ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第30話 戦闘・グロリア⑵

 

 

 

「カブルー、カブルー!

 いやだ、しっかりしてくれ、カブルーッ!」

 

 赤い海に横たわるカブトプス(カブルー)に駆け寄り、必死に呼びかけても、相棒は不気味なほど沈黙していた。

 

 周りの床はカブルーから剥がれ落ちた岩殻と、砕けた大理石、そして粘つく血で汚れ尽くしている。

 わななく手で肩先に触れると、信じられないくらい冷たかった。

 

「カブルー…………!」

 

 もはや、俺の心臓は爆発寸前だった。脈を打ちすぎて胸を突き破っていないのが不思議なくらいだ。上手く呼吸ができなくて、指先が馬鹿みたいに震えている。

 

 うつ伏せに倒れたカブルーの背中には、ぽっかりと虚ろな穴が開き、次から次へと真っ赤な血を溢れさせていた。

 それを見て、喘鳴にも似た、ヒューッと細い息が漏れる。もう一度声をかけようとしても、まともな音にならなかった。

 

 ─────死ぬ。カブルーが。

 

 悟った瞬間、氷よりも冷たい絶望が俺を襲った。

 5歳の頃から共に過ごした歳月が目まぐるしいスピードで脳裏を過ぎる。

 そんな自分が信じられなくて、目の前の事実を信じたくなくて、狂ったように頭を振った。

 

 やめろ、やめろよ。

 こんな思い出し方、走馬灯みたいじゃないか。

 カブルーは死なない! 死んでない! 

 死ぬわけないんだ、コイツが! 

 だってずっと一緒に居たんだから! 

 

「ああっ、うぅううう!」

 

 意味のない言葉を喚き散らしながらカブルーを抱き起こす。がっくりと項垂れる顔は、まるで生気がなかった。

 

「オホホホホ! いいわその顔! 惨めったらしくてとっても素敵! 血に塗れればなお最高ね! スピアー!」

 

 女王が嘲笑いながら命じると、片腕を捥がれたスピアーが残った針をギラつかせた。俺の周囲を高速で飛び回り、死なない程度に突き刺してくる。

 俺はこれ以上カブルーが傷つかないよう、我が身を盾にして覆い被さった。

 無防備な背中に、腿に、脚に、身体中至るところに鋭い痛みが走る。

 スピアーの嬲りは止むことを知らず、床に広がる紅に俺の血が混ざっていった。

 

「アシタバくん!」

『やめろ馬鹿者! 死にたいのか!』

 

 ハンサムさんとクチート(ヘリオドール)の声が聞こえるが、何を言っているのか、麻痺した頭では理解できなかった。

 

「目を覚ましてくれ、カブルー……!」

 

 泣きじゃくりながら呻いたその時。

 

 

 カブルーの両眼が開かれた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 気がつくと、白い場所にいた。

 上も下もない、あたたかくて明るいところだった。

 

 声がした。

 

 高くか細い声だった。

 

 長い眠りから覚めて、ぼうっとする視界に小さないのちが飛びこんできた。

 

「はじめまして、ぼく、アシタバ!」

 

 瞳をキラキラさせながら、いのちは名乗りをあげた。

 いのちは主となり、主は(わたし)をカブルーと呼んだ。

 

 ────ああ、懐かしや。

 

 主の幼き頃を思い出すなど、幾年ぶりか。

 感慨に耽りながら、舞いこんでくる記憶を辿る。

 

 いつも一緒だった。

 いつでも共に居た。

 仲間が増えてもそれは変わらない。

 

 幸せだった。

 この上もなく。

 

 我にとって、主と出逢えたことが、最も幸福な出来事であろう。

 

 しかし、幸せな記憶はにわかに鳴りを潜め、辛い記憶が増えだした。

 呪われた体で捨て鉢に生きるようになった主が、とめどなく流れてくる。

 我はおもわず目を逸らした。

 

 主がこんな無茶をするのも、ひとえに我が弱いせいだ。

 

 ────力が欲しい。圧倒的な力が。

 

 そうすれば、主を護れるのに。

 

 段々世界が暗くなっていく。

 寒くなってきたようだ。

 

 不意に気づいた。

 我はいま、死にかけているのではあるまいか? 

 敵地の真っ只中に、主を残して。

 

 ────待ってくれ。いますこし。

 

 慌てても、懇願しても、空間はいよいよ闇に近づいていく。体はぴくりとも動かない。

 

 これでお終いか。

 我の生は、こんなところで途切れてしまうのか。

 いやだ、嫌だ。

 主と離れたくない。

 まだ生きていたい! 

 

 漆黒の中、懸命に足掻いた。

 するとそこへ、白い影が現れ、告げた。

 

 

「覚えたるか? そなたの真の姿を」

 

「遥かな昔。古の時代。

 海も山も貴様の支配下にあったのだ」

 

「原始の力を、取り戻すがいい」

 

「さあ、甦れ」

 

 

 白い影が我の口に触れ、中に滑りこんでくる。

 

 

 素晴らしく芳しい味に、我は、覚醒した。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ヘリオドールはもどかしさに身が引き裂かれそうだった。

 

 アシタバ(あの阿呆)はあろうことか、敵の面前で背中を晒しはじめたではないか。相手がその気になれば容易く殺せる体勢である。致命傷を負ったカブルーが心配だというならボールにでも入れればいいものを、それすら思いつかないほど混乱しているらしい。

 

 ────なんなんだアイツは!?

 イカれた自殺志願者なのか?! 

 

 歯軋りしながら飛び退く。一瞬遅れて、さっきまでヘリオドールの居た場所にシャドーボールが炸裂した。

 

『キビ、キビ』

『鬱陶しいな貴様も……!』

 

 操られたサーフゴーを睨みつける。

 

 まったく、こいつの存在も度し難い。

 さっさと気絶させてやろうと目論んでいたが、まともに殴れたのは最初の1発だけ、あとはのらくらと距離を取られ、絶妙に躱しにくい攻撃をいやらしいタイミングで叩きこんでくる。

 おかげでいつまで経っても阿呆の加勢に行けやしない。

 

 ────クソっ。

 私が行けばあんな奴ら瞬殺できるものを! 

 

 苛立ちながら横目でアシタバを見やったヘリオドールは、おもわず棒立ちになった。

 

 いままさに命の灯火が尽きようとしていたカブルーが、やおら起き上がり、全身を光らせていたからだ。

 あの現象には見覚えがある。洞窟時代、稽古をつけてやったズバットやイシツブテたちが()()なるのを何度も見てきた。

 

 人間の言う進化というものだろう。

 だが、あれほどの境地に達していながら、まだ進化の余地があったのか? 

 

 …………いや。

 

「か、カブルー……?」

 

 傍らのアシタバが呆然としているところから察するに、本来あり得べからざる事態らしい。

 

 光は繭のようにカブルーを包み、唐突に弾けた。

 中から現れた姿に、その場の全員が絶句した。

 

 そこに居たのは、異形としか言いようのない生き物だった。

 

 体側から6本の腕が伸び、その全てに禍々しい鎌が生えている。

 躰は限界まで細く尖り、骨格標本がそのまま動いているかのようだ。

 腕ばかりがヒョロヒョロと長い風貌は、どことなく蟲を連想させた。

 

「……おまえ……カブルー、なのか」

 

 アシタバが恐る恐る問いかけると、カブルーは振り向き、応諾を表す所作ではなく、低い唸り声で応えた。

 

 ────違う。

 

 ヘリオドールは直感した。

 

 ()()は、似て非なるモノだ。

 カブルー殿が、あんな態度をとるものか。

 

『アシタバ! 離れろ!』

 

 ヘリオドールが叫ぶのと前後してカブルーが跳躍した。

 

「ぎしゅるるるるるぁ!!」

 

 口角泡を飛ばして咆哮しながらスピアーに迫る。

 空を飛べる相手に対して、カブルーの勢いは尋常のものではなかった。百戦錬磨のヘリオドールの眼をもってしても残像を追うのが精一杯で、敵はまったく反応できないまま、がら空きの胴を横なぎに斬り捨てられた。

 

 カブルーは力なく落ちていく獲物に目もくれず、天井を蹴ってエンニュートに肉薄する。

 

「っ、エンニュート!」

 

 間一髪、エンニュートが火炎放射を放ったが、電光石火の刃は火焔すら刻んでみせた。

 再び光芒が閃き、雌火蜥蜴も地に伏せる。

 

 手持ちを2体、瞬く間に叩きのめされ、さしものクイーンも色を失った。

 

「なっ、なんてこと……!」

 

 周章狼狽する女へ、カブルーが無造作に距離を詰める。

 ウツロイドが間に入ろうとしていたが、赤い益荒男が「バルバルク!」と筋肉を膨らませて立ち塞がった。

 

 助けが来ないと悟った途端、クイーンは哀れな悲鳴をあげながら逃げをうった。

 その背中を、おぞましい鎌が容赦なく斬りつける。

 

 階段に赤い飛沫が散った。

 

「ひ、ひぃいいいっ」

「やめろカブルー! やめるんだ!」

 

 斬られた当人よりもずっと悲痛な声でアシタバが制止したが、カブルーの凶行は止まらない。

 

 事ここに至って、ようやくボールを思い出したらしいアシタバが、緑のボールを突きつけた。

 

「もういい! 戻れ、カブルー!」

 

 赤い光線が飛ぶ。あれに当たれば収納されることを、ヘリオドールは知っている。

 だがカブルーは振り返りもせず、無造作に腕を振るい、光線を断ち切った。

 

「…………っ!?」

 

 アシタバは愕然とした面持ちでカブルーを見つめた。

 炎といいビームといい、無形のものすら刻む刃。普段の温厚さからは想像もつかない残虐性。変わり果てた容姿。

 なにもかも記憶とかけ離れた相棒の有り様に言葉もでない。

 

 ひいひいと階段を這いずる女を足蹴にし、カブルーが高々と刃を掲げた。

 純然たる殺意が膨れ上がる。

 

 殺す気だ。

 

 アシタバが、絶叫するより早く。

 ヘリオドールのすぐそばを、コインの弾が疾駆した。

 

 金色の弾丸は過たずカブルーの後頭部に命中し、殺戮をすんでのところで止めさせた。

 

『…………マスターを悲しませちゃダメだヨ、リーダー』

 

 相変わらず、足元はふらついていたけれど。

 人差し指を突きつけながら、サーフゴーがにっこりと笑っていた。

 

 

 

 




というわけで30話。

カブルー覚醒回。
オリジナルメガ進化書きたいなーとはずっと思ってたんですが、ようやくお披露目にこぎつけました。
正確にはメガ進化ではないので、そこらへんの説明はおいおい本編でやっていければな、と。

よければ感想高評価おなしゃす!!
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