ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第77話 180秒。

 

 

 

 

 ビオラのおかげで窮地を脱した俺は、瀕死状態のカブトプス(カブルー)サマヨール(ヨモツザカ)を急いでポケモンセンターに連れていった。

 

 2人とも命に別条はなく、一晩かけて治療すればすっかり元気になるとのこと。

 安堵に胸を撫で下ろし、ジョーイさんに何度も頭を下げて、センターを後にした。

 

「…………」

 

「…………」

 

 なんとなく、シャラシティの中心街に向かって歩き始めたが、俺もビオラも押し黙っていた。

 

 きっと彼女は聞きたいことが山ほどあるだろう。

 さっきの男はなんなのか。

 なぜロケット団に狙われるのか。

 だけど、あまりに質問したいことが多すぎて、何から訊ねるべきかうまく言葉にできないみたいだった。

 

 俺は俺で、ロケット団関係を突っ込まれたらなんと言ってはぐらかそうか必死に頭を働かせていたから、ものを喋る余裕がなかった。

 

 結局双方ぐるぐる考えているうちに、手頃なレストランの前に到着した。

 

 どちらからともなく顔を見合わせる。

 

「…………とりあえず、食べよっか」

 

「賛成」

 

 幸い客の入りはまばらで、すぐに席に案内された。

 

 俺はハンバーグシチューを、ビオラはポットパイを頼んだ。テーブルにおかわり自由のパンが置かれ、芳醇なバターの香りを嗅いだ途端、腹の虫が盛大に鳴った。

 俺の腹かと赤面したが、ビオラも顔を赤らめていた。

 どうやら同時に鳴ったらしい。

 

 お互いの目が合った瞬間噴き出した。

 緊張が一気に解れていく。

 

「お互い腹ぺこだな」

 

「ね」

 

 ウェイトレスがくすくすしながら料理を持ってきてくれ、俺たちは含羞みつつスプーンを握った。

 

 

 〇〇〇

 

 

 飛び込みで入った店だったがどれもこれも美味かった。

 すっかり気が緩んだところで、デザートのパフェをつつきながら、ビオラが囁くように言った。

 

「……さっきのボール、初めて見た」

 

「ん? ……あぁ、ヨモツのやつのか」

 

 ボールホルスターから取り出し、ビオラに手渡す。

 

 実は、アローラでクチート(ヘリオドール)サマヨール(ヨモツ)を仲間にしてから数ヶ月も経つというのに、まだ彼ら専用のボールを作れていなかったのだ。

 だからメガ進化の修行中、暇さえあればぼんぐりを削り、塗装を施し……ようやく完成したのである。

 

 基調は赤と青のぼんぐりを使い、深紫のボールにした。

 銀と黒の塗料をほのかに吹きつけて幽玄の世界をイメージしている。

 

 勿論、クチートのボールも作成済だ。

 パーティに戻ってきてくれた時に渡そうと思っているが、さて、いつになるやら。

 

「ゴーストボールってんだ。

 ヨモツは眩しい光が苦手だから、遮光性を限界まで高めてある」

 

「すご……こんなの造れちゃうんだ」

 

 ビオラはうっとりした面持ちで、ゴーストボールを矯めつ眇めつした。

 

「まだまだ未熟だけどな」

 

「こんなのがお店にあったら絶対買っちゃう……。

 ね、量産する気は無いの?

 こんなに凄いクオリティならどこのボール会社も欲しがるわよ!」

 

 俺は笑いながら、それでもきっぱり首を振った。

 

 ボール造りのイロハを叩き込んでくれたガンテツ爺ちゃんは、自分が見込んだトレーナーにだけ丹精込めた作品を渡していた。

 反対に、爺ちゃんが気に食わない相手からは、例えどんなに札束を積まれようとも、絶対依頼を引き受けなかった。その姿勢が、子供心にも痺れるくらいかっこよかったのを覚えている。

 

 俺も、そうでありたい。

 

「……前に、さ。

 カメラマンジムリーダーになりたいって言ってたろ?」

 

「え? うん」

 

「俺もさ。なりたいんだよね。

 俺が認めた挑戦者にだけバッジとボールを授ける、そんなジムリーダーに」

 

 一瞬呆けたビオラだったが、みるみる瞳を輝かせた。

 

「……っ素敵! いいんじゃない、いいんじゃないの!

 人気爆発間違いなしよ!」

 

「い、いや、俺は人気者になりたいわけじゃ」

 

「分かってるわ、人気取りのための行動じゃないのは。

 でも想像してみて! 

 激闘の末ようやく試合を制した挑戦者に、バッジと特製ボールを差し出す瞬間を……!

 そんなの絵になりすぎるに決まってるわ! 

 人気にならないわけがない! 

 撮りたいなぁその瞬間!」

 

 両の拳をぐぐっと握りしめ、ビオラはますますヒートアップしていく。

 落ち着いてくれカメラガール。

 ウェイトレスの視線が超痛い。

 

 結局ビオラのテンションがストップ高だったので、無理やりパフェの残りを食わせ、ウェイトレスに謝り倒しながら会計したのだった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 翌日。

 

 元気になったカブルーたちを引き取り、俺はシャラシティ近くの森に足を運んだ。

 

 ここは、ビオラがカイロスと一体化するために一日中駆け回った場所でもある。

 

 俺がこの森を選んだのには訳があった。

 

「でてこいっ」

 

 フレンドボールとゴーストボールを同時に放り、カブルーとヨモツを繰り出した。

 

『おわーっ昼日中に呼び出すとはなんたる仕打ちっ。

 我輩消えてなくなっちゃ…………おろ?』

 

 太陽に怯えたヨモツだったが、深い木漏れ日の下にいると気づき、目をぱちくりさせた。

 

 この森はシャラの森といい、膨大な数の常緑樹が生えているため、冬のさなかでも木陰で過ごすことが出来る。

 

 また、きのみのなる木もふんだんにあるから修行にぴったりだとビオラが教えてくれたのだ。

 

「ここならお日様も怖くないだろ? 

 どうしても嫌なら、お前が隠れられる影はそこらじゅうにあるからさ」

 

『やだ……惚れちゃう……トゥンク……』

 

「トゥンク言うな」

 

『ん? でもなにゆえ我輩をお呼びで?』

 

「それなんだが」

 

 近くの切り株に腰を下ろし、俺は昨日のバトルでカブルーのメガ進化が30秒以上保ったことを語った。

 

 なぜ保てたか。

 それは、ヨモツがずっと痛み分けでカブルーの疲労やダメージを肩代わりしてくれたからだ。

 

「やっぱりお前さんの読み通り、体力さえあればメガ進化を維持できるんだよ。

 だから、修行中だけでいい。

 痛み分けを使ってやってくれないか?」

 

『それは、我輩がお役に立てるなら是非もありませんが…………そもそもカブルー殿に直接きのみなんかを食べさせればいいのでは?』

 

 これにはカブルー自身が小さく(かぶり)を振った。

 話せない相棒の代わりに言葉を紡ぐ。

 

「メガ進化中は口まわりの構造が変化しててさ、ものが食えないみたいなんだ。

 回復スプレーって手もあるけど、ちっと経済的に厳しくてよ…………」

 

 フレンドリィショップに行けば種々様々な回復薬が売られているが、何度も買いに行く手間と時間が惜しい。

 あと純粋に金がない。

 

(ツワブキ社長が持たしてくれたカードがあるけど、できるだけ使いたくねえしな)

 

 ここならきのみもふんだんにあるし、元手ゼロで修行できるのだ。

 

「何度もメガ進化を繰り返せば、そのうち痛み分けなしでも維持するコツを掴めると思うんだ。

 それまで、どうか頼む!」

 

 両手を合わせて拝み倒すと、ヨモツが慌てた。

 

『あぁあそんな。頭を下げんでくだされ。

 委細承知いたしましたぞ!

 喜んでお力添えいたしましょう!』

 

「ありがとう!」

 

 固い握手を交わし、早速修行に入ることにする。

 

 名付けて《痛み分け策戦(頑張れるだけ頑張ろうプロジェクト)》開始だ! 

 

 

 〇〇〇

 

 

 策戦開始から4時間。

 ポケギアのストップウォッチ機能で時間を計っていた俺は、カブルーのメガ進化が解けた瞬間ストップを押した。

 

「今回は……3分か。おつかれ、ふたりとも」

 

 あらかじめ捥いでおいたオボンの実を差し出す。

 カブルーとヨモツ、ふたり並んでしゃくしゃく食べている様はちょっと可愛い。

 

 痛み分けの効果は絶大で、メガ進化を何回繰り返しても昏倒することはなくなった。

 

 しかし────

 

 メモ帳にびっしり並んだ記録に目を落とす。

 途中までは順調に継続時間を伸ばせていたのだが、3分に到達したのを境にぴたっと止まってしまったのだ。

 

 何回繰り返しても、きっかり3分のままで、1秒たりとも成長の傾向は見られない。

 

(伸び悩んできたな……。

 3分(これ)がカブルーの限界なのか、それとも訓練次第で先を目指せるのか……)

 

 見極めが難しいところだ。

 この辺りで、コンコンブル師匠に相談してみたほうがいいかもしれない。

 

「……うし!」

 

 メモを閉じ、カブルーたちに笑いかけた。

 

「休憩を入れよう。俺も腹減ったわ。

 ふたりとも、ボールで休んでてくれ」

 

「ぎしゅ」

 

了解(らじゃ)ですぞ』

 

 2人をそれぞれのボールにしまい、森を抜ける。

 その足でマスタータワーに向かった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 コンコンブル師匠はルカリオと一緒に瞑想の最中だった。1階の中央に立ち、腹の前で指を組んだまま微動だにしない。両の瞼はしっかり閉じられている。

 

 声をかけるのも憚られて、そっと壁際に座った。

 

 すると、師匠が目も開けずに「アシタバか」と言うもんだから、俺は度肝を抜かれた。

 

「分かるんですか」

 

「何年伝承者やっとると思っとんじゃ。

 一人一人の足音を覚えるくらい造作もないわい」

 

 瞑想の構えを解き、片眉を上げる。

 

「それで? なにを訊きたい?」

 

 俺は苦笑しつつ、メモを開いて見せた。

 師匠がじっと熟読する。

 

「45秒……1分……1分2秒……。

 ふむ、着々と伸びておる。

 ……が、3分で打ち止めか……」

 

「どうしても、何回やっても3分1秒の壁を突破できないんです。なにかご指導いただけないかと思って」

 

「ふむ。……ルカリオ」

 

 静かに待機していたルカリオが、くわんぬと鳴いた。

 

「例の本を持って参れ」

 

 ルカリオが奥の小部屋へと駆けていく。

 いくらも待たず、すぐに戻ってきた。

 1冊の本を大事そうに抱えている。

 

「わしがメガ進化の修行を始めた頃に当時の師匠が読ませてくれたのよ。

 あんまりボロくて扱いが難しいうえに、世界で2冊しかない稀覯本じゃから、普段はしまいっぱなしでな。

 存在自体すっかり忘れておったわい」

 

「はぁ……」

 

 随分古い書物だった。

 装丁はボロボロで、中の紙も劣化が著しい。

 けれど、内容は判読できた。

 

 カイオーガと思しきポケモンと、グラードンと思しきポケモンが左右のページで向かい合うように描かれている。

 章第は、古代語で《ゲンシカイキ》と書かれていた。

 

「ゲン……?」

 

 見慣れない単語に眉を顰める。

 原点回帰、なら分かるんだが。

 

 師匠は一つ頷き、重々しく述べた。

 

「途方もない昔。

 優れたポケモンのみが到達したとされる武の頂点。

 それが、ゲンシカイキじゃ。

 人類がようやく文明を築き始めた頃には、これを操れるポケモンが数多おったらしい」

 

 師匠の鋭い眼差しが、俺をひたと見据えた。

 

「結論から言おう、アシタバ。

 貴様のカブトプスがしているのはメガ進化ではない。

 おそらくはこの、ゲンシカイキじゃ」

 

 そのまま慎重にページをめくっていく。

 そこには、驚くべきものが描かれていた。

 

「…………っ! こ、れって……!」

 

 6本の腕。

 鋼のように引き締まった痩身。

 

 メガ進化したカブルー、そのものだった。

 

 

 

 

 

 


 

 ■おまけ

 

 

『んふふふ〜ボール〜ボール〜♡

 我輩だけの特別なボール〜♡

 はーもうなんて愛おしい。頬ずりしちゃいますぞっ♡』

 

「……気に入って貰えてよかったよ」

 

『おあっアシタバ殿っ。いつからそこにっ』

 

「んふふふって笑ってたあたりから」

 

『最初からいる〜!!!

 穴を掘ってくだされ〜!! 

 我輩が入れるくらい大きいやつを〜!』

 

「ほらよ」(シャベルポイッ)

 

『塩対応スギィ!』

 

 

 

 

 




というわけで77話。
メガ進化ではなくゲンシカイキだったようです。

メガ進化と何が違うのか。
今後の修行にどんな影響を及ぼすのか。
それを次回書いていきます。

……他の手持ち出せんかったなあ……
レディたちの怒りが怖い……

なにはともあれ、感想高評価お願いします!
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