ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第47話 アオキという男。

 

 

 

 

 ペパーを乗せたイキリンコタクシーがすっかり見えなくなってから、アオキさんに向き直った。

 

「じゃ、行きますか」

 

 アオキさんが無言で頷く。

 うーん、やっぱこの人省エネマンだわ。

 

「移動は空からいきます? 陸をいきます?」

 

 問いかけに、彼はふと空を見上げ、ついで辺りを見回し、

 

「…………陸にしましょう。穴から逃げ出したテラスタルポケモンを見逃したくありませんので」

 

 と答えた。

 なるほど確かに一理ある。

 しかし、

 

「見つかるかなあ」

 

 さっきのウルガモスもどきが地中から出てきたことを思うと、果たして取りこぼさず捕獲できるだろうか。

 するとアオキさんは、俺の不安を読み取ったかのようにポケットからモンスターボールを取り出した。

 

 中から、白くてもちもちクタクタしたポケモン、ノコッチが現れる。

 

「彼女に協力いただきましょう。彼女は気配に敏感で、とくに強者を探り当てる力に優れていますから」

「ぶみ」

 

 抱きかかえられたノコッチが、誇らしげにドリル尻尾をぴこぴこ振るわせる。かわいい。

 

「んじゃ、俺のガチグマに乗ってください。

 ガチグマ、よろしくな」

「よろしくお願いします、ガチグマさん」

「がう」

 

 ガチグマの、硬いけれど広くてがっしりした背中に跨り、秋のハッコウ平原を走り出した。

 

 

 

 道中の細かいやり取りや捕獲の工程は割愛しよう。

 会話はあまり弾まなかったし、逃げ出したポケモンたちも、ウルガモスもどきのような珍しい個体はいなかった。

 

 ただ、アオキさんの断片的な話を頑張って繋げてみると、俺と合流する前に()()()()()()()()を捕らえていたことがわかった。

 見せてもらったら、確かに、レアコイルと相似点は多いが、違う部分もかなりあるポケモンだった。

 

 なにせ、レアコイルには絶対にないU字型の脚がみょーんと伸びている。

 おまけに至るところに黒いトゲトゲした剛毛まで生やしていて、ずいぶんパンクな仕上がりだ。

 

「な、中々オモロい見た目してますね……ひょってしてパルデアのリージョンフォームだったり?」

「ちがいます」

「ですよね」

 

 一刀両断。にべもなし。

 しかしアオキさんには何か思い当たる節があるようで、鞄から1冊の雑誌を取りだし、ぱらぱらとめくり始めた。

 

「なんです、その本?」

「…………オーカルチャーというオカルト誌です。大抵は愚にもつかない都市伝説ばかりなのですが……」

 

 アオキさんがページを開いたまま差し出してきた。そこには鉛筆で殴り描いたようなスケッチが記載されている。

 一瞥した瞬間、俺は目を見開いた。

 

「っ、これ……!」

 

 紛れもなく、ついさっき俺が捕まえたウルガモスもどきにそっくりの生き物が描かれていたのだ。

 タイトルは、地を這う翅。

 太古のウルガモスが化石から甦った姿だと謳っている。

 

「チヲハウハネ……」

「同じ名前が、かつて大穴を探索した冒険家・ヘザーの手記にもあります。オーカルチャーの記者はそこから取ったのでしょう」

「い、いやいやいや。それはそれで気になる話ですけど、これはちょっと、あんまり与太すぎません?

 俺いちおう考古学専攻してますけどウルガモスの化石なんか聞いたことないっすよ」

「自分も頭から信じている訳ではありません。

 …………が」

 

 一拍おいて、アオキさんは呟くように言った。

 

「パルデアの大穴は長年立ち入りを禁じられた領域である上に、いまだ全容が解明されていない場所です。

 ミュウが発見されたギアナ高地も、外界と遮断されて独自の発達を遂げた土地でした。

 古の生物が現代まで命を繋ぐということも、ひょっとしたら有りうるのかもしれません」

「…………」

 

 俺は思わず生唾を飲みこんだ。

 まさか大昔の────途方もなく遥かな過去に絶滅しているはずのポケモンが、大穴で群れを成して暮らしているかもしれないというのか。

 

(そんなの、いち考古学徒として調べてみずにはいられねーよ……!)

 

 ペパーの両親を案ずる気持ちと並行して、好奇心が激しく疼くのを、俺はどうしても止められなかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 パルデアの南東に位置するチャンプルタウンの片隅に、物々しい鉄柵が建てられている。その向こうに穿たれた隧道を見やり、アオキさんに訊ねた。

 

「あれが、その?」

「はい」

 

 アオキさんは、ガチグマの背から降り立ち、ネクタイを締め直したあと、無感動な口ぶりで告げた。

 

「あれが、パルデアの大穴への入口。

 通称《ゼロゲート》です」

「今更ですけど……入っていいんすよね?」

 

 パルデアの観光パンフレットは全ページに渡り、しつこいぐらい大穴への立ち入りを禁じていた。

 リーグ職員のアオキさんが同行するし、そもそもオモダカさんに協力しているわけだから、まさか不法侵入で怒られるってことはないだろうが、念には念を入れておきたい。なんでか俺、行く先々でトラブルに巻き込まれる体質だしな。甚だ不本意だけども。

 

 アオキさんも軽く頷く。

 

「ええ、大丈夫です」

「よかった」

「ただ」

「ん?」

「トップ……オモダカさんの一次報告によれば、元々大穴に棲息していた強力なポケモンたちが、テラスタルポケモンの跋扈によって大変気が昂っていると聞きます。命の保証までは出来かねますので、予めご承知おきください」

 

 ご承知できるかぃ。

 いやまあ、俺なにがあっても死なないけどさ。

 それ聞いて「おっけーでーす」て応じるやつも居ないよアオキさん。居たらだいぶ頭がアレな人だよ。

 

「は、はは。

 お、お互い死んじゃわないようにしましょうねっ」

 

 冗談めかして言ってみたが、もちろん、盛り上がったりはしなかった。

 

 

 

 ゲートを潜ると、殺風景な部屋に通された。

 てっきり、すぐにフィールドが広がっていると思っていただけに拍子抜けする。

 

「ん? …………こっからどうすんだ?」

 

 何度見回してみても、いま俺たちが入ってきたドア以外の扉が見当たらない。完全な行き止まりだ。

 

 すると、アオキさんがかったるそうに操作盤に指を走らせ、床の装置を起動させた。

 強化ガラスで覆われた円形の踏み場が緑色に点滅する。

 

「その上に乗ってください」

「へ? は、はい」

 

 大人しく乗った次の瞬間。

 ぐん、とへその辺りを引っ張られる感覚と共に、軽い目眩を覚えた。

 おもわず足がふらつく。

 

 何が何だか分からず混乱する俺に、凛々しい声がかけられた。

 

「お久しぶりです、アシタバさん」

「っ、お、オモダカさん!」

 

 黒いノースリーブを美しく着こなしたオモダカさんが微笑みながら立っていた。

 傍らにはキリキザンが物静かに控えている。野生のポケモンたちを相手に連戦を重ねているだろうに、疲労の色は欠片も見えなかった。

 

 キラフロル同様、よほど鍛え抜かれているらしい。

 

 俺の協力に感謝の言葉を並べていたオモダカさんの眉がぴくりと跳ねた。

 

「ところで、アシタバさんおひとりですか?」

「いえ、アオキさんと一緒に来たんでぇっ!?

 

 言ってるそばからアオキさんが超至近距離に突如出現し、俺は心臓が止まりそうなくらい驚いた。

 

「んえっ? な、なっ?」

「アオキ……」

 

 オモダカさんが吐息する。

 

「あなた、アシタバさんをいきなりワープ装置に乗せましたね? なんの説明もせず」

「はい。百聞は一見にしかずと言いますから」

 

 アオキさんは悪びれた風もなくしれっと答えた。

 

 わ、ワープ装置? 

 てことはおれ、さっき瞬間移動したってことか? 

 じゃあオモダカさんがいきなりゲートに現れたんじゃなくて、オモダカさんの居るところに俺たちが飛んだのか。

 …………それ、予め説明してくれたらさっきの感覚もっと楽しめたなぁ…………。

 いいけど。いいけどさ! 

 

「しゅ、瞬間移動を実現させてるなんて、パルデアの科学の力ってすげーっすね」

 

 カントーに本社を構えるシルフカンパニーが目下研究中の技術というのは知っていたが、まさか実用化にまでこぎつけているとは。

 しかし、オモダカさんは小さく苦笑した。

 

「ありがとうございます。ですが、パルデアの科学力というよりは、これを開発したオーリム博士とフトゥー博士の頭脳が特段に優れていらっしゃる、というのが本当のところですね」

 

 オーリム博士とフトゥー博士。

 ペパーの実の両親だ。

 ずっと大穴のラボで研究し続けており、2日前から連絡が取れなくなっているという。

 

 それをオモダカさんに伝えると、端正な顔がにわかに曇った。

 

「連絡が…………それは、速やかに確認に向かわねばなりませんね」

「2人のラボはどこにあるんですか?」

「大穴中に4つ点在しています。ここが最も上層にある第1研究所なのですが、ご覧のとおりもぬけの殻です」

 

 言われて気づく。

 確かに周囲には、沢山の書類やコンピューターが所狭しと並んでいる。

 整頓されている反面、積もった埃の厚さから察するに、もうずっと使われていないらしい。

 

「第2から第4のどこかにはいらっしゃると思うのですが……あいにく所在までは掴めておりません。

 おまけに……」

「ワープ装置が壊れていますね」

 

 アオキさんが言葉を引き継いだ。

 彼は会話を聞きながら、ずっとワープ装置の操作盤をいじっていたのだ。

 オモダカさんが首肯する。

 

「ゲートには戻れても、ここから先は己の足で行くしかないようです」

「なら、3人で手分けして探しましょうか」

 

 目的地は3つ。俺たちも3人。

 おあつらえ向きではある。

 ポケギアに大穴のマップを送ってもらった。

 

「大穴はすり鉢状の地形になっています。表層の地図はあらかた完成しているのですが、下に潜れば潜るほど調査が困難を極めるため、深層部はあまり正確ではありません。あくまで、目安としてお使いください」

「りょーかいでっす」

「では、私は第4ラボに向かいます。アオキは第3を。アシタバさんには、第2をお願いいたします」

「わかりました」

「任せてください。ここ、ポケギアは使えます?」

 

 三者三様に動くなら連絡は密に取るべきだろう。

 質問に、アオキさんがどこからともなくトランシーバーを取り出した。

 

「こちらをお使いください。

 ポケギアは第3ラボより下は不通になりますので」

「うす」

 

 受け取りながら、俺は思わず笑みを浮かべた。

 最初はとんでもなくダウナーな人間が来たと思ったが、要所要所の行動が的確で無駄もない。

 恐ろしく仕事のできる人物だ。

 名刺にはリーグ職員とだけ書かれていたが、きっと相当な役職があるんだろう。

 

 部屋を出る。

 生ぬるい風が吹きつけてきた。嵐の前の様な、湿り気を帯びた嫌な風だ。

 

 外には、なだらかに下る草原が広がっている。

 ある程度進むといきなり落ち込んで、急峻な崖を成していた。足を滑らせたらタダでは済まないだろう。

 左右を見渡すと、つづら折りに下っていく道を見つけた。俺の目的地は第2研究所、ここからおよそ800メートルほど下ったところにあるらしい。

 直線距離では大したことがないが、穏やかな道中にはならなそうだ。

 

 なぜかと言えば、ラボを出た時から、突き刺すような視線をいくつも浴びているからだ。俺に襲いかかりたくてうずうずしてる奴らがいるらしい。

 

「ではアシタバさん、ご武運を!」

 

 ドラパルトの背に跨り、オモダカさんが飛翔していく。その後ろを、ムクホークに乗ったアオキさんが会釈しながら飛び去った。

 

 2人に手を振って、俺は漆黒のボール(ギガトンボール)を天に放った。

 

大暴れ(アイサツ)してやれ、ガチグマ!」

「がるぁっ!」

 

 咆哮と前後して、周囲の殺気が膨れ上がった!

 

 

 

 




というわけで47話。

アオキさんはめちゃくちゃ会話しづらいけど目端は利くし成すべき仕事を淡々とこなすタイプだよなあ、と妄想してます。
じゃなきゃリーマンとジムリーダーと四天王の三足のわらじは履けないでしょ。くっそ有能やあの人は。

せっかく3人揃ったのにバラけました。
作者がパーティ行動書けないせいです。
頑張れアシタバ超頑張れ。

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