ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第74話 返り討ち。

 

 

 

 

 心臓を撃たれ、力なく沈んでいく青年を、3人のダイバーが無機質な眼差しで見下ろしていた。

 

 明らかに異常事態であるにも関わらず、助ける素振りとてない。

 当然だ。

 彼らはみなロケット団の女幹部・アテネの部下であり、筋金入りの悪党なのだから。

 

 カロス滞在中のアポロから言い渡された任務はこうだ。

 

『殺すのは別のものに任せます。

 貴方たちは死体を始末しなさい。

 骨の一片たりとも残さないように』

 

 方法までは指図されなかったので、彼らはそれぞれの手持ちを見せあい、バスラオに喰わせることにした。

 

 あまりと言えばあまりに残酷な手法だが、散々悪事に手を染めてきた彼らにとって、この程度日常茶飯事だ。

 とっくに心は麻痺している。

 人を殺した罪悪感や後ろめたさなど微塵もない。

 

 いまはただ、一刻も早く終わらせて陸に上がり、酒をくらいたかった。

 

 ウェットスーツを着ていてもなお、シャラ湖の水は肌を刺すような冷たさだ。

 ましてや今の季節は冬、グズグズしていたらこちらの心臓まで止まってしまう。

 

 ところが、待てど暮らせどバスラオたちが死体を食べようとしないので、バスラオのトレーナーは次第に腹が立ってきた。

 

(何してんださっさと喰えよ! 帰れねえだろうが)

 

 苛立たしげにハンドサインを送るも、やはり遠巻きに眺めるばかりである。

 

 しかもその目に怯えの色まで浮かんでいることに気づき、トレーナーはいよいよ困惑した。

 

 バスラオといえば、なんでも食べる雑食性と、どんな大型獣にも怯まない獰猛さから、漁師殺しだのサーファーキラーだのという異名で恐れられている。

 今回は特に徹底的にやれという指示だったので、3日前から飯を抜いた。

 腹が減って仕方がないはずなのに、無抵抗な死体に怯えていっかな食いつこうとしないなんて、5年育ててきて初めてのことだった。

 

『どうした?』

 

 脳内に声が響いた。

 ハギギシリ使いの仲間がテレパスを送ってきたのだ。

 男は回答を強く念じた。

 こうすれば、ハギギシリが中継を担ってくれ、水中でも会話が可能になるのである。

 

『ダメだ。喰わねえ』

 

『なぜだ? 食餌管理はしていただろう』

 

『当たり前だろ。アポロさんの任務をトチッたらどんな罰が下るか分かったもんじゃねえ。

 なのにコイツら……っクソ!』

 

 ここが地上なら散々打擲してやるところだ。

 

 すると3人目の同僚が横からすいっと近づいてきた。

 こちらはドククラゲを育てている。

 

『いつまで待っててもしょうがねぇ。

 オレのクラゲの毒で溶かしちまおう』

 

 バスラオ使いもハギギシリ使いも賛成した。

 3人目がドククラゲを繰り出す。

 

 しかし、予想外の事が起きた。

 

 なんと、そのドククラゲまでもが怖がりだしたのだ。

 80本もあるといわれる触手を限界まで縮込めて、必死に死体から身を隠そうとしている。

 訳が分からず混乱する男たちの頭に、やけに陽気な声が飛び込んできた。

 

『オッホ。なるべく気配を消したつもりでしたが漏れ出てしまいましたかな? いやはや失敬失敬。我輩幽霊のくせにスター性が高すぎて隠密出来ないんですなぁ。

 申し訳なさすぎて合わせる顔がありませんぞ。

 まあ元々顔無いんですけど! ドゥフフ!』

 

(…………は?)

 

(なんだ、この声)

 

 男たちが顔を見合わせると。

 死体から、一体のポケモンがむっくりと現れた。

 

 灰色の包帯を巻いたような見た目。

 怪しく光る赤い瞳。

 

 誰かが『サマヨールだ』と()()のと、それが笑みを浮かべたのは、ほとんど同時だった。

 

 

『まあ何はともあれ。

 

 

 それでは皆さん、ご機嫌よう』

 

 

 サマヨールがぱちん、と指を鳴らす。

 途端に、バスラオたちが激しく身悶えはじめた。

 

 ────いや、バスラオだけではない。

 ハギギシリもドククラゲも、ボールから出していたポケモン全員の様子がおかしくなっている! 

 

『な、なんだっ、なんだこれっ』

 

『何が起きてる!?』

 

 聞かれても、答えられる者がいる訳もなく。

 男たちはただ呆然と見回すほかなかった。

 

 そして、始まった時と同様、いきなりバスラオたちの動きが止まった。

 

 誰も彼も、目に赤い光を宿し、さっきまでの痙攣が嘘のように静まり返っている。

 

『は、ハギギシリ……?』

 

 ハギギシリ使いがおそるおそる指を伸ばした瞬間。

 

 彼の手が、バツンと喰われた。

 赤い飛沫がもわもわと水中に漂い始める。

 

 次に動いたのはドククラゲだ。

 全ての触手を飼い主に絡ませ、凄まじい力で締め上げる。その圧に人体が耐えられるはずもなく、いとも簡単にひしゃげてしまった。

 

 2人の絶叫が脳内に轟く。

 

 凄惨な状況に硬直していたバスラオのトレーナーは、さあっと血の気が引くのを感じた。

 

 どういう理屈かはさっぱり分からないけれども、乱心したポケモンたちが、いままで何度もやらされていた所業を飼い主に返していることだけは理解できた。

 

 ならば。

 あいつらは。

 

 ゆっくり、ゆっくり振り返る。

 

 何匹ものバスラオたちが、殺気を隠そうともせず男を取り巻いていた。

 がちんがちんと鳴らす歯の、なんと鋭いことだろう。

 

『やめろ、やめろ、やめやめやめ』

 

 ────後はもう、思考(こえ)にならなかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

『さて、と』

 

 独りごちながら、サマヨールは傍らの死体──もとい、気絶したアシタバを流し見た。

 

 傷口は既に塞がっている。

 アシタバの影に入ると同時に発動した《痛み分け》の効果だ。

 さしもの半神といえど、急所を貫かれたら自力で治すのには相当時間がかかるらしい。

 あと数分サマヨールの到着が遅れていたら、本当に魚の餌になっていただろう。

 咄嗟に悪の波動でバスラオたちを牽制し、妖しい光で混乱させたから事なきを得たものの…………

 

『間一髪でしたな〜。

 我輩いやですぞ、アシタバ殿の魂を取り込むの。

 レディたちに何されるか分かったもんじゃないですし』

 

 ぐったりしたアシタバを抱きしめつつ、サマヨールは嘆息した。

 

『我輩バトルは苦手だというのにまったくもう。

 さ、地上(おうち)に帰りますぞ〜』

 

 折りよく水面近くを泳いでいるラブカスを見つけ、サイドチェンジを発動する。サマヨールたちの姿が消え、代わりにラブカスが現れた。

 

 いきなり場所が変わって驚いたラブカスは、すぐ傍で恐ろしい肉食魚の群れが()()()なのに気づき、慌てて逃げ出した。

 

 

 〇〇〇

 

 

 意識が覚醒した途端、物凄い息苦しさに襲われて、俺は思いっきり咳きこんだ。

 

「っぶはぁ! げほっ、げえほっ」

 

『あ、起きましたな』

 

「ぶぇ、へ、……あれ、ヨモツ?」

 

『はいはい、みんなのアイドル☆ヨモツザカですぞ』

 

 言いつつ、背中をさすってくれる。

 嬉しいけど、え、なんでここに? 

 

クチート(ヘリオドール)嬢とアマルルガ(ゴーシェナイト)殿から、きっと今ごろ死にかけてるだろうからやれる範囲で助けてやれと頼まれましてな。来てみたらほんとに死にかけてて笑いましたぞ』

 

 笑うなや。

 

『何があったか覚えておいでで?』

 

「いや……特に何かあった訳じゃ……」

 

 こめかみに指を当て、記憶を辿る。

 やけにバスラオが釣れたことまでは覚えてるんだが……

 

「……あ、そうだ。キングドラだ」

 

『ぬ?』

 

「キングドラだよ。シードラの進化系の。

 それがすぐそこに浮かんでてさ。

 珍しいなと思って見てたらいきなり胸が痛くなって……」

 

『ははあ。なーるほど。

 ではその胸元の穴はキングドラに撃たれた痕なんでしょうなあ』

 

「へ? 穴?」

 

 ぴこ、と指を差され、服に目をやると、たしかに丸い穴が空いていた。

 

「あーっほんとだ!

 なんだよこのシャツ気に入ってたのにぃ!」

 

『まあまあ。野生ポケモンのなかには気性の荒い者もおりますし。たまたま凶暴なキングドラだったんでしょうぞ』

 

「そんなたまたまアリかよぉ」

 

 がっくり項垂れる。

 ま、あれですな。鳥にフンを落とされたようなもんですなと慰め?られたが、そうですねと返せるほど広い心にはなれなかった。

 

 ビオラとの夕食の約束もあるし、ポケモンセンターでシャワー借りて服買いに行こう。

 

「安い服屋があるといいんだがなあ」

 

『我輩の包帯あげましょうか?

 無限に出ますぞ♡ 昨今流行りのくすみカラーで♡』

 

「結構です」

 

 

 〇〇〇

 

 

 シャワーを終えたアポロが報告書を書いていると、窓から現場を監視していた部下に声をかけられた。

 

「あ、アポロさん……」

 

「なんです? いま報告書を書いているのですが」

 

 無闇に話しかけるな、と暗に伝えたつもりだったが、部下は生唾を飲みこみ、震える声で告げた。

 

「任務……し、失敗したようです」

 

「────はい?」

 

 アポロが目を細めた。

 失敗の単語も然る事ながら、したようですという曖昧な物言いが気に食わない。

 

 己の願望や主観を取り除き、事実のみを述べることが報連相の基礎ではないか。

 

 椅子から立ち上がり、窓辺に近づく。

 

「どういうこと……」

 

 言いさし、そのまま硬直した。

 眼下に見える光景が、信じられなかった。

 

 射殺したはずの標的が、サマヨールと何食わぬ顔で歩いているではないか。

 

「馬鹿な…………外したのですか? あの距離で!」

 

「い、いえ! 団員からは確かに仕留めたと報告が……」

 

「ならば何故ああして生きているのです!

 死体処理班は何をしているんですか!」

 

 キングドラが狙撃した後、生死を問わず処理班が追撃をかける手筈になっていた。

 まさか全員しくじったというのか? 

 

 部下は情けない顔を左右に振るわせた。

 

「そ、そいつらからはまだ何も……」

 

 アポロは痛烈に舌打ちした。

 

 メガ進化の修行では、一体を除いて手持ちをすべて預けるよう要求される。

 標的の手持ちは疲弊したカブトプスだけだと思っていたが、どうやらサマヨールを隠し持っていたらしい。

 

(返り討ちにあったと考えるのが妥当……キングドラの団員には撃ったらすぐに現場を離脱するよう伝えてありますから、もうあの近くにはいないでしょう。

 ────ならば)

 

「私が出るしかありませんね」

 

 たとえあのサマヨールがどれほど強かったとしても、メガ進化を会得したヘルガーの敵では無い。

 

 部下にいくつか指示を飛ばしてから、標的の元へと足を急がせた。

 

 

 

 

 




あけおめでーす!(激遅)
本年もよろしくお願いします!

というわけで74話。
暗殺失敗です。

アシタバの血を飲んでイダイトウ進化のルートも考えてたんですが収拾つかなかったので泣く泣く没に。代わりにサマヨールのヨモツザカくんに頑張っていただきました。

次回からはアポロさんが出張る様子。
勝てるのかアシタバ。

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