驚くほどよく喋るサマヨールのおかげで
ここで、読者諸君にはウラウラ島の地図を広げてみてほしい。マリエシティは島の右上に位置するのに対し、ポータウンは左上端にあるのがわかるはずだ。紙面で見るぶんには、じつに簡単に往復できるように思えるだろう。
ところがそうは問屋が卸さない。2つの町のあいだには、標高4000メートル越えの霊峰・ラナキラマウンテンが文字通り立ちはだかっているのだ。
登るにはアローラ自然協会の許可と100万単位の金が要る。申請してから許可が下りるまで早くとも2週間はかかると言われ、選択肢から除外せざるを得なかった。
ならば海路はどうか。
マリエシティの北岸から海に出、左回りに進めばポータウンの岸辺に着けるはずである。
俺はさっそくマリエの港で船を出してくれるよう頼んでみたが、どの船頭にも、目的地を聞いただけで断られた。
みな一様に青い顔で、「クイーンを怒らせたくない」としか言わない。どうも、ここのクイーンはよそ者が海に出るのを歓迎しないらしかった。
となると、南部回りの陸路しかないわけだが、こちらも問題が多い。アローラで最も広く、起伏に富んだ島ゆえ、交通の便が非常に悪いのである。
強靭な脚力と頑丈な肉体を誇るアローラの名馬・バンバドロでなければ踏破できない12番道路の岩道や、ギャラドスも溺れると言われる15番水道の急流エリアなど、悪路をあげればキリがない。
強引に突破したいのは山々だが、逆立ちしても俺の手持ちじゃ太刀打ちできん。
せめて空を飛べるポケモンを育てておくんだったと、今更ながら悔やまれた。
…………いや、居るんだけどさ。一羽。
俺の頭の上に。
モクローの姿で。
頭からよいしょっと抱えおろし、目を合わせる。
「お前、俺ごと飛べたりする?」
「んげぇ」
即答。ですよね。
もう一度頭に座らせ、眉間を揉んだ。
いま俺たちは、マリエシティから南に下る12番道路の途中に居る。
時刻は夜の8時を回っていて、時折、野生ポケモンがカサコソと行き過ぎるほかは生き物の気配とてない。人通りもとっくに絶えていた。
目の前には、生身じゃ絶対に通れない石だらけの荒れ道が延々と続いている。何度かチャレンジしたものの、いたずらに脚を傷つけるだけで終わった。
俺のケガなんざどうだっていいが(すぐ治るし)、こうしてまごついてる間にもフーゴが痛めつけられているかもしれないと思うと気が狂いそうだ。
「クソ……っ!」
苛立ちまぎれに足元の小石を蹴飛ばした時、岩陰から悲鳴があがった。
「あたっ! ────ん、ややっ!?
アシタバくんではないか!」
「え、ハンサムさん?」
一体いつからそこにいたのか、国際警察のハンサムさんがひょっこり立ち上がり、片手を挙げていた。
「こんなとこで何を?」
「む、いやなに、この先にあるホテリ山の地熱発電所にウルトラビーストらしきポケモンがいるとの通報を受けてな。やつらに見つからんよう岩から岩へと移動しつつ、調査に行くところだったのだ」
「ウルトラビースト…………」
瞬間。
俺の頭に、クチナシさんの言葉が閃いた。
『ウルトラビーストはこれまでに4体確認されてる。
漂うクラゲに空飛ぶ竹──』
(そうだ。空を飛ぶ奴らがいるって確かに言ってた!)
実際、飛行機を襲ってきたクラゲも遥か上空を飛んでいた。もしかしたら、ウルトラビーストにはタイプに関わらず飛行能力が備わっているのかもしれない。
首尾よく捕獲できたなら、ポータウンまでの移動手段が得られることになる!
少々都合のよすぎる論理だが、物は試しだ。
俺はハンサムさんに助力を申し出た。
「その調査、付き合いますよ。
いや、付き合わせてください」
「なに? だがこれは国際警察の秘密任務で……いやしかし腕のいいトレーナーは欲しいところだし……むむむ」
ハンサムさんはうんうん唸ってから「よし!」と力強く頷いた。
「危なくなったら即撤退! 危なくなくても私が判断したら即撤収! それを守ってくれるなら同行を許可しよう」
「了解であります、警部殿」
敬礼を送ると、ハンサムさんは「警部殿はやめてくれ」と照れくさそうに頬を掻いた。
ホテリ山の地熱発電所は、ウラウラ島の電力を一手に担う重要な施設である。
山と言っても小高い丘程度の標高しかなく、発電所の敷地が3メートルほどのフェンスに囲われている以外はとりたてて見るべきところもない。
赤茶けた大地は靴を通してなお仄かにあたたかく、土壌が熱いせいか、ペンペン草すら生えていなかった。
俺と同じ岩の後ろに隠れながら、ハンサムさんが耳打ちしてくる。
「そら、あそこ……見えるか」
フェンスの手前に、2体のポケモンが立っていた。
小さく頷き、目をこらす。
1体は、俺と同じくらいの背丈で、全体的に薄い翠色、ジョウトの古式ゆかしい衣装である
クチナシさんが言っていた空飛ぶ竹とは、こいつのことに違いない。
「あれはUB04のBLASTERだ!」
ハンサムさんが緊張を滲ませた声で囁く。
だが俺は、もう1体の方に目が釘付けになっていた。
片割れは、その、なんていうか、赤かった。
赤くてムキムキだった。
鋭く長い口吻を持ち、複眼らしき黒い目で周囲を観察している。その下には膨れ上がった筋肉がてかてかに光り輝いていて、もう見てるだけで胃もたれしそうな存在感を放っていた。
「あれはUB02 EXPANTION!
凄まじい体躯の持ち主だぞ!」
見れば分かります。
「ほ、ほかにデータは?」
「ない! 私も会うのは初めてだ!」
「oh」
ほな情報ゼロやないかい!
詰ったところで始まらないので、気を取り直し、外見から得られる要素を整理する。
あれほどの肉体美だ、格闘タイプは確定として、部分的な特徴から察するに虫タイプも入っていると考えられる。
世界的に見てもこの複合種は珍しい。
ハンサムさんのいう
────あ、いや。
警察なら、ガーディ連れてるか。
期待を込めて振りむくと、ハンサムさんは親指を立てて微笑んだ。
「あちらは2体、こちらも2人。ひとり1体ずつ当たってみようじゃないか」
「なるべく捕獲したほうがいいっすよね?」
「ああ。でも無理はしてくれるなよ。ダメだと思ったらすぐ逃げるんだ」
「オーケーっす」
簡単な打ち合わせを済ませ、ウルトラビーストたちの方を見やると、いつの間にかムキムキマッチョの姿が消えていた。
驚いたのも一瞬。
突然、背後から暑苦しい雄叫びが響き渡る!
「バババババルクゥウウウ!!」
「──っ!?」
慌てて飛びすさり、ボールを構える。
(嘘だろ……!? 20メートルは離れてたぞ!)
それだけの間合いを一気に詰めてきたというのか。
戦慄が駆け抜ける。
ハンサムさんは俺のそばに来ようとして、ブラスター(以下めんどいんで竹子!)に妨害されていた。
「…………ま、1対1ってことに変わりはねえか」
正面から筋肉の塊を睨みつける。
マッチョは雄々しいポーズを決めながら勝負を仕掛けてきた!
相手が格闘なら、弱点をつかれる
「だったらお前さんだな。いけ、オーガポン!」
オレンジ色のブルームボールを投げつける。
中からオーガポンが飛び出してきた!
「ぽにおぉおん!」
愛らしい鳴き声とともに、回転しながら手にした棍棒を叩きつける。
登場と同時の不意討ち攻撃、凶悪すぎる先制技だが、マッチョは逃げも隠れもしなかった!
「バルクッ!」
上体を屈め、全身を力ませる。
俗にモストマスキュラーと言われるポーズだ。
棍棒は右肩を強打したが、その衝撃に怯んだのは殴ったオーガポンの方だった。
「ぽっ、ぽに!?」
かつてない手応えに困惑するオーガポンに、マッチョが高々と叫ぶ。
「バァルクゥ!」
両肘を曲げたダブルバイセップスポーズでこちらを威圧してくる。
お前のパワーはそんなものか、その程度の筋力か! と凄まれ(たように感じられ)て、オーガポンはたじろぎながらも再び構えた。
「ぽ、ぽに! ぽに! ぽにぃ!」
棍棒と蹴りを混ぜた3連撃。
充分に体重と腰の乗ったいい攻めだったが、マッチョは両拳を腰に当てたラットスプレッド姿勢で耐え抜いた。
「バルクーッ!」
ぱぁん! と音を立てて筋肉が肥大する。
攻撃を受ければ受けるほどパンプアップしていく様に、俺もオーガポンも絶句した。
なんだ。
なんなんだコイツは!
根源的な恐怖に涙目になっていた俺は、ふとあることに気がついた。
(こいつ……反撃も防御もする気がねえ……?)
オーガポンの攻撃は鋭く重いが、これだけの体格差ならカウンターを当てることも出来たはず。
回避だって容易だろう。なにしろ、20メートルもの距離を一瞬で移動する敏捷性があるのだから。
けれどもこの赤い筋肉ダルマは、ただひたすらポージングに明け暮れ、その場から動こうとすらしない。どんな物理攻撃も成長への糧とする、強い意志が窺えた。
────ん?
なら、物理じゃない攻撃は?
「オーガポン、宿り木の種、撃てるか?」
「ぽに」
オーガポンが袂から種を取り出し、無造作に放り投げた。マッチョの腹筋に着弾する。
「バル?」
種はすぐに発芽して、蔓を伸ばし、全身に巻きついた。
宿主の肉体を拘束し、エネルギーを吸収する技である。
マッチョは分かっているのかいないのか、サイドチェストの構えのまま静止し────
「……バ…………ルクゥ…………」
精力を吸われ尽くして、立ったまま気絶した。
「…………」
「…………」
「…………ぽに」
「…………うん、お前さんの勝ちだよ」
「…………ぽにお…………」
オーガポンは
ハンサムさんの方を見てみると、こっちもこっちで勝負になっていなかった。
竹子はゆうらゆうら左右に揺れるばかりで、攻撃も逃走もしそうにない。
グレッグルが殴ってくると高く飛んで躱すが、また地上スレスレに戻る。先程からこの繰り返しであった。
「てか、グレッグルなんすね。ガーディじゃなくて」
おもわず話しかけると、ハンサムさんは目を丸くした。
「アシタバくん! UB02の捕獲が出来たのかね!?」
「いや、まだっす。でも一応決着はついたんでこっちの戦いを見てみようかと」
「ご覧のとおりだ。果たしてこれはバトルなんだろうか」
首を傾げるハンサムさんに、俺は尤もだと相槌を打った。傍から見てたら、グレッグルが飛び跳ねながらちょっかいをかけているようにしか見えない。
「いったんグレッグル引っ込めてもらってもいいですか。ちょっと試したいことがあって」
「──わかった。ムチャはするなよ。戻れグレッグル!」
息を切らしたグレッグルがボールに戻る。
俺は慎重に竹子との距離を詰めた。
4メートルほどの間隔を空けて立ち止まる。
「なあ、ウルトラビースト。
お前さん、空を飛べるんだってな」
「よふ」
竹子が短く鳴いた。
声色からして、多分「yes」だろう。
「それならひとつ頼みがあるんだが、俺をポータウンまで運んでくれないか?」
「よふん?」
こてん、と小首を傾げる。
異世界からの来訪者にしてはやけに仕草が可愛らしい。
「あっちの、北北西のあたりに街があるんだ。そこまで連れてってくれたら、美味い木の実をやるからさ」
リュックからモモンの実を覗かせる。
生き物であるからには飯を食うだろう。モモンの芳しい香りは魅力的なはずだ。
「よふふぃ」
竹子は薄く微笑むと、唐突に全身が
「!?」
俺とハンサムさんが瞠目する。
竹子は立体パズルのように部位が分かれ、ガシャガシャガシャン! と音を立てて組み合わされていき。
気がつくと、俺と同じくらいだった身の丈が、10メートル近い巨体に変貌していた。
「かがよふ」
頭上から大音声が降ってくる。
極太の竹筒が俺たちの前に横付けされた。
「…………ま、跨がれ、ってことすかね」
「…………おそらく」
顔を見合せ、おそるおそる跨ると、ぐうんと空中に持ち上げられた。
みるみる地上が遠ざかっていく。
あっという間に、気絶したレッドマッチョが小さな点になった。
「げるげるげる!」
頭上のレヴィがはしゃぎ出す。
やめろ騒ぐな暴れるな。
俺いま必死にしがみついてんだから!
「よーーふーー」
竹子は歌うように長く鳴いて、アローラの夜空を泳ぎ始めた。
というわけで25話。
ポータウンに着かなかったー!!!
見通し激甘すぎて草。
どこかでウルトラビーストと絡ませたくてこんな展開になりましたが、書いててめちゃくちゃ楽しかったです。ほぼ3時間で書き上がりました。
かがよふちゃんの全身分解→再構築はボディパージを自力で覚えるところから思いつきました。さすがに常時あの巨体では何かと不便だろうってことで、拙宅では自在に体の大きさを変えられることにしています。
バルクくんの出番はまだありますのでファンの方どうかご勘弁を。
次こそポータウンです!今度はまじで!
よければ感想高評価おなしゃす!