ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第67話 ティーブレイク。

 

 

 

 

 誘拐の濡れ衣は晴れた。

 とくればもう、この洞窟に留まる必要もない。

 

「それじゃ、ミアレに戻りましょうか」

 

 パンジーの提案に全員が賛成した。

 

「そういや、2人はどうやってここまで?」

 

 火の始末をしながら訊いてみる。

 関所が育てているマンムーは体調不良とかで乗せてもらえなかったはずだ。

 他に騎乗できるポケモンを持っていたんだろうか? 

 

 するとパンジーは事もなげに、「ああ、私のマンムーに乗ってきたのよ」と答えた。

 

「こう見えても記者の端くれですからね。

 取材に行きたいのに道が悪くて行けませんでしたじゃお話にならないもの。

 どんな悪路でも突破できるポケモンの育成はマストよ」

 

 だから陸海空それぞれのエキスパートを連れているのだと聞いて、俺は深い感銘を受けた。

 

 行きたい場所に行けるよう、準備を整える。

 

 それは、どこにいるかも分からん神をぶっ飛ばしにいこうとしている俺にも必要な心構えだ。

 空を飛べるテッカグヤだけじゃ、この先きっと手詰まりになる。

 

 バトルの助っ人ばかり模索していたが、そういう物の見方もあるのだと、これは嬉しい気づきだった。

 

「それじゃ、帰りはパンジーさんのマンムーに乗せてもらっても……」

 

 言いさした俺の腕にそっと手を添え、カルネさんが緩くかぶりを振った。

 

「その必要は無いわ」

 

「え?」

 

「帰りは、この子に手伝ってもらいましょう」

 

 美しい指がボールを開く。

 中から現れたのは、彼女が5歳の時から育てているというサーナイトだった。

 

 元々上品なイメージのあるポケモンだが、カルネさんが手塩にかけて育てただけあり、高潔さと優雅さに満ち満ちて、いっそ神々しいほどだ。

 

 カルネさんを信奉しているビオラたちは、「尊い」「尊い」と泣きながら跪いて拝みだした。

 どうやら、ファンの間では《カルネさんのサーナイトを見たことがある》というのが一種の栄誉(ステータス)であるらしい。

 

「この子のテレポートでミアレまで送ります。

 一度に飛ばせるのは2人までなので、まずパンジーさん達から送りますね」

 

「推しのテレポート……っ」

 

「嬉しすぎる……っ」

 

「うふふ。はい、目を閉じて。

 行きたい場所を強く念じてくださいな」

 

 次の瞬間、感涙に咽ぶ姉妹の姿が、ぱっと消えた。

 

「おお」

 

 まさに瞬間移動(テレポート)だ。

 こればっかりはさしものルギアもできないので、おもわず拍手してしまった。

 

(……けど、ミアレの人びっくりすんだろうなぁ……。

 いきなし泣きじゃくる2人組が街中に現れるんだから)

 

 事情を知らない人間が見ればちょっとした怪異である。

 けどまあ、いっか。

 あの猛吹雪のなかを歩かなくて済むのはありがたい。

 

「それじゃ、目ぇ瞑りますね」

 

「ええ、お願い」

 

 さーて、ミアレミアレっと。

 なにを思い浮かべようかな。

 あの街はなにがあったっけ。

 

 瞼を閉じたままあれやこれや思い出していると、不意に、唇に何かが触れた。

 

 柔らかくて、あたたかくて、蕩けるような気持ちよさ。

 

 カルネさんの囁きが、耳朶を打った。

 

「ごめんなさいねアシタバさん。

 あたし、一つ嘘をついたの。

 

 テレポートの時に目を閉じる必要はないのよ」

 

 ────なら、いまのは。

 

 目を見開くと、驚くぐらい近くに彼女の顔があって。

 

「元気でね」

 

 微笑みと共に、カルネさんが消えた。

 

「カル……っ」

 

 伸ばした手が虚しく空を切る。

 そこはすでに、ミアレシティの一角だった。

 

 店の前を掃除していたスタッフが目を丸くして俺を見つめている。

 

 店の名は────

 

「カフェ・ソレイユ……」

 

 カルネさんと初めてお茶をした場所だ。

 あんまり会話が楽しくて、カプチーノを何杯もおかわりしたっけ。

 

 唇に触れてみる。

 

 まだ、あのひとのぬくもりが残っている気がした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 誰もいなくなった洞窟で、カルネはふぅと息を吐いた。

 

「……お休み、終わっちゃったなあ」

 

 ポケウッドでの撮影があまり上手くいかなくて、気分転換になればと故郷に帰ってきた。

 

 それがまさか、こんな事件に巻き込まれるとは思いもよらなかったけれど、あの時帰ると決めた自分を褒めてあげたい。

 

 ワガママを聞いてくれた監督には、いくら感謝してもしたりないくらいだ。

 

 胸に手を当てる。

 帰国前のクサクサした気分は欠片も残っていない。

 夏の青空よりも晴れやかな心だけがそこにあった。

 

「彼が居なかったら、こんな気持ちにはなれなかったでしょうね」

 

 傍らのサーナイトがこくり頷く。

 聡い彼女のことだ、ボールの中から一部始終を見透していたに違いない。

 

 ────そして、カルネの想いも。

 

「危なかったわ。

 あれ以上一緒にいたら、本気で好きになっちゃうところだった」

 

 恋愛が悪いわけじゃない。

 瑞々しい愛は、人生にこの上ない彩りを与えてくれる。

 

 けれど、彼には彼の、自分には自分の、果たすべき目的があり、叶えたい夢がある。

 

 その道程を、邪魔することだけはしたくなかった。

 

「もしも、お互いの夢が叶って、それでもまだ独り身だったら……」

 

 サーナイトを振り向き、問いかける。

 

「告白しても、いいわよね?」

 

 5歳の頃から苦楽を共にした相棒は、当たり前だと言わんばかりに微笑した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「そろそろカルネさん達もミアレ(ここ)に着いてると思うけど……」

 

 ポケギアのメールアプリを操作しながらパンジーが言うと、ビオラが悲鳴じみた声を上げた。

 

「えーっ!」

 

「なによそんな素っ頓狂な声出して」

 

「…………カルネさん、イッシュに飛ぶって」

 

「えっ、ミアレには来ないで? あそこから直接?」

 

「うん……いまメールきた」

 

 妹が差し出す画面を、姉が食い入るように見つめる。

 そこには確かに、アシタバを送ったら自分はイッシュに行くと認めてあった。

 

 末尾には、きちんと別れの挨拶ができなくて申し訳ない、2人ともどうか身体を労わってくれと綴られており、彼女の人柄が窺える。

 

「まあ、まだ撮影残ってるって言ってたもんね……。

 仕方ないけど、寂しいわねぇ」

 

「ねー。カルネさんにオススメのフォトスポットとか紹介したかったなぁ……」

 

「あれ、じゃあアシタバくんはもう来てるのかしら」

 

「確かに。電話してみるね」

 

「その必要はねーよ」

 

 後ろから肩をつつかれ、ビオラは飛び上がった。

 一体いつの間に居たのか、アシタバが音もなく立っていたのだ。

 頭の上にはヤヤコマが乗っていた。

 やっと寒くない場所に戻ってこれたので、ボールの外に出る気になったらしい。

 

「うきゃっ。あ、アシタバ!

 びっくりするでしょ、もう!」

 

「わりぃ。なあ、飯行こうぜ。

 腹減りすぎて気絶しそうだ。

 探しに来てくれた礼に奢るからさ」

 

「う〜ん……許す!」

 

「我が妹ながらチョロいわねー」

 

「いーの! さぁさぁなに食べたい?

 私はねーパスタの気分!」

 

「私はバーガー系かなあ」

 

「任せます。ここの店は2人の方が詳しいと思うんで」

 

「げるる」

 

 3人と1匹は、賑やかに語らいながらサウスストリートを歩いていく。

 

 カフェ・ソレイユの前を通り過ぎた時、アシタバが少しだけ遠い目をしたことを、ビオラもパンジーも全く気づかなかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「……行ったようですね」

 

 天井を見上げながらクチートが言い、白いアマルルガがりうと鳴いた。

 

 あえて見送りにはいかなかった。

 顔を見せればあの泣き虫のことだ、おんおん涙するだろうことは想像に難くない。

 いまは一分一秒でも多くアマルスたちの稽古に時間を使いたいのだ。悠長なことはしてられなかった。

 

 今回の離脱はあくまで一時的なもの。

 とはいえ、本腰を入れねばいつまで経っても戻れない。

 

 アローラでの事件で多少はマシになったが、あの男はまだまだ猪突猛進のきらいがある。

 あまり長い間目を離したら、何をしでかすかわかったものじゃない。

 

 最速で帰還するには、さて何から手をつけるべきか。

 

 群れを眺めつつ思案しているところへ、ディアンシー王女が老アマルルガを伴ってやって来た。

 

 その顔つきが、凛々しく引き締まっている。

 拝跪しようとするクチートを制し、ディアンシーはおもむろに口を開いた。

 

「ねぇ、ヘリオドール。

 アマルスたちへの戦闘訓練に、わたくしも参加してよろしいかしら」

 

「は……それは、構いませぬが……。

 差し支えなければ理由をお聞かせ願えませぬか?」

 

「群れを率いる者は強く在らねばならないとじいやが言っていたでしょう? 

 以前のわたくしは心のどこかで、戦わなくても逃げればいいという甘えがあったのですわ。

 ですが、そなた達を見ているうちに、弱い自分が情けなくなったのです」

 

 全身の宝石が、きらりと光った。

 

「逃げ場はいつでも無数にあるわけではありません。

 そもそも、逃げるにもある程度の力は必要です。

 また、立ち向かってこそ開ける活路というのもありましょう。わたくしは常に、みなが生き残れる道を選べるようになりたいんですの」

 

「王女様……」

 

 感動が言葉にならず、クチートは深々と頭を下げた。

 

 なんと素晴らしいお心がけだ。

 女王陛下がこの場にいらっしゃったなら、さぞお喜びになったことだろう。

 

 よろこんで、と答えようとした時、王女がもじもじしているのに気がつき、眉をひそめた。

 

「…………それに」

 

「それに?」

 

 王女の頬がぽっと染まる。

 気恥しそうに声を潜めた。

 

「あの方──アシタバというひとは、なんだかとても興味深くて……わたくしも戦えるようになったら、捕まえてくださるかもしれませんし……」

 

「……………………な、なるほど」

 

 よもやそう来るとは。

 ヌメラ、オーガポンに続いて3人目の恋する乙女の登場である。

 王女が本当に加入した時、果たしてどんな修羅場になることか…………。

 

 クチートは、膝から力が抜けそうになるのを堪えつつ辞儀をした。

 

「かしこまりました。

 このヘリオドールめが、王女様にお教えいたします」

 

「ありがとう! 頼もしいわ」

 

 王女は花開くような笑顔で喜びを露わにした。

 

 

 




というわけで67話。
修行に入る前にどーーしても書きたかったシーンを書いてみました。

カルネさんてば大胆。
ヌメラたちの嫉妬凄そう。

そして伏兵ディアンシー。
ほんとに参入したらキャットファイトが激化するなあ。
まあ被害に遭うのはアシタバだけやからええか。

次こそ修行が始まります。
みなさまのおかげで日刊ランキングに載ることが出来ました!嬉しぃいい!
今後とも感想高評価よろしくおなしゃす!
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