恥も外聞もなく泣きじゃくり、疲れて眠って迎えた朝は、驚くほど目覚めがよかった。
ずぅんとした痛みがのしかかっていた頭はすっきりとして、身体も軽い。
久しぶりにベッドに横たわったのもあるだろうが、心につかえていたものを吐き出した翌日というのは、こんなにも爽やかなものなのか。
「もう一生、あの2人には頭があがんねーな……」
「げるる」
「おう。おはよう、レヴィ」
ヤヤコマに変身している
落ちこんでいる間は絶対に乗ってこなかったから、なんだか懐かしい重みだ。
こいつなりに慮ってくれてたんだろう。
相棒の
「心配かけたな、カブルー。もう大丈夫だ」
「ぎしゅ」
「……ところで、みんなのボール、知らないか?」
「ぎしゅ?」
カブルーが小首を傾げる。
なぜか、他のボールが枕元から消えていたのだ。
床に落ちている──わけではない。
さては泥棒か?
青ざめかけたその時、窓の向こう、宿屋の中庭から奇声が聞こえた。
「ウヒョー! なんてデカさだ!」
そして見える、ウネルミナモの鬣。
「……あの人ってやつぁ!」
俺は取るものもとりあえず、中庭に向かって駆けだした。
〇〇〇
中庭には、俺の手持ちが勢揃いしていた。
「おぉ。来たかアシタバ」
ミナモの威容に興奮していたレホール先輩が振り返る。
その横で、ビオラが狂ったようにシャッターを切っていた。
「来たかじゃないですよ!
何勝手に人のポケモン出してくれちゃってんすか!」
「ビオラから興味深いポケモンの話を聞いてな。
ぜひ実物を拝みたくなった。
貴様を待つのがまどろっこしかった。許せ」
「淡々と理由と謝罪を述べんでください!
まったくもう……」
全然悪びれていない態度にがっくりする。
こういう人だよこの人は。
まあ、俺たち以外に客はいないらしいから、誰かに見られる心配はないけれども。
「ごめんねぇアシタバくん。
すごくよく寝てたから起こすのも忍びなくって」
「へーきっす。先輩の強引さには慣れっこですよ」
「貴様とワタシには数年分の歴史があるからな。
……それにしても」
レホール先輩が上から下まで俺を眺め回したあと、ニヤリと笑った。
「昨日よりずいぶん顔色がよくなっている。いい兆候だ」
「あ、ほんとだ。
ねえアシタバくん、天気もいいし、記念撮影したげる。
こっち来て!」
有無を言わさぬ力強さで引っ張られ、みんなとぎゅうぎゅう並んで写真を撮った。
オーガポンと
「いいんじゃない、いいんじゃないの!
ほら、ラストワンショット、いくわよ!
オボンの〜?」
「実〜!」
晴天に、小気味よいシャッター音が鳴った。
〇〇〇
「そういえば、先輩は何しにカロスまで?」
宿の食堂で供されたポトフをじっくり味わいながら問いかける。塩コショウだけのシンプルな味つけながら、よく煮込まれた肉と野菜は涙が出るほど美味かった。
レホール先輩はフライドフィッシュを齧りつつ「化石発掘の手伝いだ」と答えた。
「貴様もよく知るデボンのお坊ちゃんから、カロスでの発掘作業に力を貸してほしいと頼まれてな」
「それじゃ、ダイゴもこっちに居るんですか」
「ああ。ただ本人は何やら修行中らしくて現場には居ない。奴が戻るまで、ワタシが暫定的に指揮を執る」
「へえ……あの石バカが化石を後回しにするとは珍しい」
「貴様も来るか?」
「いえ、やめときます」
日時計も見てみたいし、アマルルガ一族とディアンシー女王の娘が辿った軌跡を追えるところまで追ってみたい。
メンタルが回復した今、はやく出発したくて堪らなかった。先輩も、この朝食が終わったらすぐ出立するという。
「ビオラ嬢はどうする」
レホール先輩に訊かれたビオラは、なぜか頬を赤らめながらもじもじした。
「え、ええっと。もしアシタバくんさえ良ければ、もう少し一緒に居たいなーって思ってるんだけど……いい?」
「いいっすよ?」
「いいのっ?」
「あてどない旅なんで、おんなじとこ行ったり来たりするかもしれないっすけど。それでもよければ」
「全然おっけーよ!
でも意外だわ、断られると思ったから」
俺は苦笑した。
昨日までの病みに病んでた俺なら、たしかに同行を断っていたかもしれない。
けれど、なにも急いでいるわけじゃなし、カロスの地理に明るい人物が同道してくれるなら、なにかと都合もいいだろう。
それに、彼女の写真の腕はピカイチだ。
彼女が撮る風景やポケモンの写真を、もっと見てみたかった。
そう伝えると、ビオラの顔はいよいよ真っ赤に染まった。……熱でもあるんだろうか?
飯を食べていたオーガポンとメルティが、じとーっとビオラを睨んでいた。
彼女のフレンチトーストを狙ってるようだ。
追加で注文してやったが、剣呑な眼差しを向けたまま争うように貪っていた。
なんなんだ、一体。
味わいなさいよ。美味しいんだから。
〇〇〇
「……ところで、昨日から気になっていたんだが」
レホール先輩の目が俺を捉えた。
「ニックネームを付けた手持ちとそうでないのが居るのは何故だ」
「ああ、オーガポンたちが加入してから今までトラブル続きで、命名が延び延びになってたんすよ」
今現在、俺のメンバーで愛称がないのはオーガポン、ガチグマ、ウネルミナモと、
「ミナモはミナモで定着しちまってるからもうこれで通すとして、あとの3体はどうしようかなあと」
「それなら、この3人でアイディアを出しあわない?」
ビオラのナイスな提案に俺たちはすぐ賛同した。
「じゃあまず……オーガポンちゃんから!
可愛くて明るいあの子にぴったりの名前を出しあいましょ。私からは、可憐なカレンちゃんって名前を推すわ!」
「ふむ……ワタシはトキワという名を贈ろう。
色褪せることなき繁栄を意味する」
どちらも魅力的な名前だ。
オーガポンを見やると、本人はふるふる首を振っていた。お気に召さないらしい。
先輩が顎をしゃくった。
「貴様の候補はなんだ?」
「あー……目がし……星みたいだから、ステラってのを考えてました」
しいたけみたい、という言葉を急いで飲み込む。
すると、オーガポンがその場でぴょんと飛び跳ね、喜色いっぱいの声を上げた。
「ぽにっ! ぽにおん!」
「それがいいらしいな」
「まじか。んじゃ、これからよろしくな、ステラ」
「ぽに!」
オーガポン改めステラが脚に抱きついてきた。
「ステラ……いい名前ね!
夜空を彩る星々の別名だもの。
次は逞しいガチグマくんにしましょ。
うーん何がいいかなあ……ガチまる……クマきち……」
「────ウルスラはどうだ。
古代の言葉で勇敢な熊を意味する」
「おぉ、ぴったり。どうだ、ガチグマ」
ボール越しに呼びかけると、こくりと頷くのが見えた。
これで、ガチグマの愛称も決まりだ。
「最後はサマヨールだけど……どんな子?」
「お調子もんだな。ほっとくと一生喋り倒してるよ。
いまは朝日があるから見せられないけど」
実際、さっきの集合写真のときにもヘリオドール経由で声をかけたが、『眩しすぎるでござる〜』と断られてしまった。
「ゴーストとは思えないくらい陽気な子なのねえ。
珍しい個体もいたもんだわ」
「ならば恐ろしげな名前は似合わんか」
「うーん……あ! ならこれはどう? あの世とこの世を結ぶ坂・
「ほう。よく知っているな、そんなマイナーな話を」
「一時期ホラー映画とかオカルトものに凝った時期があったんです。まさかその時の知識がこんなところで役立つなんて思わなかったわ」
「ヨモツザカか……いいな!
後でサマヨールに伝えてみるよ」
「えへへ……気に入ってくれたら嬉しいな」
「────さて。無事に名前も決まった事だし、ワタシはそろそろお暇する」
先輩が席を立ったのをしおに、全員で宿を出た。
発掘が無事にいくことを祈り、去っていく背中を見送る。
ヒャッコクシティ名物の日時計を見に行くと、まだ朝方だからか観光客はまばらだった。
海を背に堂々と聳えるピンク色の結晶が、圧倒的な存在感を放っている。
結晶の色味や艶は、たしかにビオラの言う通り、ホウエンで拝謁したディアンシー女王の石模様によく似ていた。
ヘリオドールと
俺と同じことを思ったのだろう。
ヘリオドールは『陛下……』と呟いたきり、身動ぎもせず日時計を眺めていた。
「りう?」
ゴーシェも感じるところがあるようで、白い膚をすりすりと擦りつけている。
その光景に、ビオラが興奮しながらカメラを構えた。
最高の画角を求めて体勢を捻り出す。
ちょっとした不審者に見えて面白い。
邪魔にならないよう後ろに下がった俺は、不意に
「なんと……あれはアマルスか」
「へ?」
首を巡らした俺は、息が止まりそうなくらい驚いた。
いつの間にか、すぐそばに身の丈3メートルはあろうかという巨人が立っていたからだ。
巨人は真っ白い髪を胸まで垂らし、赤い毛糸の帽子を深く被っている。
彼は、俺を見、ゴーシェを見て、ふと口許を緩めた。
「君があの子のトレーナーか」
「え、ええ」
「大事にするといい……あの種族はいつのまにか、とても数が少なくなってしまった……」
俺は小さく頷いた。
彼の言うとおりだ。
化石ポケモンはそもそも出土することが稀なために、全員希少な種族だが、とりわけアマルス族は見つかりにくい。一説には、数千年前の天変地異で激減したと言われている。
彼は、懐かしむように目を細めた。
「いつぶりだろうな、アマルスを見るのは……。
私が最後に出逢ったときは、ディアンシーと共に暮らしていたが……」
「──!? ちょ、ちょっと待ってください!
それ、どこで見たんですか!?」
「輝きの洞窟だ……コウジンタウンの東にある……」
「コウジンタウン……!」
慌ててカロス地方のマップを開く。
ここからは真逆に位置する、かなり離れた港町だ。
心臓が高鳴った。
この人が幾つかは分からないが、どう多く見積っても70を上回ることはないだろう。
昔と言ってもたかが50〜60年ほどのはず、いまでもディアンシーが生存している確率は充分高い!
「おーいビオラ! いますぐコウジンタウンに行こう!」
「こ、コウジンタウン? 水族館に行きたいの?」
「その町の近くにある輝きの洞窟に行くんだ!
この人が────あ、あれ?」
巨人は、来た時と同じように、音もなく消え失せていた。あれほどの巨体、見落とすはずは無いのに、どれだけ探しても見つからない。
「……フォッコにつままれたかな、俺」
「なんのこと?」
「りう?」
ビオラとアマルスが、目をぱちくりさせた。
というわけで57話。
ようやく他の子達の名前も決まりました。
オーガポン……ステラ
ガチグマ……ウルスラ
サマヨール……ヨモツザカ
ウネルミナモ……ミナモ
です。
どこかで手持ちたちの情報整理した話も載っけたいですね。
なにより作者が混乱してる。
ちなみにチヲハウハネは完成したテラスタルオーブと一緒にアオキさんに譲渡してます。
本編で書き忘れたのでこちらにて。
さて、最後にでてきた巨人は誰ナノカナー(棒)
よければ感想高評価おなしゃす!