ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第32話 言うべきことと聞くべきこと。

 

 

 

 

 明け方にマリエシティのポケモンセンターに辿り着いた俺は、手持ちを預け、おざなりにシャワーを浴びると水滴もそのままにベッドへダイブし、夢もみず眠りこけた。

 

 起きた時には朝も昼も夕方も過ぎ去って、夜の8時を回っていた。およそ14時間寝続けた計算になるが、恐ろしいことに、それだけ寝てもまだ寝足りなかった。

 ライチュウが電気ショックを浴びせてこなければ、そのままいつまでだって布団に潜り込んでいただろう。

 

「あいでぇっ!?」

 

 鮮烈な痛みに顔を顰め、ベッドから跳ね起きると、ライチュウが「ぢぁ」とぶっきらぼうに鳴いた。せっかくジョーイさんと同じピンク調の制服を着ているのに、ふてぶてしい眼差しと態度が全てを台無しにしている。

 

 おまえ、愛くるしいポケモンの代表格なんだぞ。子供が見たら泣くぞ。

 

「それにもうちょっとさあ、優しい起こし方があるだろ」

「ぢっ」

 

 ライチュウと益体もないやり取りを交わしていると、廊下の方からいい匂いが漂ってきた。

 途端、猛烈な空腹が意識の大半を支配する。

 

「何はともあれ飯だ飯!」

 

 ライチュウに案内されて食堂へ向かう。

 席には、ジョーイさんの他に俺の手持ちも全員着席し、それぞれの好物を貪っていた。

 他のトレーナーは見当たらなかった。

 

『マスターっ!』

 

 びょん! と勢いも凄まじく抱きついてきたのはサーフゴー(フーゴ)だ。クイーンに操られていたときの毒はもうすっかり抜けたようで、いつもの道化に戻っている。

 

『ずっと起きてこないから心配したヨ! フーゴとっても寂しかっタ! このまま目覚めないならいっそ幽霊にしちゃおうかと思ったヨ!』

「それがゴーストジョークであることを願うよ俺は」

 

 ジョーイさんが太陽のような笑みでカブトプス(カブルー)の隣の椅子を引いてくれた。ありがたく着席する。

 

「どこか痛むところはない? 食欲はある?」

「もーぺこぺこっす。特に不調はないっすね!」

 

 給仕係のラッキーが、おかずもご飯もモリモリによそってくれた。湯気を立てるハンバーグとエビフライにかぶりつく。涙が出るほど美味かった。

 

 ある程度食べると空腹も落ち着いて、辺りを見回す余裕ができたが、信じられない光景に目を見開いた。

 あれだけバチバチにやり合っていたヌメラ(メルティ)とオーガポンが実にお行儀よく並んで座っているではないか。

 このふたりが顔を合わせないよう極力気を使っていたというのに、一体どうしたことだろう。

 

 目を白黒させていると、メルティたちの真向かいにクチート(ヘリオドール)が座っているのに気がついた。

 どうもふたりはヘリオドールを畏れているらしく、互いのことなどそっちのけで彼女の一挙手一投足に全神経を注いでいる。

 

 俺の視線に気づいた女傑が、ニヤリと笑った。

 

『なに。暴れたそうにしていたお嬢さんたちに()()()()をしただけだ』

『すごかったですぞぉ〜! ヌメラ殿とオーガポン殿を手玉にとって完封してましたからな。さしものおふたりもああまでフルボッコにされてはクチート殿を認めないわけにいかなかったんでしょうぞ!

 いやはや流石のお強さ! いよっ、お大尽!』

「ポケモンの世界じゃ、強さがそのまま序列となりますからね」

 

 サマヨールの語りにアクロマさんが相槌を打つ。

 

「…………って、アクロマさん!? なんでここに!」

 

 俺は仰け反らんばかりに驚いた。

 ヘリオドールの付き人っぽいサマヨールの隣に、なぜかアクロマさんがさも当たり前の顔をして陣取っていたのだ。彼は一足先に食事を終わらせたらしく、コーヒーを啜っていた。

 

友人(クチートさん)の姿を見かけたもので。ジョーイさんに頼んだら快くディナーに加えていただけました」

「ご飯はみんなで食べた方が美味しいものね」

 

 女神の笑顔が眩しい。

 同感ですジョーイさん。

 でもよくこんな得体の知れない人迎えましたね。

 

(Zリングをくれた恩を差し引いても、なんかめちゃくちゃ胡散臭いんだよなこの人…………)

 

 無礼極まりない感想を面に出さないようにしつつ横目で見ていると、当の本人がくるりと振り向き、正面から俺を見つめてきた。

 間近に顔を寄せ、低い声で囁いてくる。

 

「聞きましたよアシタバさん」

「な、なにがっすか」

「ヌメラがいきなり進化された、と」

「────!」

 

 フォークを握る手がぴくりと揺れた。

 

「突然ヌメルゴン(最終形態)にまで進化して、再びヌメラに戻ったそうじゃないですか。いや実に興味深い。古今東西、己の力で進化を自在に操るポケモンは、議論の俎上にあがることはあっても実在しませんでしたからねえ。もしもあなたの手持ちがそんな能力を宿したならば、ぜひとも研究させて頂きたいものです」

 

 眼鏡の奥の瞳が爛々と光っている。

 

 この目、始祖神(アルセウス)について語るときの教授そっくりだ。

 いわゆるガンギマリフェイスってやつ。

 

 話すべきか? 

 シェードジャングルでの一件を。

 この人は確か、ポケモンの限界を超越する手段や要素について研究していたはず。

 彼の知見を聞ければ、メルティの突然変異(メタモルフォス)が解明できるかもしれない。

 

 

 もしかすれば、カブルーのあの形態すらも。

 

 

 6本の腕。

 研ぎ澄まされた肢体。

 圧倒的な狂暴さ。

 

 5歳の頃から13年も一緒にいたカブルーがあんな姿になるなんて夢にも思わなかった。

 持って生まれた能力が突然開花した……とは考えにくい。ああなった原因が何かあるはずだ。

 

 考慮すべきは、メルティもカブルーも、変異の直前に俺の血を浴びているという点である。

 無関係ではないだろう。

 なにしろ俺は不老不死になってしまっているのだから、血ひとつとっても異常な作用があるんじゃなかろうか。

 

(でもそれを打ち明けると…………)

 

 アクロマさんの視線に晒されながら、俺は目を伏せた。

 俺の血──というか躰が特異なものであると明かせば、()()なった経緯まで語ることになるのは必定だ。

 クチナシさんにも必死に隠し通した秘密を軽々しく話すのは憚られた。

 

 とはいえ、情報は欲しい。

 逡巡した末、俺はカマをかけることにした。

 

「アクロマさん。さっきあなた、()()()()進化を自在に操るポケモンはいないって言いましたよね」

「ええ、言いましたね」

「その言い方だと、進化を自在にできる道具なり技術なりはあるってことですか?」

「ほう!」

 

 アクロマさんの双眸がキラッと輝いた。

 

「私の一言でそこに気づくとは!

 あなた中々に鋭いですね」

「……どーも」

 

(こんにゃろ、俺のことバカだと思ってやがったな)

 

 ポケモンを進化させる道具は枚挙に暇がない。

 近年では、各種進化の石やメタルコートなど、デパートで買える地方も増えてきた。

 いうまでもなく、これらを使った進化は不可逆のものであり、いちど進化させてしまえばもう元には戻れない。

 

 ところがさっきの彼の言いぶりは、進化も退化も任意に行える道具がある、というふうに聞こえたのだ。

 

 アクロマさんはニコニコしながら、形のいい人差し指を1本立てた。

 

「カロス地方において研究が盛んな分野がありましてね。メガ進化術と言うのですが、聞き覚えは?」

「メガ進化…………いや、ないっすね」

「そうでしょう。師から弟子へのみ受け継がれる門外不出の秘法ですからね」

「どんな進化なんです?」

「わたしもまだ見れたわけではありませんが、噂によると、特殊な珠をポケモンとトレーナーに持たせ、絆を繋ぐことでその境地に到れる場合があるんだそうです」

「? その珠さえあれば必ずできるわけじゃないんすか? Zワザみたいに」

 

 Zワザは、トレーナーがZリングを身につけ、クリスタルを嵌めこみ、ポケモンに同じクリスタルを持たせ、特定の舞を踊ることで発動する。

 条件が多い分、それさえ踏まえれば誰でも扱えてしまう力だから、島めぐりで素質を改め、キングたちから教えを授かるというステップが必要なわけだ。

 

 ところがアクロマさんの言によると、メガ進化にはキーストーンとメガストーンの2つの珠が必要で、それぞれをポケモンとトレーナーに持たせるわけだが、ただ所持しただけでは発動しえないらしい。

 

「むしろ、発動させられる者のほうが稀だそうですよ」

 

 空になったコーヒーカップを押しのけ、アクロマさんの声に熱が帯びてきた。

 

「選ばれし者が弛まぬ努力の果てに真髄を掴んで初めて発動しうるそうですから、アシタバさんほどの方でも修得にはさぞ苦労なさるかと」

 

 俺ほどの、と持ち上げられると面映ゆい。

 そんな価値あるトレーナーじゃねえぞ。

 

「ちなみに、歴代のメガ進化修得ポケモンには2つ、特徴がございます」

 

 アクロマさんが今度はピースサインを作った。

 

「まず1つ目は、メガ進化すると姿かたちが大幅に変わる点です。そのポケモンの最も強い能力や部位が強化されると聞いています」

「…………ふむ」

 

 メルティとカブルーの姿を思い出す。

 メルティは背中に鋼の殻を背負ったし、カブルーは6本の鎌が生えた。

 ヌメラ族は体表に滲む粘液の濃度と硬度を操ることで知られるから、それが大量に分泌、凝縮して殻になったのだとすれば分からなくもない。

 カブルーに至ってはもっと単純で、長く鋭い鎌が唯一最大の武器なのだから、それが増えたわけだ。

 

「2つ目は、強すぎるエネルギーに他でもない本人が苦しめられる点です。記録によると、湧いてくる力を抑えきれずに町を焼き尽くした例もあるとか」

「…………!」

 

 たしかに、ポータウンの屋敷で暴れたカブルーは、異常なまでに迅く、強かったけれども、その力に苦しんでいるようにも見えた。

 

 知らず、拳に力が篭もる。

 

 

(メガ進化……カロス地方、か)

 

 

 次に俺が行くべき場所が、わかった気がした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 食事を済ませ、片付けも終えた俺は、なんとなく外に出てみた。

 首筋を撫でる夜風が心地いい。

 寄せては返す渚の音を聞くともなしに聞いていると、砂浜にぽつねんと座る影を見つけた。

 

「…………」

 

 ゆっくりと近づき、傍らに腰を下ろす。

 影はこちらを一瞥し、また海に視線を向けた。

 

「────この数日、色々あったな」

 

 影が頷く。

 そっと背中に手を回し、軽く抱き寄せた。

 

「腹、痛くないか?」

 

 影はもう一度頷いた。

 食事中、ずっと気になっていたのだ。

 普段美味そうに食べる固形物に一切口をつけず、野菜のポタージュばかりをゆっくり飲んでいたから。

 ひょっとして、食べたくても食べられないんじゃないかと心配で堪らなかった。

 

 ジョーイさんにそれとなく聞いたら、ポケモンは生来、自分がいま摂るべきものをきちんと選ぶことができる生き物だから心配は要らない、きっといまはああいうものが食べたいんだろう、と言っていた。

 

 スピアーに貫かれた腹はいつのまにか塞がっていたけれど、やっぱりノーダメってわけにはいかなかったんだな。

 

「カブルー」

 

 呼びかけに、影──カブルーが振り向いた。

 

「お前がさ、俺を庇って刺された時、血の気が引いたよ。生きた心地がしなかった」

「…………ぎしゅ」

「いっぱい血が流れてて、このまま死んじゃうんじゃないかって、頭がおかしくなりそうだった」

「…………」

「あんな思いを、俺はいっぱいお前にさせてきたんだな」

「…………!」

 

 俯いていたカブルーが弾かれたように面をあげる。

 俺は、額と額をこつんと合わせた。

 

「ごめんな。俺、不死身になってからヤケになってたみたいだ。瓢箪もあるし、どーせすぐ治るからって無茶ばっかしてた。でも、そういうことじゃなかったんだな」

 

 両目から熱いものが吹きこぼれてくる。

 止めようとしても止められない。

 俺のバカさ加減と、相棒が生きていてくれている安堵が綯い交ぜになって、名状しがたい感情で胸がいっぱいになっていった。

 

「ごめん。ごめんなぁ。

 俺、お前を何度も悲しませてた…………」

「ぎしゅ」

 

 カブルーの両腕が背中に回る。

 あたたかい雫が肩を濡らした。

 

 ひとしきり泣いてから、カブルーに誓った。

 

「俺、もう二度と命を粗末にしない。

 カブルーを泣かせるようなマネはしない。

 約束する」

「ぎしゅ」

 

 カブルーは嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

 ふたりのやり取りをヤシの木陰から眺めていたヘリオドールがふんと鼻を鳴らした。

 

「世話の焼ける連中だ」

「まったくですなぁ」

 

 サマヨールが然りと首肯する。

 

「────ちなみに、アシタバ殿が()()しなかった場合はなにかプランがあったので?」

「決まってるだろ」

 

 大顎をがちりと鳴らし、ヘリオドールは事も無げに言った。

 

「詫びを入れるまでしばき倒すだけだ」

「うぅーん、The☆シンプル! しびあこですなぁ」

「しび……なんだと?」

「ああいえいえ、お構いなく」

 

 サマヨールがぱたぱたと両手を振るう。

 ヘリオドールは再び鼻を鳴らした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 翌朝。

 すっきりと目覚めた俺がみんなと朝食をとっていると、クチナシさんとハンサムさんが窶れた貌で現れた。

 どうやらポータウンの件でろくに眠れないまま駆けずり回っているらしい。

 

 2人は、俺の知らない人を案内してきた。

 褐色の肌にがっしりした身体つき。足の運び方からして、何かの格闘技をやっていることが察せられた。

 

「初めまして。アシタバさん、ですな?」

「はい。ええと……?」

「自分はメレメレ島のキング、ハラと申します。これからウラウラのカプ神、カプ・ブルルにお目通りを願うところなのですが、ご一緒しませんかな?」

「……! カプ・ブルル……!」

 

 アローラ四島にそれぞれ住まう精霊神。

 そのうちの一柱たるカプ・ブルルこそ、グロリアをクイーンに任命せしめた張本人だ。

 あんな女をなぜ起用したのか、聞けるものなら聞いてみたい。

 

「ぜひ同行させてください!」

「うむ! では参りましょうぞ!」

 

 ハラさんがのしのしと歩いていく後ろを、小走りで追いかけた。

 

 

 

 

 




というわけで32話。

アシタバ、メガ進化を知るの巻。
前作でメガ進化について知ってる描写書いたっけな〜とうろ覚えで執筆したので、もしも前作と食い違っていたらこそっと教えてください。
サイレント修正しときます(土下座)。

そして遂に、自己反省コマンドを手に入れました。
読者の皆さんに散々突っ込まれた悪癖をようやく自覚した模様。
もう無茶するなよ。

ラストはハラさんの登場。
次回、カプ・ブルルと対面します。

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