ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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修行編
第68話 天才ですから。


 

 

 

 

 カロス北西に位置するシャラシティ。

 小さくとも風光明媚な街並みだが、やって来たのは観光のためじゃない。

 透き通った湖に浮かぶ塔を見上げ、ビオラに訊ねた。

 

「ここが?」

 

「そうよ。

 ここがメガ進化伝承の地──通称《マスタータワー》」

 

 カメラのシャッターを切りながら、ビオラははっきり頷いた。

 

 メガ進化。

 トレーナーと強い絆で結ばれたポケモンだけが到達できる、至高の領域。

 条件を満たせば誰でも使えるアローラのZワザと違い、修得は非常に難しいと聞くが、せっかくカロスに来たのだ。試してみない手はない。

 

「お姉ちゃんに聞いたんだけどね?

 マスタータワーにはメガシンカおやじって人が居て、メガ進化のやり方を教えてくれるんだって」

 

「めちゃくちゃわかりやすい名前だな」

 

 観光大使みてぇ。

 

「かなり気さくな人らしいし、アシタバならすぐに出来るようになっちゃうかもね」

 

「だといいなぁ」

 

 一時的とはいえ、チーム1の力量を誇るクチートが抜けた穴はデカい。

 これを機に、メガ進化だけでなく全体の底上げも図るつもりだった。

 勿論、俺自身のレベルアップも欠かせない。

 体力作りや筋トレ、戦術の勉強など、やりたいこと、やってみたいことがごまんとある。

 

「うしっ、行くぞ!」

 

「おー!」

 

 2人揃って拳を突き上げ、タワーへの砂道を駆ける。

 塔まであと5メートルほどの地点に来た時、扉から出てきた青年が、爽やかな笑みで片手を振った。

 

「アシタバさん!」

 

「ダイゴ!」

 

 デボンコーポレーションの御曹司にして石キチガイ石マニアのダイゴだった。

 いつもパリッとした装いのこいつにしては珍しく草臥れたシャツを纏い、疲労も滲んでいるが、白皙の面には達成感が輝いている。

 

 ああ、発掘そっちのけで修行してるってレホール先輩が言ってたけど、ここに居たのか。

 表情から察するに、見事修得したのだろう。

 

「メガ進化ゲット、おめでとう」

 

 ダイゴは目を丸くし、次いで噴き出した。

 

「そんなに顔に出てましたか」

 

「ダダ漏れだ」

 

「ははっ。ありがとうございます。

 アシタバさんはいまから修行を?」

 

「ああ。そのつもりだよ」

 

「そうですか……」

 

 ダイゴは顎に指を当て、なにやらそわそわと落ち着かない。やがて、イタズラを思いついた子供のように光る眼差しで俺を見据えた。

 

「ねぇ、アシタバさん。

 僕のメガ進化、見てみたくないですか?」

 

「おん? …………あぁ」

 

 俺はふっと唇を弛めた。

 こいつの考えは手に取るように分かる。

 大方、さっさと発掘に向かいたい気持ちと、メガ進化を自慢したい気持ちがぶつかって、僅差で後者が勝ったんだろう。

 

(こういうとこはまだまだガキだよなぁ)

 

 ボールホルスターからフレンドボールを引き抜き、ダイゴに突きつけた。

 

「1vs1の一本勝負……でいいよな?」

 

 ダイゴの表情がパッと明るくなる。

 

「──! はい! それで大丈夫です!

 ありがとうございます!」

 

「ビオラ、審判頼む」

 

「オッケー!」

 

 塔の傍にあるバトルコートで向かい合う。

 雲ひとつない青空と、透き通る湖面のコントラストが美しい。

 胸いっぱいに冬の空気を吸いこみ、吐き出して──全く同時にポケモンを繰り出した。

 

「叩っ斬れ、カブルー!」

 

「粉砕しろ、ボスゴドラ!」

 

 両手に鎌持つ古代生物と、鋼の鎧を持つ怪獣が、咆哮を轟かせた。

 

 

 〇〇〇

 

 

「「千巌槍撃(ストーンエッジ)ッ!」」

 

 バトルフィールドに無数の巌が出現した。

 全く同じ技が正面から激突する。

 技の練度も威力もほぼ互角。

 ゆえに相殺され、相手には礫すら届かない。

 

 それでいい。

 鋼タイプのボスゴドラに、岩技でダメージを与えられるなんてハナから思っちゃいない。

 攻撃ではなく、向こうの視界を遮ることが目的なのだ。

 

 (いわお)が砕けたフィールドの、何処にもカブトプスの姿がないことに気づき、ボスゴドラが動揺した。

 

 刹那、地面に潜航していたカブトプスがボスゴドラの背後に飛び出すや、強かに斬り下げる! 

 

「グギャァアッ!」

 

「畳みかけろ! 瀑流襲崩(アクアブレイク)!」

 

 背中の排水孔から水が噴き出し、全身を覆う。

 効果抜群の突進はしかし、命中しなかった。

 背中に目でもついているというのか、完璧なタイミングで躱されたからだ。

 

「カウンターッ!」

 

 振り向きざま、逞しい剛腕がカブトプスを殴りつける。

 あまりの衝撃に、全身の甲殻が罅割れた。

 

「距離を取れ!」

 

 吹き飛ばされたカブトプスが着地と同時に飛び退る。

 隙だらけだったが、ボスゴドラの追撃はない。

 その理由は、ダイゴの手の中にあった。

 

 煌めく石を嵌めたラペルピンに口づけ、御曹司が不敵な笑みを浮かべる。

 

「流石ですよアシタバさん。

 不意討ちからのアクアブレイクは肝を冷やしました。

 だけどもう! 同じ手は喰わない!

 今こそご覧に入れましょう! 

 輝け、メガボスゴドラ!」

 

 ボスゴドラが光る繭に包まれる。

 瞬きほどの間を置いて繭が弾けると、一回りもパンプアップした姿に変わっていた。

 白い鋼の面積が増しており、より硬く、頑丈になったことが分かる。

 なにより、受けるプレッシャーがさっきまでとは比べ物にならなかった。

 

「これが……メガ進化か!」

 

「凄い……! こんなに変わるなんて!」

 

 ビオラが審判の役目も忘れてカメラを構える。

 

「カブルー、鉄壁を積んでおけ」

 

 カブトプスが頷き、低く腰を落とした。

 割れていた甲殻が少しずつ塞がっていく。

 

(さて、どう出る?)

 

 次の瞬間、ダイゴが吼えた。

 

千巌槍撃(ストーンエッジ)!」

 

 初撃と同じ技、しかし威力も速度も桁違い! 

 これは相殺しきれないと判断して、カブトプスが右に跳んだ。

 

 ────だが。

 

「……っ!?」

 

 肝心のボスゴドラが居なかった。

 こちらの真似をして地面に潜ったわけではないらしい。

 ならば、どこに? 

 

「…………()()!」

 

 気づいた時にはもう遅い。

 両腕を広げたボスゴドラがカブトプス目掛けて落下し、凄まじい轟音と土煙を舞きあげた。

 

 

 〇〇〇

 

 

「いやー……エッジで自分を真上に射ちだしたあと徹甲爆撃(ヘビーボンバー)してくるとは予想外だったわ」

 

 地べたに座り、半ば呆れながらダイゴを振り返ると、御曹司は満足気に笑って言った。

 

「まともなやり方じゃあカブルーの隙を作れませんから。

 はい、元気の塊です」

 

「サンキュ」

 

 栄養とエネルギーがみっちり詰まった回復薬をカブトプスに食べさせる。

 

 どんな瀕死のポケモンも匂いを嗅ぐだけで飛び起きる、とっておきの品だけあって、食えば食うほどカブトプスの傷が治っていく。

 流石は非売品の最高級薬だ。

 ディアンシー女王がくれた瓢箪に負けるとも劣らない回復性能に舌を巻いた。

 …………てか、これの成分なんなんだろ……

 

「いかがでした? メガ進化は」

 

「完敗だな」

 

 俺は諸手を挙げ、素直に負けを認めた。

 

 正味な話、これほど差が出るとは思いもしなかった。

 技の威力もさることながら、肉体の成長が著しい。

 もしも始めからメガ進化していたら、最初のカウンターで勝負は決していたろう。

 

 ダイゴは、あえて最初に使わないことで、メガ進化による圧倒的な違いを見せつけてきたわけだ。

 

「タイプ相性はこっちのが有利だったんだけどなぁ。

 まさかあそこまで強いとは」

 

「ちなみに、僕はあともう一体、メガ進化するポケモンを持っています」

 

「……メタグロス、だろ?」

 

 ダイゴの笑みが深まった。

 

「ご名答」

 

 前にホウエンでタッグを組んだ時は、まだ中間進化のメタングだった。

 しかし、当時から既に並ならぬ力を蓄えており、進化の時はそう遠くないだろうと感じたのを覚えている。

 

 あれからおよそ4ヶ月。

 案の定、最終形態まで育て上げたらしい。

 

 それにしても。

 

「修得困難って噂のメガ進化を2体もモノにしたわけか」

 

「はい。僕、天才なので」

 

「あーそーかぃ」

 

 すっかり元気になったカブトプスをボールにしまい、立ち上がる。

 

「なら、俺は3体を目指すわ。

 お前がいけたんなら余裕だろ」

 

「……ふふ」

 

 視線が火花を散らして激突する。

 化石発掘じゃあ気のいいパートナーだが、トレーナーとしてはライバルだ。

 

「リベンジ、待ってますよ。アシタバさん」

 

「おう。待ってな」

 

 それきり、ダイゴは振り返ることなく去っていった。

 声が聞こえない頃合を見計らい、ビオラがすすっと近づいてくる。

 

「ねねね。

 今更だけどあの人ってもしかしてデボンの……?」

 

「おう。ツワブキ社長のひとり息子だよ」

 

「す、凄……あんなに強いんだ……」

 

「天才だからな」

 

 本人が冗談めかしてよく言うセリフだが、それは全く誇張でも虚勢でもない。ありのままの事実である。

 

 その天才が、大好きな発掘を差し置いてまで心血を注いだ修行……いったいどれほど過酷なんだろうか。

 

 さっきの挑発は、ダイゴにというより己に向けての言葉だった。ああ言うことで、挫けるかもしれない未来の自分を叱咤したのだ。

 

 自分より歳下の男がやり遂げたんだ。

 死んでも放り出したりしねえ! 

 

 ドン、と胸を強く叩き、塔の前に立つ。

 

「ここまで来たんだ。やれる事は全部やる!」

 

「その心意気……いいんじゃない、いいんじゃないの!

 ゴーゴーアシタバ!」

 

 声援を背中に受けながら、扉を開け放った。

 

 

 

 

 ────それから30分後。

 

 

「うーん。お主はダメっ。見込みなしっ」

 

 

「嘘ぉおおおおおん!?」

 

 

 メガシンカおやじ──もといコンコンブルさんにあっさり不合格の烙印を押され、俺は絶叫したのだった。

 

 

 

 

 




というわけで68話。
修行編の始まりです!

なんかバトル描写久々やなあと思ったらコライドン戦以降まともに書いてませんでした。わはは。
今回からカタカナの技名に無理くり漢字名くっつけてみてます。
好きなんすよ、これ。スレイヤーズとハンターハンターで育ったから。
センスないし手間もかかるので途中で辞めるかもですが。

大誤算といえばメガメタグロスですが、メガボスゴドラだってかっこいいよなぁ!?の気持ちが暴走しました。ココドラ族すこすこ。

メガ進化にプラスして、ずっと温めてたネタもあるのでお披露目していけたらいいなと思ってます。

良ければ感想高評価おなしゃす!
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