ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第7話 出逢ったのは変異体。

 

 

 

 

「ヂィイ…………」

 

 マボサダの包み紙を投げ捨て、アローラライチュウがゆっくりとこちらに向き直った。

 

 眉間には深い皺が寄り、眦が三角に吊り上がっている。

 口元もへの字にひん曲がって、恐ろしく凶悪な面構えだった。人でも殺してるんかってぐらい物々しい雰囲気は子供が見たら号泣必至だ。

 

「うおぉ…………」

 

 あまりの気迫に俺たちは思わず後ずさった。

 

 嘘だろ。ライチュウだぞライチュウ。

 老若男女に大人気のピカチュウ、その進化系が可愛くないなんてことあるか? 

 

「めうう……!」

 

 チームいち負けず嫌いなヌメラ(メルティ)が睨み返す。

 しかし、紅一点のお姫様をやんわりと制する者がいた。

 

『待っテ、メルちゃン。ここはフーゴに任せて欲しいナ』

 

 新入りにして自称道化のサーフゴー(フーゴ)である。

 メルティは怪訝な目でフーゴを見返した。

 

「めぇ?」

『ウンウン、邪魔しちゃってほんとソーリィ、あとでたっぷりお詫びするから、ネ?』

 

 片目をぱちんとウインクさせる。

 器用なやつだ。

 

「…………めえ」

 

 メルティは不満げにしていたが、まあよかろう、お手並み拝見と行こうじゃないか、と言わんばかりの態度で場を譲った。そしてフーゴが前に出る。

 

 黄金の軀は今日も美しく光り輝いていた。

 

『ヤーヤーお待たセ! さっそく()ろうカ、鼠さン』

 

 わざわざ人間の言葉で挑発し、指をちょいちょいと曲げている。ライチュウが不敵に笑った。

 

「ラァイ…………」

 

 頬の電気袋から電気が迸る。

 俺は油断なく構えながら、強盗ネズミがよく見えるポイントに移動した。

 

 ポケモンというのは実に面白く、興味深い生き物だ。

 住まう土地によってまるっきり姿やタイプが変わったり、特殊な能力を獲得したりする。

 そうして変容したポケモンをリージョンフォームといい、世界中の学者が研究しているのだ。

 

 俺にとって生まれて初めて出逢う変異体。

 マボサダを奪われた恨みは忘れちゃいないが、いい機会だ。じっくり観察させてもらおう。

 

 ざっと見たところ、顔の怖さはさておき、原種と大きく異なる点が2つある。

 ひとつは、己の尻尾をサーフボードのように乗りこなしている点。

 もうひとつは、なにもない空中にふわふわと浮いている点だ。

 

「たしかタイプは…………電気とエスパーだったか」

 

 なら、浮いてるのは超能力に依るものか。

 それとも特性か技の効果だろうか。

 

「…………ま、こうして睨めっこしてても分からんよな。フーゴ!」

『アイアイサー!』

 

 俺の声に応じて、フーゴの肉体(ボディ)を構成するコインが波打ち、振動して、もう一体のフーゴを生み出した。

 身代わりという技である。

 

『さぁてさテ。よそ見厳禁だよン』

 

 2体のフーゴが派手にコインを飛ばし始める。

 しかしそれは目くらまし。

 コイン自体に攻撃力は無い。

 本命は足元の影、これが凶悪な手に変じてライチュウに襲いかかった。ゴーストタイプの技・影打ちだ。

 エスパータイプには効果抜群の不意打ちを、しかしライチュウは見えない波に乗るサーファーのようにひらりと躱した。

 

「躱すか」

『うーンやるなァ。じゃ、これはどうかナっ!』

 

 片方(オリジン)のフーゴがシャドーボールを放ち、もう片方(みがわり)がラスターカノンを発射する。タイミングと軌道をずらした連続攻撃は我がポケモンながらいやらしい! 

 

 ところが相手の余裕は崩れなかった。

 

「ヂァアッ!」

 

 裂帛の気合と共に放たれた特大のエレキボールが、フーゴの攻撃をいっぺんにすり潰したのだ。

 

 俺は度肝を抜かれた。

 

 フーゴはチームでの歴こそ浅いが、生きた年月は途方もなく長い。

 レベルだけで言えばチームのエース・カブトプス(カブルー)にも引けを取らないほどである。なのに、その攻撃をいとも容易く撃破してみせるとは! 

 

 ────こいつ、只者じゃねえ! 

 

「ヂヂ」

 

 ライチュウが低く呟く。

 こっちの番だ、と言われた気がした。

 己の尻尾に乗ったまま、前傾姿勢に構え。

 次の瞬間、奴の姿が掻き消えた。

 

 ────ヴゥンッ

 

 虫の羽音に似たノイズが鼓膜を揺さぶる。マボサダを盗まれた時に聞こえたのと同じ音だ。咄嗟に両耳を塞ぐのと、目の前に閃光が走るのはほぼ同時だった。

 

ジュバヂィイイイッ! 

 

「おああ!?」

 

 肌がヒリつく電撃に息を呑み、慌てて後ずさった。

 放電か、10万ボルトか。あと半歩前に居たら直撃していただろうことに気づき、ゾッとする。

 

「っフーゴ! 無事か!?」

 

 応える声は軽かった。

 

『ドンウォーリー♪ へーきのへーザ!』

 

 古い言い回しでぴょんこぴょんこと跳ねている。まるでダメージを受けていない。

 呆気に取られた俺はふと、そこいら中に金貨が散らばっているのに気づいた。それらはぢゃりぢゃりと騒がしい音をたてながらフーゴに集まっていく。

 身代わりが文字通り身を呈してフーゴを庇い、砕け散ったものらしい。

 

「ヂヂヂッ」

 

 ライチュウがけたけた笑う。ざまあみろ、と嘲っているのがありありと伝わってくる、嫌な笑い方だった。

 

 しかしフーゴは一切気にするふうもなく、残念そうに肩をすくめるに留めた。

 

『あーあー、フーゴの助手消えちゃっタ』

 

 言って、ライチュウに向き直る。

 

『ううーん、アナタすごーく速イ! ビックリしたヨ〜! でモ()()()()。技の威力はどうってことないネ♡』

「…………ヂィ?」

 

 ライチュウの顔から笑みが消えた。

 怒気が周りの空気を圧し、息もできないほど重くなった。怒りというよりもはや殺気である。

 勇敢なアマルス(ゴーシェナイト)さえ怯えはじめた。

 

 ライチュウの右手が帯電していく。

 電撃はどんどん力強さを増していき、直視できないほど輝きだした。

 

「う、ぐっ」

 

 目を瞑るだけじゃとても間に合わない。両腕で目元を覆ったが、それでも網膜が焼けそうなほどの、凄まじい白光である。

 

「神鳴パンチか……っ!?」

 

 あんな(モン)で殴られたら良くて気絶、悪けりゃ即死だ。

 最悪の事態を覚悟したその時、唐突に光が消えた。

 

「? ────えっ」

 

 俺は目を丸くした。あれほど怒り狂っていたライチュウが地面に突っ伏している。フーゴが何かしたのかと振り返ると、黄金の道化もきょとんと首を傾げていた。

 

『あれレ? どーしたんだろうネ』

「あ、お、おいっ」

 

 俺が止めるのも聞かず、無警戒な足取りでライチュウに近づき、顔を覗き込む。ややあってフーゴが言った。

 

『お腹が空いて倒れたみたイ』

「…………へ?」

 

 慌てて駆け寄る。おそるおそる手を伸ばし、ライチュウを抱き起こすと、腹の虫が盛大に鳴り響いた。

 

「ヂ…………ヂゥ……」

 

 苦しそうに呻く顔はすっかり血の気が失せている。吐息は細く、脈も弱い。

 さっきまであんなに暴れてたのがウソのように衰弱していた。

 

「フーゴ、一応聞くけど、俺に内緒で呪ってたりしねえよな?」

『しないよォ!』

 

 フーゴは心外だと怒った。

 

『たしかにフーゴ、相手を呪う方法知ってるけど自分から好んで使わないヨ! 騙し討ちなんてエンターテイナーらしくないじゃなイ!?』

「だ、だよな。わりぃ。とにかくポケセンにいくぞ!」

 

 全員をボールに仕舞い、ライチュウを抱えて最寄りのポケモンセンターへ走った。

 

 

 

 

 

 




たいっっっっっっっへん長らくお待たせ致しました……!
お待たせしすぎてもはや忘れられてるんじゃないでしょうか。

リアルが引越し&転職で多忙を極めておりまして、全然執筆できておりませんでした。まさか更新がひと月以上空くとは思わなんだ〜。

今後もかなり更新頻度が落ちる見込みです。月に2、3回更新出来ればいい方かも……。ほんとに申し訳ないです。
休止中も感想、評価くださった方々、本当にありがとうございます!

これからもできる範囲で頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!
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