ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第45話 ペパーの境遇。

 

 

 

 

 軽い昼寝のつもりだったのに、目を覚ますと世界が暮れ色に染まりつつあった。

 

 少なく見積っても、たっぷり3時間は寝た計算になる。

 跳ね起きたが隣にいたはずのペパーが居ない。

 おそらく先に起きて夕食の支度を始めたのだろう。

 庭にまでいい匂いが漂っていた。

 

「やっべえ!」

 

 10も歳上のくせになんたるザマだ。

 慌てて邸内に入っていくと、ちょうど俺を呼びに行こうとしていたらしいペパーと鉢合わせた。

 

「お! ねぼすけちゃんのお目覚めだな!」

 

 にかっと笑われて、俺は口をもごもごさせながら頭を掻いた。面目ないとはこのことである。

 

「ごめんな、また1人で用意させちまった」

「1人じゃないぞ、師匠が来てくれたからな!」

「…………師匠?」

 

 俺が首を傾げるのと、その人が廊下に顔を出すのはほとんど同時だった。

 

 服の上からでも分かるほど筋骨隆々の肉体。

 黒髪をさっぱりと刈り上げた爽やかな髪型に、がっしりとした顎。

 濃いまつ毛の生えた目元がきりりと引き締まっている。

 

「ハウスキーパーのサワロさんだぜ」

「初めまして、アシタバくん。

 今日は泊まっていくそうだね?

 ゲストルームの掃除は済ませておいたよ」

 

 豊かなバリトン声が心地いい。

 差し出された手を握ると、分厚く大きな掌に包まれた。

 

「はじめまして、サワロさん。

 ありがとうございます。

 ……えと、師匠ってのは……?」

「仕事のかたわら、ペパーくんに食事作りを教えていたら、いつの間にか師匠と呼ばれるようになってしまった。私はそんな大層な人間じゃないんだがね」

「師匠は師匠だぜ! めちゃくちゃ美味い料理をあっという間に作っちゃうもん!」

 

 手放しで褒められ、サワロさんは微かに頬を赤らめた。

 

 たしかに、彼の料理は絶品だった。

 魚介たっぷりのパスタにりんごのサラダ、コクの深いトマトスープ。ふんわり柔らかい白パンはまさかの手作りというのだから恐れ入る。

 栄養バランスも彩りも完璧で、もちろん味もいい。

 なるほど彼の手ほどきを受けたのなら、ペパーの年に似合わぬ料理の腕前も頷ける。

 

「う、うまい……うますぎる……っ」

「おかわりは?」

「食いますっ」

 

 シュバっと皿を差し出すと、サワロさんは「気持ちいい食べっぷりだな」と破顔した。

 

 

 デザートのクリームブリュレまで堪能し、食後のコーヒー(ペパーはココア)を飲みながら、俺はしかし、憂鬱な気分がじわじわ湧いてくるのを止められなかった。

 

(明日になればここを出て、テラスタルのためのボール作りにかかる。それは楽しみなんだが…………でもそうなると、またペパーが独りぼっちになるんだよな……)

 

 そういう考えが、どうしても拭えなかったのだ。

 

 サワロさんは週に4度この家に来て、掃除やら洗濯やらを担当するそうだが、ほかにも雇われている家があるとかで、あまり長居はできないらしい。

 けれど、会話の端々から、もっとペパーと一緒にいてやりたい……という想いが滲み出ていた。

 

 気持ちはわかる。痛いほど分かる。

 今日会ったばかりだけども、とにかくペパーが良い子すぎて離れがたいのだ。

 叶うことなら、もっと一緒にいたい。

 だけど俺には、爺ちゃんとオモダカさんから託された使命がある。八方塞がりだ。

 

(そもそも、こんな小さな子をたった1人で留守番させるなよ…………ちょっと恨むぜ、ご両親)

 

 顔も知らないペパーの二親に向かって、内心ちいさく毒づいた。

 

 

 〇〇〇

 

 

「…………てなわけで、ペパーのために俺はどうしたらいいと思う?」

 

 ペパーと背中を流しあい、寝かしつけたあと。

 屋敷裏の庭で星を眺めながら、鍛錬中のクチート(ヘリオドール)に訊ねてみた。

 

 彼女はディアンシー女王に侍っていた頃からずっとそうしてきたのだろう、早朝と夜間のトレーニングを欠かさない。いまは、自分より何倍も大きい岩をダンベル代わりに持ち上げていた。

 

『どうするもこうするも、これは家庭の問題だろうが。

 貴様が口を挟む資格などあるまい。

 要らんお節介はトラブルのもとだぞ』

 

 返答はにべもなかった。

 だが、この上ない正論である。

 

「…………だよなあ」

 

 俺は溜息を吐いた。

 すかさずサーフゴー(フーゴ)が肩を抱いてくる。

 根が陽気で楽しいこと好きなこのゴーストは、すっかりペパーを気に入っているようだ。

 

『まーまー、マスターの気持ちも分かるヨ。

 あの子とっても可愛いもんネ〜。

 このままハイサヨナラってのはちょっと寂しいよネ〜』

「だよなー、そうだよなー。

 でも、無許可で連れ回すわけにはいかんしなあ」

『ダメなノ?』

「ダメだろ。誘拐だぞソレ」

『えー? ウーン、難しいねェ』

「難しいなあ」

 

 俺とフーゴは同時に首を捻った。

 そこへサマヨールが参戦し、指を1本立ててきた。

 

『ならば、チームの何名かを坊ちゃんに託してはいかがですかな?』

「託す?」

『左様』

 

 サマヨールは訳知り顔に頷いた。

 

『つまるところアシタバ氏は坊ちゃんの無聊を慰めたいのでありましょ? 

 であるならば、賑やかにするのが1番ですぞい。

 我々が何人か残れば、それだけで坊ちゃんの寂しさなど吹き飛ぶでしょうぞ!』

「…………なるほど」

 

 それは、アリかもしれない。

 メンツの選出が問題だが、そこは明日、みんなの意見も聞いてみよう。

 

「さんきゅ、サマヨール。参考になった」

『ドゥフ』

 

 サマヨールはにっこりと微笑んだ。

 

 

 〇〇〇

 

 

 翌朝。

 ペパーと朝食を囲んでいると、ポケギアが着信音を鳴らした。オモダカさんからの電話である。

 

「はい、アシタバです」

『おはようございます、アシタバさん。昨夜はお休みになれましたか?』

「ええ、おかげさまで」

『それはよかった。

 ところで、本日お昼にお迎えにあがるというお話でしたが、少々予定を遅らせても構いませんか?』

「え? え、ええ。大丈夫ですけど、なんでまた?」

『実は今日、パルデアの大穴からテラスタル化したポケモンたちが次々に飛び出してくるという事例が多数報告されておりまして、その対処に出向かなくてはならなくなったんです』

「パルデアの大穴…………」

 

 俺は脳裏にパルデア地方の地理を思い浮かべた。

 オモダカさんが言ってるのは多分、この地方の中央に開いたどデカい穴のことだろう。地図の上の、巨大な黒塗り部分をそう呼ぶのだと物の本に書いてあった。

 

 テラスタル化したポケモンというのがよく分からんが、厄介な事態が起きたのは察せられた。

 

「オモダカさん。

 なにか俺に手伝えることはありますか?」

 

 電話の向こうで、かすかに息を飲む音がした。

 

『力を貸していただけるのですか?』

「もちろん。水臭いこと言わんでくださいよ。

 そもそも俺がここに来たのはテラスタルエネルギーを自在に操れるようにするためだ。その参考になるものなら何だって見ておきたいんです」

『…………ありがとうございます。あなたという協力者を得られて本当によかった。

 それでは、ハッコウシティ西方に広がるハッコウ平野においでください。そこに私の部下を待機させておきます。少々積極性に欠けるきらいはありますが、腕は確かです』

「りょーかいです。すぐ向かいます」

 

 電話を切り、席を立つと、物言いたげなペパーの視線とかち合った。

 パルデアの大穴という単語を口にした時からなんだかそわそわしていたが、いまや、幼い顔には明らかに焦燥の色が浮かんでいる。

 

「あ、アシタバさん。い、今の電話、なに?」

「あー、なんか、テラスタル化? したポケモンがパルデアの大穴ってところからうじゃうじゃ出てきててヤバいから助けてくれって話だったけど……どした?」

「そ、その現場、お、オレも連れてってくれ!」

「……ペパー?」

 

 本当にどうしたんだろうか。

 やけに顔が青ざめているし、声も上擦っている。

 

 すると、ペパーはシャツの裾を握りしめて言った。

 

「パルデアの大穴には…………オレの父様と母様のラボがあるんだ」

「────!」

「2人とも、朝と夜にメッセージを送ってくるんだけど、昨日も今日も連絡がなくて…………たぶん、忘れてるだけだとは思うんだけど……」

 

 ペパーの瞳にみるみる涙が浮かんでいく。

 俺はそれ以上言わせず、ぽんと肩に手を置いた。

 

「うし。一緒にいくぞ、ペパー。暴れてるポケモンたちを片して、そんで大穴に突撃だ」

「アシタバさん……! ありがとう!」

 

 ペパーが嬉しそうに笑う。

 うん、やっぱお前はその顔がいちばんだ。

 

 手早く準備を済ませ、庭に出ると、ウルトラボールからテッカグヤ(竹子)を呼び出した。

 

「竹子! ちっと飛んでもらう!

 俺たちが乗れるサイズになってくれ!」

「よふ」

 

 竹子が微笑み、ボディパージで肉体を改造し、飛翔モードに入ると、ペパーは口をあんぐりさせて驚いた。

 

「で、でかっ!?」

「飛ばすぜ。しっかり掴まってろよ!」

 

 竹子の腕に跨り、ペパーを背中から抱きしめるようにして、俺たちはパルデアの空に舞い上がった。

 

 薄曇りの、なんだか寂しい天気だった。

 

 

 

 




お久しぶりです。
暑くてやる気が溶けてました。

というわけで45話。
話を一気に動かしていきます。
サワロさん登場。彼は教師になる前なにしてたんやろなあ、と妄想していたらハウスキーパーの前職を受信しました。
ピンクエプロンが似合う男、サワロ。

夏場はまじで更新がスローになります。
みなさまもお身体ご自愛ください。
よければ感想高評価おなしゃす!
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