ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第78話 ゲンシカイキ。

 

 

 

 ゲンシカイキ。

 メガ進化と違い、人との絆を必要とせず、己の力を極限まで解放せしめた者だけが至る境地────。

 

 コンコンブル師匠が、本を片手に厳かに語った。

 

 彼の知識の源は、マスタータワーの主が先祖代々受け継いだ、この古い本にあるという。

 

 著者も定かではない本ながら、メガ進化を会得するための極意や、過去にメガ進化したポケモンの詳細が(つぶさ)に記されており、なおかつ、ゲンシカイキについても触れられている、この世で2つしかない書物だそうだ。

 

 ちなみにもう1冊はホウエンの龍星の民が保管しているらしい。

 

「悪用されてはならんから持ち出し厳禁じゃし、そもそも伝承者以外は見ることも許されとらん代物じゃ。

 このこと、努々他言無用ぞ」

 

「は、はい」

 

 師匠の迫力に気圧されて、俺はこくこく頷いた。

 

「ん。では読んでおけ」

 

 そんな稀覯本をぽす、と気安く渡されて、むしろ俺の方が慌てた。

 

「はえっ、え、いいんですか!?」

 

「良いも悪いもそれしかなかろう。

 わしはメガ進化についてなら教えられるがゲンシカイキとなるとさっぱりじゃ」

 

 諸手を挙げて降参のポーズをとっている。

 文字通りの「お手上げ」というわけだ。

 

半可通(ハンパ)な指導より、その本をよーっく読んでお前さんが試行錯誤したほうが良い。これも修行よ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 腰を90度に曲げて最敬礼をとる。

 師匠は片手をひらひらさせながら、ルカリオと一緒に去っていった。

 

 俺は、タワーの階段部分に腰掛け、薄い手袋を嵌めたあと、慎重にページを繰った。

 なにしろ年季の入った紙だから、下手に扱うとすぐに破けるか落丁してしまいかねない。

 キキョウアカデミーでこういう書籍を大量に扱っていてよかったと、ゼミの教授に感謝した。

 

 さきほど師匠が見せてくれた、カブトプスのゲンシカイキと思しき部分を開く。

 文章は全て古代語だが、なんとか解読できそうだ。

 

 

極めて凶暴な生類なり

六つの鎌をあららかに振るひ、獲物を千々に切り刻む

鎌は畏く鋭きため、禦ぐべからず

また、躰は細けれど(いわお)のやうに(こわ)

水辺にも陸にも棲めり

獲物を(くら)ふは肉を食はで血を啜る

 

 

 …………これは生態に関する文章だ。

 

 曰く、極めて凶暴なポケモンで、六つの鎌を激しく振るっては獲物をバラバラに切り刻んでいたらしい。

 

 また、あまりにも斬れ味が鋭すぎて、攻撃を(ふせ)ぐことはできなかった、とある。

 しかも、ぎりぎりまで研ぎ澄まされた細い体躯のくせに、恐ろしく頑丈だったようだ。

 

 おまけに水陸両生だからどこにでも出没するわけで。

 当時の非力な人々にとって、もはや悪夢のような存在だったことが窺える。

 

 ちなみに、獲物を捕食するときは肉を食べず、その血だけを啜ると書かれていた。

 やはりゲンシカイキ状態では口が使い物にならなくなるのだろう。

 

 なぜ虫タイプでもないカブトプスが《吸血》を覚えるのか、長年の疑問が解けた。

 

「ちょーこえーな昔のカブトプス……」

 

 乾いた笑いを漏らしながら、次のページに目をやった。

 

 そこには、ゲンシカイキ状態における躰の変化が、推測も多分に混じってはいるものの、克明に記載されていた。

 

 真っ先に読み取れたのは、『いのちのやいば』という単語だった。

 

 最初は技名かと思ったが、説明書きを読んでいくうちに、どうやら特性の名称であると察せられた。

 

 

鎌を振るはば振るふほど、精気削られゆく

 

 

 精気とは今でいう体力のこと。

 つまり、攻撃すればした分だけ己の体力が減っていく、まさに諸刃の剣であったわけか。

 ポケモンに持たせる道具に、似たような効果を持つ《命の珠》があるが……あれの使用は賛否が別れるところだ。

 

 まさか常にゲンシカイキしていたわけはないだろうから、いざという時にだけ変身していたんだろう。

 だとしても、生きていくだけで過酷な日々だったに違いない。

 

「───あ。だから3分なのか」

 

 俺はようやく合点がいった。

 カブトプス(カブルー)のメガ進化継続訓練、いくらやっても3分より長くは保てなかった。

 あれはいわゆる自己防衛機能だったのだ。

 あまりに長く変身していると寿命が縮んでしまうから、本能が待ったをかけていた…………

 

「長々と眠っちまうのも削れた体力を取り戻すため、か。こりゃ群れからはぐれたカブトプスは生きていけねえな」

 

 いかに強くとも継戦能力が低すぎて、多勢相手には不利すぎる。

 ましてや古代は、ウネルミナモやタケルライコのように、現代よりも大柄で力の強いポケモンが(ひし)めいていたから、おそらく正面切って戦ったりはせず、一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)を繰り返して勝ちを拾っていたんじゃないだろうか。

 

 化石から復元された個体が鎌を2本しか持たないのは、きっと生存戦略の果てなのだ。

 弱体化を受け入れてでも、長生きしやすい肉体を望んだのかもしれない。

 

「…………」

 

 感傷にひたりながら目を走らせていくと、

 

 

くろがね

みなもと

 

 

 という表記が読めた。

 

「…………? あ、これもしかしてタイプか?!」

 

 くろがねは鐡で、すなわち金属を示す言葉だ。

 現代の鋼タイプに相当する。

 

 みなもとは泉と書くから、これはそのまま水タイプと思っていい。

 

 以上を踏まえると、ゲンシカイキしたカブトプスは鋼・水の複合タイプなわけだ。

 同タイプは今のところエンペルトしか見つかっていない、なかなかレアな属性である。

 

 デンリュウやチルタリスのように、メガ進化するとタイプが変わるポケモンがいるとは聞いたが、ゲンシカイキもそうらしい。

 

 そこまで考えて、はたと瞬いた。

 

「────あ、待てよ」

 

 口許に手を当てる。

 

 思考の順序が逆かもしれないことに気づいたのだ。

 もしも、だ。

 古代のカブトプスはゲンシカイキするしないに関係なく、生来このタイプだったとしたら? 

 現在のカブトプスが岩・水タイプなのは、化石になった身を復元するという工程を踏んでいるからだ……という可能性がありはしないか。

 

 考古学徒の血がふつふつと騒ぎ、おもわず叫んだ。

 

「うわ調べてぇ〜! タイムマシン欲しい〜!」

 

 時代を遡らせてくれるポケモンとかが目の前に現れてくれないものだろうか。

 この時代をフィールドワークさせてくれ! 

 

「なぁにを悶えとるんじゃお主は」

 

「どわっ師匠」

 

 いつの間にか傍に立っていた師匠にジト目でツッコまれてしまった。

 

「そろそろ読み終わったかと思っての。返せ」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 恭しく差し出す。

 師匠は俺が手袋を嵌めているのに目を留め、わずかに口角を上げた。

 

「それで、知識は増えたか」

 

「……なんとか?」

 

「役に立ちそうか」

 

 これははっきり回答した。

 

「物凄く」

 

「……ふん」

 

 師匠はニヤリと笑い、「ほれ」と言ってカラフルなボール数個を渡してきた。

 メガ進化の修行に入る前に預けていたポケモンたちだ。

 

「食事はたっぷり喰わせておいたし、暇な時は稽古もつけてやったぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

 なんてありがたい。

 これだけの大所帯、世話するのも一苦労なのに。

 

「今までにないことじゃがの、お主はもう修了じゃ。

 わしが教えられることがもうないんでな」

 

 俺は唇を引き結んだ。

 

 ────そう。

 彼はあくまでメガ進化の伝承者なのだ。

 俺のカブルーは、それを使えないことが分かった。

 ならば、ここにいる資格もない。

 

 俺は姿勢を正し、深々と頭を下げた。

 

「コンコンブルさん、お世話になりました!」

 

「ん。達者でな」

 

 ごくあっさりした返事が、いかにもこの人らしかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 シャラシティへと続く砂浜道を歩いていると、向こうからビオラがやってきた。

 

「どうしてもカイロスのメガ進化が5分もたないの!

 だから師匠に相談しようと思って。

 アシタバくんは? 順調?」

 

「俺は…………」

 

 あの本に関する部分を端折り、修行の経過や師匠とのやりとりを掻い摘んで話した。

 

 俺が修了と知ったビオラは目を丸くし、次いで、悲しげに笑った。

 

「……そっ、か。修行、終わりなんだね」

 

「……うん」

 

「どこか行くの?」

 

「具体的には決めてないけど……。

 次に行くならカントーかなって」

 

 ヤマブキ学院卒業以来足を踏み入れてない地方だ。

 特に目的があるわけじゃないが、なぜだか近頃、無性に訪れたくなっていた。

 いっそ、じっくり腰を据えて武者修行するのもいいかもしれない。

 

「そうなんだね」

 

 束の間、ふたりとも無言になる。

 次にビオラが口を開いた時、その声はほんの微かに震えていた。

 

「……寂しくなるなあ」

 

 言って、そっと目を伏せる。

 俺も、胸が痛んだ。

 

 思えば、カロスに来た時から彼女には世話になりっぱなしだった。

 エリアゼロでのあれやこれやで荒んでいた俺に寄り添い、ミアレシティを案内してくれ、誘拐犯と報道されてもなお探しに来てくれた。

 

 彼女が居なかったら、いまでも俺はどこかの洞窟で自分を責め苛んでいただろう。

 

 感謝と寂しさがいっぺんに込み上げて、目頭が熱くなる。だけど涙は見せたくなくて、無理やり微笑んだ。

 

「──そしたら、さ。こいつらと一緒に遊ばねえか?」

 

 ボールホルスターを持ち上げる。

 ずっと預けっぱなしで寂しがってただろう面々と、力いっぱい遊んでくれる仲間が欲しかった。

 

 ビオラはにこやかに快諾してくれた。

 

 ボールからいっぺんに全員を出す。

 ウネルミナモは街からでも目立つだろうが、構うもんか。でっかい犬よろしくマズルを押しつけてきたので顎下をわしゃわしゃしてやる。

 気持ちよさそうな顔で鳴いた。

 

 ヌメラとオーガポンにはぬめぬめのぼこぼこにされた。

 めうめうぽにぽに喧しいのでサーフゴーに通訳を頼んだら、どこの女と浮気してたのか問い詰めているらしい。

 お前たちだけだよと抱き締め、気の済むまで撫でくりまわした。まだ若干不満そうだったので、今日からしばらく甘やかしまくってやろう。

 

 1番うるさかったのがルギアだ。

 げるげるげるげる大熱唱。

 隙あらば俺の服に潜り込もうとするので、最初は襟が伸びるからと牽制していたけど、最終的には好きにさせてやった。好きだなーお前、狭いとこ。

 

 ガチグマは毛並みが乱れていたので軽くブラッシングしてやった。ビオラにも手伝ってもらって、全身に櫛を入れてみたが、いやもう抜け毛が取れる取れる。

 こりゃどっかで丸1日使ってお手入れだな。

 

 サーフゴーはなんだか難しい顔で俺を見つめ、もしかして死にかけタ? と囁いてきた。なんでわかるんだ。

 その通りだと言うとアチャーと天を仰いでいた。

 どうやら臨死体験をしたニンゲンは魂の純度ってやつが変わるらしい。

 怖いので深くは聞かないでおいた。

 

 最後に近寄ってきたのはテッカグヤだ。

 こいつはほんとに控えめな質だ。

 慎ましい女性のことをヤマトナデシコって言うらしいけど、こういう子のことを言うんだろうな。

 寂しい思いさせてごめんな、と抱き上げたら、嬉しそうにすりすりしてきた。かわいいなあ。

 

「みんな、ただいま! そんでおかえり!」

 

「はーい、集合写真とるわよー!」

 

「ビオラも入れよ! タイマーとかセットしてさ!」

 

「え、うわちょっと! 

 ぬめぬめした手でひっぱらないでぇ!」

 

 全員の笑い声が、冬の晴天に溶けていった。

 

 

 

 




というわけで78話。
メガ進化修行編~完~でございます。
ゲンシカイキについてはアシタバ自身手探りで鍛えていくしかないですな。頑張れアシタバ!

そしてビオラ嬢ともここでお別れです。
カロス編でほぼずっと付き合ってくれたので、作者としても悲しいところ。

ようやくパーティメンバーが一部を除いて揃いました。
長かったー。

次回からカントー編に入りますが、このまま書くかシリーズ3つめに分けるか悩ましいところ。
わりとあれやこれやな展開にするつもりなんですよねえ……
なにしろロケット団のお膝元やし……

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