ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第27話 空と地の乱戦。

 

 

 

 

 殻の中から出てきたのは、生意気そうな面構えのチビだった。片手で握れそうなほど矮小な一頭身に、妖しく光る両の(まなこ)。豊かな髪の毛が重力に逆らって揺らめいていた。

 

「げぅるるる」

「モモワイッ」

 

 ルギア(レヴィアタン)が真っ向から威嚇すると、桃野郎が怒気を放った。

 

 目線を下に走らせる。

 理性をなくした町民たちは足を地面ごと凍らされ、混乱を極めていた。クチナシさんとハンサムさんが一人一人に当身を食らわせて眠らせている。

 キャプテン・ウキビがどうでるか、それは全くの未知数だが、あの様子なら2人に任せて問題ないだろう。

 

「レヴィ」

 

 相手に聞こえないよう、小声で頭上の小鳥に呼びかける。モクロー姿のレヴィが喉を低く鳴らした。

 

「まずは向こうのタイプと射程範囲を見極める。突っ込みすぎるなよ」

「げる」

「よし。────いけっ!」

 

 指を鳴らすや、レヴィが激しく羽ばたいて、正面から突進した! 狙い誤たず、桃野郎の顔面に直撃する! 

 

 しかし、猛烈な勢いを乗せたにも関わらず、レヴィの躰は相手を()()()()()()()()()

 霞の塊に突っ込んだように手応えがない。

 

「モモモッ」

 

 嘲笑を浮かべた桃野郎が、お返しとばかりに紫色の鎖を振るう。レヴィはすんでのところで回避し、俺の元に戻ってきた。

 

「いまの現象…………あいつ、ゴーストかよ!?」

 

 おもわず舌を鳴らした。

 

 ゴーストタイプはみな、生まれながらにして幽体術を会得している。

 幽体術とは、簡単に言えば「この世における実体の具現化率(グラデーション)を高めたり弱めたりする能力」のことである。

 具現化率を弱めると実体から幽体に切り替わり、人間の目には透明に近づいていく。この状態であれば、壁を透過したり攻撃をスカすことができるようになるわけだ。

 

 ゴーストタイプはいつでもこの幽体になれるゆえに、殴ったり蹴ったりという単純な直接攻撃は、よほど不意をつかないかぎり当たらない。

 

 こう書くと無敵の能力に聞こえるかもしれないが、当然、デメリットもある。

 まず、幽体中は技が撃てないし、素早く移動できない。

 深く集中するせいで、他のことをする余裕がないのだ。

 それに、これはマツバから聞いた話だが、幽体状態を長く続けていると実体が保てなくなり、この世から「消滅」してしまうという。

 そのタイムリミットは、個体によるが長くとも1分程度だそうで、少なくとも、ずーっと幽体化されてこっちの攻撃が全て無効化されるという最悪のパターンは考えなくていいわけである。

 

 それはいいのだが。

 

(肝心の有効打がねぇんだよなあ)

 

 桃っぽい見た目からして草・毒タイプかフェアリー・毒タイプかと思っていたのに、こうなると話が変わってきてしまう。

 というのもこのレヴィ、伝説ポケモンなだけあって技の威力はズバ抜けているのだが、悲しいかな、手数(バリエーション)が甚だ乏しいのだ。

 使えるのが風起こしとエアカッターに暴風、物理技は剛翼突撃(ブレイブバード)と翼を振るったビンタのわずか5つである。

 他にウェザーボールもあるが、この曇天で使ってもただのノーマル技だから意味がない。

 

 風起こしや暴風は周囲の気流をめちゃくちゃに乱して俺たちを墜落させかねんし、直接攻撃は幽体術で通らない。

 

 一応、飛行機を襲ってきた空のクラゲを弾き飛ばしたサイコキネシスのような技もあるにはあるが、果たして自在に扱えるだろうか? 

 

 試しに命じてみよう。

 

「レヴィ。サイコキネシス!」

「…………げ?」

 

 何それ、という顔で首を傾げられた。

 うーんやっぱりかあ。

 あんとき、意図して技を撃ったってよりは、怒りに任せて力を解き放ったって感じだったもんなあ。

 

 となるとエアカッターでじわじわ削っていくしかない。

 

 更に、懸念点がもうひとつ。

 あの鎖だ。

 毒々しい色合いといい、猛烈に嫌な予感がする。おそらくは尋常でない猛毒が染み込んでいるに違いない。

 いかに伝説の雛であろうと、触れれば痛いでは済まないだろう。

 

 あっちの攻撃は絶対に躱し、こっちの攻撃は必ず当てていくゲームか。

 

「縛りが多いなちくしょうめ」

「モモワァイ!」

 

 顔を引き攣らせる俺をどう見たか、桃野郎は、意気揚々と雄叫びをあげた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ポータウンの町民たちを次々に失神させていきながら、私は上空が気になって仕方なかった。

 アシタバくんの方もバトルが始まったらしく、切れ切れに声が聞こえてくるものの、地上からではまるで戦況が掴めない。

 後生だから落下したりしてくれるなと、祈ることしか出来ない自分が歯がゆかった。

 

 なんとかして加勢に行きたい。

 けれども、キャプテン・ウキビの妨害は激しく、また陰湿であった。

 

「エナジーボール」

「っ! グレッグル!」

 

 ウキビの命令で、傍らに控えたダダリンが緑のエネルギー弾を射出した。グレッグルが毒突きで迎え撃つ。

 クチナシの方にはフワライドが相対し、アブソルを釘付けにしていた。

 

 いずれも攻めの手は単調で散発的、普段ならどうとでも御せるレベルだが、背後の無防備な町民たちが枷になっていた。もしも我々が迎撃に失敗すれば、逃げられない彼らに甚大な被害が及んでしまう。

 

 凄まじいプレッシャーに冷や汗が止まらなかった。

 

「なんて奴だ……! キャプテンの身でありながら、島民を危険に晒すとは!」

 

 そう詰っても、ウキビは素知らぬ顔で、

 

「貴様らが大人しく投降すれば済む話だ」

 

 などと嘯いている。

 

 畳み掛けてこないのも、こちらを消耗させる腹積もりだろう。いつ、どんな技が飛んでくるか分からないほうが振り回せると踏んでいる。

 そしてそれは正しい。終わりの見えない攻防にポケモン達がみるみる疲弊してきていた。

 クチナシのほうはまだ何体か控えがいるが、私の手持ちはグレッグル一体のみである。このまま防戦一方の戦いを続けていれば、いずれ相棒が力尽き、戦線が崩壊するのは必至であった。

 

 同僚を横目で見やる。

 国際警察のなかでも優れたバトルの才覚を見込まれ、いまなおその手腕を磨いているクチナシがこうも攻めあぐねているのは、アブソルのスピードスターを反射させたリングのことが頭から離れないからだ。

 

(あのリングはなんなんだ。そもそも、この厄介なキャプテンをいったいどうやって突破すればいいんだ……!!)

 

 私はじりじりしながらウキビを睨みあげた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

(さあて、どうすっかねえ)

 

 フワライドによる何度目かの妖しい風をサイコカッターで斬り払いつつ、クチナシは思案していた。

 

 こうやってウキビがダラダラと戦闘を長引かせているのは、明らかに足止めを目論んでいるからだろう。

 ポータウンに居るはずのクイーンが逃げる時間を確保したいのか、それとも他に目的があるのか。

 いずれにせよ、ろくでもないことだけは確かだ。

 

 疲れてきたアブソルをひっこめ、ワルビルに代える。

 砂鰐の威嚇に、風船おばけがほんの少し怯んだ様子を見せた。

 

(キャプテンは屑だが、このポケモンたちに罪はねえ。

 あまり手荒なことはしたくなかったが、そうも言ってられんわな)

 

 左手に巻いたZリングに指を這わす。

 胸の前で両腕を交差させた。

 

「アンタから譲り受けたリング、使わせてもらうぜ、ハラさんよ」

 

 口中で呟くや、クチナシは静かに舞いはじめた。

 

 舞を見ていたウキビが瞠目する。慌ててフワライドに指示を下したが、一手、遅かった。

 

 

「気張れよワルビル。

 

ブラックホールイクリプスだ!

 

 

 頭上に漆黒のエネルギー波が凝縮し、一塊の弾と化す。弾はゆっくりと、無慈悲なスピードでウキビに迫った。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

(かかった!)

 

 ウキビは密かにほくそ笑んだ。

 相手が焦れて大技を繰り出す瞬間を、いまかいまかと待っていたのだ。

 あれをそのまま返してやれば、全員ひとたまりもないだろう。

 

 後ろ手に隠していた壺を胸の前に掲げる。

 偉大なるクイーンがどこからともなく手に入れてきたこの幻の壺こそが、ウキビの切り札であった。

 

「出でよフーパ!

 貴様の力であいつらを粉砕せしめるのだ!」

 

 固く戒められていた封印を解こうとした刹那。

 ウキビ自身の影から湧き出たヤミラミが、いとも容易く壺を叩き落とした。

 

「はっ?」

 

 呆然とするウキビの前で、ヤミラミはニヤニヤしながら影に沈んでいく。

 壺は無情にも重力に従って落下していき、トレンチコートを着た男の足元まで転がっていった。

 

「か、返……!」

 

 ウキビが手を伸ばすのと、銀髪の男が放ったZ技が炸裂するのは、ほとんど同時だった。

 

 

どごぉおおおん!

 

 

 爆音が、ポータウン中に轟いた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 とんでもない轟音に桃野郎も俺たちも硬直した。

 

(なんだ今の音!?

 クチナシさんたちは無事なのか!?)

 

 確かめようと目を逸らしかけた俺を、竹子が諌めた。

 

「かがよふ!」

 

 その声に振り向くより早く、俺の腕に紫色の鎖が巻きついた。途端に、激痛が全神経を支配する。

 

「が……っ!!」

「モモワゥ!」

 

 桃野郎がにんまりした。腕はどんどん変色し、ぶくぶくに膨れ上がっていく。

 やっぱり猛毒の鎖だった。はやく対処しなければ、すぐに腐り落ちるだろう。

 

 ────けれど。

 

 痛みに呻きながら、俺も笑った。

 

「いーのかなー? こうして俺を捕まえてる間は、お前も逃げらんねえんだぜ?」

「モ…………っ?」

 

 桃野郎が青ざめ、鎖を離そうとするのを握りこんで遮った。

 

「やれ! レヴィ!」

「げるるるるるるぁ!」

 

 空高く飛ばせていたレヴィが、一条の矢となって急降下する。全身全霊の力を込めたブレイブバードは見事桃野郎に命中し、ちょうど真下にあった1番大きな屋敷まで叩きこんだ。

 

 数秒注視してみたが、動きはない。気絶したようだ。

 

「あぐぅ……っ」

 

 痛みにたまりかねて竹筒に突っ伏す。無事な方の手でリュックをまさぐり、破魔瓢箪(はまびょうたん)を取り出すと、震えながら一気に呷った。

 喉が潤されるごとに、右腕から毒素が抜けていく。レヴィが俺のそばに飛んでくる頃には、血色も戻り、やや痺れる程度にまで回復していた。

 

「やっぱすげーなこの瓢箪」

 

 手を何度か握ったり開いたりして感覚を確かめる。

 うん、ちゃんと動く。

 

「竹子もレヴィもよくやってくれた。もうひと踏ん張りしてくれるか?」

「よふ」

「んげ」

「うし。いくぞ」

 

 桃野郎が墜落した屋敷の前に降り立つ。

 飛んでる最中に見た限りでは、クチナシさんたちの方も決着がついたみたいだ。住民たちの安全が確保でき次第、駆けつけてくるだろう。

 

 目の前の扉を見上げる。

 仰々しく飾られた豪奢な門だ。

 ポータウンの民家がごく素朴な造りであることを思うと、実に真逆をいく意匠である。

 

 会ったこともないクイーンの人柄がわかる気がした。

 

「露払いは済ませときますかね、っと」

 

 俺は、ノックもせず扉を開いた。

 

 

 

 

 




というわけで27話。
クイーンでてこないやんけ!
いやほんと申し訳ない(土下座)。
次こそ!次こそ出てきますので!
グロリアファンのみんなは待っていてくれよな!

またまたゴーストタイプの設定でてきましたけど、安心してください。捏造です。
アニポケなんかでゴーストポケモンたちが透明になったり現れたりする様子に何かしらの説明をつけたくて捏ねました。あと格闘技が無効なことに対するアンサーを自分なりに書いてみたかった、というのもあります。お気に召していただけたら幸いです。
ノーマルタイプに相互無効なのは……なんなんだろネ(考えるの諦めた顔)

よければ感想高評価おなしゃす!
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