ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第41話 予想外の展開。

 

 

 

 

 チリと一緒に家に戻ると、表門の前に黒山の人だかりが出来ていた。

 村中の爺さん婆さんが大集結している。

 どの顔も興奮しきっていて、これから祭りでも始まるのかと思うほど大変な賑わいだった。

 

「なんじゃこりゃ!」

 

 瞠目する俺に気づいた隣家の婆さん(ヨネ・御歳82)が激しく手招きした。

 

「やだアンタ! どこほっつき歩いてたの! ミスミくんも隅に置けないねぇ〜あんな美人さん連れてきて!」

「び、美人? ……ってまさか」

 

 チリが血相を変えて人山を掻き分けていく。

 俺も後に続くと、石畳の上で注目を浴びていたのは、ウバメで出逢ったオモダカさんだった。

 にこやかに微笑みながら、美しい所作で手を振っている。その品の良さはさながら王族のようで、村人たちは惚けたように見蕩れていた。

 

 ようやく最前列に出れたチリが口をあんぐりさせる。

 

「た、大将……!?」

「おや、チリではありませんか」

「おや、じゃあらへん!

 あんたこんなとこで何してんねや!」

「昨日話したでしょう? ボール職人・ガンテツ氏の工房に伺うと。ここがそうなのですよ」

「それ、ウチも一緒に行くって言いましたやん!

 ウバメではぐれてからずーっと探しとったんやで!?」

 

 ────ん? ()()()()? 

 

 俺は小首を傾げた。

 

 ウバメは確かに草深い森だが、ヒワダの人間の重要な交通路でもあるし、道の整備はきちんとされている。

 ルートを外れたりしない限り、そうそう迷うこともないはずなのだが。

 

 オモダカさんはぽん、と手を打ち合わせた。

 

「そうそう、そうでしたね。心配をかけてすみません。

 ロケット団を懲らしめているうちに元の場所に戻れなくなっていたのです。

 アシタバさんとミスミさんに出逢わなければ、まだ彷徨っていたかもしれませんね。危ないところでした」

「あ、あんたなぁ……」

 

 チリはがっくりと項垂れた。

 

「せめてポケギアに連絡くらいしてぇや。

 いつまで経っても戻らんから寿命縮んだわ」

「すみません。何度か電話したのですが繋がらなくて」

「んえ? ────っあー! ポケギア壊れとる! うせやんこれ一昨日(おとつい)買うたばっかやで!? 不良品やんけ!」

「まあ、大変ですねえ」

 

 半泣きのチリに、オモダカさんがちっとも大変と思ってなさそうな声音で相槌を打つ。

 その背後で、俺はそっと片手を挙げた。

 

「とりあえず、家、入りません?」

 

 いい加減数十人分の視線が痛い。

 チリもオモダカさんも、もちろん否やはなかった。

 

 

 ○○○

 

 

 幸い、爺ちゃんは工房で俺たちの帰りを待っていてくれた。唐突に現れた美形2人にも動ずることなく、ぶっきらぼうな会釈を寄越す。

 俺はオモダカさんとチリを紹介し、2人がジョウトに来た理由をかいつまんで説明した。

 

 爺ちゃんは、ミスミくんが淹れてくれた熱々の玄米茶を啜りながら、

 

「テラスタルエネルギーのためのボール、か」

 

 低い声で呟いた。

 正面に端座したオモダカさんが首肯する。

 

「はい。パルデアの技術者ではどうも上手くいかず、ご協力いただけないかと参った次第です」

「ふむ」

 

 爺ちゃんはゆっくりと顎をさすった。

 難しいことを考えている時の癖だ。

 

(無理難題、だよなぁ)

 

 俺はこっそり嘆息した。

 

 これまで、爺ちゃんは数え切れないぐらい沢山のボールを作ってきた。捕獲されたポケモンが心安らかに過ごせるように、戦いで傷ついた体を存分に癒せるように、数多の工夫を凝らす技術は、誰しも認めるところだろう。

 

 しかし、今度はポケモンではなく実体のないエネルギーが相手だ。果たして爺ちゃんの知見が役に立つだろうか。

 

「こう言っちゃなんだけど…………シルフかデボン(大企業)に頼んだ方がまだ成算は高いんじゃないですか?」

 

 思わず横から口を挟むと、オモダカさんは涼しげに微笑した。

 

「もちろん、それも検討しましたよ。しかし企業と提携すれば、テラスタルエネルギーの採掘権や管理権をある程度差し出す必要に迫られるでしょう。パルデアのリーグ本部が、それを良しとしなかったのです」

「なる…………大人の事情ってやつね」

 

 個人でやってる爺ちゃんならばそうした面倒な問題も起きなかろう、と踏んだわけだ。

 

「────話はわかった」

 

 ぽんと膝頭を叩き、爺ちゃんがオモダカさんをひたと見据えた。

 

「だが、生憎ワシは手伝えん。

 ボールの依頼がひっきりなしに舞いこんでくるんでな」

 

 2人の顔に落胆の色が滲む。

 

「その代わり」

 

 皺だらけの手が、俺の肩をわしっと掴んだ。

 

「こいつをパルデアに連れていってくだされ。

 不肖の孫だが、ボール造りのイロハは叩きこんである。

 あんた方が望むものを作ってみせるだろう」

 

 

「…………お??????」

 

 

 俺の頭に、はてなマークが乱舞した。

 

 

 ○○○

 

 

「い、いやいやいや。待て待て爺ちゃん。

 俺はカロスに行きたいんだよ」

「パルデアの次に行けばよかろう。

 急ぐ旅でもあるまいに」

「そ……りゃそうだけどさあ!」

 

 こっちにも都合とか考えってものがですねえ! 

 言い募ろうとしたが、ふと視界に飛びこんできたオモダカさんの表情に、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 胸の前で両手を組み、夢みる乙女のように瞳をキラキラさせて、

 

「アシタバさんが来て下さるのですか?」

 

 なんて言われてみろ。

 俺じゃなくたって言葉に詰まるだろ。

 

「えぁ、う、その」

「こんなに嬉しいことはありません」

「ぁー、んと、えー」

「…………ダメ……でしょうか……」

「行きまぁす」

 

 俺は深々とこうべを垂れた。

 あかんて。

 勝てんて。

 とんでもない美人に濡れた子犬のような目をされちゃあさ。断れねえって。

 

「ああ……! ありがとうございます!」

 

 オモダカさんが破顔する横で、チリが大きな溜息をついていた。

 

「またこの大将は人を誑かしてからに……」

 

 そういう彼女(あんた)も誑かされた側なんだろ? というツッコミは、どうにかギリギリ飲み込んだ。

 

 

 ○○○

 

 

 パルデアに行く日程やら手続きやら、細かいところを詰めるため、オモダカさん達を一晩泊めることにした。

 ミスミくんが腕を奮った料理はどれも極上で、食い盛りが3人もいるもんだからあっという間に空になっていく。彼はポケモン用の食餌づくりも得意らしく、味にうるさいヘリオドール(クチート)すら喜色を浮かべながら堪能していた。

 

 夕食後。

 庭に据えたベンチで秋風を楽しんでいると、チリがふらりと現れた。音もなく横に腰かける。

 

 しばらく間を置いてから、チリは意を決したように振り向いた。

 

「…………なぁ」

「ん?」

「その、すまんかったな。ロケット団って疑ったりして。自分の言うとったこと、全部ほんまやった。

 ごめんなさい」

 

 上目遣いに見つめられ、俺は苦笑した。

 

「もういいよ。気にしちゃいない」

 

 なにしろこの人、工房に帰ってからずーっと気まずそうな顔してたもんなぁ。いつ謝ろうか気になって仕方なさそうだったし。

 流石にそれでも怒りを持続できるほど、鬼でもしつこい人間でもない。

 

 チリはほっと息を吐いた。

 

「許してくれてほっとしたわ。ありがと」

「間違うことは誰にだってあるからな。まあ、貸しひとつってことで。俺がパルデアに行ったら美味いもんとか見どころ案内してくれよ」

「おん、任せとき! チリちゃんとっときの絶景スポット連れてったる」

「そーいや、チリってコガネ訛りだけど生まれはこっちなんか?」

「そうやで。うちのオカンがオレンジアカデミーって学校のパンフ持ってきてな、あんたポケモン強いしここ行ってみるかって勧めてくれてん。大将ともそこで出逢ったんや。初めて逢った時なんかなぁ…………」

 

 チリはとめどなく喋り倒した。

 思い出話に苦労話、バトルの勝ち負けや育成のこだわりなど、話のタネは尽きることがない。コガネ人らしい軽妙な語り口は聞いてるだけでも楽しくて、俺たちはついつい何時間もその場に居座ってしまった。

 

「今日は生憎負けたけどな、チリちゃんの本気はあんなもんやないで。ゴマゾウ(ゴマ)やってまだまだ発展途上や」

「へえ。んじゃ、俺がテラスタル用ボール作れたら、またバトルしようぜ」

「望むところや!」

 

 チリが好戦的な笑みを浮かべ、拳を突き出す。

 俺も口辺を緩めながら、拳を軽くぶつけた。

 

 

 ○○○

 

 

 俺の部屋にオモダカさんたちを寝かせ、俺は爺ちゃんの隣に布団を並べた。

 一緒に眠るのなんて何年ぶりだろうか。

 

 なんだかちっとも眠気がやってこなくて、そっと声をかけてみた。

 

「────爺ちゃん、起きてる?」

「なんじゃい」

 

 はっきりした声だ。俺と同じで、まだ眠くないらしい。

 

「爺ちゃんでもさ、今回の話、難しいと思うんだろ」

「ああ」

「なのになんで、俺に任せようと思ったん?」

「…………」

 

 爺ちゃんがごろりと寝返りを打つ。

 俺に背を向ける格好だ。

 なんとなく俺も反対を向いてみた。

 

 しばらくして。

 

「……帰ってきた日、お前のボールを見たろう」

 

 爺ちゃんが低い声で言う。俺は慌てて肯定した。

 

「え? ああ、うん」

「まだまだなっちゃいねえところもあるがな、まあ、良く出来てると思ったよ。特にスノウボールは、ワシにはない発想だった」

「…………!」

 

 スノウボールは、アマルス(ゴーシェナイト)のために考案したものだ。

 氷タイプでも快適に過ごせるよう、ボール内を低温に保つ細工がしてある。

 爺ちゃんはそれを褒めてくれたのだ。

 

「お前、まだ捕獲機構(ガジェット)をイチから造れてねえんだろ?」

「う、うん」

「いい加減挑戦してみな。今回のテラスタルボールの開発は、いい練習になるだろうよ」

「…………できるかな、俺に」

「バカヤロウ」

 

 尊敬する師匠は、短く答えた。

 

「やれると思ったから任せるんだよ」

「…………うん。やってみるよ」

 

 ごろり、もう一度寝返りを打つ。

 がっしりした背中に向けて、俺は言った。

 

「爺ちゃん」

「ん」

「ありがとう」

「…………ふん」

 

 爺ちゃんは振り向かなかったけど、どんな顔をしているか、見なくてもわかる気がした。

 

 

 ○○○

 

 

 そこから怒涛の日々が過ぎた。

 キキョウアカデミーに顔を出して教授やレホール先輩にアローラでのことを報告したり、爺ちゃんのボール作りを手伝ったり。その合間にパルデア行きの準備を進めていくうちに、早くも2週間が過ぎてしまった。

 

 ようやく出立の目処がついたところでマツバから夕食を誘われたので、互いの中間地点であるコガネまで足を伸ばすことにした。

 

 我が親友にしてエンジュのジムリーダー殿は、繁華街中にひしめくキャッチやらスカウトやらキャバ嬢のアプローチを巧みに躱しつつ現れ、実にスマートに目当ての店に連れていってくれた。

 

「モテるんだろうなあお前は」

「まあな」

「うぅわ否定しないのかよクソ」

「はは。そう言うアシタバだってパルデアから来た美人を射止めたそうじゃないか? 隅に置けないな」

「どっから聞いた?」

「あらゆるところから。オレは地獄耳なんだぜ」

 

 コーヒーを飲みながらにんまりしている。

 くっ。こいつ、俺はボール作りに呼ばれただけって知っててからかってやがるなちくしょうめ。

 

「それで、いつ出発(たつ)んだ?」

「明後日、かな」

「なら、こいつを渡しとこう」

 

 そういうと、マツバは1枚のお札を差し出した。

 草書体というやつだろうか、のたくった筆文字がびっしりと書かれ、なんと読むのか判然としない。

 

「なんて書いてあんだコレ」

「簡単に言うなら魔除の札さ。パルデアは強力な幽霊(ゴースト)がわんさか居る土地だ。アシタバのようにポケモンホイホイな人間が行ったらすぐに取り憑かれるぞ」

「なんだポケモンホイホイって」

 

 そんなホイホイしとらんわ。

 しかしゴースト専門家の札ならば霊験もあらたかだろう。有難く頂戴する。

 

「またこっちに帰ってくるのか?」

「そのつもりだよ。いつになるかは全く読めねーけど」

「気をつけろよ」

「おう。そっちもあんまチャレンジャーしばくなよ」

 

 マツバのジムは挑戦者を容赦なく叩きのめすと、ヒワダでももっぱらの評判だった。

 10人いて、バッジを持ち帰れるのは1人か2人らしい。

 マツバがおもむろに頬杖をつき、

 

「善処するよ」

 

 と微笑んだ。

 笑っているようでその実、双眸が野心的な光にギラギラしている。

 負ける方が悪いだろ? と思っているのは火を見るより明らかだった。

 

「…………お前に挑まなきゃならんトレーナーたちに心底同情するわ」

 

 俺の台詞に、マツバは爆笑した。

 

 

 

 

 

 




というわけで41話。
2週間も空いて申し訳ない。
リアルがバタついておりました。

カロスに行く気満々だったアシタバくん、なぜかパルデアに半強制連行です。任意の体をとっているのがタチ悪い(チリちゃん談)。
次回からテラスタルオーブ作成編、始まります。
パルデアは好きなビジュの子が多いのでまた手持ちが増えてしまうかも。
どうする作者。

そして久々登場マツバ氏。HGSSでは容赦なくシャドボ連打してくるので本作でもさぞかし攻略しづらいジムでしょうねえ。
ちなみに作者はマツバはドSだと思って書いてます。
楽しい。

おがぽんたちのニックネームもそろそろ付けてあげたいですし、パルデア編では更にヘキをオープンしていく所存です。ついてきてくれよな!

よければ感想高評価おなしゃす!
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