アローラへの飛行機はジャンボジェットじゃなくて中型旅客機だった。わざわざ二機に分乗するらしい。搭乗の列に並びながら、なんでそんな面倒なことをするのかと不思議に思っていると、前で順番待ちをしていたおっさんたちがこんな会話をしはじめた。
「おい知ってるか? とうとうこの路線にも出るようになったってハナシ」
「出るって、何が?」
「ほら、例の"ナゾのクラゲ"だよ」
「ああ、飛行機をのべつまくなしに襲うっていう?」
「そうそれ! 最初はガラル付近で報告されてたんだがなあ、近頃はどこの空路でも現れるようになって旅行業界や運輸業界はてんやわんやらしいぞ」
「そりゃ、満足にフライトできないとあっちゃ大問題だもんなあ」
「どうもそいつはデカい飛行機に目がないらしい」
「あー、だから今回は小さめの機体で飛ぶのか」
「多分な」
────その話には覚えがあった。
ガラルからイッシュに飛ぶ時、今日は迂回せずまっすぐ向かえるというアナウンスが流れたことがある。首を傾げる俺にCAさんが訳を話してくれたのだ。
いわく、正体不明のポケモンが飛行機を襲う事件が多発し、遠回りや欠航を余儀なくされるケースが増えている──と。
リーグ本部に捕獲ないし討伐を依頼したが、すぐに逃げられてしまって埒があかないとかなんとか…………どうやらまだ解決していないらしい。
「そいつの目的はなんなんだろうな?」
「さあな。なんにせよ、どうか無事に着きますように」
おっさんたちが祈る後ろで、俺もこっそり両手を合わせた。どーか何事もおこりませんように。
予想に反してフライトは順調かつ快適だった。
航空券を買う時にダイゴの親父さんがくれたブラックカードを使ったせいか、またもやファーストクラス(しかも個室)に通されたためもある。ふかふかのベッドに寝転びながらみんなと映画を見ていると、ふと窓の外に何かが飛んでいるのに気がついた。
気合いの入った鳥でもいるのかと視線を走らせた俺は、一瞬呼吸が止まりかけた。
金魚鉢をひっくり返したような頭部。
にょろりと長い複数の肢。
生白い膚に顔はなく、しかしなぜかこっちを観ているのが分かった。
だが、俺の背を走ったのは感動ではなく戦慄だった。
『飛行機を襲うポケモン』
『ナゾのクラゲ』
こいつだ。間違いなく。
横の
相棒も窓外の来訪者に気づいていて、静かに臨戦態勢に入っていた。
他のみんなは映画に夢中だ。静かに、一撃でケリをつけたいところだったが、そうは問屋が卸さなかった。
なにせここは地上から1万メートル離れた雲の上、カブルー最大の得物である岩石はどこを探したって見当たらない。斬れ味鋭い両手の鎌も、いまだけは無用の長物だ。
────くそ、分が悪すぎる!
俺は思わず舌打ちした。
どうする。
CAを呼ぶか?
いや、呼んだところで状況は変わらない。
むしろパニックを起こす恐れがある。
汗が頬を伝った時、頭の中に声がした。
『ア』
クラゲが触手をゆらめかせる。
まるで、人間が手を振るように。
こいつが声なき声で話しかけたのだと気づくのと、ベッドの上の
「げるぁ────あっ!」
あまりの剣幕に
飛行機がガグンと揺れる。ドアの向こうで大勢の客が叫ぶのが聞こえた。
「お客様っ!?」
青ざめたCAが部屋に入ってくる。
下がっててくださいと返そうとした喉が引き攣った。
いつの間に
全ての窓に、クラゲが張りついていた。
遅れて気づいたCAも絶句する。
『アソボ』
『アソボ』
『アーソーボ』
『オイデ』
『オイデ』
『アッチニ イコウ』
「な、ん…………」
脳内に無数の声が木霊する。
吐き気を覚えて蹲ると、機体がガタガタ震え出した。
わななく手で腰のボールを掴み、仲間たちを仕舞う。
だがレヴィだけはボールに入ることを拒んだ。
怒り狂った眼差しでクラゲたちを睨みつけている。
双眸が妖しい光を帯びた。
耳を聾する鳴き声とともに不可視の力場が爆散して、飛行機に取り付いていたクラゲたちを引き剥がした!
ふっと頭の中が軽くなる。
クラゲたちの声もみるみる遠ざかった。
「いまのは……サイコキネシス……?」
「げうるぅ」
モクロー姿のレヴィがぽてぽてと歩いてき、俺の膝に顔を擦りつけた。もう心配ないと言っているようでもあるし、褒めてとねだっているようにも見える。どちらにせよレヴィのおかげで事なきを得たのは確かだ。
丸い体を抱え、撫でさすった。
「さんきゅな、レヴィ」
「げるる」
「お、お客様…………お怪我はありませんか?」
おそるおそる訊ねてくるCAに、俺は慌てて頷いた。
「あ、は、はい! お姉さんも大丈夫ですか?」
「わ、わたくしは何ともございません。お気遣いありがとうございます。それでは、一度失礼させていただきます」
流石はプロだ、CAは完璧な微笑みを浮かべたあと、他の乗客の安全を確認するために部屋を出ていった。
しばらくして、機長からアナウンスが入った。
『ご搭乗の皆さま、大変お待たせ致しました。当機はまもなくウラウラ空港へと着陸致します』
「……とりあえず、ボールに入っとけ」
レヴィをフレンドボールに仕舞い、ベッドに倒れこむ。
あのクラゲたちの正体はまったくもって分からない。
大抵のポケモンは知っているつもりだったが、あんなのは見たことも聞いたこともなかった。
レヴィが激怒した理由も謎だ。クラゲたちが俺を誘っていたことと関係があるんだろうか?
────いずれにせよ。
「今回の旅もなんかしらトラブりそうだな……」
俺はうんざりと吐息した。
というわけで5話。
クラゲちゃん大集結。
第2部は1部以上に癖(ヘキ)全開でいくつもりなのでしくよろです☆
好きなポケモンばっかりだすぞー。
よければ感想高評価おなしゃす!