3ヶ月ぶりにキキョウシティに戻った俺は、ポケモンセンターの前でばったり教授に出くわした。
「おや、アシタバくん」
「教授! お久しぶりです」
「はい、お久しぶりです」
相変わらず造りもののように美しい相貌が絵に描いたような笑みを浮かべる。
「これからどちらへ?」
「学校へ行きます。ゼミに顔出したくて」
「なるほど。ですが、学校に行くには少々格好がお転婆すぎますねえ」
言われて、はたと己の汚さに気づいた。
1ヶ月組手したり海底の神殿に潜ったり、なかなかハードな道のりだったもんなあ。
そら服も靴もボロボロになるわ。
というわけで、挨拶もそこそこに適当な量販店に駆けこみ、全身のアイテムを買い替えたあと、ついでにポケモンたちも洗うことにした。
これがまずかった。
久々の水浴びに、手持ちたちのテンションがハイな方に振り切ってしまったのだ。
ヤミカラスに変身した
「服買ったばっかなんですけど!」
そんな叱責もまるで聞こえちゃいねえ。
ちなみに
まあ後で乾かしゃいいかと好きにさせていると、呆れ顔のレホール先輩がやってきた。
「風邪をひきたいのか貴様は」
「いやあ、はは」
「まったく」
腕組みをする先輩は前と変わらず美しい。
ルギアの姿が見えないと不思議がっていたので、
ついでに他のメンバーも紹介する。
「ゴーシェは前に紹介しましたよね?
こっちのもちもちヌメヌメしたのがメルティで、こっちのよう喋るのがフーゴです」
「ぬめえ」
メルティがぶっきらぼうに挨拶する。
同性相手には無愛想になるのが悪い癖だ。
さて"道化のフーゴ"は何を語るのかと見ていると、なんだかもじもじしている。頬と思しき位置がほんのり赤い。
まずい、マジで風邪引かせたか?
俺は慌ててフーゴの額に掌を当てた。
「どした? 熱でも出たか?」
『ンと……そノ……』
蚊の鳴くような声でなんかボソボソ言っている。
口元に耳を寄せた。
「あンだって?」
『あのネ……フーゴね……』
「おん」
『こんな美人さン……見たことなくテ……』
「おん?」
『照れちゃっテ……お喋りできなイ……♡』
俺は無言で頭をはたいた。
『いたぁイ! 何するのォ!』
「やかましい!
毎日毎晩人の迷惑も考えずトークショーしまくるくせにこういう時だけ縮こまってんじゃねえや!」
こっちがどんだけ眠くても喋り倒してる分際でっ!
なあぁにが『照れちゃウ♡』だハートつけんな馬鹿!
ぎゃーすか喧嘩していると、構って貰えなくて拗ねたメルティが体液を見境なく飛ばしはじめた。
ああっやめろっ洗っても落ちないんだぞお前のは!
どろどろが当たったゴーシェが怒りながら凍える風を吹き散らかす。濡れた肌がみるみる凍りつき始めた、ってやめなさいよアンタ死んじゃうでしょうが!
お祭り好きなレヴィとフーゴもわけもなく技をぶっぱなす。大風が吹き、コインが飛んだ。
慌ててカブルーが仲裁に入るも時すでに遅く、川岸はてんやわんやの大騒ぎである。レホール先輩は溜め息をつき、ネオラントを呼び出した。
「ネオ。ハイドロポンプだ」
ネオラントは可愛らしく鳴いて、凄まじい水大砲を噴射し、俺たちをことごとく川中に叩きこんだ。
「頭が冷えたものから上がってこい」
「はい」
「ぎしゅ」
「りう」
「げる」
「ぬめ」
『ラジャー』
俺たちは神妙な面持ちできびきびと川から上がった。
「おや、仲良くご帰還ですか」
本の塔の彼方で教授がにこやかに言い、俺はネイティよりも感情の死んだ目で曖昧に頷いた。
「へあ」
「なんですその気の抜けた返事は」
「いやだってもう……なんすかこの魔窟は」
教授はきょとんと瞬いた。
「今朝方レホールさんが片付けてくれてましたよ?
結構マシなほうでしょう?」
「…………」
俺は絶句した。
研究室のそこいらじゅうに本の塔を積み上げ、即席の迷路が出来ている状況で「結構マシ」てのはどこをどう見りゃ出てくる台詞なんだ。
このあと片付けを命じられることが(ほぼ)確定している人間にとっては尚更不可解な謎である。
俺は言いたいことをぐ…………っと堪えながらえっちらおっちら迷路を踏破し、教授の元に辿り着いた。ちなみに3回行き止まりにぶつかった。なんでや。
教授は椅子にゆったりと腰掛けながら俺を見上げた。
「いただいたレポート、読みましたよ。
資料も調査も考察も圧倒的に足りていませんが、まあその話は置いときましょう。
それで? 旅半ばでわざわざ戻ってきたのはどういうわけです? もう終わりにするおつもりですか?」
問われ、俺は背筋を伸ばした。
この人は優男風の見た目にそぐわず、他人にはえらく厳しい。特に、彼の専門について話す時は、地雷原を歩くような緊張を強いられるのだ。
彼は古代神話の究明に心血を捧げている。教授にとって神話とはただの研究対象ではなく、己の矜恃そのものなのだ。だから迂闊に触れられたくないし、粗略な研究者には怒りを露わにする。
しかし逆を言えば、教授の眼鏡に適いさえすれば、俺の謎を解く心強い協力者になってくれる可能性があるのだ。
俺は深呼吸をし、鼓動が落ち着くのを待ってから慎重に切り出した。
「アルセウスに逢う方法を、ご存知ないでしょうか」
「…………ほう?」
教授の目がすうっと細くなる。
部屋の温度が数度、下がった気がした。
■カブトプス
愛称カブルー。慎重な性格。みんなのお兄ちゃん。主人公が5歳の頃からの相棒。
■ルギア
愛称レヴィアタン。図太い性格。食いしん坊の雛。とんでもないパワーを秘めている。唐揚げが好き。
■アマルス
愛称ゴーシェナイト。勇敢な性格。色違い。賢いが意外に喧嘩早い。音楽好き。カブルーを尊敬している。
■ヌメラ
愛称メルティ。生意気な性格。嫉妬深い。紅一点。主人公が好きすぎる。時々愛が重い(主人公談)
■サーフゴー
愛称フーゴ。陽気な性格。自称"道化のフーゴ"。よく喋りよく踊る。いつから生きているのか不明。
というわけで2話。
アシタバくんは果たして地雷を踏むことなく情報を引き出せるのか。
そもそももう踏んでるんじゃないのか。
前作読んでない方や読んだけど忘れちまったよって方のために情報を整理しつつ書いていますので、ちょっとまったりに感じるやもしれません。
少しずつ話のギアを上げていきますのでどうぞお付き合いくださいまし。
よければ感想高評価おなしゃす!