ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第24話 二重の捜索。

 

 

 

 

 ハノハリゾートのビーチでライチからの連絡を待っていたウキビは、談笑しつつ現れた3人組に、顎が外れそうなほど驚いた。

 

 猛毒で衰弱していたはずのアルバとマリガン夫妻が、孫娘と一緒に歩いてきたからだ。

 

 夫妻はいずれも血色のいい顔をして、足取りもしっかりしている。完全に解毒されていることは疑いなかった。

 

 はじめは他人の空似かと思ったが、リゾート中のスタッフが恭しく会釈し、総支配人自ら案内をする人物などそう居るものではない。

 アルバはアーカラのキングにして、このリゾートの創始者である。

 下にも置かぬもてなしを受けるのは当然であった。

 

 ウキビは日差しよけの帽子の下、ギラギラする目でアルバたちを睨みながら、親指の爪を噛んだ。

 

(何故だ……グロリア様の毒を癒せる者など、この世に居る筈は……!?)

 

 ウラウラのクイーンにして、至高の毒使いである女帝(グロリア)は、ありとあらゆる毒に精通している。

 麻痺毒、神経毒、吸えば即死の毒ガスに、無味無臭の劇毒。彼女の調合は複雑にして神秘を極め、ひとたび喰らえばどんな生物も黄泉路へ旅立つ。

 そこに例外も、慈悲もなかった。

 

 

 ────ひと月前のことだ。

 グロリアはウキビを呼びつけ、こう言った。

 

「いい加減、アローラ全土がわたくしの物になるべき時が来たと思わない?」

 

 ウキビはその言葉が意味するところを即座に、かつ十全に理解した。

 

 彼女はいついかなる時も、自身が頂点に立っていなければ気が済まない女だ。

 自分以外の人間が、キングやクイーンという称号を得ていることにも、我が物顔で振る舞うことにも、常日頃から憤慨していた。

 

 だからウキビはグロリアから超希少なポケモン・モモワロウを預かり、アルバ達に毒餅を喰わせた。

 このポケモンの毒ならば治療法も特効薬も存在しない。誰に邪魔されることもないと踏んでのことであった。

 

 実際、計画は8割がた上手くいっていた。

 原因も対処も分からないまま、アルバたちが日毎に衰えているという噂は、グロリアを喜ばせた。

 

 別に即死させてやってもよかったのだが、彼らの歳を鑑みれば、そう慌てることもない。

 病み衰えたように見せかければ、もしや人の手にかかって殺されたかと怪しまれることもなかろう。

 

 念には念を。

 それがウキビの信条であった。

 

 青年とライチュウの始末をつけたら、他の島のキングども(メレメレ島のハラにはウキビもうんざりしていた)も毒牙にかけようかと思っていた矢先────完治したアルバたちに出会ってしまったのである。

 

(なぜ復活している!?

 どうやってあの毒を消し去ったっ!?)

 

 一体誰が彼らを治してみせたのか。

 確かめねばならない。

 何としても。

 

 ウキビはベンチから立ち上がると、平静を装ってアルバ一家に近づいた。

 

「こんにちは、みなさん」

「ん? おお、ウラウラの……ええと」

「ウキビさんですわ」

 

 孫のカヒリがアルバにさりげなく耳打ちする。

 ウキビは慣れない微笑を浮かべたが、幼女の警戒心を解きほぐすには至らなかった。

 さっと祖父の後ろに隠れてしまう。

 

「おお、そうじゃったそうじゃった。ウキビさんじゃな」

「はい。アルバさんもマリガンさんも体調を崩されていたと聞き、心配しておりました。

 お元気そうでなによりです」

「まあ、それでわざわざご挨拶に?

 ありがとうございます」

 

 妻のマリガンが目を細める。穏やかで優しい老婦人だが、専門が岩タイプであるだけに芯の強い女性だ。

 ウキビがなにやらソワソワと落ち着かないのを一目で看破し、笑顔の裏で観察していた。

 

 それはアルバも気づいていたようで、微笑みながら、

 

「どうしたねウキビさん。顔色が悪いようだが?」

 

 などと訊いてくるものだから、ウキビには堪らない。

 次々に噴き出てくる汗を拭き拭き、なんとか声を絞り出した。

 

「その、おふたりはどんなお薬をのまれたのかお聞きしても? いえなに、私も最近調子がよくないもので」

「なんだ、そんなことかね」

 

 アルバは破顔し、ウキビの肩をぽんぽんと叩いた。

 

「薬じゃないよ、ウキビさん。自然界には素晴らしい木の実があるのだ。スーパーラムの実というのを知ってるかね? シェードジャングルにある幻の果実なんだが、わざわざそれを採ってきてワシらに届けてくれた若者が居るんじゃよ。いやあ、彼には本当に世話になった。アローラを出発するまえに是非とも礼をしたいのう」

「…………その、青年の名はご存知ですか」

 

 これに答えたのはマリガンの方だった。

 

「アシタバさんという方ですよ」

 

 続いて青年の服装や容姿を質問したウキビは、回答を聞くなりほくそ笑んだ。

 

「なるほど」

 

 目の奥に光る暗い炎に、下から見上げていたカヒリがびくりと肩を震わせた。

 

(ようやく名を知れたぞ、アシタバとやら)

 

 その特徴は、グロリアが欲しがっていたライチュウを勝手にポケモンセンターに運んだトレーナーと全く一致していた。

 マリエシティのレストランで見かけて以来、ジャングルの入口でライチが余計なことをするまで尾行していた青年の正体が、ようやく判明したのである。

 

(絶対に生かしてはおけない。

 彼奴の持つ実はあの方にとって天敵だ)

 

 ウキビは丁寧に頭を下げた。

 

「────ありがとうございます。

 私も彼には用がありましてね。会ったら必ず、皆さんがまた会いたがっていたと伝えますよ」

 

 挨拶もそこそこにその場を後にする。

 アルバたち3人は、不思議そうに顔を見交わした。

 

「どんな用があるんじゃろうかの……?」

「さあ……?」

「…………」

 

 カヒリは無言で、遠ざかっていくウキビの背中を凝視していた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 マリエ庭園からポケモンセンターに戻ったあと。

 夕陽が水平線の真上に浮かび始めても、サーフゴー(フーゴ)からの報せはなかった。

 

「…………」

 

 カフェの片隅で、手の中のコインを弾いては握り、握っては弾く。

 カップの中身はとっくに空だ。

 店主が追加の注文欲しさにちらちらこっちを見ているのが分かっても、席を立つ気にはなれなかった。

 

 間違いない。

 明らかにフーゴは、返り討ちにあったんだ。

 

 最悪なのはやられたこと……だけじゃない。

 どこでやられたのか、見当もつかないことだった。

 

「トレーナー失格じゃねえか、クソっ」

 

 拳を額に打ちつける。鈍い痛みが忌々しい。

 

 どうする、どうする、どうする。

 考えろ考えろ考えろ。

 大事な手持ちが危険な目に遭ってんだ。

 俺だけ安全圏に居ていい道理はねえ! 

 

 ふいに、隣に誰かが腰かける気配がした。

 店主が驚いた声を上げる。

 

「おや、クチートがこんなところに。

 あなたのポケモンかい?」

「え、あ、ヘリオドール!?」

 

 そこにいるのは確かにクチート(ヘリオドール)だった。

 しかし彼女は何も応えず、俺を睨みつけるとぴょいと席を下りて裏口の方に向かっていく。

 ついてこいということらしい。

 俺は慌てて代金を支払い、後を追いかけた。

 

 ポケモンセンターの裏手は塀に囲われ、柔い雑草が蔓延っているだけの寂しい場所だった。

 当たり前だが人ひとりいない。

 誰もいない場所というのは、観光地では貴重である。

 

 ヘリオドールは投棄された木材を蹴転がし、上に座ると、俺を睥睨した。

 

『貴様、何をそんなにしょぼくれている』

「……実は、仲間の1人が行方不明で…………」

 

 事情を説明すると、百戦錬磨の小さなクチートは嘲弄を浮かべた。

 

『はっ! 貴様の無謀な策戦に付き合わせた挙句が行方知れずとは情けない。見下げ果てたやつだな。それでも一端のトレーナー気取りか』

 

 容赦ない罵倒に項垂れる。

 返す言葉もなかった。

 

「おまえの言うとおりだ。俺はトレーナー失格だよ」

『…………ふん。馬鹿めが』

 

 ヘリオドールは木材から飛び上がり、塀の上に着地すると、下に延びる己の影に向かって呼びかけた。

 

『出てこい!』

 

 ────すると。

 塀に被さっていた影が盛り上がり、ぽん、と一体のサマヨールを吐き出した。

 赤い一つ目に貫かれ、おもわず全身が硬直する。

 

「…………」

『…………』

 

 俺もサマヨールも何も言わない。

 と、サマヨールの両手がすーっと離れ、ぱぁん! と音高らかに打ち合わされた。

 

『はいはいはぁい、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! みんなのアイドル、サマヨールちゃんでござるよぉ〜♡ 今宵は拙者の34時間ワンマンショーにお越しくださり感謝感激雨あられ! 真心こめてシャドーパンチ♡

 ってただの攻撃技やないかーい! まあ細かいことは気にすんなって奴ですなこれしかし。長生きの秘訣に御座候。まあ拙者、とっくのとうに死んでおりますけれども! ドゥフッ、ドゥフフフフッ』

 

「…………あぇ?」

 

 いきなり始まったマシンガントークに脳みそが追いつかない。ワンマン、なに、なんて? 

 

 サマヨールはやたらコミカルな仕草で首を傾げると、『あややや?』と奇妙な声を上げた。

 

『もしや貴殿、フーゴ氏のトレーナー・アシタバ氏ではござらぬか?』

「っ、知ってんのか? 俺のこと」

『当然! 貴殿が泥だらけで寝てる間にフーゴ氏と意気投合し、朝まで語り合ったのです。いやはやあんなにも気心の通う友に恵まれるとは思いませなんだ。生きてみるもんですな〜。まあ拙者、死んでるんですけど!

 ン2回目ェ! 天丼熱盛ッ!』

 

 ピースサインを作りひとり爆笑している。

 俺は頭を抱えた。

 

 だめだっ。

 ゴーストジョークの笑いどころが分からんっ。

 というか、なんでヘリオドールはいきなりこいつを紹介したんだ? 

 

 はてなを100個浮かべた顔で塀の上を振り仰ぐと、ヘリオドールが地面に降り立ち、サマヨールの尻のあたりを蹴飛ばしていた。

 

『アオゥ! スパンキング通り越して暴力! 純然たる暴力でござる! 我々の業界でも拷問ですぞぉ!

 だが! それがいい!』

『喧しい!』

 

 容赦ない蹴りが立て続けに炸裂し、さしものサマヨールも沈黙した。

 

『アシタバ、居なくなったポケモンの持ち物を出せ。身体の一部でもいい』

 

 訳が分からないながらも、すぐさまフーゴのコインを差し出した。

 ヘリオドールが裏表をとっくり見てからサマヨールに突きつける。

 

()()()()?』

 

 赤目の幽霊はつぶらな瞳をぱちくりさせてから受け取り、事もなげに首肯した。

 

『モチのロンですぞ』

 

 その言葉に、俺は息を飲んだ。

 

「え、追える……って」

『これはフーゴ氏のコインにござるな? いま氏がどこでなにをしてるか、拙者の千里眼なら1発でござるよ』

「ほ、本当か!? たのむ、教えてくれ!」

『元よりそのつもりだ阿呆。そうでなくば引き合せた意味がなかろうが』

 

 ヘリオドールが呆れたように言う。

 

 サマヨールはぬんぬん唸っていたが、突然カッと目を見開くと北東を指さした。

 

『あちら方面からフーゴ氏の波動を感じますぞ。大きなお屋敷の一室に囚われておるご様子。なにやらぐったりされておりますなあ。ちと急いだ方がよろしいかと』

「あっち……っていうと」

 

 ポケギアに登録したアローラの地図を開き、場所を確認する。方角とおよその位置からして、該当する街は1箇所しかなかった。

 

 ウラウラ島北西に位置する街、ポータウン。

 毒のエキスパートであるクイーン・グロリアの家もここにあることは、クチナシさん達から聞いて知っている。

 

(やっぱクイーンが裏で糸引いてたのか。

 いや、もうそんなことはどうでもいい。

 居場所がわかったんなら行くまでだ!)

 

 俺は勢いよく頭を下げた。

 

「ありがとう、ヘリオドール、サマヨール!

 助かった!」

 

 そのまま脇目も振らず大通りに走る。

 心臓が、痛いくらい脈打っていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 アシタバを見送るヘリオドールの顔には苦々しい表情が浮かんでいる。サマヨールは横目でちらりと見やってから、オーバーな態度で嘆息した。

 

「いやはや若人は判断も行動も早いでござるな〜。拙者ひとつしかない目が回るかと思ったでござる」

「…………貴様の眼が回ったところで支障はあるまい」

「あっ手厳しいっ」

 

 サマヨールが笑っても、ヘリオドールはむっつりしたままだ。

 

「────これは独り言にござるが」

 

 笑いおさめたサマヨールは、静かな声で告げた。

 

「千里眼で見たところ、行く手に待ち構えるは強敵の様子。アシタバ氏だけでは死にに行くようなものですな」

「…………ふん」

 

 ヘリオドールは、だからどうしたと言わんばかりに鼻を鳴らしたが、それが本心でないのは千里眼の持ち主でなくとも察せられた。

 

 

 ややあって。

 

「…………やつの無様な負けっぷりを見に行くのも、まあ一興だな」

 

 ヘリオドールが歩きだす。

 

「お供しますぞ♡」

 

 サマヨールは笑みを噛み殺しながら、彼女の影にするりと隠形した。

 

 

 

 




というわけで24話。
それぞれがターゲットを捕捉するお話でした。

次回はいよいよポータウンに殴り込みです。

サマヨールの喋り、読んでて疲れるかと思いますが、書いてるこっちもめちゃくちゃエネルギー持ってかれます。さすがゴーストタイプ(?)

よければ感想高評価よろしくおなしゃす!
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