ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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カントー編
第79話 Welcome to ようこそ サファリゾーン!


 

 

 

 

 読者諸氏は、俺がカルネさん誘拐の濡れ衣を着せられた事件を覚えておいでだろうか。

 

 そのとき、俺の無実を訴えてくれた人達全員へのお礼行脚を、やっと昨日終えることができたのだ。

 全員立場のある人だしそもそも地方(くに)が違うから、1ヶ月ちかく掛かってしまったけど、こればっかりは会ってお礼を言いたかったので、無事に終えられてほっとした。

 

 カロスから近い順に回ったので、パルデア、ガラル、イッシュ、ホウエンと移動したのだが、いやもうみんな判を押したように「当然のことをしたまでじゃ/だ/です/よ」と笑って手土産を受け取ろうとしないので、冷や汗をかきっぱなしだった。

 

 特にオモダカさんに対しては、依頼されたテラスタルオーブを直接渡しもせず、逃げるように出国するという特大不義理をかましてしまっていたもんだから、肩身が狭いったらない。

 

「おやアシタバ。わたしは怒ってなどいませんよ。

 けれど恩に着てくれるというのなら、いつか私があなたにお願いごとをした時は聞いてくださいね?」

 

「ひゃい」

 

 笑っているのに怖いというのは初めての体験だった。

 

 

 ────まあ、それはともかく! (ヤケクソ)

 やるべきことを終えた俺は、清々しい気持ちで3年ぶりのカントーに降り立った。

 

 5歳でヤマブキ学院に入学してから10年を過ごした地方だ。いい思い出も悪い思い出も、次から次へと甦る。

 

 空港の窓から見える赤色の屋根群に、郷愁の念がいや増した。カントーで最も有名な観光名所・サファリゾーンである。

 

「うわ(なっっつ)。あそこにもしょっちゅう行ってたなあ……」

 

 カントー地方にはタマムシとセキチクの2箇所に空港があるが、今回後者を選んだのは、遠足で何度も訪れたサファリゾーンにまた行きたくなったからだ。

 

「げるる」

 

 胸元に入っていたルギアが喉を鳴らす。

 表が気になるらしい。

 ちなみに今回は、カントーで知らない者はいない超メジャー小鳥ポケモン・ポッポに変身させていた。

 

「うっし。軽く飯食ってサファリ行くぞっ」

 

「げるる!」

 

 ルギアが毛並みをぷくーっと膨らませ、元気に鳴いた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 読者諸氏のなかには、サファリゾーンで遊んだことがある方も多いと思う。

 エリアのあちこちに出没する様々なポケモンを撮影、観察、捕獲できるアミューズメント施設だ。

 

 親子で捕獲体験を楽しむもよし、デートでレアポケモンを撮りにくるもよし。

 人の数だけ楽しみかたのある、夢のような場所なのだ。

 

 ちなみに、ここの専用ボール(サファリボール)は爺ちゃんが意匠しているが、俺がそれを知ったのは学院を卒業した後だった。

 

 さっそくカウンターに行き、入場を申し込む。

 代金と引き換えに、GPS付きのリストバンドを受け取った。蛍光色のなんとも目立つデザインだ。

 

 サファリゾーンはとにかく広く、そのうえポケモンも沢山いるから、遭難しかかる客が後を絶たない。

 捜索を容易にするための救済措置というわけだ。

 

「では、ポケモンさんたちをお預かりします」

 

「へっ?」

 

 俺は目が点になった。

 手持ち連れてっちゃいけないの? 

 まじ? 

 俺がガキの頃はカブトと入り浸ってたのに。

 

 戸惑う俺に、受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すみません……。

 ちかごろ他のお客様に無茶なバトルを仕掛けるトレーナーが多くて、新しく出来たルールなんです」

 

「あちゃー……」

 

 それなら仕方ない。

 数が多いので、ホルスターごとカウンターに預けた。

 しかし、胸元のルギアが頑なにボールに入ろうとしない。メガ進化の修行中、長いこと離れ離れになっていたのが余程嫌だったみたいだ。

 

「げるるっ」

 

「げるるっ、て言われてもよぉ」

 

 すると、受付嬢がきょろきょろ辺りを見回してから、小さく耳打ちしてきた。

 

「……そのポッポちゃんだけなら、特別に許可しますよ」

 

「まじすか?」

 

「ふふっ。すっごく懐いているみたいだから。

 ……特別ですよ♡」

 

 彼女のウィンクは、惚れそうなくらい可愛かった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 そんなこんなで入場したのはウェルカムエリア。

 客が最初に遊ぶフィールドなだけあって、水も木も豊富なサバンナが広がっている。

 

 ミニリュウを欲しがる連中なんかは、ここで釣りだけするらしいが、勿論そんなもったいない遊び方はしない。

 

 とりあえず、風のむくまま気の向くままに歩いてみよう。何かを探そうとするんじゃなく、目に入るものを楽しむ感じで。

 

 今日は日差しが暖かくて過ごしやすい。

 頭の上に陣取ったルギアが、微風に歌を乗せ始めた。

 

「お前もアマルルガ(ゴーシェ)も歌が好きだよなあ」

 

「げぅる」

 

「……あいつら、元気かなあ」

 

 ────同胞を鍛えるため、カロスに残った仲間たち。

 自分にも己にも厳しいクチートのことだ。

 今頃きっと、アマルスたちをびしばし扱いていることだろう。その様子がありありと浮かび、笑みが零れた。

 

「…………ん?」

 

 不意に、風の音ともルギアの歌とも違う、不思議な音色が聞こえてきた。

 なんというか、ちょっと地味な行進曲みたいな…………

 

 音のする方に行ってみると、ラジカセを掲げた男と幼い少女に出くわした。

 少女は頭にピンクのリボンを付けていて、かなり愛くるしい容姿をしている。

 けれど、その顔は引き攣っていて、とてもサファリゾーンを楽しんでいるようには見えなかった。

 

「お、お父さん……。

 ほんとにくるの? ポケモンさんたち……」

 

「くるとも! お父さんが作曲したこのポケモン・マーチを聞いたポケモンはたちどころに気分が良くなってノリノリで現れるぞ!」

 

「ほんとぉ……?」

 

 少女はびくびくしながら視線を走らせる。

 

 どうやら親子らしい。

 少なくとも、ポケモン・マーチとやらが娘の不安を解消できていないことは確かだった。

 

「げるる……」

 

 肩に降りてきたルギアが不愉快そうに唸っている。

 ラジカセを険しい目つきで睨んでいた。

 

 聞こえないところまで離れるか、と踵を返しかけた時、鋭い殺気が背筋を駆け抜けた。

 

 咄嗟に茂みに飛び込み、辺りを窺う。

 すると、反対側の茂みの奥からケンタロスが現れた。

 

「ブフーッ、ブフーッ……」

 

 苛立たしげに地面を掘っているし、鼻息も荒い。

 めちゃくちゃキレている。

 

 遅れて気づいた父親が、顔を青ざめさせた。

 

「あ、あ、あれっ? おかしいなっ。

 な、なんで怒ってるんだっ?」

 

「お、お父さん!」

 

 娘が半泣きで父親の脚にしがみつく。

 父親は音を止めようとしたんだろう。

 ラジカセに手を伸ばしたが、つまみを逆方向に捻ったらしく、むしろ音量が跳ね上がった。

 

 それがケンタロスの逆鱗に触れ、凄まじい勢いで突進していく! 

 

「う、うわぁああぁああ!」

「きゃあぁあああ!」

 

「まったく……!」

 

 ケンタロスへ指を突きつける。

 

ルギア(レヴィ)、ブレイブバード!」

「げるるぁっ!」

 

 直後、ケンタロスの横腹をポッポが強襲し、視界の外まで吹き飛ばした。

 

「ほら、こっち! あんたはラジカセ切って!」

 

「あぁっ、はい!」

 

 2人の後ろを走りながら、サファリゾーンの入口まで誘導する。

 攻撃が急所に入ったのか、ケンタロスは追っては来なかった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「いやあ助かりました。

 ほんとうにありがとうございました」

 

「ましたぁ」

 

 父娘が深々と頭を下げる。

 こうしてみると、顔貌こそ似ていないが仕草がそっくりだった。

 

「いやいや。間に合ってよかったっす。

 ……お、戻ってきたな」

 

 軽い羽音を立ててルギアが俺の頭に着地した。

 少女が目を輝かせる。

 

「ポッポ! かわいい!」

 

「おうよ。触ってみるか?」

 

 掌にルギアを載せて目の前に差し出す。

 そーっと胸の羽毛に触れた少女は、きゃあっと笑った。

 

「やわらかくってあったかい!」

 

 さっきの怯えっぷりが嘘のように明るい笑顔に、父親が安堵の息を吐いた。

 

「ごめんなあクルミ……。

 お父さん、今度こそ成功したと思ったんだが……」

 

「あれは何をしてたんです?」

 

「ああ、そうでした。説明しなければ」

 

 父親はラジカセを地面に置き、ポケットから名刺を取り出した。

 

「私は作曲家をしております、ジョウと申します。

 こちらは娘のクルミです」

 

「こんにちはぁ」

 

「こんにちは。トレーナーのアシタバです」

 

「実はですね、ジョウトのコガネシティに近々ラジオ塔が建てられることになりまして。

 そこでかける曲を作って欲しいと頼まれたんです。

 ポケモンが元気になるようなメロディでと言われたので、試しに作った音源を流してみたのですが……」

 

「怒り狂ったケンタロスが来た、と」

 

「そうなんです」

 

 ジョウさんがしゅんと項垂れた。

 

「どうも私の作品は、私の意図するものとは逆になることが多くて……。

 デート用のしっとりしたジャズを作ろうと思って出来たのがお祭り音頭だったり、葬式用のおごそかな曲にしようとしたら幼児向けの手遊び歌になったり……」

 

 何をどうしたらそうなるんだ。

 

「今回もですね、何回も何回も作り直してみたのですが、なんだかポケモンを元気にさせるというよりかは怒らせる感じになってしまって……」

 

「あー……」

 

 たしかに、俺のルギアもちょっとキレてたな……。

 

 娘のクルミが眉を八の字にさせて呟く。

 

「……このお仕事失敗したら、お父さん()()お仕事減っちゃうね……」

 

「そ、そんなことないぞぉ!

 父さんこう見えて売れっ子なんだ! 

 貯金だってあるし……!」

 

 言いつつジョウさんの目が泳ぎに泳いでいる。

 無いんだろうなぁ……仕事も貯金も……

 

 俺は音楽については全くの門外漢だけれども、葬送曲を手遊び歌にするような人間に頼む人は少なかろう。

 今回の仕事をしくじったらなおさらだ。

 近い将来路頭に迷うことは、想像に難くない。

 

 とはいえ俺に出来ることがあるわけもないので、そそくさとその場を去ろうとしたのだが。

 

「ほ、ほら。気を取り直してサファリを楽しもう! 

 ……あ、痛っ。いてててて!」

 

 急にジョウさんが蹲った。

 見れば右足が青黒く腫れている。

 さっき逃げた時に捻ったらしい。

 

 ジョウさんは無理やり立ち上がろうとしたが、かなりの激痛らしく、脂汗と冷や汗を同時に垂れ流していた。

 

 クルミが優しい声で慰める。

 

「そのケガじゃ無理だよお父さん。

 また来よう?」

 

「うっうっ。ごめんなぁクルミぃ。

 お父さんやっと休みが取れたから、サファリゾーンを満喫させてやりたかったのに」

 

 とかなんとか交わされる会話を聞いたらさぁ。

 素通りできないよなぁ。

 

「あー……よければ娘さんだけでも案内しましょうか」

 

 提案に、ジョウさんが涙を流しながら振り向いた。

 

「本当ですかっ! いやぁありがとうございます!

 アシタバさんほど強い方に付き添っていただけるならこんなに安心なことはありません!

 ありがとうございますぅうう!」

 

「いえいえ……」

 

 両手を拝むように握られて、ほんの少し遠い目をした。

 

 

 またなんか、面倒なことが起きませんように……

 

 

 

 

 




というわけで79話。
カントー編始まりです。

リメイク品でサファリゾーンが消えた時悲しかったのは作者だけではないはず。楽しかったんだけどなあ……。

本作のサファリゾーンは歩数制限なし時間制限なしです。
ボールを使い切るか受付に戻ったら終了します。

お父さんの名前はかの作曲家久石譲さんよりお借りしました笑
娘の名前にピンと来た貴方はなかなかのポケモン通。

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