ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第3話 味方を募れ。

 

 

 

 

「神に(まみ)える方法を教えてくれ……ですって?」

 

 言いながら、教授は背もたれに身を預けた。

 俺を睨めあげる眼差しは、触れれば切れるような鋭い光を帯びている。

 

 アルセウス────それはただのポケモンじゃない。

 この世界そのものを創造したと云われる、まさに神の領域にいる存在だ。

 そしてこの人は、そんなアルセウスを心から崇めている。狂信的といってもいいほどに。

 オタク的に言うなら同担拒否というやつで、みだりにその名を口にするだけでも彼の逆鱗に触れてしまうのだ。

 

 だが、そんなことは全部承知でここに来た。

 

 かけられた()()を解いてもらうために。

 押しつけられた"役割"から解放してもらうために。

 なんとしても、手がかりを掴まなきゃならない。

 

 挫けそうになる意気を根性で奮い立たせ、頷いた。

 

「はい。どうしても会いたいんです。

 ですからどうか、どうかお願いします」

「────ふん」

 

 頭を下げる俺に目もくれず、肘掛を指で叩いている。

 きっかり10秒置いてから、アカデミーいちの麗人が口を開いた。

 

「教えてあげてもいいですよ」

「…………!」

「ただし」

 

 美しい指が突きつけられた。

 

「まずは貴方から語りなさい。

 あの方との謁見を望む、その訳を」

 

 教授が纏う怒気はまだ消えちゃいないが、ひとまず会話は許してくれるらしい。

 第一関門突破、ってところか。

 俺は安堵のあまりへたりこみそうになるのを堪えながら、フレンドボールのスイッチを押した。

 ヤミカラスが飛び出してくる。

 

 訝しげに眉を顰める教授に目配せした。

 

「最初に、こいつの正体から説明します。

 ……ルギア(レヴィ)、変身を解いてくれ」

「げうる」

 

 ヤミカラスの軀が光に包まれる。真の姿が現れた時、教授の目が今まで見たこともないくらい大きく見開かれた。

 

「な……! ルギアの、幼体……!?」

「はい。3ヶ月前のある日、こいつがアパートの窓にぶつかってから……俺の人生は変わったんです」

 

 レヴィは相槌のつもりか「げる」と喉を鳴らし、俺のシャツの裾を啄んだ。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ところどころを端折りつつ、それでも俺の身に起こった事件のほとんどを語った。

 

 擂鉢山でロケット団に殺されかけたこと。

 ホウエンで見つけた化石を復元中にロケット団がデボンを襲撃し、それを撃退したこと。

 ガラルで"拳王"マスタードさんに稽古をつけてもらったこと。

 イッシュのチャンピオン・アデクさんと海底神殿を探索している最中、謎の声がして、俺がルギアを導くために選ばれた人間であり、かつ呪われていると知ったこと。

 

 最後の辺りでレホールさんが待ったをかけた。

 

「謎の声?」

「突然、頭の中に知らない声がしたんです。人の言葉を喋ってはいるけど、明らかにヒトではない何かでした。そしたら急に意識を失って、夢の中で説かれました」

「夢で声の主は現れたか?」

「いいえ。向こうは最初から最後まで姿を見せませんでした。でもその声は最後に、"我は全ての始まり、始祖たるもの"だと名乗ったんです。

 そんなことが言えるのは……」

「……()()()()をおいて他にありませんね」

 

 教授が低く呟く。

 彼はけしてアルセウスの名を呼ばない。人間ごときがその名を口にするのは死に値する大罪であり、不敬だと思っているからだ。

 

「呪われていると言いましたが、どんな呪いですか?」

 

 これは説明するより実践した方が早いだろう。

 折り畳みナイフを取り出すと、素早く己の腕を切りつけた。レホールさんが肩を強ばらせ、教授の眉間に皺が寄る。しかし、確かに切り裂いたはずの傷口がみるみる塞がっていくのを見て、2人とも完全に度を失った。

 

「こんな感じです。(アルセウス)は、老いず、病まず、衰えぬ軀になっていると云ってました」

「不老不死、ということか……?」

「たぶん」

 

 俺の返事に、レホール先輩は沈痛な面持ちで項垂れた。

 ナイフを仕舞い、説明を続ける。

 

「ほんとに死ねないのか、色々試しました。

 火に飛び込んだり、水の中にずっと潜ってみたり、首を吊ってみたり…………そのどれも失敗しましたし、傷1つ残っちゃいません」

 

 俺はひたと教授を見つめた。

 教授はすっかり顔色をなくしていた。

 

「教授。俺は人として生き、人として死にたいんです。

 こんな身体は要らない。寿命も人並みに戻して欲しい。

 だから、アルセウスに会いたいんです」

 

 研究室はしんと静まり返った。

 誰も、こそとも音を立てない。

 

 ────やがて、教授がゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「そういうことなら、協力しないわけにいきませんね」

 

 普段の軽快さが欠片もない、真剣な声音だった。

 つと立ち上がり、一冊の本を俺に差し出す。タイトルには、《四柱の産土神》と記されていた。

 

「これは……?」

「アローラの土地神について纏められた本です。あなたはまず、彼の地に向かいなさい。そこで一柱でも多く土地神を味方につけるのです」

「…………?」

 

 教授の言わんとするところがよく分からない。

 戸惑う俺にレホール先輩が補足してくれた。

 

「要は、神への対抗手段を持てということだ。仮にも相手は万物の創造主だぞ、生半可なパーティでは役に立たん。存在が確認されている伝説ポケモンのうち、生息域が明確に判明している個体だけでも引き連れていけば、まあ何かの足しにはなるだろう……ということさ」

「なるほど」

 

 そこまで言われてようやく俺も理解した。

 雛のルギアですら恐ろしいパワーを有しているのだ、アルセウスともなれば一体どれほどの力を持っているか想像もつかない。強力な手勢を揃えておいて損は無いだろう。

 

 教授が言った。

 

「土地神を捕獲したら連絡なさい。そのあいだ、私もあの方と邂逅できる手段を探しておきますから」

「わかりました。ありがとうございます、教授。よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げ、研究室を後にする。

 

「アローラ、か」

 

 観光業が盛んな地方で、なんとジムもポケモンリーグもないという。

 それはすなわち、土地神捕獲策戦に援助は期待できないことを意味するが、まあ仕方ない。当たって砕けろ、なるようになれだ。

 

「アデクさんの考え方が伝染ったかな」

 

 苦笑しながら、荷造りのためアパートへの道を急いだ。

 

 

 

 

 


 

■教授

古代神話研究の第一人者。アルセウス過激派同担拒否勢。顔はいいが胡散臭い。ファンクラブとアンチクラブが同じ数だけ存在する。

 

 

 

 




というわけで第3話。
シンオウではなくアローラへ出発します。
せっかくだから行ってない地方書きたくて……
アローラでは誰を出しましょうかねえ。

作中でレホールさんがカプたちのことを伝説ポケモンといってますが、この世界では伝説、準伝の区分がまだ曖昧です。
仮にも土地神なので伝説クラスとするべきだとする派閥と、準伝説クラスが妥当だとする派閥があるんだとか。難しいね。

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