ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第71話 一時の恥、一生の学び。

 

 

 

 

 ビオラとメガ進化の修行を始めて、はや10日。

 毎日毎晩訓練しているのだが、お世辞にも捗々しい成果を上げているとは言えなかった。

 

 3日前にあったシンクロテストでは、ビオラが2回、俺が1回しか動きを合わせられず、あっさり不合格を言い渡されている。

 

「出直せぃ」

 

 コンコンブル師匠はそれだけ言うと自室に引っ込んでしまった。

 なにか助言をくれるわけでも、まめまめしく稽古をつけてくれるわけでもない。

 

 同調(シンクロ)はあくまで初歩の初歩であり、これに手こずっているようじゃ教える甲斐もないということなんだろう。

 

「うー……くそー……」

 

 マスタータワーの石床にひっくり返り、こみあげる悔しさを呻きに変えて吐き出していると、しょんぼり顔のカブトプス(カブルー)が目に飛び込んできた。

 

「ぎしゅ……」

 

「ち、違う! 違うぞカブルー! お前のせいじゃない!

 落ちこむ必要なんかないからな!」

 

 慌てて起き上がり慰めるが、カブルーの表情は曇りっぱなしだった。

 

 …………まあ、そうだよなあ。

 

 カブルーは責任感が強すぎて、何か事が起きるとまず己の力不足を嘆く悪癖がある。

 お前は悪くないといくら慰めても、試験に落ちているという事実が相棒を追い詰めてしまっているのだ。

 

 早く合格して安心させてやりたい。

 でも、どうやって? 

 

 歯痒さともどかしさに、俺は頭を抱えた。

 

 

 

 一方、ビオラはといえば。

 

「カイロス〜……練習しようよぉ」

 

 膝を抱えてまぁるいいじけ虫になってしまったカイロスに、半泣きで呼びかけていた。

 

 ビオラ曰く、元々このカイロスはあまりに我が強くて群れから追い出されたところを拾った個体であるという。

 

 それだけに、彼女の期待に応えようとする気持ちもひとしおなのだが、いかんせん生来の短気が災いし、何度も同じことを繰り返す訓練にほとほと嫌気がさしてしまったらしい。

 

 極めつけが先日の不合格である。

 こんなに頑張っても報われないならもうやらない──と完全に臍を曲げたわけだ。

 

 …………正直、その気持ちはすげー分かる。

 

「私とあなたならきっとできるわよ! 

 もう一度トライしてみよ? ね?」

 

「……がしゃ」

 

「嫌なのぉ……?」

 

 ビオラががっくりと項垂れる。

 

 次の試験は4日後。

 お互い調子は最悪だ。

 

 ビオラと目が合うと、彼女は苦笑とも慨嘆ともつかない貌で吐息した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「どーしたもんかなあ」

 

 ひゅ、と釣竿を振り下ろし、黄昏きらめく静かな湖面に糸を垂らす。

 隣で腰を下ろしたカブルーが、「ぎしゅ」と沈んだ声で相槌をうった。

 

 いつの間にか、修行に行き詰まるとこうして釣りをする習慣ができていた。

 

 街とマスタータワーの間に広がるシャラ湖はいつ来ても穏やかで、しかも水が澄んでいる。

 釣果によらず、水鏡のような景色を見ているだけで、鬱々とした心が大いに慰められるのを感じた。

 

「魂を重ねる、ねぇ」

 

 初日にコンコンブル師匠から言われた言葉を、口の中で反芻した。

 

 俺にもカブルーにも魂が宿っている。

 もちろん、それに異論はない。

 なにせうちにはよく喋る幽霊が2人も居るのだ。

 魂の存在を否定したらあいつらはなんなのかという話である。

 

 けど、魂を重ねるという言い回しが、俺の中でどうにもしっくり来なかった。

 

 肉体という器に収まっている()()を、どうやって一体化させるというのだろう? 

 まさか身体から取り出して混ぜる訳ではあるまい。

 餅は餅屋、手持ちのゴーストに聞こうにも、

 

サーフゴー(フーゴ)は取り上げられちまったしなあ。

 サマヨール(ヨモツザカ)はクチートのとこに残ったし……)

 

 せめて文献でも漁れればいいのだが、悲しいかな、シャラシティにはろくな本屋も図書館もないのだった。

 

「……………………」

 

 竿を持ち上げる。

 針を手繰り寄せると、綺麗に餌だけ食べられていた。

 

 無言で餌をつけ直し、再び投げる。

 

 ────いや。

 それは欺瞞だ。俺は、俺にウソをついている。

 魂についてヒントが欲しいだけなら、誰が書いたか分からん文献なんかよりよほど確実な話をしてくれそうな相手に聞けばいい。

 先祖代々、魂だの幽霊だのを捌いてきた家の出身者と、深い誼を通じているのだから。

 

 ────ん? 

 ならどうして、とっとと電話しないのかって? 

 痛いとこ突くなあ。

 

 …………癪なんだよ。

()()()には、ただでさえバトルで150回も負けているのに、この上アドバイスまで求めたら、俺の繊細な部分(プライド)がボコボコに凹むこと請け合いである。

 

 だからこの10日、自分なりに考え、工夫してきた訳だが……

 

「……もう、ンなこと言ってる場合じゃねえよな」

 

 次の試験までもう幾らもない。

 何かひとつ、ひとつでいいから、シンクロの手がかりを掴まなきゃ、俺もビオラもまた不合格になっちまう。

 

 俺の自尊心とか虚栄心なんて、合格に比べたら些細なモンだ。

 

「腹、括るかァ」

 

 きっちり頭下げて、話を聞こう。

 

「……にしても食われすぎじゃね?」

 

「ぎしゅ」

 

 浮きがぴくりとも揺れないまま餌だけ掠めとられた針を、俺はジト目で見下ろした。

 

 

 〇〇〇

 

 

「珍しいこともあるもんだな。

 アシタバが相談したいだなんて。

 どういう風の吹き回しだ?」

 

 ポケモンセンターに備え付けてあるPC画面の向こうで、腹の立つイケメン──もといマツバが薄く微笑む。

 俺は渋面を作りながら「訳があんのよ」と嘆息した。

 

 マツバ。

 ジョウトはエンジュシティのジムリーダーにして、2つ上の幼馴染だ。

 実家は千年続く祈祷師の名家である。

 マツバは歴代当主の中でも格別の法力を持つとかで、その界隈で知らぬ者は居ないらしい。

 

「訳、ね。さしずめ、メガ進化のシンクロテストに躓いてるってところか?」

 

「なんで分かんの!?

 てかなんで俺がカロスにいるって知ってんだよ!」

 

 俺は思わず腰を浮かした。

 こいつと最後に会ったのはパルデアに旅立つ数日前だ。

 その時には、カロスに行くなんて話1ミリもしていない筈なのだが。

 

「言ったろ。オレは地獄耳なのさ」

 

 マツバは自分の耳たぶをちょいと揺らし、口角を上げた。キザったらしい仕草が嫌になるほど決まってるのは、イケメンならではだろう。滅べばいいのに。

 

「というか、あれだけ誘拐犯のニュースが流れてて聞こえないわけないだろ?」

 

 そういやそうか。

 

「────まあ、知られてんなら話は早ぇ。

 難儀してんだ、マジでよ」

 

 大きな溜息をつく。

 マツバは数秒の沈黙の後、「思ったより遅かったな」と呟いた。

 

「へ?」

 

「いやなに。オレの予想ではもう2、3日早く連絡してくると思ってたからな」

 

「……どういうことだ?」

 

「こういうことさ」

 

 マツバが左手を掲げる。

 中指にキラリと光るそれは────

 

「キーストーン!?」

 

「ご名答。

 君がパルデアで仕事してる間、俺もカロスで修行していてね。だからメガ進化の修行内容は、よぉく知ってるよ」

 

 ぐっと奥歯を噛み締めた。

 ダイゴだけでなく、マツバまで。

 友人たちに次々と先を越されていく自分が、心底情けなかった。

 

 悔しい。

 妬ましい。

 ……羨ましい。

 

 湧き上がるドス黒い感情に首筋が熱くなるのを覚えつつ、親友の顔を見やる。

 マツバは、こっちが狼狽えるぐらい、まっすぐ見返してきた。

 その瞳に、軽侮の色は微塵もない。

 俺の次の言葉を、正面から受け止めようとする眼差しだった。

 

 驚き、そして、強ばっていた背中がふっと軽くなる。

 前髪をくしゃりと掻きまぜた。

 

 いい加減学べよ、俺。

 こういう時、マツバは馬鹿にしてくるようなくだらねえ男じゃねえって。

 俺が助けて欲しい時、こいつは必ず手を差し伸べてくれたじゃないか。

 

 それに、気持ちを取り繕うのも無意味だ。

 人間、自分自身を誤魔化せるわけがない。

 だったら醜い気持ちは醜いまんま、全部糧にして進んでやれ。

 

「察しの通りだ。頼む。助けてくれないか」

 

 深々と頭を下げる。

 マツバの返事は早かった。

 

「君の力になれるなら、喜んで」

 

 

 〇〇〇

 

 

 PCに齧りつくようにして話しこむアシタバの姿を、そっと盗み見る者たちがいた。

 

 2人組である。いずれも若い男だ。

 

 片方はがっしりした体格で、顎も大きく、偉丈夫の見本のような容姿なのに対し、もう片方は背ばかり大きくて薄い躰つきをしている。

 顔つきもニヤニヤして締まりがない。

 

「なーにをあんなに喋ることがあんのかねぇ、アルファの旦那。まるでオバサンの井戸端会議だ」

 

 細い方が言うと、アルファと呼ばれた男が「さあな」と肩を揺らした。

 

「積もる話があるんだろうよ。

 誘拐犯にされたなんて滅多にあることじゃないからな」

 

「確かに。ありゃ気の毒だったわ」

 

 片割れがくっくっと喉を鳴らした。

 

「ちゃんと見張ってろよ、ベータ」

 

「わかってますって」

 

 ベータと呼ばれた男が、サイコソーダを呷る振りをしながら素早く視線を走らせた。

 その眼光の鋭さは、尋常のものではない。

 

 ────彼らは、アシタバを誘拐犯に仕立てあげた張本人・ナリキンカンパニーの跡取り息子ナルキスに雇われていた5人組のうちの2人である。

 

 いきなり雇い主が記憶を無くし、赤子同然になってしまったので、これ幸いと仕事を辞めたまではよかったが。

 カロスはここ数年、空前絶後の不況が続いており、新たに雇ってくれるところが見つからなかったのだ。

 

 行く宛てもなく、さりとて帰る故郷もない。

 根無し草の2人は、フラフラと歩き続け、いつのまにかシャラシティに辿り着いた。

 

 そこへ声をかけてきた者がいる。

 浅葱色の髪に端正な顔立ちの青年だが、2人はすぐに勘づいた。

 

 堅気の人間ではない──と。

 

 案の定、その男──アポロと名乗った──は奇妙な仕事を依頼してきた。

 

 この街にいる間、アシタバを常時監視してほしいというのだ。

 

「誘拐騒動は誤報だったと言われていますが、以前私の友が酷い目に遭いましてねぇ。たとえ誘拐を働いていなくとも、彼は立派な悪人なのですよ。

 せっかく見つけたこの機会、ぜひとも彼と()()()()()()のですが、逃げられるかもしれません。

 そこでお2人に、彼を見張って頂き、どこで何をしているか逐一報告していただきたいのです」

 

 ささやかですが──と言って渡してきた前金は、ゆうに半年は遊んで暮らせるほどの額だった。

 

 断る理由もないので引き受けたのだが……

 

「あのガキも、次から次へとよくもまあ、トラブルを引き寄せますねえ」

 

 その点は、アルファも全く同感である。

 

 一体全体、あんな男相手に何をやらかしたのやら。

 

「……む」

 

 アルファの片眉が跳ねた。

 通話を終えたアシタバが出口へと向かう。

 その顔は、入ってきた時と打って変わって晴れ晴れとしていた。

 

 まるで、ずっと悩んでいた難題に解決の光明が差したかのように。

 

「尾けるぞ」

 

「うーい」

 

 サイコソーダを飲み干し、ベータが軽々と腰を上げた。

 

 

 

 




というわけで71話。
アシタバ、親友を頼るの巻。

彼はなかなか人に甘えるのが下手な人間なので、素直にマツバに助けてを言えたあたり成長したなあと感じます。
そもそも、屈辱や羞恥を覚えながら人に頭を下げるのって至難の業ですよね。アシタバえらい。よう頑張った。

そして再び登場アルファとベータ。
このコンビ書いてて意外と楽しいなあ笑

次の話からグッと動かしていきたい所存。
良ければ感想高評価おなしゃす!
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