ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

22 / 100
第22話 それぞれの思惑。

 

 

 

 

 深夜。

 マリエシティのポケモンセンター。

 誰もが寝静まり、非常灯だけが点灯している宿泊エリアの角部屋に、蠢く影があった。

 

 影は自らボールの外に出、主人(あるじ)の寝息を伺い、深い眠りにいるのを確かめてからそうっと部屋を後にした。

 なるべく足音を立てないよう気をつけていても、硬い岩殻で出来た脚はどうしても硬質な響きを立ててしまう。

 それでもなんとか見つかることなく、非常口から外に滑りでて満天の星を見上げた影は、ほうとひと息ついた。

 

「…………」

 

 吹き渡る夜風が心地いい。

 寄せては返す漣だけが夜の静寂(しじま)に彩りを添えている。

 そこへ、少女の声が加わった。

 

「眠れないのか、カブルー殿」

 

 影──カブトプス(カブルー)が首を巡らせると、クチート(ヘリオドール)が木蔭からひょこりと現れた。

 どうやら、一晩中外に居たものらしい。気配には敏感なつもりであったカブルーは、声をかけられるまで彼女の存在に気づかなかった己を恥じつつ、小さく頷いた。

 

 ヘリオドールが傍に来て、小柄な身を座らせる。

 カブルーもそれに倣った。

 

「長い1日だったな」

「…………」

「ガチグマに呼ばれた時は耳を疑ったぞ。ニンゲンと王が争っているから、もしもの時のため、仲裁役を担って欲しいなどと頼まれてな。アシタバがジャングルに入っていることを知らなければ、即座に断っていたところだ」

「…………」

 

 カブルーがいちいち頷く。

 とくに言葉は発さない。元来無口なたちなのだ。

 それに気を悪くした風もなく、むしろ話しやすくて助かるといった様子で、ヘリオドールは話を継いだ。

 

「あの小娘、メルティとかいったか。竜族のわりにお粗末な戦いぶりだったが、いきなり退化したときはさしもの私も驚いた。あれは前にもあったのか?」

 

 カブルーが首を振るう。

 ヌメラ(メルティ)がいきなり進化したのも退化したのも、初めて見る現象だった。

 当人の反応から察するに、元々持っていた能力でもないらしい。

 なぜあんなことが起こったのか、誰よりもメルティ自身が知りたかろう。

 ちなみに彼女は、ルギア(レヴィアタン)に食事を横取りされているのにも気づかないほど呆然としっぱなしだった。

 

「そうか。まあ、いまはいいんだ、そんなこと。

 ────それよりも、だ」

 

 ヘリオドールが振り向く。カブルーを見据える眼差しには、厳しい光が宿っていた。

 

 

「あの阿呆の()()()()()は、なんとかした方がいい」

 

「…………」

 

 

 カブルーが項垂れる。

 まさしく、それを案じていたのだ。

 

 シェードジャングルで別行動を指示されたとき、嫌な予感がした。よもや自分の身を投げ出しはしまいかと。

 だが主人(あるじ)が示す以上の方策も別案も浮かばず、従うほかなかったのである。

 

 予感は的中した。的中してしまった。

 

 双腕を叩き潰され血の海でのたうつ姿を見た時、全身から血の気が引いた。こんな策戦了解するんじゃなかった、激しい後悔と自己嫌悪で頭がいっぱいになった。

 すぐに治そうともがくレヴィを止めながらも、治させてしまえと囁く心で板挟みになり、気が狂いそうだった。

 

 レヴィの力は、呪いだ。

 その呪いで我が主人(あるじ)は不老不死となり、人の理から外れてしまった。

 

 カブルーの見るところ、それに気づいたばかりの主人(あるじ)は大層嘆き、苦しんでいた。

 どうにかしてまともな人間になりたいと四苦八苦していた。この旅もその一環であることを、カブルーはよく承知している。

 

 しかし近頃は、どんな怪我を負っても死なないという特異性を、逆手にとる行動が増えた。

 

 不老不死の肉体を悪用しているのだ。

 濫用といってもいい。

 

 今回の件もそうだ。

 以前の彼ならば、もう少し思慮深く動いた筈である。

 少なくとも、ポケモンの技をその身で受け止めるような愚行は選ばなかったろう。

 ポケモンを愛する一方で、自身を軽んずる気質が、とみに悪化しつつあるのだ。

 

 これ以上の呪いを負えば、どんな作用が働くにせよ、ますます危険な行為に手を染めることは火を見るより明らかである。

 

 行動は癖となり、習慣になり、やがて生き様と化す。

 自分の命を簡単に投げ出す悪癖をこのまま放っておけば、無事もとの身体に戻れたとしても、墓に入る日は遠くあるまい。

 

 カブルーは、それが何より怖かった。

 

 ポケモンとヒトの寿命は違う。

 ずっと共に居れるわけではない。

 それはよく分かっている。

 分かっているから、1日でも長く一緒に居たいのだ。

 

 

 自分が人間だったなら、アシタバを説得できたろうか。

 逆に、アシタバがポケモンだったなら、こんな想いをせずに済んだだろうか。

 

 

 物も言えず俯くカブルーを、ヘリオドールは痛ましげに見つめ、やがてその場を離れた。

 

「…………痴れ者が」

 

 毒づく顔は険しく歪んでいる。

 

 相棒と呼ばわるポケモンがこんなにも苦しんでいるのに眠りこけているあの男が、ひどく憤ろしかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 明けて早朝。

 ポケモンセンターに併設されているカフェのテラス席で、眠い目をこすりながら暑さに弱いアマルス(ゴーシェナイト)のために朝食を準備していると、目の下にクマを作ったアクロマさんがやってきた。

 

「はよざーす。寝不足ですか?」

「いいえ、寝不足ではございません! 

 私はこれから8時間眠りますので!」

 

 徹夜明けのハイテンションで返された。

 ガンギマリの目がちょっと怖い。

 

「徹夜は身体に毒ですよ?」

「存じておりますとも。ですが一度ノリ始めた研究を途中で止めることなどできるでしょうか? 否!」

 

 反語表現を叫びながら天を仰ぐアクロマさんに、ゴーシェが怪訝な目を向ける。

 ごめんな。人間って時々こうなるんだよ。

 ごく一部(多分)だけど。

 

 ついでにメルティも呼び出し、ポロックを食べさせる。普段より大人しいのは、いまだに昨日の進化退化事件が消化しきれていないらしい。

 

 アクロマさんの眼鏡がキラリと光る。

 

「ほう、ヌメラですか。ドラゴン族のなかでも稀有な性質を持つ個体ですね。さすがアシタバさん、お珍しいポケモンをお持ちだ」

「稀有な性質?」

 

 俺は眉をひそめた。

 ドラゴン最弱という不名誉なあだ名がついているのは知っているが、そのことだろうか。

 

「おや、ご存知ない?」

 

 アクロマさんは隣の椅子に腰掛けると、熱々のコーヒーを注文した。挽きたての豆のいい香りが漂ってくる。

 

「実は昨年、ヌメラの遺伝子構造はメタモンのそれと非常に似通っている──という論文が発表されたのですよ?」

「マジで!?」

 

 おもわずデカい声が出た。

 

「マジです。オーキド博士が発見したもので、だからヌメラは容易に体構造を変化させうるのだそうです。

 肉体を液状化させる、溶けるという技を覚えられるのもその為なんですね」

「はー……」

 

 俺はまじまじと手元のヌメラを見下ろした。

 当の本人はまるで興味なさげに、ポロックを貪っている。お前さんの話してるんだぞ、いま。

 

「その遺伝子構造、仮にメタモル構造とでも呼びますか、それらは外界の影響を受けやすいことでも知られています。ヌメイルの進化条件を見れば納得ですがね」

 

 アクロマさんが付け足した説明に、肩がぴくりと跳ねるのがわかった。

 

「が、外界の影響……?」

「ええ。ヌメイルがヌメルゴンに成るとき、雨が降っていることが条件のひとつなのは、雨粒に含まれるなんらかの成分が体組成に作用するからだそうですよ。私も専門家ではないのでこれ以上の説明はできませんが」

「…………」

 

 昨日の光景を思い出す。

 メルティが突然ヌメルゴンに進化する直前、俺の血を浴びてやしなかったか。

 普通の雨すら進化に影響を及ぼすなら、人間じゃない俺の血は、どれほどの変化を与えるのだろう。

 それこそ、段階をすっ飛ばすほどの変則進化ができたとしても、おかしなことじゃないのかもしれない。

 

 ヌメルゴンからヌメラに戻ったのは血が流れ落ちたからだとすれば辻褄もあう。

 

(…………なら)

 

 生唾を飲みこむ。喉がカラカラに乾いていた。

 

()()を全身に浴びたオーガポンや、舐めとったガチグマにも、何か起きるんじゃないのか…………)

 

 杞憂であってくれとひたすら願った。

 興が乗ったらしいアクロマさんがなにやら熱く語りだしていたが、ちっとも耳に入らなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 手持ち全員と、何故か不機嫌なヘリオドールに食事を振る舞い、マリエシティの図書館に向かった。

 ここにはアローラ中の書籍が集うといわれている。

 隣島のキング・アルバさんとキャプテン・マリガンさん夫妻に毒餅を喰わせたポケモンの正体が何か掴めるかもしれない。

 

 さっそく、毒タイプについて取り扱った書架の背表紙を片っ端から眺めていった。

 

「毒ポケモンのススメ……ちがう。初めての飼育……ちがう。最も魅力的な毒ガスベスト10……うーん」

 

 ヒントになりそうな本はとりあえず捲ってみたが、めぼしい情報は見つからない。

 そういえば、アルバさんたちも見慣れないポケモンだったと言っていた気がする。

 

 ────ということは。

 

「もしかして、アローラのポケモンじゃないのか?」

 

 仮にそうだった場合、捜査の難度は桁違いに跳ね上がる。どこの地方かも、名前もわからんポケモンの分析なんて雲を掴むような話だ。

 どんだけ時間があっても足りやしない。

 

 実は異世界からの来訪者(ウルトラビースト)でした、なんてことになれば、もはやお手上げである。

 

 頼むから現世のポケモンでありますように、と祈る想いで手を伸ばすと、影の中からサーフゴー(フーゴ)の声がした。

 

『マスター。誰かがこっち見てるヨ』

「…………ヒトか?」

 

 動作や顔色に動揺を出さないよう、細心の注意を払いながら小声で訊ねる。フーゴは否と答えた。

 

『ヒトじゃなイ。なんかドロドロしたモノ』

「敵意は?」

『無イ。見てるだケ』

「そいつの跡を尾けてくれ」

『了解。フーゴの分身置いてくネ』

 

 影が本棚にすうっと伸びて、目の前の棚にコインが1枚せり出してきた。何食わぬ顔で懐にしまう。

 サーフゴーは全身が金貨で出来たポケモンだが、1枚1枚に魂が宿っており、自在に操ることが可能である。

 このコインがあれば、どれだけ離れていても意思の疎通がとれるのだ。

 

(俺を監視しているポケモン、か)

 

 適当に本を取りだし、ページを送る。

 それは、キタカミの里とかいう辺境の地で語り継がれる昔話を纏めた書物だった。

 目を走らせてはいるが、読んじゃいない。監視者に気づいていないと示すポーズである。

 

(推測に推測を重ねるようだが、毒餅ポケモンが誰かの手持ちだった場合、アルバさんたちを襲ったのにはなにかの意図があるはず。なら、俺が全員を治してまわってるのも何処かから嗅ぎつけてくるだろう)

 

 そして、俺をじっと視ているという()()()()()()()()。それも同一人物か、あるいは関係者の手持ちならば、これが今手繰れる唯一の糸だ。

 

 

「逃がさねえぞ、絶対」

 

 

 口の中で呟き、本を閉じた。

 

 

 

 

 

 


 

 ■ゴーストタイプの隠遁(いんとん)術について

 

 作者の世界では、すべてのゴーストタイプは影から影へと移動する、いわゆる隠遁術を生まれながらに会得しています。ただし、生き物の影に長時間潜んでしまうと宿主の寿命を削ってしまうので、同人物の影に留まることはあまりありません(ポケスペネタ)。

 ゴーストタイプのエキスパート(マツバなど)は日替わりで己の影に住まわせるポケモンを替えているそうです。

 護身と、それからスキンシップを兼ねているんだとか。

 彼らはプロなので、寿命が減るようなヘマもしません。

 逆を言えば、少しずつ殺したい相手の影に勝手にゴーストタイプを忍ばせる、なんてことも出来ちゃいますね。

 だから除霊師がいる、という噂も。

 作中で説明するほどの設定でもないので、こちらにて。

 




というわけで22話。
アシタバくんの悪癖にカブルーの胃が痛いの図。
ヘリオドールがカブルーを殿と付けて敬うのは、主を信じ、己の身を捧げた忠義心に敬意を抱いているからです。
詳しくは前作「ルギア、拾っちゃいました。」のホウエン編を読んでね♡

ヌメラのくだりはもちろん拙作限定の捏造設定です。
でもドラゴンタイプで珍しく溶けるを覚えるので、なんか理由あるんだろうな、とこねくり回した結果こうなりました。メタモン万能。万歳。
(他に溶けるを覚えるドラゴンはドラミドロだけだったりします)

フーゴのコインのくだりも捏造です。捏造たぁのしっ!

そしてアシタバを見つめる熱視線。
フーゴの追跡は無事叶うのか。
よければ感想高評価よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。