ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

26 / 100
第26話 怪しい街・ポータウン。

 

 

 

 

 赤い花が咲き乱れるウラウラの花園を抜け、ポータウンに至る街道に出ると、にわかに星空が曇りはじめた。湿り気を帯びた風がまとわりついてき、夜闇に陰鬱な雰囲気を漂わせている。

 

 ポータウンはアローラのなかで唯一、見上げるほど高い塀が四囲を塞いでいる場所で、外からは(いらか)ひとつ覗けもしない。

 

 何人たりとも近づくなと街そのものが威嚇しているようで、クチナシは苦い笑みを零した。

 

「いやなトコロだね、どうも」

 

 小声で呟きながら首筋を拭う。

 

 ハンサムと別れ、単独でここまでやってきたのには、二つの理由(わけ)があった。

 

 ひとつには、現地偵察である。

 国際警察は訪れた土地をくまなく歩くのが習わしになっている。

 新米時代、百聞は一見にしかず、地図や伝聞だけで知った気になるな、まず己の足と目で確かめよ────と、耳にタコができるほど聞かされた。

 

 いまひとつには、クイーンの人柄を確かめるという目的もあった。むしろこちらがメインといえよう。

 

 アローラにおいて、キングまたはクイーンの位というのは非常な敬愛を集める。

 なかでもメレメレキングのハラなぞは、道を歩くだけで老若男女に囲まれ、呼びかける声が引きも切らなかったほどだ。

 

 対して、ウラウラクイーン(グロリア)はどうか。

 これはもう、話にならなかった。

 といって、酷く嫌われているとか、罵詈雑言が渦巻いていたわけではない。

 クチナシの手腕を持ってしても、島民から噂を聞くこと自体出来なかったのである。

 

 例をあげよう。

 アローラに着いたばかりの頃、クチナシは、ウルトラビーストの情報を集めるかたわら、クイーンについて訊ねてみた。なにか意図があったわけじゃない、ほんの世間話のつもりだった。

 ところが、それまでにこやかに応対してくれていた露店のおかみは、グロリアの名を出した途端硬直し、「なにも知らない」と言ったきり口を噤んでしまったのだ。

 氷のように冷たい横顔だった。

 

 またある時は、漁から帰ったばかりの漁師を掴まえてみた。筋骨たくましい男がグロリアと聞くや子犬のようにぶるぶる震えだし、悲鳴とも泣き声ともつかない叫びをあげて逃げてしまったのだ。

 

 一事が万事こんな調子で、さしものクチナシもお手上げだった。

 

 アローラ(ここ)にはあくまでウルトラビーストの捜査に来ているのだから、強いてクイーンを知る必要はないのだが、ここまで秘匿されてしまうと職業上気になって仕方がない。

 

 アシタバから毒餅事件も聞いた事だし、密かに、

 

(本人に会うまでは梃子でも動かねえぞ、俺ァ)

 

 と意気込んでいた。

 

 

 街の正門に辿り着いたクチナシが目を眇めた。

 観音開きの鉄扉は完璧に施錠され、いかにも物々しい。

 来るもの拒み去るもの許さずと言わんばかりの出入口に、クイーンの為人が現れているようではないか? 

 

「ほんじゃあ、調べさせてもらいますよっと。

 …………ん?」

 

 ノックをしようと右手を掲げたあたりで、奇妙な音を捉えた。

 

 遠くの空から、ジェット飛行機のような轟音が響いてくる。振り仰いだクチナシは仰天した。

 

 全長、目測で10メートル強。

 体重およそ数十トン。

 そんな巨大生物────識別名・BLASTERが、自分めがけて飛翔してくるのを見れば、どんな豪の者だって肝を潰す。

 

 さしものクチナシも顔色をなくし、全速力で逃げようとしたところ、

 

「おーい! クチナシ! 案ずるな! 私だ!」

「は…………!?」

 

 BLASTERの竹筒に乗った友が手を振るのが見えて、呆然と立ち尽くした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

「────なるほど、そんなことがあったのか」

 

 ハンサムさんの説明を聞き終えたクチナシさんは、また俺と同じくらいの大きさに戻った竹子を矯めつ眇めつして、太い息を吐いた。

 

「ライチュウといいコレといい、どうもお前さんがいると事態がややこしくなるみてえだな?」

「ひとを疫病神扱いせんでくださいよ」

 

 竹子にモモンの実を食べさせてやりながら渋面をつくる。

 

 そう言いたくなる気持ちも分かるけどさ。

 大部分は俺のせいじゃないんだからね。

 いやマジで。

 

「んで、こいつは捕獲したのか?」

「いんや。そもそも捕まえないっすよ。ンなことしたらまたアンタに質問責めにされるでしょ」

「しねえよぉ」

「嘘つけっ」

 

 そもそも現時点で手持ちが2体増えているのだ、これ以上増やすのは御免こうむる。

 …………いやまあ、よふよふ鳴いてる姿は可愛いんだけどね? 大きさも変えられるし空飛べるしさ? ウルトラビーストじゃなかったら育ててみたかったよ、ホント。

 

 余計な思考を強引に断ち切り、鉄扉を見上げた。

 

「ここがポータウン、ですよね。

 壁も扉もでけぇな…………」

「鍵はかかってないみたいだぞ」

「ならば進もう。毒餅をばら撒くポケモンを放っておく訳にはいかん。クイーンならば何か知っているかもしれんし、知らなくとも力を貸してもらえれば有り難い」

 

 ハンサムさんの提案に、俺もクチナシさんも異論はなかった。

 

 竹子に礼と別れを告げてから、2人がかりで扉を開く。中に入った俺たちは、大通りに出るや言葉を失った。

 

 綺麗な街だった。

 区画ごとにきっちり整備され、花壇には色とりどりの花が咲いている。白いコンクリートが敷きつめられた道路はヒビ割れも塵も見当たらない。

 同じ造りの家屋が等間隔に並んでいる様は、見事な様式美を演出していた。

 

 綺麗な街だ。本当に。

 だけど、心底不気味だった。

 何故といえば、活気というか、人々が生活している気配がまるで感じられないのである。

 

 手の込んだ箱庭────いや、そんな生易しいものじゃない。

 いうなればここは、ガワだけ美しく取り繕ったおぞましいゴーストタウンだった。

 

「だ、誰か住んでるんですよね」

「その筈なんだが…………」

 

 俺とハンサムさんがきょろきょろする横で、クチナシさんが右手の家にじーっと目を凝らしている。

 

「そこの茂み」

「え?」

「なんか動いたな」

 

 言うや、ボールを開く。

 現れたアブソルに短く命じた。

 

「スピードスター」

 

 無数に生まれた星屑が、玄関脇の茂みに殺到する。

 低威力の必中技はしかし、着弾の寸前、虚空に出現したリングに吸いこまれた。

 そしてなんの前触れもなく、俺たちの背後から同じ星屑が降り注ぐ! 

 

「────っ!?」

 

 俺は辛くもハンサムさんの手を引き、難を逃れた。

 クチナシさんも横に跳んで回避している。

 

「わ、技の反射!? いや……転移……!?」

「ウルトラビーストの仕業か!?」

 

 ハンサムさんがグレッグル入りのモンスターボールを握りしめる。

 答えは、意外なところから降ってきた。

 

「いいえ。そんな下賎な輩ではありませんよ。もっと崇高で尊いポケモンですとも」

 

 声のする方に目を走らせる。

 民家の屋根に立ちあがった男と視線が交錯した。

 

 痩けた頬に折れそうなほど細い躰。

 神経質そうな銀フレームの眼鏡に、ブカブカの白いアロハシャツ。

 血色が悪すぎて年齢は分からない。20代のようにも40代のようにも見えた。

 

 クチナシさんが低く吐き捨てる。

 

「ウラウラのキャプテン、ウキビだ」

「…………!」

 

 その名を聞いてこめかみに青筋が浮かぶのが自分でもわかった。

 つまりこいつが、島巡りの挑戦者にラナキラの麓で踊るか、トレーナーを亡くしたライチュウを捕まえてこいという無理難題を吹っ掛けた男というわけか。

 

(こいつのせいでライチュウは……!)

 

 嫌悪感が加速度的に増していく。

 

 落ち着きを取り戻したハンサムさんが呼びかけた。

 

「待ってくれ! 君はウキビくんだね?

 我々は国際警察だ! ここにクイーンのグロリア氏が居ると聞いてやってきた! 近頃アローラで毒を撒いているポケモンについて話を伺いたい!」

 

 ウキビの返答はにべもなかった。

 

「グロリア様は誰ともお会いにならない。毒餅など我々の知るところではない。お引き取り願おう」

「────へえ?」

 

 クチナシさんが唇を片方歪めて笑う。

 

「聞いたな、ハンサム」

「ああ、聞いた」

 

 警察2人が頷きあい、同時にウキビを睨みつけた。

 

「いまアンタ、()()って言ったな? 相棒は毒としか言ってないのに、だ」

「…………」

 

 ウキビは貝のように押し黙った。

 

「どうも詳しい事情を知ってそうだな? ちと話を聞かせちゃくれないかい。大丈夫、時間は取らせねえからよ」

 

 言いつつ、じりじりと距離を狭めていく。

 どんな言い訳をかますか注視していると、意外にも奴はあっさり諦めた。

 

「仕方ありませんねえ」

 

 溜息を吐き、指を鳴らす。

 次の瞬間。

 全ての民家のドアが開き、住民たちが飛び出してきた。

 

「なっ」

 

 振り向いた俺は絶句した。

 誰も彼も目に生気がない。虚ろな表情で、ただゾロゾロと歩いてくる。まるでゾンビの群れのようだった。

 

「穏便に済ませたかったが…………ここは力ずくでご退場いただくしかないようだ」

 

 ウキビが両手を高らかに鳴らした。

 

「さあさあポータウンのみなさん! 

 この3人はグロリア様に仇なす不届き者です!

 力を合わせて追い出しましょう!」

 

 町民は無言でウキビを見上げ、俺たちに視線を転ずると、唐突に笑みを浮かべだした。

 

 そして、

 

「キビキビー!」

 

 と喚き、踊りながら迫ってくる! 

 

 いやなにこれめちゃくちゃ怖ぇ!! 

 おののく俺の後ろでクチナシさんが舌打ちする。

 

「明らかにマトモじゃねえ……! 催眠術かなんかで操ってやがるな」

「ど、どうするクチナシ!? 相手が一般市民では攻撃できんぞ!」

 

 3人でじりじりと下がってみたが、いくらも経たず壁に行き当たってしまった。

 頭上のルギア(レヴィアタン)がげるげる吠えている。クチナシさんのアブソルも、不安げに足を踏み変えていた。

 

 俺は必死に頭をめぐらせた。

 カブトプス(カブルー)で峰打ちしまくるか?

 あるいはレヴィで吹き飛ばす? 

 いや、操られている中には子供や老人も多い。どれだけ手加減しても致命傷になりうる。

 

 ああ畜生、卑怯な手を使いやがって! 

 

「なんとかしねえと…………!」

 

 焦りばかりが募り、手汗に塗れた掌を握りしめる。

 

 すると。

 

「よふ」

 

 すぐ傍から、竹子の声がした。

 街の外で別れたはずなのに、いつの間にか入ってきていたらしい。

 

「へあっ? 竹子、おま、なんで」

「よふー」

 

 竹子はにっこりして、ことこと揺れている。

 腕がわりの竹筒が空を指していた。

 見上げれば、遥か上空にぽつりと浮かぶ影がある。

 

「あれは…………ポケモン?」

「よふふ」

「…………もしかして、催眠術使ってんのアイツか」

「よふん」

 

 なら、アイツを倒せば街の人たちが正気に戻るかもしれない。試す価値は、大いにある! 

 

アマルス(ゴーシェナイト)! 地面に向かって凍える風!」

「りううう!」

 

 ゴーシェを繰り出し、凍てつく風を吹かせた。

 あっというまに道路が凍りつく。

 住民たちの足元も氷に覆われ、ちょっとやそっとじゃ壊れない即席の足止めが完成した。

 

「クチナシさん、ハンサムさん、あと頼んます!」

「やるじゃねえか! ありがとよ!」

「任せてくれアシタバくん!」

 

 2人に親指をあげ、竹子に向き直る。

 

「竹子、また乗せてくれるか?」

「よふー」

 

 竹子は快く竹筒を差し出してくれた。

 

 

 

 数秒後、俺は空の上で謎のポケモンと対峙していた。

 体はごく小さく、桃をひっくりかえしたような容貌をしている。

 

 この特徴、間違いない。

 アルバさんたちを苦しめたポケモンだ。

 

「毒餅ばらまいてたのはお前だな」

 

 拳を握りしめる。

 俺の怒気に当てられて、相手はぶるりとわなないた。

 

「今すぐ催眠を解け。さもなきゃぶん殴る!」

「げるるる!」

 

 レヴィが一緒に凄むと、桃野郎はガタガタ震え、

 

 

「…………モ

 

 

 モモワァアアイ!!

 

 

 殻を破り、正体を現した! 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで26話。
ようやくポータウン到着、そしてバトルです。

ポータウンについては本編で特に深堀もなかったので、好き勝手に設定を足していくことにしました。
拙作ではクイーンの本拠地であり、街まるごと支配下に置かれています。

次回はクイーンを出せるといいな。
良ければ感想高評価よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。