ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

4 / 100
第4話 英気を養う。

 

 

 

 アカデミーを出てエンジュ方面に歩くこと20分。

 木造二階建て六畳一間のボロアパートが見えてくると、俺はほーっと深い息を吐いた。

 

「帰ってきたぜぇ、我が家によ」

 

 錆だらけの外階段を上がり、角部屋のドアを開ける。

 極狭キッチンを通り過ぎ、ちゃぶ台と布団だけの部屋に5つのボールを放り投げた。

 ポケモンたちがぽぽぽぽぽんっと現れる。

 アマルス(ゴーシェナイト)ヌメラ(メルティ)サーフゴー(フーゴ)は初めて来る部屋なので、みんなきょときょと首を巡らしていた。

 

『ワー狭い部屋!』

 

 遠慮のない感想におもわず吹き出した。

 

「狭いだけじゃねえぞ? 台風が来る度あっちゃこっちゃぶっ壊れるし建付け悪いしカビくせえし水や電気が止まるのなんてしょっちゅうだ」

『それっていいことなノ?』

「よかねえな」

 

 それでも、3年も住めば愛着が湧く。

 畳の上にどーんと寝転ぶと、ポケモンたちもそれに倣った。なにせ六畳しかねえから狭い狭い。だけどこうしてみんなでひと塊になって天井を見上げるのは、なんだかえも言われぬ楽しさがあった。

 

 長い間留守にしてたからさぞ埃だらけだろうと思いきや、意外にも小綺麗なことに気づく。

 たぶん、寮長のアロエさんがちょいちょい掃除してくれてたんだろうな。ありがたい話だ。事が落ち着いたら礼を言いに行こう。

 

「アロエさん、俺の話聞いたら驚くだろうなあ」

 

 シミだらけの天井を眺めながらぼんやり呟く。

 色々あったな。ほんとに色々あった。あんまり色々ありすぎて、アパートを出発した日が遠い過去に思える。

 

 そして明日、俺はまた旅に出る。

 今度はもっと長い行程になるだろう。

 そもそも、生きて帰ってこれるのだろうか。

 

 神に挑もうというんだ、命を取り上げられても不思議じゃない。そうなったときのために、こいつらの預け先を考えておかなきゃな。

 5体全員引き取ってくれる人が居れば言うことはないんだが、難しいだろうな。親友のマツバはジム業で忙しいだろうから、頼むならダイゴだろうか。

 

 悶々と考え始めたとき、胸の辺りにぽす、と軽い感触がした。見ればルギア(レヴィアタン)が顎を乗せ、「げるる」と喉を鳴らしている。ゴーシェも真似をして反対の胸にひんやりする頭を乗せてきた。

 メルティがぬめぬめ言いながら俺の頬にキスをし、フーゴが太ももを枕にしてくる。最後に、カブトプス(カブルー)が鎌の側面で器用に俺の頭を撫でた。

 

「…………」

 

 ────いや。縁起でもないことを考えるのはよそう。

 こいつらを誰かに託すなんてゴメンだ。

 なんとしても生きてやる。

 

「そのためにも、メシ食わなきゃな!」

 

 ポケギアから馴染みの定食屋に電話をかける。

 験担ぎも兼ねて、カツ丼の特盛を6杯注文した。

 いつも1番安いチキン丼しか頼んでなかったせいで3回注文内容を確認されたが、届いた丼は死ぬほど美味くてみんな物も言わずがっついた。

 

「ずーっと海の底にいたとき、飯はどうしてたんだ?」

 

 とフーゴに尋ねると、道化は口の周りを米粒だらけにしながら答えた。

 

『なんにも食べてなかったヨ! フーゴはゴーストだから食べなくても平気! ……だけど、やっぱりみんなで食べるご飯はサイコーだネ! これからは沢山食べたいナ!』

「当たり前だ。もういやってほど喰わせてやるよ!」

『ワァイ!』

 

 フーゴは部屋中にコインをばら撒くほど喜び、双手を挙げて飛び跳ねた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 翌日。

 コガネ空港のトイレのなかで、レヴィの入ったフレンドボールと向かい合っていた。

 

 レヴィには地方を移動するたびに、その土地の鳥ポケモンに変身するよう頼んである。今回行くアローラは鳥が沢山いる場所だ、さて何に変身してもらおうかと悩み、結局モクローに決めた。

 

「レヴィ、こいつに変身してくれ」

 

 モクローが写った写真を見せる。ボールの中がぱあっと光り、次の瞬間には姿が変わっていた。

 

 よおし。これで準備は完了だ。

 個室から出て手を洗おうとした俺は、ふと隣で丁寧に手を拭っている人物が誰だか気づき、声を上げた。

 

「ウツギ先生!?」

「え? わあ、アシタバくん!

 こんなところで奇遇だね!」

 

 細面の顔に人の良さそうな笑みが浮かぶ。

 キキョウアカデミーの進化学科で教鞭をとるウツギ准教授だった。

 

「久しぶりだねえ。なんだか逞しくなったんじゃないかい? 最後に会ったのはええと……そうだ、例の薬液を持ってきたときかな?」

「そうですね、ご無沙汰してました」

 

 頭を下げつつ、頬が強ばるのが自分でもわかった。

 

 彼が言っているのは、擂鉢山(スリバチやま)で死闘を演じたロケット団員が使った薬品のことである。ポケモンを強制的に進化させる薬剤で、成分の分析を依頼していたのだ。

 

「あの……なにかわかりましたか?」

 

 ウツギ先生は残念そうに首を振った。

 

「どうもただの薬品じゃないみたいでね、もう少し時間がかかりそうだ。せっかく頼ってくれたのに、ごめんね」

「いえそんな! お忙しい中ありがとうございます」

 

 お互いぺこぺこと頭を下げあう。トイレに入ってきた中年の男性に不思議なものを見る目で見られ、2人揃ってそそくさと退散した。

 

「アシタバくんは、これからどこへ?」

「アローラに飛びます」

 

 そう言うと、ウツギ先生は心底羨ましそうな顔をした。

 

「アローラ! 南国じゃないか! いいなあ……」

「──ってことはまさか」

「ふふ、そのまさかだよ……これからシンオウだよ」

「うぅわ」

 

 これから冬本番を迎えるシンオウにいくなんて、あまりにも気の毒すぎる。

 とくにウツギ先生は寒さに弱いことで有名で、秋口になると分厚い半纏を着ながらいそいそとコタツの用意を始めることで知られていた。

 

「なんというかその、お元気で」

「アシタバくんもね……」

 

 げっそりした顔でのたのたと去っていく。

 その背中には、なんともいえぬ哀愁が漂っていた。

 

 ポーン、と軽い音がして、アナウンスが流れ出す。

 

『アローラ行き583便にご搭乗のお客様は6番ゲートまでお越しください────』

 

 俺たちの乗る飛行機だ。バックパックを背負い直し、ゲートまで歩いていった。

 

 

 

 


 

■ウツギ

キキョウアカデミー進化学科の准教授。押しに弱い性格で色んな雑用を任されている。

 

 

 

 




というわけで4話。
ウツギさんの分析はあまり捗っていないようです。

次話からアローラに参りますが、はたして誰に出会うんでしょう。
ガラル、イッシュと2連続で空港でやばい人間に捕まってますが、今回もそのジンクスが発動してしまうのか。

よければ感想高評価おなしゃす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。