ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第33話 カプ神との対話。

 

 

 

 

 アローラの青空を切り裂いて、一体のポケモンが空を飛んでいる。もしも地上から見上げる人がいたら、その異形さに驚いたことだろう。

 なにしろ、巨大な雛人形にも似た造形物が翼もないのに空を飛んでいるのだから。

 

「あそこですな」

 

 俺の後ろで下界を見ていたメレメレ島のキング・ハラさんが指をさす。

 そこには、熱砂に埋もれるようにして古びた遺跡が建っていた。

 

 竹子に降りるよう合図する。

 異世界のポケモンはよふと鳴いて、轟音を響かせながら砂漠に降り立った。

 

「ありがとな、竹子」

「よふふ」

 

 労いに、ボディパージで身を縮めた竹子がニコニコと微笑む。ハラさんが感心しきりに唸った。

 

「よもやウルトラビーストをここまで手懐けるとは。あなたは凄まじいトレーナーのようですな、アシタバ殿」

「殿はやめてくださいよハラさん。

 こいつが人一倍懐っこいだけですって」

「いや、あなただからここまで懐いたのでしょう」

 

 ハラさんはあくまで譲らない。

 そうかなあ。

 俺、とくにコイツに何もしてないんだけど。

 

 トレンチコートに着いた砂をはたきながら、ハンサムさんが言う。

 

「ここが、例の?」

「はい」

 

 ハラさんは頷き、厳かな口調で告げた。

 

「カプ・ブルルの御座(おわ)す《実りの遺跡》ですな」

 

 全員が、黙ったまま遺跡を見つめた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 読者諸君には前にも述べたが、アローラのキングやクイーンは島ごとにカプ神が選定する。

 ハラさんも、メレメレ島の守護神カプ・コケコによって選ばれた。

 

 アローラの人々はみな信仰心が厚く、時に護り、時に試練を与えてくるカプ神を心から畏敬している。故に、カプ神が選んだキングやクイーンを敬うこと甚だしい。

 

「それにしたって限度があるだろ」

 

 出発前、疲れた顔でコーヒーを啜りながらクチナシさんはぼやいた。

 

「いくらクイーンに呼ばれたからって、若い兄ちゃん姉ちゃんたちが1人も帰ってこねえことをおかしいと思わなかったのか? ポータウンの連中は毒で洗脳状態にあったからまだしも、ほかの町の連中は汚染されてたわけじゃねえ。だってのに、どれだけ捜査をしても失踪に関する話は聞けねえときた」

「若者たちに実際に声をかけていたのはキャプテンのウキビ氏のようだが、氏にどれだけ問いかけてもクイーンの影に怯えるばかりでまともな会話ができなくてな…………」

 

 と、これはエネココアを啜るハンサムさんの言だ。

 どうやらクイーンは、あちこちから若者を拐っていたらしい(詳しいことは、捜査上の機密ということで教えて貰えなかった)。

 

 クチナシさんのしつっこい尋問でも分からないというのだから、相当難渋しているんだろう。

 なにが島民の口を重くしているのか、俺たちが首を捻っていると、ハラさんがぼそりと呟いた。

 

「ひょっとすると、島民たちはカプ・ブルルから口止めされているのやもしれませぬな」

「口止め……? カプ神が?」

「守護神ともあろう存在(かた)が犯罪の片棒を担ぐわけは……」

 

 クチナシさんもハンサムさんも、にわかには信じられないという面持ちで反駁すると、ハラさんは渋い顔で、

 

「可能性はある、という話です。

 なぜにカプ・ブルルがそのような振る舞いをしたのか、そもそもなぜ、あの女性(にょしょう)をクイーンに据えたのか。

 肝心なところはなにも分かりませんが、な」

 

 と答え、それきり口を閉ざしてしまった。

 

 たしかに、想像や推測をいくら重ねたところでどうしようもない。

 人間が話してくれないなら、守護神に直接訊くまでだ。

 

 というわけで、俺たちはハイナ砂漠の奥に聳える実りの遺跡までやってきた。

 

 遺跡は均整に整えられた岩を積み重ねて出来ており、入口に扉などはついていない。誰でも入れてしまう造りだが、敬虔なアローラの民なら迂闊には近づかないだろうからこれで充分なんだろう。

 

 ハラさんを先頭に足を踏み入れると、祭壇には清潔な布が敷かれ、花が活けてあった。

 こんな砂漠の奥にまで清める人が来るらしい。

 この一事を見ても、アローラ人の純粋さが分かる。

 

 ハラさんが額づく。俺たちも倣った。

 

「申します、申します。

 ウラウラを守護し、豊穣を約するカプ・ブルルよ。

 メレメレのハラが祈りに、どうかお応えくださいますよう。その御身、拝謁の栄誉を賜らせたまえ」

 

 反応は、すぐに現れた。

 入口──すなわち、俺たちの背後から駆け抜けた一陣の風が頭上に吹き上がり、強い気配を伴って制止した。

 カプ・ブルルが現れたらしい。

 そろそろと頭をもたげた俺は、思いもよらない光景に全身を強ばらせた。

 

 祭壇には、カプ・ブルルだけでなく、全てのカプ神が登壇していたのだ。

 

 常磐の担い手──カプ・ブルル。

 清水の護り手──カプ・レヒレ。

 慈愛の運び手──カプ・テテフ。

 霹靂の遣い手──カプ・コケコ。

 

《四柱の産土神》に記されている神々が、無機質な瞳で俺たちを見据えている。

 

「なんと……!

 よもや皆さま揃っていらっしゃるとは……!」

 

 ハラさんが掠れた声で独りごつ。

 クチナシさんたちも絶句していた。

 

 青い毛並みをひらめかせ、カプ・レヒレが告げる。岩清水のように清らかで、極北の氷よりも冷たい声音だった。

 

『頭が高いのぅ、人の子らよ』

「は、ははっ」

 

 ハラさんが平伏す。勿論俺達もだ。

 人知を超えた存在が放つプレッシャーが、途轍もない重さでのしかかって来る。身体中から汗が噴き出した。

 

『貴様らの罪は重いぞ』

 

 今度は別の声だ。

 方向からして、カプ・テテフの声らしい。

 愛くるしい響きだが、いまは底冷えする怒気に彩られている。

 

『我らが同胞に毒を喰らわせ意のままに操った大罪、万死に値する』

 

 また別の声だ。カプ・コケコのものである。

 先のふたりに比べて硬質な響きなのは、男神だからだろうか。

 

 いや、それよりも。

 

(毒を喰らわせ操ったって……あのババア、カプ・ブルルにも毒餅食べさせやがったのか!?)

 

 言われてみれば、先ほど垣間見えたカプ・ブルルは酷く生彩を欠いていた気がする。

 ほんとうは、こうやって現れるのも苦しいくらい弱っているんじゃなかろうか。

 

 いつからだ。

 いつからあの女はカプ神を操っていた? 

 まさか、クイーンに任命させたときから? 

 だとすれば、カプ・ブルルはかなりの期間、毒に蝕まれ続けていたことになる。

 

 握った拳が怒りに震える。

 その可能性を、初めに考えておくべきだった。

 アローラを守護する神が、あんな傲岸不遜女を長に据えるわけがない。毒によって心身の自由を奪われていたとするならば、全ての辻褄が合うではないか。

 

 カプたちの態度ももっともだ。

 出逢った瞬間八つ裂きにされていないだけ、まだ温情だといえる。

 

 俺は堪らなくなって、面を上げた。

 

「あ、あの!

 その毒を癒せるものを、俺、持ってます!」

 

 カプ神とハラさんたちの視線が一斉に俺に突き刺さる。

 リュックを引き寄せ、中から破魔瓢箪を取り出した。

 どんな怪我も病も治す万能薬。

 濫用すれば依存性に溺れ廃人と化すが、一度服用するだけならば悪影響はないはずだ。

 

 すぐそばに尋問魔のクチナシさんがいることも、いまだけは頭から吹き飛んでいた。

 

 両手で瓢箪を掲げ、叫ぶ。

 

 

「この水を飲めばきっと良くなります! お願いします、信じてください!」

 

 

 ────しばらく、誰も何も言わなかった。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 最初に動いたのは、稲妻の化身カプ・コケコだった。

 

 すい、と俺に近づき、瓢箪に目を落とす。

 

『この水が同胞を癒すと言ったな』

「はい」

『その言葉、偽りはないか』

「ありません」

 

 コケコの鋭い眼差しを、怯むことなく受け止める。

 ここで目を逸らしたら信用してはもらえまい。

 俺は必死に食い下がった。

 

 やがて、

 

『────テテフ』

 

 コケコが後ろを振り向くと、カプ・テテフが承知とばかりに頷いた。

 

『そ奴は嘘をついておらぬ』

『左様か』

 

 それを聞いたカプ・レヒレが、ブルルを脇から支えつつ、俺の前まで浮遊してきた。間近に見る常磐の神の顔色はやはり悪い。息をするのもやっとの有り様だ。

 

「失礼します」

 

 瓢箪の栓を抜き、ゆっくりとブルルの口にあてがった。

 中の雫が少しずつ飲み下されていく。

 ブルルの目が大きく見開かれた。

 こんなに美味いものは初めて飲んだ、という顔つきだった。俺も何度か飲んだから分かる。身体が弱っている時ほどこの薬水は美味く感じられるのだ。

 

 そして、瓢箪が完全に空になった頃。

 カプ・ブルルは見違えるぐらい活き活きとした表情で、空中に踊りあがった。

 

『おお……おおお! みなぎる! 力が漲るぞぉ!』

 

 筋骨たくましい両腕を振り回しながら、快哉を叫んでいる。カプ神も俺たちも安堵の吐息を漏らした。

 

「よかったァ……」

「あ、アシタバ殿、その瓢箪はいったい」

「中に何が入ってんのよ」

「私も気になる! 教えてくれないか!」

 

 三者三様に詰め寄られ、俺はたじたじと降参のポーズをとった。

 

「えーとんーとえーとんーと」

 

 やばい、言い訳が何も思いつかん。

 ああもう咄嗟に動くなってのに俺のバカバカ。

 

 しかし、救いの手は意外なところから現れた。

 他でもないカプ神たちが、ハラさんたちを留めてくれたのだ。

 

『同胞を救ってくれたこと、礼を言うぞ』

『先のクイーンによる暴慢はこれにて赦そう』

『なれど、まだ見過ごせぬ問題がある』

『ウラウラの長を決めねばな』

 

 四柱が交互に囁きあい、ちらちらとこちらを見やっている。頷きあったカプ神は同時に向き直り、ブルルが高らかに宣言した。

 

 

『そなたを次のキングとする!』

 

 

 言われて指されたのは俺────ではなく、その横にいたクチナシさんで。

 

 

「は…………はァ!?」

 

 

 さしもの敏腕刑事も、驚愕しすぎて言葉が出なかった。

 

 

 

 




というわけで33話。
カプ神大集合の巻。

クイーンがクイーンであった理由、引っ張った割にしょぼくてすみません。
モモワロウの毒餅に無限の可能性を感じすぎている。

クチナシさんがなぜキングに選ばれたか、私なりの解釈を次話で書ければいいなと思っています。
そしてグズマの様子とクイーンへの制裁も。

そろそろアローラ編も終わろうとしています。
当初の予定より随分長くなってしまいました。
お楽しみいただけていれば幸いです。
感想高評価よろしくお願いします!
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