ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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パルデア編
第42話 飛んでパルデア。


 

 

 

 パルデアは、ガラル、カロスと並んで《西方三国》と称される地方のひとつである。

 肥沃な大地に支えられ、目覚ましい発展を遂げる一方、人とポケモンとの共存をなによりも重んじてきた土地柄は、驚くほど雄大で寛容だ。

 

 生まれて初めて乗った飛行機の窓にかぶりつくようにして眼下を眺めていたクチート(ヘリオドール)は、感嘆に目を瞠りっぱなしだった。

 

『凄いな……。明らかに、ヒトの住まう処よりも手つかずの場所の方が広い』

「街を造成するときもなるべく自然の地形に合わせていくから、パルデアの建築物は世界でも類を見ないぐらい特殊な構造をしてるんだと」

 

 パンフレットの説明文に目を走らせながら、そのポリシーはどことなくホウエンに通ずるものがあるな、と思った。

 

 俺たちはいまベイクタウンという街の上を通過している。岩山を崩すことなく、むしろ天然の要害として利用している様は、幼なじみのナギが生まれ育った町、ヒワマキシティを彷彿とさせた。

 

(あそこも、木を1本たりとも伐ることなく町に変えるとかいう変態構造だもんな。

 案外設計者が同じだったりして)

 

 益体もないことを考えつつ、俺は改めて詫びを入れた。

 

「話の流れで、カロスに行くはずがこっちに来ちまった。ごめんな」

『仕方あるまい』

 

 ヘリオドールはふんと腕組みした。

 

『貴様の祖父は師匠でもあるのだろう?

 師より課された試練を、弟子が断る訳にもいくまいよ。

 なに、貴様があんまりもたつくようなら先にカロスに向かうさ。精々気張れ』

 

 毒っ気のつよい口調だが、これが彼女なりの激励なのだ。俺は口元を綻ばせた。

 

「ありがとう。────力の限り頑張るよ」

 

 そう。

 今回の課題は、たぶん、爺ちゃんからの最後のテストなのだ。テラスタルエネルギーを吸収、操作するためのボール製作。エネルギーも未知のものなら、捕獲機構(ガジェット)の作製も未知数だ。

 なにもかもが手探り。

 まるで、己の指すら見えない闇の中を、さらに目隠しして進むような頼りない心地がする。

 

(…………だからって、尻尾巻いて逃げるわけにはいかねえよな)

 

 拳を固く握りしめる。

 ここまで来たんだ、やるっきゃねえ。

 必ず、この任務(クエスト)を成功させてやる。

 

 折りよく、着陸のアナウンスが鳴った。

 

 

 ○○○

 

 

 到着したのはパルデア最東端の街、ハッコウシティの空港(エア・ポート)である。

 ジョウトのコガネによく似た雰囲気が漂い、どこもかしこもとにかく派手だ。パルデア有数の空の玄関口なだけあって、大勢の人でごった返していた。

 

 オモダカさんとは明日、この街で落ち合う手筈になっている。急いでも仕方なし、のんびり観光でもしていよう。

 

「落ちるなよ、レヴィ」

「んげる」

 

 頭に乗せたルギア(レヴィアタン)が短く答える。

 今回はパルデアでよく見られると聞く、イキリンコなる鳥に変身させた。

 リーゼントに似た鶏冠が面白い。

 ちなみに毛並みは黄色である。

 

 いつもどおりリュックひとつきりの荷物を背負い、さて腹ごしらえでもしようかと出口に向かった俺は、足元の()()()に躓いて激しく転んだ。

 

「いでぇっ!?」

「スシー!?」

 

 2つの悲鳴が交錯する。

 

 …………スシ? 

 

 見れば、一体どこの誰がこんな勿体ないことをしやがったのか、立派な鮨((ギョク))が一貫床に落ちているではないか。食いしん坊のレヴィがすぐさま目の色を変えてつつき始めた。

 

「こらっ! やめろレヴィ! ばっちいだろ!

 3秒ルール適用外! めっ!」

「スシっ、スシスシっ! オレスシー!」

「ほら鮨も痛くて泣いてる……泣いてる!?」

 

 鮨が!? なんで!? 

 

 驚く俺を、鮨は恨みがましい目つきで睨んでき、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねていってしまった。

 

 むろん、ただの鮨が叫んだり跳ねたりするはずがない。

 つまり今のは────

 

「え、うそ、もしかしなくてもポケモン?」

 

 思わず呟くと、すぐそばのベンチに座っていたサラリーマンがこくりと頷いた。

 よほど激務が続いているのか、顔にも姿勢にも覇気がない。消え入りそうな声でぼそぼそ教えてくれた。

 

「あれはシャリタツというドラゴンポケモンですよ」

「ドラゴン!?」

 

 鮨みたいなアレが!? まじで!? 

 

「ぱ、パルデア、恐るべし……」

「げるるぅ」

 

 鮨を食い損ねたレヴィが悲しげに喉を鳴らした。

 

 

 ○○○

 

 

 シャリタツショックにくらくらしつつも、適当な飯屋を探すこと30分。昼飯時なだけあって、どこの店も外まで行列が続いている。

 

 またパルデア料理というやつは香辛料をたっぷり効かせるから、いい匂いがするんだコレが。

 

「あー……腹減ったァ」

 

 いっそコンビニで済ますか? 

 いやダメだ。この腹の減り具合、おにぎりを2~3個食った程度でおさまるもんじゃねえ。というかそんな飯を出したらレヴィに死ぬまで啄かれる。

 

 回らない頭を抱えてうんうん唸っていたその時。

 ふと、剣呑な声が聞こえた気がした。

 誰かが誰かにいちゃもんをつけているような、そういう類の声音だ。

 

「────?」

 

 面を上げ、首を巡らせる。

 気の所為だろうか。

 …………いや。

 表通りから1本離れた路地の奥から、今度はもう少しはっきり聞こえてきた。

 

「ンだこら」

「やんのかよ、あぁ?」

 

 間違いない。

 誰かが輩に絡まれている。それも、複数人に。

 

 俺は無言で、声のする方に足を向けた。

 

 

 

 

 現場にはすぐに辿り着いた。

 商店街と住宅地に挟まれた、うら寂れた路地の行き止まり。そこで、3人のチンピラが誰かを取り巻いている。

 

(おいおい……)

 

 おもわず呆れた溜め息が漏れた。

 絡んでいる相手はなんと子供だったのだ。まだ年端もいかない、どう多く見積っても7つか8つの少年を、大の大人が胸ぐら掴んで揺すぶっている。ほかの2人はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。

 

 少年の足元に、パンパンに膨れた買い物袋が転がっているところから察するに、おつかいの帰り道でこいつらに目をつけられたらしかった。

 

「離せよ!」

「離してほしかったら逃げてみろや」

「ほらどうした? 逃げねぇのか? ン?」

「ぐ……っ」

 

 足をばたつかせても、首を絞める手はビクともしない。

 少年の顔がだんだん青ざめていく。

 俺が見ていられたのはそこまでだった。

 一条の閃光が、チンピラの頭を直撃した。

 

「ギャッ!」

 

 男が苦悶の叫びをあげて蹲る。

 ハッと振り返った2人に向かい、怒ったレヴィが猛烈に攻撃し始めた。

 イキリンコの嘴は小さいが太く、思い切り啄かれると尋常でなく痛い。チンピラたちは顔中血だらけになりながら、這う這う(ほうほう)(てい)で逃げ去った。

 

『ハァイ少年、ダイジョーブ?』

 

 影から躍りでた金色の幽霊、サーフゴーのフーゴがぱちんとウインクした。先程の閃光はフーゴが放ったコイン弾である。

 

 少年は呆気にとられた眼差しでフーゴを見、レヴィを見、俺を見た。

 

「よう。怪我はないか?」

「な、ない」

「そりゃよかった。この荷物、お前さんのだろ?」

 

 買い物袋を差し出す。

 リンゴにオレンジ、野菜にパン。新鮮で美味そうな食材がたっぷり入っていて、子供の手には少々重たげだ。

 あの下衆どもがすぐに戻ってくるとは考えにくいが、乗りかかった船だ。家まで送り届けてやろう。

 

「お前さん、家は」

 

 どこだ? と訊くより早く、どデカい腹の虫が鳴った。

 狭く静かな路地裏で、それはそれは盛大に鳴り響いた。

 

「…………」

「…………」

 

 双方、無言で見つめあう。

 少年がぷっと噴き出した。

 

「すげー腹の音! 腹ペコちゃんだな! 

 なあ、家まで来てくれよ。お礼がわりにサンドイッチ作るからさ! オレの、けっこう旨いんだぜ」

 

 とてつもなく恥ずかしいが、そのお誘いは魅力的だ。

 俺は何とか顔が赤いのがバレませんようにと祈りつつ、右手を差し出した。

 

「ご相伴に預かるよ。俺はアシタバだ」

「オレはペパー! よろしくな!」

 

 少年──ペパーは、快活に笑った。

 

 

 

 

 




というわけで42話。パルデア編突入です。
毎回言ってる気がしますが作者の癖(ヘキ)大爆発シリーズなので好きなキャラボンボン出していきます。まずはペパーくんから。

ここから少しゆったりペースでの更新にはなりますが、どうぞお付き合いくださいまし。

いつも感想高評価ありがとうございます!
今後ともよろしゃす!
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