ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第58話 ミアレシティ。

 

 

 

 

 霞のように忽然と消え失せた巨人は、たしかにコウジンタウンの近くにある《輝きの洞窟》でディアンシーを見たと言っていた。

 

 彼が何者なのか、その話が本当なのか、知る術はないけれども、確かめない理由もまたない。

 

 それに、まったくのデタラメということもなさそうだ。

 なぜなら、ホウエンでディアンシー女王に謁見した場所は《煌めきの石洞》なる異名がついていたからだ。

 輝きと煌めき、似たような名前が冠せられているのは、果たして偶然だろうか?

 これこそ、ディアンシーの末裔が棲んでいることの証左では? 

 

「……根拠にしては乏しいけどよ。

 いまは、とにかく行ってみてぇんだ」

 

「なるほどね。もちろん私に異論はないわよ!」

 

 ビオラがぐっと親指を立てた。

 

「じゃあ、とりあえずミアレシティに向かいましょうか。

 コウジンの辺りは寒さがキッついのよ〜。

 防寒具を買っといた方がいいわ」

 

「ミアレか」

 

 カロスで最も栄えている大都市の名だ。

 

「あそこって3歩歩けばカフェがあるって聞いたけどほんとか?」

 

 さすがに田舎者をかつぐホラかと思いきや、ビオラは大真面目な顔で頷いた。

 

「ほんとよ。

 そのくせ味の質や値段はピンキリだから、さながら店選びはギャンブルね」

 

「それって……高くてマズい店もあるってことか?」

 

「ビンゴ」

 

「うへぇ」

 

 アローラじゃポケモンセンターで美味いエネココアがいくらでも飲めたのに……

 

(そういや、グズマとかクチナシさんたち、元気かな)

 

 夜にでも電話してみようか。

 そこまで考えた時、脳裏にペパーがよぎった。

 胸の奥がじくりと痛む。

 

(……あいつにも、電話してやろう)

 

 ほんの少しだけでも、寂しさを埋めてやりたい。

 ポケットにしまったポケギアを、そっと握りしめた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ミアレには夕飯時に到着した。

 フウジョタウンとミアレシティを結ぶ16番道路を歩いている時から巨大な街並みが見えていたが、いざ入ってみるとただただその美しさに圧倒された。

 

「う……お」

 

「げるー……」

 

 頭に乗ったルギア(レヴィアタン)(ヤヤコマの姿)も声が出ない。

 道路は石畳、建物は煉瓦造りで統一されている。

 おそらくは高さや色味まで制限を設けてあるのだろう。

 あえて画一的な構造を幾何学的に並べることで、街そのものをある種の立体芸術にまで昇華しているのだ。

 

 世の中に、こんなに賑やかで、けれども美しい都市があったのか。

 美しい街といえばエンジュシティ以外ありえないと思っていた俺には、とてつもない衝撃だった。

 

「さぁアシタバくん! 何が食べたい?」

 

「……お、オススメで……」

 

 雰囲気に飲まれた俺はそう言うだけで精一杯だ。

 ビオラがハの字眉になる。

 

「えぇー? なかなか困る返答よそれ。

 せめてお肉系か海鮮系かは絞ってもらわないと」

 

 海鮮か。いいな。

 刺身とか食いたい。

 

「んじゃ、海鮮系……」

 

 言いかけたところで、ビオラのポケギアに着信が入った。

 

「あれ、お姉ちゃんだ。どうしたんだろ。

 ごめんアシタバくん、ちょっと出ていい?」

 

「どうぞ。俺、その辺ぶらついてるわ」

 

「ありがと! ……はい、もしもし?」

 

 たしか、ビオラの姉は出版社に勤めてるんだっけか。

 身内話にしろ仕事の話にしろ、聞こえる位置にはいない方がいいだろう。

 

 ぷらぷらとウインドウショッピングをしていると、ひときわ高そうなブティックの前に出た。

 ショーウィンドウに陳列されたグローブに何気なく視線を送る。

 

 シックな黒色に染められた、中々イケてるデザインだ。

 

「オモダカさんが着けてたやつに似てんな〜……って、27万!?」

 

 あまりの値段に仰け反った。

 手袋に27万? え? まじで? 

 

「都会こわぁ……」

 

 商品の前で恐れおののいていると、背後から甲高い声が浴びせられた。

 

「あらあらあら、まあまあまあ!

 ヒジキ・オカデザインのグローブがこんなお値段で!

 これじゃまるで無料ザマス!」

 

「そうだねネアちゃん!」

 

「これなら庶民の方々も気軽に買えるザマス!」

 

「庶民思いのオーナーなんだろうねぇネアちゃん!」

 

「きっと海のように広い心の持ち主ザマスよ!

 オーホッホッホ!」

 

 全身金ピカのカップルが颯爽と去っていく。

 その背中が見えなくなってから、俺はもう一度呟いた。

 

「……都会こわぁ」

 

 

 〇〇〇

 

 

 そろそろビオラのもとに戻ろうかとした矢先、当の本人から電話がかかってきた。

 どうやら、至急手伝って欲しい用事があるとかで呼び出されてしまったという。

 

『いつ終わるかも分からないから、先にご飯食べちゃって! ほんとにごめんね!』

 

「大丈夫だ、気にすんな」

 

『ありがと! 美味しくて安いカフェならサウスにあるカフェ・ソレイユがおすすめよ! それじゃ!』

 

 慌ただしく切られた。よっぽど切迫しているらしい。

 

「サウスのソレイユ、ね。

 …………そもそも俺はいまどこにいるんだ?」

 

 電話中も適当に歩いていたせいで、現在地がまったく掴めない。

 仕方ない。手近な人に尋ねてみよう。

 ちょうど俺を追い越そうとする人がいたから声をかけてみた。

 

「あの、すみません」

 

「はい?」

 

 白いワンピースの裾をふわりと翻し、相手が振り返る。

 夜だというのに濃いサングラスをかけていて、容貌は判然としないが、気品のある佇まいだった。

 

「ちょっと道を聞きたいんですけど、カフェ・ソレイユってお店をご存知ですか」

 

「まあ」

 

 彼女は形のいい唇に淡い微笑を浮かべた。

 

「偶然ね。あたくしもそのカフェに行くところだったの。

 ここから幾らも歩かないわ。

 よかったらご一緒しませんこと?」

 

「助かります。ありがとうございます。

 俺、アシタバっていいます」

 

「アシタバさんね。あたくしのことは……」

 

 彼女は何故か、わずかな間を置いてから「ルネって呼んで」と言った。

 

「わかりました。ルネさんですね」

 

 ルネさんと連れ立って道を行く。

 隣にいるだけで、えも言われぬいい香りがした。

 

 店には5分程で着いた。

 礼を述べ、離れた席に座ろうとしたら、彼女の方から相席を持ちかけてきた。

 

「いまは仕事の休憩時間なんだけど、1人でお茶するのも寂しいじゃない?」

 

「俺でいいんですか?」

 

「あら」

 

 サングラスを外しながら、ルネさんはにっこりした。

 とんでもない美貌に目が焼かれそうだ。

 

「あなた()いいのよ」

 

「おっふ」

 

 絶世の美女にこんなことを言われて、挙動不審にならない男がいようか。いや居ない。

 俺は無意味に砂糖壺の蓋を開けたり閉めたりしながら訊いてみた。

 

「そっ、ソレイユのおすすめはなんですか?」

 

「そうねぇ。なんでも美味しいけど、カプチーノかな」

 

「じゃあ、それをください」

 

「かしこまりました」

 

 ウェイターが滑らかに会釈し、静かに下がっていった。

 細くて綺麗な指を組み、その上に顎をのせながら、ルネさんが目を細めた。

 

「その子、大人しいのね」

 

「えっ?」

 

 彼女の瞳が頭上のレヴィを見つめているのに気づき、苦笑する。

 

「眠いんでしょう。昼間バトルさせまくったんで」

 

 色違いのアマルスを見たがるトレーナーは今日も大勢現れた。その全てをアマルス(ゴーシェナイト)に対応させたのでは負担が大きすぎるので、適宜レヴィも参戦させたのである。

 

 両手に包んで下ろし、ルネさんの前に差し出した。

 案の定、眠そうな顔をしている。

 指先でゆっくり頭頂を撫でると、うっとりしてすぐに寝落ちてしまった。

 

「ふふ、可愛いわ」

 

「起きてる時は暴れる食いしん坊って感じなんですけどね。毎日手ぇ焼いてますよ」

 

「この子とは長い付き合いなの?」

 

「半年とちょっと……ってとこですかね。

 こいつがアパートの窓にぶちあたってきたのを介抱しまして」

 

「まあ!」

 

 ルネさんは目を丸くした。

 そうしていると、すこしあどけない印象を受ける。

 今度はこちらから質問してみた。

 

「お仕事は、なにをされてるんです?」

 

「当ててみて」

 

 いたずらっぽい笑みになっている。

 どうやら中々の難問をふっかけられたらしい。

 

(うーん……ただのOLってことはないだろ……

 大企業の社長秘書とか? 

 いや、歌手とかアイドルって線もあるか)

 

 彼女の顔貌やスタイルの整い方は尋常ではない。

 さんざん悩んだ末、「も、モデル……とか」と絞り出してみた。

 

「モデル、ね」

 

「あってます?」

 

「うーん……当たらずとも遠からず、かな」

 

「えぇ?」

 

 なにそれすげぇ気になるぅ。

 だけどルネさんは巧みに話題を逸らし、己の半生について語りはじめた。

 

「あたしがポケモンを手にしたのは5歳のときよ。

 両親がラルトスをプレゼントしてくれたの。

 とっても嬉しくて泣いてしまったわ。

 それ以来、どこにいくにも一緒なの」

 

「いいですね。

 じゃあもう、自分の片割れみたいなもんでしょう」

 

 俺とカブトプス(カブルー)のように。

 内心で付け足すと、ルネさんは大きく首肯した。

 

「ええ、その通りよ。

 もうこの子なしの人生は考えられない。

 この子が元気でいてくれるから、あたしは頑張れるの」

 

「──分かりますよ」

 

 万感の思いを込めて相槌をうつ。

 

「俺にも、そういう相棒が居ますから。

 ラルトスがプレゼントってことは、2体目は自力で?」

 

「ええ! 初めてのバトルで捕まえた子でね…………」

 

 話はどこまでも弾んだ。

 自分と同じ熱量、愛情をポケモンに注ぐトレーナーというのは案外得がたい。

 ルネさんは、その得がたい側の人間であるらしかった。

 

 3杯目のカプチーノを飲み干したあたりで、ルネさんが席を立った。残念そうな表情でため息をつく。

 

「ああ、まだまだ話したいことが沢山あったのに、もう休憩終わりだなんて。時間が足らないわ。

 ね、アシタバさん。連絡先を教えてくださらない?」

 

「勿論です」

 

 互いの電話番号を登録しあう。

 

「今度会う時はバトルしましょ!」

 

「受けて立ちますよ。お仕事、頑張ってください」

 

 こん、と拳を軽くぶつけあう。

 彼女は、喜色を振りまきながら妖精のように軽やかな足取りで店を出ていった。

 

 

 

 

 




というわけで58話。
アシタバ、美女に会うの巻。

後半の人物はもちろんあの人です。
知名度が上がり始めている頃なので、パパラッチ対策も兼ねてサングラスは手放せません。
しかし夜でも付けてるせいで彼女だとバレるとか。

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