パルデアの大穴は、下れば下るほど気温が冷えていき、長袖1枚では肌寒いくらいになった。ネックウォーマーを被りつつ、頭上の
「寒くないか、レヴィ」
「げる」
イキリンコ(黄色の姿)に身をやつしているレヴィは、言葉少なに返事をした。
海底に身を潜めているという伝説を持つポケモンでありながら、この雛鳥はなぜか寒さに弱いらしい。
アローラからジョウトに帰ってきたときは、秋風の冷たさにボールへ引きこもったくらいだ。
陽の光もどんどん弱くなっていた。
時刻はそろそろ4時を回る。
きっと外では、夕焼けがパルデアの空を茜色に染めていることだろう。
「
ボールホルスターをまさぐる手を止め、自分の迂闊さにおもわず舌打ちした。
家で一人待つペパーのために、フーゴと
あいつの
さて、どうやってアオキさんを探そうか。
頭をめぐらした俺は、ちょうどそのとき
自然現象──ではあるまい。
十中八九ポケモンの技だ。
「ガチグマ、行ってみよう」
ガチグマは頷き、雷に向かって駆け出した。
〇〇〇
案の定、落雷ならぬ昇雷の現場にはアオキさんが所在なげに佇んでいた。その足元に、やけに首の長い大型ポケモンが横たわっている。
「アオキさん!」
「……おや、アシタバさん。ご無事でしたか」
「なんとか。……このポケモンが、例の?」
「ええ」
黒い手袋を脱ぎながら、アオキさんが首肯する。
「古代のライコウと目される、タケルライコです」
「やっぱりっすか。ていうか、首なげっ」
「同感です。つい先程、ようやく気絶してくれました」
「……捕まえないんですか?」
「はい」
アオキさんは、静かな眼差しで振り向いた。
その目には、勝利の余韻や興奮など欠片もない。
どこまでも冷静な光だけが湛えられていた。
「私は飛行タイプを育てるよう、トップより命令されています。タケルライコは恐らく電気タイプ、私の専門ではありませんので」
「生態を調べてみようとかは?」
「思いませんね。業務内容に含まれていませんし、個人的にも興味がありませんから」
ううん、徹底的な合理主義。
てか、相性不利な飛行ポケモンでライコを倒すとか、やっぱこの人相当強いな…………。
「さっきトランシーバーに連絡いれたんですけど、聞こえました?」
「いえ、気づきませんでした」
アオキさんはすぐに自分のシーバーをチェックしたが、どれだけダイアルを回しても、うんともすんとも言わなかった。
「……む。これは……壊れていますね。
ライコの発する電磁気に影響されたようです」
「うわちゃー」
どおりで連絡がつかなかったわけだ。
…………けど、オモダカさんの返事もなかったのはどういうわけなんだろう。
あっちも故障したんだろうか?
まさか、喋れないほどの大ケガをしたとか……?
しかし、俺の不安をアオキさんはきっぱり否定した。
「私同様、壊れたんでしょうね」
それ以外の事例など有り得ないと言わんばかりの、断定的な口調だった。
「あの人ならどんな相手がきても問題ありません。
返事がないのはトランシーバーが壊れたか、戦闘中だったかのどちらかではないでしょうか」
淡々とした言いぶりは、彼女の強さに全幅の信頼をおいている証だ。
つられて俺もなんとなく安堵した。
この人が言うならそうなんだろう。
アオキさんの言葉には、そう思わせる強さがあった。
「ひとまず第3研究所に行きましょうか。
ちなみに、第2の方はどなたか居ましたか?」
「誰もいなかったっす。
何年も放ったらかしにされてたみたいで」
「…………そうですか」
やや落胆したアオキさんと一緒に第3研究所の入口をくぐる。瞬間、俺たちは絶句した。
酷い有様だった。
荒れ具合は第1や第2の比ではない。
まるで理性なき獣が暴れ回ったかのように全ての機材や道具が壊し尽くされ、書類も引き裂かれていた。
「な……っ」
呆然とする俺の横をすり抜け、アオキさんが中央の床にしゃがみこむ。ワープ装置のある場所だ。その機械も、やはり修復不可能なぐらい叩き壊されていた。
「…………」
「あ、アオキさん?」
「……大きい」
ぽつりと呟く。
俺は意味するところが分からず、首を捻った。
「大きいって、なにがですか?」
「これです」
アオキさんが立ち上がり、目顔で見てみるよう促してくる。彼と同じ位置に立った途端、言わんとすることが理解出来た。
ワープ装置には、4本の爪痕が深々と刻まれていたのだ。その長さや幅は恐ろしいまでに凶悪で、たとえば生身の人間がこの爪を食らったらいとも簡単に死んでしまうだろうことが、容易に察せられた。
並のポケモンにできる芸当じゃない。
かといって、ライコやミナモの爪でもない。
ミナモの手は貧弱でこんな風に刻めないし、ライコはそもそも首が邪魔で中まで入って来れないだろう。
────ということは。
「残る1頭、ウガツホムラの仕業か、そのレベルの凶暴な大型ポケモンが潜んでいる……ってことっすね」
アオキさんは、むっつりと頷いた。
そのまま踵を返す。
「……急ぎましょう。トップの元へ」
勿論俺に否やのあるはずもなかった。
〇〇〇
オモダカの頬を、粘つくものが伝い落ちた。
汗よりもっと赤い体液であることは、己が1番よくわかっている。
「……ありがとう。戻りなさい、ドラパルト」
瀕死の霊龍をボールに戻す。
丹精こめて鍛え上げたドラゴンが、消耗していたとはいえ、こうも容易く戦闘不能に陥るとは。
(ウガツホムラと戦った時も、ここまで追い詰められはしなかった……)
ちらりと目線を走らせる。
輝きを放つテラスタル結晶のそばで、ウガツホムラが白目をむいて気絶していた。
……もう一度、正面に目を据える。
赤い鱗。
逆立つ鬣。
隆々とした筋骨。
ヘザーのスカーレットブックにおいて、存在が匂わされていた古代のドラゴン。
かの冒険家は、ツバサノオウと呼んでいた。
そのオウが突然現れるや、ウガツホムラを殴り倒し、オモダカに挑みかかってきたのだ。
このポケモンは、強い。
異次元の強さだ。
あのホムラが、不意をつかれたとはいえたった一撃で昏倒してしまった。
ドラパルトが庇ってくれなかったら、攻撃の余波がオモダカにも致命傷を与えていただろう。
いまはキラフロルが撒いてくれた猛毒の礫のおかげでその場に釘付けにできているが、そう長くは保たない。
この猛龍はきっと、折を見て暴れだす。
トランシーバーが使えればアオキたちに撤退の命令も出せたのだが、生憎ホムラの熱波によって完全に壊れてしまっていた。
アオキはともかく、手伝ってくれているだけのアシタバにまで累が及ぶのはなんとしても避けたい。
────ならば。
「クエス!」
オモダカは声を張り上げ、クエスパトラを繰り出した。
やるべきことは単純明快。
この暴君を、ここで倒せばいい。
属性も弱点も手探りだが、野生とのバトルはえてしてそういうものだ。
観察したところ、オウが得意なのは徒手空拳。
故に
相手の鉤爪や拳が届かない範囲から技を叩きこむ!
「クエス、ルミナコリジョンです!
キラはアシッドボムを!」
クエスパトラが嘴を震わせ、強力な思念波をまばゆい光弾に変えて撃ちだした。
キラフロルも分泌腺から毒の塊を精製し、ツバサノオウにぶつけていく。
2つとも、対象の特防を格段に下げていく技だ。
どんなに堅牢な鱗だろうと、この波状攻撃には意味をなさない!
「ギャゥウっ」
オウが悲鳴をあげた。
毒かエスパーか、そのどちらかが効いている……!
オモダカの瞳が希望に輝いたその時。
ツバサノオウが、ニヤリと
一瞬にして掻き消え。
そして、横のクエスパトラが
「…………え」
ぶわ、と一陣の突風が髪を巻き上げる。
────いま、何が。
オモダカが、クエスパトラは殴り飛ばされたのだと理解するより早く。
禍々しい爪が、眼前に迫っていた。
というわけで50話。
アオキさんvsタケルライコ戦、描写なしで終わらせちゃいました。
期待してくださってた方がいたら申し訳ない汗
それだけで1話使いそうやったんや……!
そして現れしツバサノオウ。
もとい2代目コライドン。
オモダカさんぴーんち。
果たしてアシタバたちは間に合うのか!?
それはそうと、いきなし秋になりましたね。
寒暖差で作者の自律神経はズタボロです。
加減を知ろうね令和ちゃん。
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