ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第34話 カプへの祈り。

 

 

 

 

 ウラウラ島の次のキングたれ────。

 

 カプ・ブルルの神託はあまりにも意外で、唐突すぎた。

 クチナシさんじゃなくたって絶句したろう。

 ましてや彼は国際警察、アローラの人間ですらない。

 悪逆非道なクイーンの後釜を早急に決めねばならないという事情を差し引いても、とうてい妥当な判断とは思えなかった。

 

「い、いやいやいや、カプ・ブルルさんよ。

 俺ァ外部の人間だ。

 キングだのクイーンだのってのはもっと相応しいアローラ生まれのトレーナーが就くべきだろう?」

「わ、私もそうおもいます!

 彼は腕のいい警官ですが、いかんせんちゃらんぽらんなところがあり、頭領には全く不適格かと!」

 

 クチナシさんが辞退を願い、同僚のハンサムさんも懸命に擁護したが、カプ神たちはみな一様に首を振るばかりだった。

 

『いや、そなただ』

『そなたこそ次代の長に相応しい』

『ウラウラを善く導け』

『我らは常に見守っている』

 

 神々の意思は固く、押し問答が続き。

 成り行きを観察していたハラさんが口を開いたのは、双方言い分が出尽くしたあたりだった。

 

「…………こうなっては仕方ありませんな。一度街に戻り、去就も含めて話し合いましょうぞ」

 

 もちろん、否やが出ようはずもない。

 2人ほど放心状態のまま、ぞろぞろと出口に歩きかけたところで、俺は勢いよく頭を下げた。

 

 カプ神が勢揃いするなんて奇跡だ。

 この機を逃す訳にはいかなかった。

 

「すみません。俺、ちょっと聞きたいことがあって、少しだけここに残らせて貰えませんか。みなさんは先に行っててください。すぐに追いつきますから!」

 

 ハラさんがじっと俺を見やる。

 数秒の間を置いて、「いいでしょう」と頷いた。

 

 やがて祭壇には、俺とカプ神だけが残された。

 守護神たちの視線を受けながら、深く長い呼吸をする。

 

(ここが正念場だ)

 

(カプ神の協力を得られなければ、アローラまで来た意味がない)

 

 腰のホルターからフレンドボールを取り出し、ルギア(レヴィアタン)を呼び出した。

 さすがに神に拝謁するときに頭に乗っけておくのは無礼だろうと、渋るレヴィを宥めすかしてボールに入れておいたのだ。

 

「レヴィ。変身を解いてくれ」

「げる」

 

 モクローの全身が光り輝き、レヴィ本来の姿を取り戻す。瞠目するカプ神へ、俺はたどたどしく語り始めた。

 

 伝説の雛鳥と出逢ってから不老不死になるまでの、長い長い物語を。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 すっかり馴染みになったマリエシティのポケモンセンターに帰ると、クチナシさんとハンサムさんは居らず、ハラさんだけがカフェテリアでエネココアを飲んでいた。

 

「戻りました。あの人たちは?」

「ホテルで、キングに任命されたことを上司に報告しておるようです」

「なるほど」

 

 隣のスツールに腰かけ、同じものを注文する。

 

「…………ちなみに、カプ神の指名を断ることって出来るんですか?」

 

 おそるおそる訊ねてみる。

 断るも()けるもクチナシさんの問題で俺がどうこうできることではないのだが、訊かずにはいられなかった。

 ハラさんが難しい顔で腕を組む。

 

「断ることは出来ましょうが…………前例がありませんな。なにせ、カプ神に見出されるということは、すなわち最上の誉れですから」

「ですよね」

 

 キングに抜擢される。

 喜びこそすれ、嫌がる話ではないのだ、本来は。

 しかしクチナシさんは現役の国際警察として働いている立場にある。見込まれたからといって、ほいほい仕事を投げるわけにはいかないだろう。

 

 一体どうするんだろうかと心配しかけ、自嘲した。

 

(……って、人のこと考えてる場合じゃねえんだよなあ)

 

 苦々しい思いをココアと一緒に飲み下す。

 

 

 ────結論から言うと、カプ神たちの協力は得られなかった。

 

 

『我らはあくまでアローラの土地神であり、人類の庇護者ではない。アローラに縁もゆかりもない人間とその事象に対して関知することは有り得ない』

 ──と、バッサリ切られてしまったのだ。

 

 その言説は至極もっともであり、反論の隙もない。

 なんとか言葉をひねり出そうとしても、いたずらに口をパクパクさせることしか出来なかった。

 

『そなたの身性、哀れとは思うが…………許せよ』

 

 カプ・コケコにどこか気の毒げに言われ、しおしおとマリエシティに戻ってきたのだった。

 

(オーガポンとガチグマが増えたとはいえ、これじゃ余りに頼りない。せめてもう何体か仲間が欲しいんだがな)

 

「よふ?」

 

 傍らの竹子が小首を傾げる。

 まるで心を読んで「私もいるよ?」と言ってるみたいだ。俺は微苦笑を浮かべ、頭を撫でてやった。

 

「そうだな。お前さんもいるもんな。

 よかったらさ、正式にメンバーにならないか?」

「よふ!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねる。

 よろこんで! のサインと捉えて差し支えあるまい。

 ほんとになんでこんな懐いてくれてるんだろうか。

 可愛いし嬉しいからいいけどさ。

 

 ちなみにポータウンで一緒に戦ってくれた赤マッチョはどこかに消えてしまった。寂しいと思わなくもないが、そばにいると暑苦しいことこの上ないのでホッとしている。

 

「おまえさんのボール作んなきゃなあ」

「ほう?」

 

 ハラさんの目がきらりと光った。

 

「どうも見慣れないボールをお持ちだとは思っておりましたが、もしや自作しておられるのですかな?」

「ああ、そうなんです。じいちゃ……祖父がボール職人で、作り方を叩きこまれましてね」

「ほうほうほう」

 

 ハラさんがずいっと身を乗り出してきた。

 

「それは良いことを聞きました! 実はウルトラビーストの調査にあたり、捕獲用ボールを開発している仁が居るのですが、なにやら難航している様子。是非ともお引き合わせしたいのですが、よろしいですかな?」

 

 提案の体をとっちゃいるが圧が半端なく強い。

 俺はたじたじになりつつ請け負った。

 

「お、俺で力になれることなら」

「ありがたい!」

 

 ハラさんは笑み崩れながらポケギアを取り出し、どこへやら電話をかけ始めた。

 

 

 

 

 1時間ほど待ったろうか。

「やあやあハラさん!」と快活な声をあげながら、男がひとり、現れた。

 

 よく日に焼けた肌に麦わら帽子を被り、恰幅のいい腹を花柄のシャツに包んでいる。

 陽の気に満ち溢れた人だった。

 

 彼は俺を見るや、双眸を輝かせて両手を握ってきた。

 

「初めまして、モーンです! ウルトラビーストについて調べている者だよ! ハラさんから聞いたけど、オリジナルボールが作れるんだって?」

「え、ええまあ」

「くうう、凄い! 若い身空で大したもんだ! 

 よければ見せてくれないか?」

 

 そう言われて悪い気はしない。

 あくまで素人に毛が生えたようなもんですけど、と前置きしつつ、仲間たちの入ったボールを差し出した。

 

 モーンさんは一つ一つをじっくりと、いちいち感嘆の吐息を漏らしながら眺めやった。

 

「────いや、想像以上に素晴らしい! こんなにも優れた職人さんだとは思わなかったよ! ええと……」

「アシタバです」

「アシタバくん、よければ僕の家に来ないかい? 

 食事がてら、これまでの研究結果を見せたいんだ!」

 

 飯。

 その単語が出た途端、頭上のレヴィが高らかに鳴いた。

 げるげるばたばたやかましい。

 頬がみるみる赤くなるのを自覚しながら、ありがたく申し出を受けることにする。

 

「では私もそろそろメレメレ島に戻りますかな。グズマの様子も気になりますし」

「…………あいつ、大丈夫ですか?」

 

 俺は声を低めて訊ねた。

 ポータウンで最後に別れた時のグズマの様子は尋常なものではなかった。土気色の顔をし、すっかり憔悴しきっていて、すぐには彼だとわからなかったくらいだ。

 

 ハラさんは頼もしく頷いた。

 

「時間はかかるでしょうが、きっと良くなりますとも」

「そうですか。どうか、よろしくお願いします」

 

 ハラさんが世話してくれるなら、大丈夫だろう。

 安堵した俺は深く頭を下げ、モーンさんと一緒にポケモンセンターを後にした。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 モーンさんはアローラ四島のどこにも住んでおらず、中央の海に浮かぶ離れ島に家を建てたのだそうだ。

 

「ウルトラビーストを調べるときに、近隣住民に迷惑をかける訳にはいかなかったからね」

 

 熟練の手さばきで小型船舶の舵を操りながら、モーンさんは自身の半生をざっと語った。

 

「もともとはナリヤ博士に師事をうけてアローラポケモンの生態研究をしてたんだけどさ。最近現れはじめたウルトラビーストのことがもう気になって気になって。

 研究者として、こりゃ腰を据えて挑まにゃ! と直感したのよ。んで、無人島を買い取ることにしたってわけ。

 家族がみんな受け入れてくれてありがたい限りさ」

「家族……っていうと」

「妻と子供が2人。息子と娘だよ」

「おいくつですか?」

「上が4歳、下は2歳!」

「可愛い盛りっすねえ」

 

 モーンさんは顔を綻ばせ、デレデレと甘い声で「いやもうほんとに可愛くて」と惚気だした。

 

「僕の奥さんはそりゃもうべらぼうに綺麗な人でねえ。

 なんで僕みたいなもんと結婚してくれたのか今もって不思議なんですが、子供たちは彼女の美しさをきっちり受け継いで生まれてくれましたよ。

 神様も粋なことをなさるもんです」

「はは」

 

 俺は曖昧な笑みでやり過ごした。

 

 神────か。

 もしそれをやったのがアルセウスなら小一時間ばかり俺とモーンさんの扱いの差を問い質したいところである。

 

 島はすぐに見えてきた。

 緑豊かな小島で、浜辺に3人の人影が立っていた。

 

 モーンさんが船を停め、粒の細かい砂浜に降り立つ。

 幼子を抱えた女性がたおやかに「お帰りなさい」と労い、俺に甘い微笑みを送った。

 

「お話は伺っておりますわ。あなたがボール職人のアシタバさんね? わたくし、モーンの妻のルザミーネですわ。こちらは息子のグラジオと娘のリーリエですの。

 ほら2人とも、挨拶して」

「……ちあ」

「こにちわー」

 

 息子のグラジオくんは恥ずかしそうにルザミーネさんの脚にしがみつき、抱っこされたリーリエちゃんは舌足らずな声で挨拶してくれた。

 

 俺はそれぞれに挨拶を返しながらも、彼らのあまりの美形ぶりに頭がくらくらした。

 

 まずルザミーネさん。

 2児の母にはとても見えない、抜群のプロポーションに白皙の美貌。艶やかな金髪を肩に触れるぐらいのボブカットにしているが、それが本当に似合っている。

 俺と同い歳かと勘違いするほどに若々しい。

 同い年どころか、10も歳上と知った時は目玉が飛び出るかと思った。

 

 そして息子のグラジオくん。

 輪郭は母親譲りだが、こちらを見つめる眼差しにはモーンさんの優しさが宿っている。きっと大きくなったら老若問わずモテモテになるだろうな。くそう。うらやましい。

 

 最後に、抱っこされたリーリエちゃん。

 これはもう、天使だった。

 ただの天使だ。

 可愛すぎる。

 ぷくぷくふわふわのほっぺにキラキラ輝く瞳。

 この子も、成長した暁にはまわりの連中がほっておかないだろう。

 

 親子はモーンさんを取り巻き、口々にお帰りなさいを言い合っている。誰の表情もいきいきとしていて、この団欒の輪に加わってよいものか躊躇われるほど仲がいいのが伝わってきた。

 

「げるる」

「ん? ────ああ、そうだな。家族っていいよな」

 

 交通事故でこの世を去った父さんと母さんの顔が朧げに浮かんでくる。

 あの人たちも仲睦まじかったなあ。

 夫婦喧嘩なんて一度も見たことがない。

 反面、爺ちゃんと父ちゃんの衝突はしょっちゅうだったけど。

 

(ヒワダの爺ちゃん、元気かな)

 

 毎日工房に籠ってボールを作り続けていた背中は、忘れようたって忘れられない。

 腰に提げたホルターの中がかたりと揺れて、俺は口元を綻ばせた。

 

(そうだよ。俺だって独りじゃないもんな)

 

 カブトプス(カブルー)がいて、レヴィがいて、仲間たちがいて。

 毎日騒々しいくらいだ。

 

「お前らが、いまの俺の最高の家族だよ」

「げる」

 

 当然だ、とレヴィが胸を張った気配がした。

 

 

 

 




というわけで34話。
カプ神への懇願は失敗に終わった反面、モーン一家と出会えました。
幼い頃のグラジオくんはきっと人見知りの激しい子だったでしょう。
厨二病にかかる人間はえてしてそんなもんです(偏見)。
リーリエちゃんは天使。これまでもこれからも天使。はっきりわかんだね。

アローラ編はあと1~2話ぐらいで〆て次なる大地に進む予定です。
次はどこに行こうかな~。
よければ感想高評価おなしゃす!
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