ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第44話 地上と地下で。

 

 

 

 ペパーとオラチフ、俺と俺の手持ち10体による総勢13名のランチは最初から最後まで笑い声の絶えることがなかった。日差しが苦手なサマヨールのためにパラソルを立ててやったら、よほど嬉しかったのかこの上なくご機嫌な顔で古今東西の()()()()()を語りまくり、それがやたら面白くて、全員のツボにハマったのだ。

 

 サマヨールはもちろん人語で喋ってくれたわけだが、腹話術よろしく同時にポケ語でも語りかけていたらしい。

 みんな同じタイミングで噴き出すもんだから、尚更おかしく感じられ、ますます笑いが止まらなくなった。

 

 例えるなら、テレビ越しじゃイマイチだったお笑いも、劇場とかに見に行くとすぐそばにウケてる人がいるおかげで面白くなるあの現象に近い。

 

 驚いたことに、あのクチート(ヘリオドール)すら腹を抱えて笑っているのだから、サマヨールの話術恐るべしだ。

 

 ようやく笑いの波が収まった頃、片付けをしながらヘリオドールに訊ねてみた。

 

「ふたりはいつ出会ったんだ?」

 

 彼女は生まれてからずっと、あの《輝きの洞窟》でディアンシー女王に仕えていたと聞いている。

 俺の記憶が確かなら、臣下の列にサマヨールは居なかったはずだ。とすれば、俺たちが再会したアローラで知り合ったのだろうか? 

 

 レジャーシートを折りたたみ、ひょいと担ぎながら可憐な戦士は言った。

 

『いつもなにも、奴はあの洞窟に遥か昔から住み着いていたのだぞ。私が赤ん坊の頃からの知り合いだ。

 忌々しいことにな』

「え、あ、そうなの?」

 

 俺は素っ頓狂な声を上げた。

 じゃあ、アマルス(ゴーシェナイト)の復元騒動に纏わるあれやこれやも知られてる訳か。

 

『その頃からああいうお調子者でな。

 変わり映えのしない洞窟で、娯楽係のようなものを担っていた。戦いはからっきしだが弁が立つので、色々な折衝も任されていたな』

「…………その、突っ込んだこと聞くけどさ。

 なんで一緒に旅してるんだ?」

 

 これはずっと気になっていた。

 武骨なヘリオドールとおしゃべり好きなサマヨールとではあんまり性格が違いすぎて、どちらが同道を持ちかけたのか、そしてなぜ許したのか想像すら難しい。

 すると意外なことに、誘ったのはヘリオドールの方だという。

 

『あてどない旅とはいえ、チンタラ歩くのも性にあわんのでな。昼間は私の影に入れてやる代わりに、夜はお前の身体に入れて運べと交渉したのだ。そうすれば一日中動けるだろうが』

「か、体の中」

『拙者は中身がスッカラカンですからそういう芸当も叶うんですなあ』

 

 いつの間にか隣にいたサマヨールがうんうんと頷く。

 たしかに、この種族は包帯のような布が輪郭を保っているだけで、血肉を宿しているわけではない。

 入るのは容易だろうが、なんというかこう、薄気味悪くはないんだろうか? 

 

『ややっ、その顔は拙者のカラダに興味津々ですな?

 いいですぞ、アシタバ氏ならいつでも……♡』

「いらない! ほんとに要らない!」

 

 両腕を広げ、どこか恍惚とした表情を浮かべるサマヨールに首を振って固辞した。

 

 

 

 

 ランチのあとはみんなでフリスビーを投げたり、軽くポケモンバトルをした。ペパーにとって初めてのバトルだったらしく、最初こそ興奮しすぎて空回っていたが、2戦、3戦と重ねていくうちにオラチフと呼吸が合い始め、最後にはかなり動きが良くなっていた。

 

 どうやらオラチフもゴーシェと同じく勇敢な性格だったようで、ふたりはすっかり意気投合し、広い庭を追いかけっこしている。

 

「はー! すっかり汗だくちゃんだぜ!」

 

 柔らかい草が茂る場所にごろんと寝転んで、ペパーは爽やかな秋の空を仰いだ。そよぐ風が心地いい。

 

 俺も横になって、のんびり行き過ぎる雲を眺めた。

 

 すると、いくらも経たないうちに、隣から寝息が聞こえてきた。見ればあどけない顔をしてペパーが眠りこけている。腹いっぱい食って思いっきり運動した後特有の、晴れやかな寝顔だった。

 

 俺は薄く微笑んで、そっと上着をかけてやった。

 気を利かせたカブトプス(カブルー)がみんなを静かにさせている。

 追いかけっこから戻ってきたオラチフがペパーの胸元に潜り込み、主のための湯たんぽを務めた。

 

(ああ、いい気持ちだ。せめてパルデアにいる間は、こんな穏やかな時間がずっと続けばいいな)

 

 そっと目を閉じる。

 快い微睡みに我が身を浸した。

 

 

 〇〇〇

 

 

エリアゼロ 第4研究所

 

 パルデア地方の中央を深く貫く縦穴の、底の底に建てられた施設で、ひとつの偉大な研究が実を結ぼうとしていた。

 

「おお……! この反応は正に……!」

 

 長い茶髪を無造作に下ろした女性が小さく呟く。

 その声は、歓喜に打ち震えていた。

 

「フトゥー! 来てくれフトゥー! いよいよだ!

2()()()が来るぞ!」

 

 紫の髪を撫でつけた男がすぐさまやって来た。

 疲労の色が濃いけれども、瞳には強い光が宿っている。

 

「確かか? オーリム」

 

 オーリムと呼ばれた女性が「無論だ!」と請け負った。

 

「すべての計器と値が、初めて()()()()()()を呼び寄せたときと同様の動きを示している! そら見ろ!」

 

 オーリムが指さしたのは、常人には何の機械かも測りかねる、巨大なマシーンだった。

 

 幾台ものコントロールパネルが、中央の筒部分を取り巻くように並んでいる。

 筒が激しく振動し、煙を吐き出した。

 

「おお……! 召喚煙が!」

 

 フトゥーの唇が笑みを作る。6歳の息子を地上に置き去りにしてから今日までの2年間、めっきり笑うことのなくなった彼の、久しぶりの笑顔であった。

 

 妻のオーリムもまた、喜びを露わにしている。

 母親としての役割よりも、いち研究者としての使命を選んだ彼女は、双眸に泪を湛えていた。

 

「やった! やったぞフトゥー! 成功だ! 成功したんだ! もう1体のオウを呼べたなら、きっと他の古代ポケモンも連れてこれる!」

「そして未来のポケモンもな」

 

 最愛の妻の涙を拭ってやりながら、フトゥーは再び目の前の機械を───()()()()()()()を眺めやった。

 

 長かった。

 ここに漕ぎ着けるまで、筆舌に尽くし難い苦労を重ねてきた。

 パルデア中に存在する結晶体が、膨大なエネルギーを内包していることを突き止めたとき、フトゥーもオーリムもまだ10代の青年だった。後にテラスタルと名付けたそれからエネルギーを抽出し、利用する方法を確立させるまで、実に20年の歳月が流れている。

 よくもまあ出資企業(スポンサー)も待ってくれたものだ。

 

「テラスタル結晶を動力源とするタイムマシーンを造り、時代を超えてポケモンを呼びだす。

 …………最初は荒唐無稽と笑われたな」

 

 オーリムが肩をすくめると、フトゥーはにやりとした。

 

「8年前にツバサノオウが来てくれたおかげで、そうした連中も大人しくなったがね」

「ああ、その通りだ」

 

 筒の振動が止まる。いよいよ、10万年前のポケモンが完全に転送されたのだ。

 

「仲間達がテラスタル現象に怯えてみんな去ってしまったときはどうなることかと思ったが…………諦めずに君と取り組んできてよかったよ、オーリム」

「礼を言うのは私の方だよ、フトゥー」

 

 オーリムの細い指がフトゥーの腕を握ってくる。

 日に日に大きくなる我が子を抱えながらそれでも実験と検証を辞めなかった才女の手は、地下に舞い戻ったこの2年で随分痩せ衰えてしまった。

 

 エリアゼロは地上と全く違う雰囲気に満たされている。

 それゆえか、あまり長く居すぎると神経系が乱れてしまうのだ。

 食欲不振に睡眠時の中途覚醒、異常に気が昂るときもあれば、反対に酷く気分が落ち込んだりもする。

 特にオーリムは妊娠中もギリギリまでゼロラボに居続けたからか、フトゥーよりも深刻な影響を受けていた。

 連続して眠れるのはおそらく、2〜3時間にも満たないだろう。

 

「君はいかなるときも私を励まし、検算し、マシンのメンテまでしてくれたじゃないか。私1人では絶対に達成しえなかったよ」

 

 フトゥーは優しく微笑み返した。

 

(この実験が成功したら、もう我々の理論は完璧だ。

 一度オーリムを病院に連れて行こう。

 そして家族3人でしばらくのんびり暮らすんだ。

 1ヶ月、2ヶ月、いや半年くらい休んでしまおう。

 骨身を惜しまず働いたんだ、それぐらいは許されるさ)

 

「さあ、オウの来訪を見届けよう」

「ああ」

 

 2人は固く手を握りあい、タイムマシーンから古代の王が出てくるのを今か今かと見守った。

 

 

 そして────。

 

 

バガァッ! 

 

 

 けたたましい音を立てて扉が開かれる。

 いや、正確には蹴破られた。

 

 遠く離れた時代と繋がる時、必ず生じる白煙の奥から、のそりと現れるは赤龍一体。

 羽毛にも似た鬣を逆立て、鋭く裂けた黄色い眼孔がオーリムたちを睥睨している。

 

 先に呼び出したツバサノオウ──オーリムがコライドンと命名した赤龍と瓜二つの外見ながら、纏う空気は明らかに剣呑だった。

 

 騒ぎを聞きつけやってきたコライドンが、己と同じ姿をした者を認めてきょとんとする。

 

「僕たちの友に較べて、あちらは好戦的な個体のようだ」

 

 フトゥーが囁く。オーリムは青い顔で首肯した。

 2体目のオウを見た瞬間から、彼女の背中にはねっとりとした汗が噴き出していた。

 

(────違う。こいつは、ダメだ)

 

 本能的に1歩後じさる。

 あの金の瞳孔。

 冷酷で、残忍で、血に飢えた眼差し。

 己の力に絶対の自信を持つ、強者の面構えだ。

 愚かにも捕食者の縄張りに入ってしまったか弱き獲物がそうするように、オーリムはじりじりと後退した。

 

 フトゥーは、そうしなかった。

 彼は、いつも気丈な妻が突然怖がりだしたことに面食らっていたのだ。

 

 それが、2人の生死を分けた。

 

「ゴルァッ」

 

 短く吼え、ツバサノオウが躍りかかる。

 長さ20センチにも及ぶ禍々しい爪が、五本の凶刃と化してフトゥーの胸から腹を切り裂いた。

 

「…………ッ!?」

 

 悲鳴をあげる暇もあらばこそ、無造作に振るわれた尻尾に殴られ、壁に叩きつけられる。

 頑丈なはずの防壁が、べごりと凹んだ。

 フトゥーは芯のない人形のように手足を投げ出し、床に座りこんだ。

 

 赤い水溜まりがみるみる拡がっていく。

 フトゥーの腹の辺りから、やけに明るいピンク色の()()がぼるんと転がりでた。

 生々しい臭いが漂ってくる。

 しかし、オーリムの夫は眉ひとつ動かさない。

 この一瞬で、絶命していた。

 

 オーリムは頭が痺れたようになって、ただ立ち尽くしていた。目の前の光景が信じられなかった。

 

 しかし彼女は天才であった。

 常人よりも優れた頭脳を持っていた。

 だから、信じられずとも理解出来てしまった。

 

 すなわち、己が途轍もなく凶悪なバケモノを招いてしまったという、拭いがたい事実を。

 

 コライドンがオーリムの服の裾を引っ張り、背中に乗れと促してくる。

 ツバサノオウは新鮮な血肉を夢中で貪っていた。

 逃げるなら、今をおいて他にない。

 

 虚ろな目で横たわる夫から視線をもぎ離すようにして、オーリムとコライドンは命からがら脱出した。

 

 

 

 

「ああ、あぁ、なんてことだ……なんてことだ……!」

 

 胸元を掻きむしりながら、オーリムは呻いた。

 

「あの子に、ペパーになんて言えば…………!」

 

 あと少し、ほんの少しで、また家族3人仲良く暮らせるはずだったのに。20年に渡る研究が、ようやく終わるところだったのに。

 まさか最後の最後で躓くなんて。

 

 フトゥーの死体が脳裏に甦り、オーリムは歯が割れそうなほど噛み締めた。

 

 奴は私の匂いを覚えたろう。

 ここにろくな食べ物はない。

 コライドン用のフーズも残り僅かだ。

 腹を満たすために、どこまでも追ってくるはずだ。

 

 

 逃げねば。

 

 

 …………逃げる? 

 

 

 これまでの研究成果を、全て捨てて? 

 

 

「…………いや、ダメだ」

 

 

 地上に向かって坂道を駆け上がっていたコライドンの手綱を握り、行き先を変更させる。

 コライドンが戸惑う声を上げた。

 

 諦めるだと? 

 ここまで来て? 

 ダメだ、ありえない。

 そんなことをしたら、夫の死は全くの無駄ではないか。

 

 逃げてはならない。

 途切れさせてはならない。

 この研究を、なんとしても完成させるのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうでなくば、フトゥーが浮かばれない……!」

 

 怯えるコライドンを宥めすかし、オーリムは、第3研究所に向かってひた走った。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで44話。

ペパーのご両親はフトゥーオーリム夫妻派なので、2人とも出してみました。
でもすぐに退場になってごめんねフトゥー。
せめて2体目コライドンが骨も残さずいただきます。

そもそも彼らはなぜタイムマシーンを製作していたのか。
未来/古代のポケモンを呼び出して何がしたかったのか。
楽園とはなんなのか。
ゲーム本編で語られなかった要素は好き勝手に肉付けしていきます。
みなさんはこの辺どう捉えてますか?

よければ感想高評価おなしゃす!
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