ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第51話 数こそパワー! ツバサノオウとの闘い!

 

 

 

 

 ガチグマの背に乗ってパルデアの大穴を駆け下る。

 気温はますます下がっていき、陽の光も届かなくなって、あたりに冷たい闇が立ちこめた。

 

 ポケギアを操作していたアオキさんが小声で言う。

 

「────地図によると、私たちはもう第4研究所の近くまで来ているようです」

「……ってことは、オモダカさんもこの辺りに?」

「居るはずです」

 

 しかし、彼女の姿はどこにもない。

 アオキさんが俺のトランシーバーを使って何度もチャンネルを繋げてみたが、うんでもすんでもなかった。

 

 じわじわと胸の底が冷えていく。

 

 わざわざ言葉にはしなかったが、お互い同じことを考えているのは明らかだった。

 

 たぶん、あの(ひと)の身に何かあったんだ。

 それも、かなり良くないことが。

 

「……っくそ!」

 

 舌打ちし、大きなテラスタル結晶を回りこむ。

 

 あちらこちらに生えているこれが光っているおかげで、フラッシュを使わずとも歩けるが、見通しはすこぶる悪い。いっそ大声で呼ばわりながら探したかったが、第3研究所をめちゃくちゃにしたポケモンのことを考えると、逸る気持ちとは裏腹に、どうしても慎重な足取りにならざるをえなかった。

 

 ワープ装置を切り裂いた、あの爪痕。

 思い出すだけで血の気が引く。

 尋常ならざる凶暴さと、恐るべき膂力を兼ね備えている個体が、いまこの瞬間にもどこかから俺たちを狙っているかも…………

 

(ええい! いちいち不穏な想像ばっかすんな!)

 

 悲観的な頭を小突き、前方を睨み据える。

 ────と、腰のボールが震えた。

 クチート(ヘリオドール)のボールだった。

 

 百戦錬磨の女傑が、なにかに気づいたのかもしれない。

 一縷の望みをかけて開くと、ヘリオドールが険しい顔で俺を見上げてきた。

 

『撤退しろ、アシタバ。ここはまずい。危険すぎる』

「え」

 

 面食らう俺に、サマヨールも縋りついてくる。

 赤い単眼が、きょどきょど忙しなく揺れていた。

 

『あ、あ、あ、アシタバ殿っ。

 わ、我輩からも進言いたします。

 可及的速やかに撤収せねば我ら全滅ですぞ!

 死んじゃいますぞぉっ!

 我輩はもう死んでますけどっ!』

「お、おいおい落ち着けって。ヤバいとこなのは分かってるよ。でもオモダカさんと合流しなきゃ……」

 

 そう窘めると、サマヨールは泣きそうな声をあげた。

 

『彼女はこの先の広場におります。

 我輩、千里眼の持ち主ですから見えておりますっ』

「──っ! ほんとか!」

 

 俺はガチグマの背から飛び降りるや、脇目も振らず疾駆した。右に左に、蛇行する道を走り抜け、サマヨールが言う広場らしきところに辿り着く。

 

 そして。

 

「……………………!」

 

 ひゅ、と息が止まるのが、自分でもわかった。

 

 広場の中央に、オモダカさんが仰向けで倒れていた。

 やや離れたところではウガツホムラらしき大型のポケモンも気絶している。

 

「っオモダカさん!」

 

 駆け寄り、抱き起こすと、()()()()()()()()

 鉄錆に似た匂いが鼻を突く。

 

「…………え」

 

 色味がよく見えないけど。

 これ。

 まさか。

 

 遅れて駆けつけたアオキさんが、きゅっと唇を引き結んだ。跪き、切迫した声で呼びかける。

 

「トップ。聞こえますか」

「…………ぅ」

 

 オモダカさんの瞼がぴくりと痙攣した。

 

 良かった。息はある。……まだ。

 

「ぁ……ぉき……」

「ええ、私です。喋らないで。

 いますぐ病院に連れていきます」

「……てき…………ちかく、に……」

 

 彼女が、か細い吐息を漏らすのと同時に。

 俺たちの背後に、とてつもない重圧が生まれた。

 アオキさんが息を飲む。

 

「ツバサノオウ……!」

「────!」

 

 本能が命じるままボールを投げつけた。

 ボールから飛び出したカブトプス(カブルー)が、弾丸のような速さで迫る! 

 

 ガギィッ! 

 

 鋭い鎌を受け止めた鱗が、不快な音を響かせた。

 カブルーが後ろに飛ぶのと前後して、相手の振りかぶった拳が地面を粉砕する。

 土煙が激しく舞い上がった。

 咄嗟に口元を覆いながら、アオキさんに耳打ちした。

 

「ここは俺が引き受けます。

 アオキさんはガチグマに乗って地上へ!」

「……! ……わかりました」

 

 気を失ったオモダカさんを乗せ、自分も跨り、土煙に乗じて去っていく。

 

 流石はアオキさんだ。

 一分一秒を争う場で、無駄なやり取りなしにこっちの意を汲んでくれた。

 

 あの人は詳しく語らなかったが、彼のパーティは恐らくタケルライコとの戦いで酷く消耗していた筈だ。

 なぜなら、合流してからずっと、手持ちを一度も出さなかったからである。

 

 第3研究所の回復装置さえ稼働してくれていればよかったのだが、それもご丁寧に叩き壊されていたのだからしょうがない。

 俺のガチグマなら、そんじょそこらの野生ポケモンなど簡単に蹴散らして、無事にチャンプルタウンまで届けてくれるだろう。

 

 俺がやるべきは、ただ1つ。

 ツバサノオウなるこの赤龍がアオキさん達を追いかけないよう、食い止めること。

 

 カブルーとヘリオドールが構える後ろで、鬱金のボールを握りしめた。

 捕まえたばかりで覚えている技も知らないが、これほどの強敵に対抗するにはお前の力も必要だ。

 

「来い! ミナモ!」

 

 長い尾を打ち震い、ウネルミナモが猛々しく咆哮した。

 

 

 〇〇〇

 

 

 飯が増えた。

 

 デカいのが1つ。

 小さいのが3つ。

 

 どれもこれも美味そうだ。

 

 口腔に涎が溢れだす。

 

 腹が減った。

 とてつもなく。

 

 全部喰らおう。

 頭から、骨の一片たりとも余さずに。

 真っ赤な血の滴りを、心ゆくまで飲み干そう。

 

 さあ、どれから喰おうか。

 せっかく弱らせておいた獲物を攫われたのは業腹だが、まあ、こいつらでもいい。

 食いでがあるなら、なんだって。

 

 

 

 ああ────

 

 

 

 ────腹が、減った。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ツバサノオウの鬣が逆立つ。

 縦に裂けた瞳孔が俺を見据えた。

 

(最初の標的は──俺か!)

 

 狙いを察したカブルーが鎌を大地に突き立てる。

 即座に命じた。

 

「ストーンエッジっ!」

 

 鋭い岩槍が腹部を穿つ。

 けれど、オウは痛がるどころか口の端を吊り上げ、無造作に岩を砕いてみせた。

 

 痛くも痒くもねえってか? 

 舐めやがって! 

 

『ふっ!』

 

 足元に回りこんだヘリオドールが、オウの身体を足場に空中へと躍り上がる。

 大きく開いた(あぎと)が喉元に食らいついた。

 すかさずミナモが突進する。

()()()()()()に組みあって、岩壁に押さえこんだ。

 

「よおし! よくやった!」

 

 胴をミナモに、首根っこをヘリオドールに掴まれちゃ流石に何も出来ないだろう! 

 カブルーにとどめを刺せと言いかけて、俺はそのまま硬直してしまった。

 

 オウの笑みが、未だに消えていなかったからだ。

 

(なんで……なんで笑ってる?

 絶体絶命のピンチだろうが……!)

 

「ガゥルルルル……」

 

 低い唸りをあげながら、オウの右手がミナモの顎を掴む。

 

 そのまま、

 

「グルァっ!」

 

 裂帛の気合いを放って、ミナモを押し倒した。

 

「は!?」

 

 片手で、あの巨体を!? 

 理解が追いつかない。さしものヘリオドールも呆気にとられ、つい顎の力が緩んだ。

 それを見逃すオウではない。

 人形のように華奢な身体を引っ掴み、情け容赦なく地面に叩きつけた。

 

『がは……っ!』

「ヘリ……っ!」

 

 ふと、頭上に影が差す。

 オウの鉄拳が蝿でも潰すように降ってきた。

 あいだに割り込んだカブルーが、両手を交差させて受け止める。凄まじい重量で、足場に亀裂が走った。

 

「ぎ……ぎしゅ……!」

 

 ひとつ、またひとつと、甲鎧が剥がれていく。

 

 ダメだ。

 もう、いくらも持たない……! 

 

(こうなったら……!)

 

 俺は意を決し、2つ目のフレンドボールを解放した。

 

 アオキさんもオモダカさんも、ここには居ない。

 たとえオーリム博士たちに見られたって構うものか! 

 

ルギア(レヴィアタン)!」

「げるっ?」

「変身を解け!」

「──! げるっ!」

 

 イキリンコが飛翔する。

 変身解除の光が瞬き、刹那、突風が吹き荒れた。

 ツバサノオウが姿勢を崩す。

 

 

「げるるるるるぁ!」

 

 

 純白の翼をはためかせ、伝説の雛が勇ましく着地した。

 

 束の間、オウとレヴィが対峙する。

 先に動いたのは、レヴィの方だった。

 口中に溜めたエネルギー弾────ウェザーボールを解き放つ! 

 

「ガル……っ!?」

 

 ストーンエッジもミナモの突進も余裕で受けたオウが、今度ばかりは回避した。

 後ろに聳えるテラスタル結晶が、粉々に砕け散る。

 

 煌めく鉱石の雨の中、俺は指を突きつけた。

 

「どんどん行け! ウェザーボールっ!」

「げ────るぁっ!」

 

 白い光弾が矢のように迫りゆく。

 オウは縦横無尽に疾走し、その全てを或いは躱し、或いは叩き落とした。

 だが、レヴィの猛攻は留まることを知らない。

 

 しつこく繰り返すうちに、1発、また1発と、少しずつ被弾しはじめた。

 そのたびに、オウの動きが鈍っていく。

 

(よし……よし……よし!)

 

 拳を握りしめた。

 手のひらが汗で濡れつくしている。

 

 あいつはまだ気づいていない。

 レヴィの攻撃の裏で、俺が────()()()が何をしているか。

 

 きっと、いままで敵なしの生涯だったんだろう。

 どんな奴も一撃で叩き伏せてきたんだろうな。

 だからミナモも、ヘリオドールも、カブルーも、たった一度殴りつけただけで眼中にないんだ。

 

 甘いよ。お前。

 俺の仲間が、そんなに弱いわけないだろ。

 

 それにな。

 こっちにゃまだまだ無傷の仲間が居るんだぜ。

 

「頼んだぞ、ヌメラ(メルティ)、オーガポン」

 

 汗を滴らせながら、俺は低く呟いた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 鬱陶しい────! 

 

 かつて感じたことのない怒りに、全身の血が沸騰しそうだった。

 

 なぜだ。

 なぜこの奴輩(やつばら)の攻撃はこんなにも響くのか。

 

 あんなにも矮小な体躯で、なぜ逆らう。

 この世の動くものは遍く我の餌であるべきだろうが! 

 

 ああ腹立たしい! 

 いい加減潰れろ! 

 

 激情に任せた拳はしかし、掠りもしない。

 あまつさえ、足を滑らせて尻をついてしまった。

 

 ええ、煩わしい。

 何に滑ったのだ。

 

 目を落とし、正気を疑った。

 いつの間にか、不快な色の泥が一面に広がり、自慢の鱗を酷く穢されているではないか。

 むかつく臭いで吐きそうだ。

 

 いよいよ激怒した。

 

 決して許さぬ。

 

「許さんぞ虫ケラどもが!」

 

 

 〇〇〇

 

 

「グゥルルルルルァ!」

 

 怒り狂った轟音に、大穴全体が揺れ動く。

 メルティの出したヘドロが大層お気に召さないらしい。

 俺は歯を食いしばりながら、それでもにっかりと笑ってみせた。

 

「どうしたデカブツ。足元がお留守だぜ」

 

 カブルーのストーンエッジが炸裂し、立ち上がろうとしたオウを突き転がす。

 哀れにも、顔面からヘドロにダイブしてしまった。

 

「悪い悪い。くっさくて汚ねえだろ? 

 安心しろよ。()()()()()()

 

 はっとオウが面を上げた時には。

 俺たちの仲間が全員、周りを取り囲んでいた。

 

 ヘドロの海に融けていたメルティが実体を取り戻し、俺の近くに這い寄ってきた。

 もちもちのドラゴンを抱き上げてやりながら、オウに向かって語りかける。

 

「動けねぇだろ?

 こいつのヘドロは特殊でな。最初はヌルヌル滑るくせに、時間を置くとガッチガチに固まるんだよ。お前がどんだけ怪力でも、全身を固めちまえば無意味だ」

 

 一旦間を置き、呼吸を整える。

 オウは鼻息荒くもがいていたが、メルティの拘束が弱まることは勿論なかった。

 

「……強いやつが弱いやつを喰らうのは自然の摂理だ。

 研究所を壊したのだって、別に悪意があったわけじゃないんだろ? ────けどな」

 

 じゃり、と1歩前に出る。

 オウの眼が、わずかに怯んだ。

 

「オモダカさんを瀕死の目にあわせたツケは、きっちり払ってもらうぜ」

 

 片手を挙げ、振り下ろす。

 

 カブルーのストーンエッジが。

 レヴィのウェザーボールが。

 ヘリオドールの投げつけた岩が。

 メルティのヘドロ爆弾が。

 ミナモのハイドロポンプが。

 

 一斉にオウを襲う! 

 

 そして、最後に。

 

「ぽーにぉおおおおん!」

 

 テッカグヤ(竹子)に乗っていたオーガポンが、飛び降りざまツタ棍棒で脳天を打ち据えれば。

 

 さしものオウも、声もなく気絶した。

 

 

 

 

 




というわけで51話。
ツバサノオウもといコライドンとのバトルでした。
全戦力投入です。
それだけやばいドラゴンであることを描きたかったんですが、ちゃんと描けてるかな。

次話、いよいよオーリム博士との邂逅(予定)。
パルデア編で最も重たい話になるかもしんない。

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