ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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再びのジョウト編
第37話 帰郷、ヒワダタウン。


 

 

 

 

 30日ぶりのジョウト地方はすっかり冬支度を始めていた。空はどんよりした雲がひしめき、太陽を懐深く隠している。行き過ぎる風は乾燥していて、おもわず首を竦めてしまうぐらい冷たかった。

 

「秋……ってか冬だな、もう」

 

 暦の上ではまだ10月だというのに、今年の冬将軍は随分せっかちだ。常夏の地方から帰ってきた身には、この寒暖差はいささか辛い。

 

 頭上のルギア(レヴィアタン)(ネイティの姿)がぶるりと震えた。

 

「寒いのか? ボールに入るか?」

「げる」

 

 フレンドボールをかざすと存外素直に入っていった。

 狭いところが嫌いなくせに珍しい。

 こいつが棲んでいたであろう海の底よりは寒くないと思うのだが。

 

 荷物でふくれたリュックを背負いなおし、コガネ空港の出口に向かう。先にアカデミーに行こうか家で荷物を解こうか悩んでいると、コガネシティの案内図を眺めていた人にぶつかってしまった。

 

「おあっ、すみません!」

「ああいえ、お気づかいなく」

 

 慌てて頭を下げる俺に、相手は薄く微笑みをくれ。

 

「…………」

 

 俺は、詫びている最中なのも忘れて、バカみたいにその美貌に見入ってしまった。

 

 褐色の肌と、長い睫毛に縁どられた瞳。耳の下で切り揃えた黒髪には、青いメッシュが入っている。

 歳の頃はいったい幾つくらいだろうか。神秘的な雰囲気が漂っていてどうにも掴みづらい。俺より2つ3つ年下にも見えるし、5つ以上年上にも見えた。中性的な顔立ちは性別を超越していて、男か女かも曖昧である。

 結局、濃紺のスーツを完璧に着こなしていることしか分からなかった。

 

 彼(だか彼女)が小首を傾げる。

 

「なにか?」

「…………はっ」

 

 問われて初めて、不躾に見つめていた自分に気づき、しどろもどろになりながら謝罪した。

 

「っ、あ、いえ、すみませんっ」

「……ふふ。なんだか謝ってばかりですね」

 

 黒い手袋を嵌めた手が、そっと俺の頬に触れる。

 心臓が飛び跳ねた。

 

「あなたは強い力を秘めているのにその自覚がない。

 むしろ自分を弱い人間だと思いこんでいらっしゃる。

 …………ふむ。実に興味深い方ですね」

「え」

 

(な、なんだ? どういう意味だ?)

 

 戸惑う俺をよそに腰のホルターに入れていたボールが弾け、怒り顔のヌメラ(メルティ)とオーガポンが飛び出してきた。

 

「ぬめぁっ!」

「ぽに!」

「────おや」

 

 ツタ棍棒を突きつけられた麗人が瞬く。

 メルティたちはなぜか怒り狂った形相で詰め寄り、ぽにぽにめるめる騒ぎ始めた。周りからの視線が痛い。

 

「やめろやめろやめろって!」

 

 俺は泡を食ってふたりをボールに引き戻した。

 いうまでもなく空港内でポケモンバトルはご法度だ。

 下手すりゃ警察案件である。

 ガタガタ震えるボールを力いっぱい握りしめ、「失礼しましたァ〜!」と叫びながら走り去った。

 

 

 ○○○

 

 

「失礼しましたァ〜!」

 

 ダッシュで逃げるアシタバを横目に見ながら、緑髪の少女が眉をひそめた。

 

「…………なんや、あのけったいな奴」

「おやチリ。わざわざ迎えに来ていただかなくともよろしかったのに」

 

 チリと呼ばれた少女が「何言うてますのん」と目を丸くした。

 

「わざわざパルデアから来るっちゅー人をもてなさんかったらコガネ人の沽券に関わるわ。オカンに100回どつかれるで」

「ふふ。やっぱりあなたも面白い方ですね」

()? なんや、もって。

 チリちゃんぐらいオモロい人間が他にもおるんかいな。

 そりゃちょいと聞き捨てならんわ」

 

 詰め寄るチリにくすくす笑う。

 そうしていると、アシタバと話していた時よりも幾分幼く見えた。

 

「それは道々語るとしましょう。まずはどちらへ?」

「せやなあ。ひとまず飯でも行きましょか。美味いお好み焼き食わせるところがあんねん」

「オコノミヤキ?」

「小麦粉のタネに好きなもんぶちこんで焼く料理や。

 あんまり美味くてぶっとぶでぇ!」

「まあ、楽しみです」

 

 2人は連れ立ってコガネ空港を抜け、タクシーで颯爽と市街地に向かった。

 

 

 ○○○

 

 

「あー…………寿命縮んだ」

 

 空港からさほど離れていない空き地に寝そべり、俺はぜえぜえと荒い息を吐いた。

 

「ったく、なんだってあんな暴れだしたよ?」

 

 メルティの入ったミストボールと、オーガポンの入ったブルームボールを両手に握って睨みつける。

 すると、俺の影がぬるりと盛り上がり、金色の幽霊に変化した。

 

『そりゃもウ、深ーい(ラブ)から来る嫉妬(ジェラスィ)に決まってるでショ! マスター』

 

 人間より太い指で器用にハートを作りながらサーフゴー(フーゴ)がウインクする。俺は片眉を跳ね上げた。

 

「し、嫉妬ぉ!?」

『そーだヨ。フーゴたちはちょっと人間の美醜に疎いけド、あのひとが美人なのは分かるヨ。マスターってばすーっごくデレデレしちゃってサ、そりゃメルちゃんたちは心穏やかでいられないよネェ』

「え、えぇ……」

 

 呆気に取られつつメルティたちを見やると、ふたりともボールの中でうんうん頷いていた。

 

 まじか。

 ほんまに嫉妬してたんか。

 というか待て、こいつらメスだよな? 

 ってことは…………

 

「あのひと、女だったのか」

『そこからァ!?』

 

 フーゴのツッコミが曇天に響き渡った。

 

 

 ○○○

 

 

 ジョウトでもっとも古い都といわれるキキョウシティと、もっとも賑わっている繁華なコガネシティに挟まれた山の麓に、こぢんまりとした聚落がある。

 

 一体いつからその村があるのか、誰に聞いても明確な答えは得られない。

 100年前からだという老爺がいれば、いや200年はあるよと返す婆さまもいる。少なくとも、50年より新しいということはなさそうだ。

 

 キキョウからコガネへ、あるいはコガネからキキョウへ往く際に、必ず通るすすきの原へ名もなき誰かがひと休みするための小屋を立てた。

 雨風がしのげればいいという、いかにも粗末な造りだったが、存外利用する者が多かったので、目端の利いた某が商売を始めようと思い立ち、店に変えた。

 

 最初はなんてこともない、杖だの傘だの草鞋だのを売る雑貨屋だったが、食うに困らない程度には売れていく。

 ならばと後を追った者たちが、その隣に飯屋を建て、土産物を並べ、宿屋まで商いを始めれば、やぁここはなんと過ごしやすい土地だいっちょう腰を据えて暮らしてみようとする者が出るのも道理だろう。

 

 

 これが、ヒワダタウンの始まりといわれている。

 

 

 かつては賑わった村も、現代(いま)ではめっきり訪れる者が少なくなった。なぜといえば、コガネの北方に道路が開通し、わざわざヒワダを経由せずともキキョウに出られるようになったからである。

 それをおして昼なお暗いウバメの森を歩き通し、山を越えようとするような人間は山男か修行中のトレーナーくらいのもので、そんな酔狂が大勢居るはずもなく。

 当然、客を見込んで始まった商売は終わりを告げた。

 

 もはやヒワダに宿はなく、土産物屋も飯屋もない。

 雑貨屋だけは村民のために残っているが、生活必需品以外はすっかり埃を被っている始末だ。

 

 しかし、ずっと残っているものがある。

 ウバメの森の(くぬぎ)で作る木炭だ。

 ここの木炭は非常に質がよく、ポケモンに()えれば炎技が()く燃え盛るということから()()()という名で親しまれ、世界中の炎ポケ使いに愛される一大逸品(ブランド)に成長した。

 

 資源に乏しいヒワダの、ほとんど唯一の資金源であるために、村民たちは共同の竈で毎日せっせと炭を焼く。

 ヒワダの村がいつ行っても、どこに居ても何となく炭臭いのはそういう理由である。

 

 故郷の上空を竹子に乗って飛びながら、俺は煙臭い匂いを胸いっぱいに吸いこんだ。

 

「やべ、懐かしすぎる」

 

 おもわず目尻に涙が浮かんだ。

 

 ヤマブキ学園に居たときも、長期休暇のたびにここに帰っては炭焼きの手伝いをさせられたものだ。村民のほとんどが爺さん婆さんだから、数少ない若者は木炭がぎっしり詰まった箱を背負い、ウバメの森を抜けてコガネへ出、郵便局に炭を預けに行く重労働を仰せつかるのである。

 

 肩が抜けるほど重い荷物。

 どこから襲ってくるか分からないポケモンたち。

 書いても書いても終わらない送り状。

 夏は暑く、冬は寒くて、帰りにコガネで買い食いする時間だけが救いだった。

 

 …………うん。

 しんどかったな。

 ほんとに、死ぬほどしんどかった。

 こういうのって振り返ってみれば美しい記憶になるかと思ったが、いま振り返ってもしんどいわ。

 ご褒美の粉もんやらスイーツは死ぬほど美味かったけど、コガネのグルメはいつ食っても美味いしな。

 

 おかげで涙もひっこみ、落ち着いた気持ちで着陸できた。さすがに村のド真ん中に竹子を止めたらじじばばの心臓が止まりかねないので、森の中に降ろしてもらう。

 

「よーふよふ」

 

 豊かな草木を竹子が嬉しそうに見回す。

 どうやら植物が好きなようだ。

 

「ここにゃお前さんの名の由来になってる竹はないけど、いつか見に行こうな」

「よふ」

 

 竹子は破顔して、俺の腰の辺りにぴたりとくっついた。

 

(…………そういや、メルティたちは竹子には嫉妬しねえんだな……?)

 

 視線を走らせても、ふたりのボールは沈黙している。

 同性なら人間にも嫉妬する連中が、竹子だけ見逃すものだろうか。

 

「わかんねぇな、ポケモンって」

 

 竹子を撫でつつ、口の中で独りごちた。

 

 

 ○○○

 

 

「お、親方ぁ」

 

 情けない呼び声に、親方の目がギラリと光る。木炭を両手いっぱいに担ぐ弟子へ、容赦ない罵声が飛んだ。

 

「てめぇなんだそのへっぴり腰は! 村のモンが焼いてくれた炭を台無しにする気か!」

「へ、へぇいっ。すいやせぇん! でも、これ重くてぇ」

「重いもヘチマもあるかオタンコナス! 炭の良しあしでぼんぐりの締まりが変わるんだ、気合い入れて運べ!」

「へ、へぇい、って、うわたっ!?」

「お、おいっ!」

 

 半べそをかきながらそれでも作業場の方へ歩こうとした弟子が、段差に足を取られて転びかけたその時。

 背後から現れた青年が、弟子ごと炭を抱えこみ、間一髪、難を逃れた。

 

「ふ、ふぇ?」

「あーぶなかった。ケガはねえか?」

「あ、ありやせん。えと、あなたは……?」

 

 青年は弟子を立たせてやると、彼の肩にぽんと手を置き、親方に目配せした。

 

「そんな厳しくしちゃあまた逃げられちゃうぜ。

 昨今はパワハラだなんだとやかましいんだからさ」

「…………ふん」

 

 浮かせた腰をどかりと座らせ、親方はそっぽを向いた。

 

「うるせぇやい。手紙のひとつも送らねえバカ孫が」

「ごめんって。そいつは俺の不手際だ。

 だからといっちゃなんだけど、ここにいる間は孝行させてくれよ、爺ちゃん」

「じ、じいちゃん……?」

 

 目を丸くする弟子に、青年はぽりぽりと頬をかいた。

 

「おん。不肖の孫さ。よろしくな。

 ってなわけで、ただいま、ガンテツじいちゃん」

「…………おう。おかえり、アシタバ」

 

 親方──ガンテツの唇がぴくぴく震えた。

 頑固一徹な爺様の、それが嬉しい時にでる癖なのは、無論アシタバも熟知している。

 

 弟子だけが、ぽかんとした表情で突っ立っていた。

 

 

 

 

 

 




というわけで37話。
再びのジョウト回です。
そんなに長く書くつもりはないんですが、またネームドを登場させたい癖がむくむくと出ちゃいました。
誰かは……分かりますわね笑

じじ孝行しつつ、アシタバの荷物やら事情も整理する、いわば小休憩の編にしようかと考えています。
手持ちも10体になっちゃったしネ♡ どうしよ♡

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