ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

46 / 100
第46話 テラスタルポケモン。

 

 

 

 オモダカさんが指定したハッコウ平野は、街からおよそ20キロほど離れたところに広がる、なだらかな草原だった。秋の風が吹き渡り、あちらこちらにすすきの穂がそよいでいる。

 

 風光明媚な光景だがしかし、テッカグヤ(竹子)の筒にまたがって俺の腹に腕を回していたペパーは、低い声で訝しんだ。

 

「おかしいな…………」

「なにがだ?」

「ここ、いつもはケンタロスの群れが走り回ってるんだよ。でも今日は、1頭も見当たらない」

「…………そりゃおかしいな」

 

 おもわず俺も真顔になった。

 ケンタロスというポケモンは実に気性の荒い牛で、縄張りに対する執着が強く、侵入者には容赦しないことで知られる。正直なところ、野生で遭いたくないポケモンランキング上位に君臨する種族だ。

 

 そんな生き物が縄張りから影も形も残さず消え失せるとは、一体どういうことなのか。

 

 あまりに強大なポケモンが現れて潜んだか、それとも、情け容赦なく喰われたか。

 

 頼むからせめて前者であってくれと願いつつ、遮蔽物の少ない場所に着陸した。

 

 周囲からは俺たちの姿が丸見えだが、こっちも辺りに目を配りやすい。竹子を労ってからガチグマを呼び出した。

 

「ペパーを守ってくれ」

「がう」

 

 筋骨隆々の熊が頷く。

 俺はしゃがみこみ、ペパーの肩をぽんと叩いた。

 

「オモダカさんの部下がこの辺に来てるはずだから、ちっと見回ってくる。ガチグマの傍を離れるなよ」

「わ、わかった!」

「なんかあったら、そうだな…………この笛を思いっきり吹いてくれ」

 

 リュックから黒い角笛を差し出した。

 かつてディアンシー女王から賜った3つの宝のうちのひとつで、弱く吹くと近くの野生を呼び寄せる効果を持つ。強く吹いたことはないからどんな効果をもたらすか分からんが、まあ、悪いことは起きるまい。

 …………勘だけど。

 

「うし。お前さんも見張ってくれよ、レヴィ」

「げる」

 

 頭の上に陣取るルギア(レヴィアタン)(黄色イキリンコの姿)が勇ましい声を上げる。

 もういちど竹子に乗って飛ぼうとした、その時だった。

 

「…………っ!?」

 

 地面の下に強烈な違和感を感じ、飛び退ると、一瞬の間を置いて()()()()()()

 

「っはァ!?」

「アシタバさん!」

「くるな、ペパー!」

 

 俺の怒声に、駆け寄ろうとしていたペパーが足を竦ませる。すぐにガチグマが襟首を咥えて後方に下がらせた。

 

 なんとか体勢を整えた俺は、粉々に砕けた土の中に赤い羽を見出した。

 緋扇を思わせる鮮やかな色味が小刻みに震えている。

 おそるおそる穴の中を覗き込むと、十文字の瞳と目が合った。

 

「──ウルガモス、か?」

 

 それは確かに、ウルガモスによく似た生き物だった。

 胴体よりも遥かに大きい羽と、白い毛に覆われた身を持ち、キルルキルルと鳴いている。

 俺の知ってるウルガモスと違うのは、地を這うように蠢いている様と、()()()()()()()()()()()()()点だろうか。

 気のせいじゃなければ、全身が宝石のように光り輝いて見えた。

 

 直感する。

 おそらくこれこそが、オモダカさんの言っていたテラスタルポケモンなのだ。

 

 ピカピカのウルガモスもどきは穴の中から這い出るや、俺とペパーを交互に見やり、俺に視線を据えた。

 途端に強いプレッシャーが押し寄せてくる。

 レヴィが唸り声を漏らした。

 

「なるほど…………」

 

 怯える竹子をボールに戻してやりながら、俺は得心した。

 

「ここいらのケンタロスを追い散らしたのはお前だな」

 

 言葉が分かったはずもないだろうが、ウルガモスもどきは後肢ですっくと立ち上がり、感情の見えない眼差しで俺を睥睨した。

 

 

 〇〇〇

 

 

(タイプはなんだ? ウルガモスの亜種なら、虫、か?)

 

 いわゆる地方固有種(リージョンフォーム)なら、原種と共通のタイプを獲得していることが多い。とはいえ原種のサンドとアローラ産のサンドのように、全く別の属性を得ることもままあるが。

 なんにせよ、まずは確かめてみねば始まるまい。

 

「レヴィ! エアカッター!」

「げぅるっ!」

 

 俺の頭から飛んだレヴィが翼を振るい、風の刃を叩きつける。()()()は俊敏な足捌きであっさり避けると、そのまま地を蹴って一気に距離を詰めてきた。

 レヴィに────ではなく、俺に向かって。

 視界いっぱいに、白毛の生えた腹が映る。

 

 抱きつき攻撃、いや、これは飛びかかりか。

 虫ポケモンがよく使う、全身で相手を圧迫する技である。喰らえば痛いじゃ済まされないっ! 

 

「うぉああぁっ!?」

 

 俺は情けない悲鳴をあげながら辛くも躱した。

 

「アシタバさん!」

「心配すんなペパー! かすり傷ひとつ負ってねえ!」

 

 不安そうなペパーに微笑み、ウルガモスへ向き直る。

 片腕を真横に突き出すと、レヴィが降りてきた。

 

 エアカッターを放ったレヴィではなく、指示する俺を狙ってきたのは偶然だろうか?

 もしも意図したことならば、かなり冷静(クレバー)な頭脳の持ち主である。相当な手練であることは疑う余地がない。

 

「もう同じ手は喰わん! レヴィ、暴風を起こせ!」

「げるるるぁっ!」

 

 イキリンコの短い翼を激しく振りたて、颶風を巻き起こす。ウルガモスもどきは再び地に這いつくばり、なんとか勢力圏から逃れようと駆け出した。

 だが、無視されて怒り心頭のレヴィの技の冴えは凄まじく、荒れ狂う風の檻に閉じ込めて逃がさない。

 風の渦は見る間に範囲と強さを増していき、もはやちょっとした台風の様相を呈している。

 

「よおし、いいぞ!」

「キ、キルル……!」

 

 ウルガモスもどきが苦しそうに呻いた次の瞬間。

 パキィイイイン、と軽やかな音を立てて、体表のきらめきが砕け散った。

 頭上の拳も霧散する。

 

(これは……っ!)

 

 俺は咄嗟にポケットに入れていた空のボールを引っ掴み、ウルガモスに叩きつけた。

 相手は抵抗もせずボールに吸い込まれていく。

 数秒後、捕獲完了音が鳴った。

 

「────ふぃ〜。捕獲完了っと」

 

 汗を拭いながらボールを拾い上げる。

 陽光に透かしてみると、存外元気に羽をぱたぱたさせていた。

 

「んー、怪我とかはしてなさそうだな。にしても、パルデアのウルガモスって好戦的なんだなあ」

「そういうわけではありませんよ」

「うぉあ!?」

 

 いきなり後ろから相槌を打たれ、飛び上がらんばかりに驚いた。

 一体いつからそこにいたのか、疲れた面差しのサラリーマンが1人、つくねんと立っている。

 俺はバックバックン跳ねる鼓動を抑えつつ、慌てて距離を取った。

 

「なんっ、だ、誰すかっ?」

「すみません。申し遅れました。

 わたくしこういう者です」

 

 やたら覇気のない声でボソボソ喋りながら名刺を差し出してくる。そこには、《パルデアリーグ職員 アオキ》と書かれていた。

 

「あ、アオキさん、ですか」

「はい。トップから貴方の補佐を命じられまして」

「トップ、っていうと……」

「オモダカさんです」

 

 …………そういや、部下を待機させておくとかなんとか言ってたな……

 

「え、と。アシタバです、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「…………」

「…………」

 

 虚ろな風が二人の間を吹き抜ける。

 いや会話ァ! 

 何だこの人、人生常に省エネちゃんか? 

 

 俺は咳払いしてから手の中のモンスターボールをころりと転がした。

 

「えーと、実はついさっきまでこいつと戦ってまして。

 てっきりウルガモスのリージョンフォームかと思ったんですが……」

「いえ、パルデア(ここ)にウルガモスのリージョンフォームは居ません。おそらく新種のポケモンでしょう」

 

 まじかい。

 新種ゲットしちゃったよ。

 そうなると、適当な既製品でゲットしたのが口惜しい。オリジナルボールで捕まえたかった……! 

 

 今度はアオキさんから訊ねられた。

 

「トップから話は聞いてますか?」

「テラスタル化したポケモンが大穴からわらわら出てきてるんですよね?」

「そうです。私は3体、捕獲しました」

 

 3体。

 俺が捕まえた新種を含めて4体か。

 果たしてそれは、穴から出てきたうちの何割に当たるんだろう。

 

「テラスタルポケモンは全部で何体いるんですか?」

 

 アオキさんは静かに首を振った。

 

「分かりません」

「え」

「大穴から出てきたのが何体いて、どこに向かったのか、まったく掴めていないんです」

「げ」

「目撃情報を集めながらリーグ職員総出で対処にあたっておりますが、なにぶん人手が足りていない状態でして」

「……もしかして、今こうしてる間にも穴から出てきてたり……?」

「しているでしょうね」

 

 ですよねー。

 俺は思わず天を仰いだ。

 

 なんつうかこの人、だいぶやべぇ事態をめちゃくちゃサラッと話すな。

 おかげで無駄にパニックにならずに済んでるけども。

 

「大穴にはトップが向かっていますから、無限に湧き出てくることはないと思います」

「なるほど。

 んじゃ、俺たちがやるべきことは、すでに出てきちまってるテラスタルポケモンの捕獲ってことっすね?」

「そうなりますね」

 

 アオキさんの目がペパーに止まる。

 ペパーはガチグマの後ろに隠れながら、俺たちの会話に聞き耳を立てていた。

 

「……あちらはアシタバさんの弟さんですか」

「いえ。こっちで知り合った子です。ペパーってんですが、あいつの親御さんが大穴で研究してるとかで」

「では、フトゥー博士とオーリム博士の…………」

「へ?」

 

 俺は目を瞬かせた。

 すぐに名前が出てくるって、ペパーの父ちゃんと母ちゃんってそんな有名な人なんか。

 

「パルデアにおいてもっとも著名なご夫婦です。

 とくにテラスタル研究では目覚ましい成果を上げてらっしゃいます」

 

 まじか。

 そりゃ、是非とも話を聞きたい相手だ。

 俺はペパーを招き寄せ、アオキさんを紹介し、昨日から両親と連絡がとれなくなっていることを話させた。

 アオキさんの眉間に皺が寄る。

 

「気になりますね」

「はい。なので、俺はテラスタルポケモンたちを捕獲しつつ大穴に向かおうかと思うんですが」

「……承知しました。私に異論はありません。

 ですが、ペパーさんを連れていくのは賛成しかねます」

「えっ、ど、どうして!?」

 

 高い声を上げるペパーの前に跪き、アオキさんは淡々と語りかけた。

 

「パルデアの大穴には非常に強力なポケモンが数多く生息しています。残念ですが、あなたを護りつつ進むことはとても難しいんです」

「で、でも……!」

 

 目に涙をためたペパーが見上げてくる。

 俺は胸が痛むのをこらえながら、アオキさんの隣に座りこんだ。

 

「悪い、ペパー。それを聞いたら、連れては行けねえ」

「…………」

 

 小さな手がシャツの裾を掴んでいる。

 その甲に、透明な雫がぽたぽた落ちた。

 

 わかる。

 わかるよ。

 心配だよな。

 寂しいよな。

 ……逢いたいよな。

 

 でも、だからこそ、お前を危険な目には合わせられねえんだ。

 

 柔らかい金髪を撫でながら、俺は言った。

 

「大穴にはすげー強いトレーナーも向かってる。

 きっと父ちゃんたちは無事だ。

 またみんなでご飯が食べれるように、頑張ってくるよ」

 

 ペパーは何か言いたそうに口を開いては閉じて、こっくりと頷いた。

 

「…………うん。おれ、待ってる。

 アシタバさんも、気をつけて」

「おう!」

 

 俺は努めて笑顔を浮かべ、拳を突き出した。

 ペパーの小さな手が丸まって、こつんと当たった。

 

 パルデアにはイキリンコタクシーというのがあるらしくて、アオキさんが電話をかけるとすぐに来てくれた。

 

 ペパーを乗せてやる傍ら、せめて寂しくないようにと、アマルス(ゴーシェナイト)サーフゴー(フーゴ)のボールを預ける。

 明るくて賑やかなやつらだから、いい遊び相手になってくれるだろう。

 

 

 タクシーが豆粒くらいになるまで、俺は精一杯手を振り続けた。

 

 

 

 

 

 




というわけで46話。
ペパーとはしばしのお別れです。
そして登場アオキさん。
別名・人生常に省エネちゃん太郎。

ペパーの元に預けるポケモンは悩んだ末にフーゴとゴーシェにしました。
他のメンツは大穴で活躍してもらおうかな。

逃げてきたテラスタルポケモンを捕獲しつつ大穴へ。
果たして生きてるオーリム博士に会えるのか。

良ければ感想高評価おなしゃす!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。