ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第20話 キングとキャプテンと孫と代理。

 

 

 

 

 アーカラ島最大の港を有するカンタイシティは、南北に長いアーカラの物流を担う重要都市であり、真東にあるハノハリゾートの賑わいを支えている。

 カンタイに来る人々はそのほとんどがリゾート目当てだから、港に着いた時にはすでに財布の紐が緩い。

 それを見越して、街の中心を観光道路が貫いており、左右にびっちりと観光客向けの割高な露店が立ち並んでいる。天気が崩れることは滅多にないから、この日も多くの客でごった返していた。

 

 正体不明の毒だか病に倒れたキングとキャプテンは老夫婦で、港近くの自宅で静養中らしい。彼らにぜひ、万病を癒すスーパーラムの実を届けたいのだが…………

 

 くるりと振り向く。

 熊に乗ったジャングルの王が、愛くるしい笑みを浮かべた。

 

「ぽに♪」

「ぽに、じゃないンだよなぁ」

 

 俺は小さく溜息をついた。

 

 アカン。

 こやつら、全っ然帰らねえ。

 

 一体俺の何がそんなに琴線に触れたのやら、何度宥めすかしても頑なにジャングルに戻ろうとしないのだ。

 放っておけば、このままどこまでもついてくるだろう。

 かといって、観光地のド真ん中に、恐ろしげな熊を連れて行けるはずもない。せめてキングたちに話を聞いているときぐらいは郊外に居てもらいたいのだが、それが通じるかはかなり怪しかった。

 

「捕まえるっきゃないのか……?」

 

 2体とも俺に逆らう気はなさそうだから、よもや抵抗はされないだろうが後が怖い。

 正直、ヌメラ(メルティ)と王が仲良くなれる光景が微塵も想像できないのだ。

 嫉妬深く執着心の強いメルティが仲間になったばかりのとき、仲間全員に威嚇したせいで、あわやパーティが崩壊しかけた。俺にベタ惚れ(していると思われる)王が加入したら、比喩でなく血が流れるだろう。

 

 王を滅多打ちにしたブチ切れ状態のメルティは、ぶっちゃけめちゃくちゃ怖かった。

 あれを制御できる自信は正直、ない。

 

「いちど捕まえて森に還すか……?

 いやそれじゃ騙し討ちだよな」

「────あの」

カブトプス(カブルー)に見張りを頼むか。サーフゴー(フーゴ)も一緒なら王さまたちも置いてかれたって暴れたりしないだろ……」

「──あの」

「いや、そもそもこいつら派手だから野次馬が集まっちまうか。あーもう」

 

「あの!」

「おぁ!」

 

 至近距離から大声で呼ばわれ、俺は心底驚いた。

 一体いつからそこに居たのか、少女がじいっと俺を見上げている。

 

 艶のある薄水色の髪と夏の青空のような瞳をもつ、非の打ち所のない美少女であった。

 歳の頃は7、8歳といったところか。

 子供用のサンバイザーを被り、スポーティな服に身を包んでいた。

 

「あの、さきほどから見ていましたけど、こちらのポケモンさん達はシェードジャングルのヌシ様ですよね?」

「あ、ああ、そうだよ」

「なぜこちらに? あなたが捕獲なさったのですか?」

「捕獲……してるっちゃしてるし、してないっちゃしてないっていうか……」

「どういうことですの?」

 

 少女の目つきが険しくなる。

 

「あー……っと。にわかには信じられないかもしれんが、なんでかヌシ様に気に入られちまってさ。ジャングルからずっとついてくるんだ」

「気に入られて……?」

「ぽにお」

 

 王が俺の足元に来て、ぎゅっと抱きついてきた。

 少女は、零れ落ちるんじゃないかってくらい目をまん丸にしてから、「──なるほど」と頷いた。

 

「たしかに、ヌシ様はあなたに心を許していらっしゃるようですね。それで、ここで何をしていらしたのです?」

「それがさ。この島のキングとキャプテンが病気で苦しんでるっていうから、スーパーラムの実を届けようかと思ってて」

 

 瞬間、少女の顔色がさっと変わった。

 俺の手を激しく握りしめてくる。

 驚くほど強い力だった。

 

「あの実をお持ちなのですか!?」

「え、あ、ああ」

 

 懐から金色の果実を取り出して見せると、少女は涙を浮かべて吐息した。

 

「よかった…………!

 これでお祖父様とお祖母様が助かります……!」

「──って、それじゃ君は」

「はい」

 

 目尻を拭い、少女がきっぱりと頷いた。

 

「申し遅れました、わたくしはカヒリ。

 この島のキング・アルバの孫ですわ」

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 カヒリの案内のおかげで、俺たちは人目につくことなくキングの家に行くことができた。

 こぢんまりとした平屋作りで、とても熊は入れられないから庭で待っていてもらうことにする。

 

 昼日中だというのに、すべての部屋のカーテンが閉められていた。カヒリが沈痛な面持ちで語る。

 

「倒れられてから、お祖父様たちは太陽の光が苦手になってしまって……すこし日が差しただけでも酷く苦しまれるのです」

 

 中に入ると、淀んだ空気と消毒薬の匂いが立ちこめていた。病者特有の、ぜいぜいという痛々しい喘鳴が聞こえる方に足を向ける。

 

 キングのアルバさんと妻のマリガンさんは、2人ともぐったりした様子でベッドに身を横たえていた。

 顔には血の気がなく、頬も痩せこけている。

 目の下のクマが酷い。枕元にあった写真と比べると、十も二十も老けて見えた。

 

 二、三度呼びかけたが、反応はない。

 

 クチート(ヘリオドール)が小声で囁いてきた。

 

『アシタバ、これを見ろ』

「…………!」

 

 ヘリオドールが示したのは、夫婦の首筋に浮かぶ1つの模様だった。

 黒い桃のような特徴的な痣が、ぽつりと浮かんでいる。

 彼らだけを見たならば、お揃いのタトゥーを入れていると思ったかもしれない。だがこの紋様はウラウラ島で入院中のライチュウにも刻まれていた。

 

 とくれば、毒にしろ、なにかのウイルスにしろ、両者とも同じものに蝕まれていることが確定したわけだ。

 

「カヒリちゃん、果物ナイフあるかい?」

「こちらに」

 

 小ぶりなナイフを握り、スーパーラムの実を切り分けた。この果実は皮だけでなく実も黄金色に輝いていて、暗い部屋を照らさんばかりに眩かった。

 

「フーゴ、アルバさんを起こしてあげてくれ」

『アイサー』

 

 誤嚥を防ぐため、アルバさんの半身を支えてもらい、カサカサに乾いた唇にラムの実のかけらを押し当てる。ごく小さく切ったおかげで、衰弱しきったアルバさんでも飲み込めた。

 

 口元が小さく動く。ありったけの力を振り絞って咀嚼しているらしい。ごく、と喉仏が上下した途端、アルバさんの眼がカッと見開かれた。

 

「おじいさま!」

 

 カヒリが悲鳴に似た声を上げる。

 枕元に駆け寄り、涙ながらに呼びかけた。

 

「おじいさま、わたくしが分かりまして?

 あなたの孫のカヒリですわ!」

「か……ひ、り……か」

 

 アルバさんは懸命に首をめぐらせ、孫娘を視界に収めると、目元を綻ばせた。

 

「かひり、や……」

「────!」

 

 カヒリは感極まって泣き出した。こんなに暗い部屋で何日も、いつ良くなるともしれない祖父母の看護をしていたのだ。どんなに不安で、心細かったことだろう。

 

 アルバさんの身体を抱えたまま、フーゴがぱちんとウインクした。

 

『そのフルーツ全部食べさせたらすっかり良くなるからネ! 待っててマドモワゼル!』

「フーゴの言うとおりだ。もうちっとだけ辛抱してくれよな、カヒリちゃん」

 

 喉に詰まらせてしまわないよう、少しずつラムの実を食べさせながら、俺も請け負った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 スーパーラムの実はその名に違わぬ凄い木の実だった。

 1人ひとつ丸々食べきったカヒリちゃんの祖父母はすっかり元気になり、ベッドの上で話ができるほど快復したのだ。カヒリちゃんが大慌てで家中の窓を開け、カーテンを開く。午後3時を回った太陽は存分に輝いており、病室がぱあっと明るくなった。

 

 長い間寝たきりになっていたせいで相当筋力や体力も落ちているだろうに、2人の肌はつやつやして血色もいい。さっきまで死にそうだったとは思えない様子に、俺は改めて驚かされていた。

 

「アシタバさん。ほんとうに、ありがとう」

「あなたにはなんとお礼を申し上げたらいいか」

「ああいえいえ、そんなそんな」

 

 アルバさんとマリガンさんが幾度となく頭を下げるのへ、こちらもオロオロと頭を下げる。

 キングでありキャプテンであるというのに、彼らはちっとも偉ぶる素振りもみせず、心から俺に感謝してくれていた。カヒリちゃんもはらはら落涙しながら深々とお辞儀してくれ、俺はもう、恐縮しきりだった。

 

「ヌシ様にも心より御礼(おんれい)申し上げます」

「ありがとうございます、オーガポン様」

「ぽに!」

 

 オーガポンと呼ばれた王がにこにこ顔で片手をあげる。

 

(オーガポン、っていうのか)

 

 脳内の、ポケモンに関する知識箱を総ざらいしても、やはり聞き覚えがなかった。

 叶うことなら王の特性やタイプについて質問を繰り出したかったが、いまは時間が惜しい。

 さっそく本題を切り出すことにした。

 

「おふたりは、いつ、どこで、どんな風に具合が悪くなったのか、覚えておいでですか?」

 

 すぐに明瞭な答えが返ってきた。

 

「ええ。あれは、2週間前のことになります」

「趣味のゴルフに興じておりましたら、とつぜん、見知らぬポケモンがやってきましてな」

「桃をひっくり返したような殻の中から幼子のような生き物が飛び出してきたと思ったら、我々に紫色の餅のようなものをしきりに勧めるのですよ」

「ももわい、ももわい、と懸命に鳴く姿が哀れを誘いましてなあ、わしと婆さんとで食べたのです」

「そうしましたら忽ち具合が悪くなりまして……それきり起き上がれもせぬ日々が続きましたの」

 

 餅のようなもの。

 おそらく、ライチュウも同じものを食べたに違いない。

 トレーナーを失い、追いかけ回される日々だったライチュウにとって、おなじポケモンから差し出される食べものは何よりも有難かったろう。

 しかしそれは、毒の塊だったわけだ。

 

「もしやタチの悪い伝染性でもあるまいかと思い、誰も近づけさせるなと言い置いたのですが、孫娘だけは言うことを聞きませんでなあ」

「でも、あなたの看病のおかげで持ち堪えることができました。ありがとうね、カヒリ」

「とんでもないわ、おばあさま」

 

 カヒリちゃんが含羞む。

 そうして微笑んでいると、じつに歳相応の少女に見えた。言葉遣いや品のいい振る舞いが、ジョウトで出会ったツツジを思い出す。

 

 久しぶりに電話でもしようかと思いながら席を立った。

 聞きたいことは聞けた。

 スーパーラムの実がこの毒に効くこともわかった。

 ならば一刻も早く、ライチュウに食べさせてやりたい。

 

「長い間お邪魔しました。そろそろお暇します」

 

 礼を述べると、3人は驚きに目を瞠った。

 

「あら、もう?」

「近くのレストランから食事を運ばせます。どうか夕飯だけでも食べていってくださらんか」

「カヒリからもお願いします、アシタバさま」

 

 夕飯、の単語に頭上のルギア(レヴィアタン)が反応しかけたが、慌てて制する。やめろこの食いしん坊め。今こうしている間にもライチュウが苦しんでるんだぞ。

 

「せっかくのお誘いですが、どうしても外せない用事がありまして…………」

「────そうですか。それではせめて、こちらを」

 

 そういうと、アルバさんが俺の手に美しい結晶を握らせた。カヒリの髪と同じ色の石の中に、翼のような紋様が浮かんでいる。

 

「飛行タイプのZクリスタルですじゃ。これをZリングに嵌めることでZ技が放てます」

「それなら、わたくしも」

 

 マリガンさんからは雄々しい土色をした結晶をプレゼントされた。

 

「岩タイプのZクリスタルですわ。

 あなたならば使いこなせましょう。

 ポーズは私の弟子が知っています。

 カヒリ、わたくしのポケギアを持ってきてくださる?」

「はい!」

 

 カヒリがポケギアを手渡すと、マリガンさんはどこへやら電話をかけ始めた。

 すると、この家のすぐ側で呼出音が聞こえてきた。

 

「あら、ちょうど近くにいらしたのね。ねえライチさん、ご足労をおかけして申し訳ないけれど、我が家においで頂けないかしら? わたくしたちの恩人に、岩のZポーズを教えてあげてほしいのよ」

 

 待つほどのこともなく、玄関の扉が開かれる。

 入ってきた人物を見て、俺は顎が外れそうなくらい驚いた。

 

「あんたは……!」

 

 そこに居たのは、昨日ジャングルの入口で俺を完膚なきまでに叩きのめした女性だった。

 

「────こんにち、は?」

 

 女性──ライチは、気まずげに挨拶した。

 

 

 

 


 

 ■カヒリ──未来の四天王。鳥ポケが好き。既にゴルフの才能が目覚めつつある。美少女。

 

 ■アルバ──カヒリの祖父。アーカラ島のキング。鳥使い。名前はゴルフ用語のアルバトロスから。

 

 ■マリガン──カヒリの祖母。アーカラ島のキャプテン。岩使い。名前はゴルフにおいて必ず最初の一打を失敗することで有名だった貴族・マリガンから。

 

 ■ライチ──マリガンの弟子。美人だがそそっかしい。アシタバのことが色んな意味で気になっている。

 

 




というわけで20話。
主人公、ひょんなことから鬼さまの名前を知り、ちゃっかりZクリスタルを2つもゲットします。

ストーカーもといアシタバを監視していたライチさんは、はたしてアシタバに教えてあげるんでしょうか。

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