきは可憐そのものだった。

 

 熊とは違い、思わず抱きしめたくなるようなキュートな姿をしているが、サルたちの反応を見ればわかる。

 

 熊じゃない。

 こいつこそが、このジャングルの王なのだ。

 

 

「ぽにっ♡」

 

 

 王は、愛らしい声で微笑んだ。

 

 

 

 

 

 




というわけで16話。

アクロマさんがUSUMで出てきた理由が知りたくて捏造してみました。
本作での彼は研究のためにあちこち旅しているという設定です。まだゲーチスと出会う前なので毒っけは少なめ。

そしてジャングルの王and従者の登場です。
モモがいるならこっちもいねえとなあ!?

果たしてこの鬼さm……王さまはスーパーラムの実をくれるでしょうか。

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