ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第8話 モヤモヤ気分霧払いして。

 

 

 

 

 マリエシティのポケセンに駆け込み、ジョーイさんにライチュウの回復を頼むと、朗らかな笑みを浮かべていた顔がはっと強ばった。

 

「その子は……! ────いえ、まずは治療が必要ね。こちらへ!」

 

 ストレッチャーに乗せられ、奥の処置室へと運ばれていく。俺はただ、よろしくお願いしますと頭を下げることしかできなかった。

 

 

 

 数十分ほどしてジョーイさんが戻ってきた。

 

「極度の栄養失調だったわ。何日も食べていないところに固形物を詰めこんだせいで具合を悪くしたみたい。

 あなた、何か与えたの?」

「与えたっていうか……」

 

 事のあらましを話すと、彼女は深い溜息を漏らした。

 

「ああ、そんな…………。ひとさまの食べ物を奪うなんて。いままでそんなことは無かったのに」

「今まで、っていうと、あいつはもう随分ここいらに棲んでるんですか」

「ええ、マリエの人なら誰でも知ってる子よ」

 

 ジョーイさんは俺の横に腰掛けた。

 いまはおやつ時で、併設されたカフェにいる客の他は誰もいない。手が空いているのだろう。

 

 ポケセンの主にして女神は、憂いを帯びた表情で、ぽつぽつと語り出した。

 

「あの子、もともとはカントーからやってきた子なのよ」

 

 アローラへ観光に来たトレーナーが連れていたピカチュウで、それは人懐っこく賢い個体だった。戦わせれば負けなしで、あっという間に人気者になり、トレーナーもこのままウラウラ島に定住する気配を見せていた。

 

 ところが、マンタインサーフ中の不幸な事故でトレーナーがこの世を去ってしまい、ピカチュウは突然独りぼっちになってしまったのだ。

 

「引き取ろうとする人は何人も居たわ。

 かくいう私もそのひとり。

 でもね、あの子は絶対に、誰にも靡こうとしなかった」

 

 もともとピカチュウは群れで生き、たった1匹のボスのもと統率の取れた狩りをする習性がある。縄張り意識も強い。愛くるしい見た目だが、強い矜恃の持ち主なのだ。

 

「以来、ずっと野生で生きているの。あの強さでしょう? 事情を知らないトレーナーが捕まえようと追いかけ回すうちに、どんどん荒んだ目つきになっていったのよ」

 

 昼となく夜となく追い回され、食べ物もろくに見つからず、誰にも心を許せなくなっていったライチュウの姿がまざまざと浮かび、俺はやるせない気持ちに襲われた。

 

 なんてふてぶてしい奴だと燻っていた怒りがみるみる萎んでいく。そうあらねば、あのライチュウは生きられなかったのだ。

 

「……あいつ、この後どうなるんですか」

「経口摂取が出来るようになるまで点滴し続けるわ。しばらくは絶対安静。食べ物も、重湯から始める必要があるでしょうね」

 

 果たして、そんな手厚い看護を大人しく受けてくれるだろうか。

 多分無理だということは、俺もジョーイさんも分かっていた。だから2人とも、無言のまま座っていた。

 

 

⋈ ………………………………………… ⋈

 

 

 ポケモンにとって、トレーナーは《おや》である。

 教え導き、食べさせてやり、身の回りの世話をする。

 それは自然界で生きるポケモンとは比べ物にならないほど安穏で満ち足りた生活だ。

 もしもあのライチュウがたまごから孵された個体ならば、そもそも野生の厳しさなど微塵も知らなかったろう。

 

「いきなり放り出されて、どれだけ辛かったろうな」

 

 ベッドに横たわるライチュウを見下ろしながら、俺は独りごちた。

 

 寝息はか細い。

 点滴が落ちる音のほうが大きいくらいだ。

 目の下には濃いクマが刻まれている。

 そっと撫でようとした手を、逡巡の末に引っ込めた。

 

『撫でてあげないノ?』

 

 隣に控えていたサーフゴー(フーゴ)が尋ねてくる。

 俺は小さく首を振った。

 

「引き取る覚悟も許しもないのに、みだりに触れるべきじゃねえよ」

『ンー……。むずかしいねェ』

「そうだな」

 

 難しい話だ。

 結局俺は、何もせず病室から立ち去った。

 

 

 

 ジョーイさんに目礼し、ポケセンを後にする。

 

 ピクニックはとんでもない形で終わっちまったが、改めて飯を食う気にもならず、かといって遊ぶ気にもなれない。モヤモヤした気持ちを抱えたまま、あてどなくマリエシティの賑やかな通りをぶらついていると、ひときわデカい建物を見つけた。

 

 金ピカの屋根にごてごてと飾りつけた門構え。

 中からは歓声と衝撃音がひっきりなしに聞こえてくる。看板に目をやると、《ジムオブカントー》と派手なデザインで描かれていた。

 

「ジムオブ……なんじゃこりゃ」

「おや兄さん、一見さんかね」

 

 扉のそばでアイスキャンディーを舐めていた小太りの男が嬉しそうに近寄ってくる。案内人らしい。

 

「よってらっしゃい見てらっしゃい、アローラ唯一のバトル施設だよ!」

「唯一? アローラってジムとかないのか」

「そうなんだよ!」

 

 男が困ったもんだと腕を組む。

 

「気候よし食べ物もよしなアローラはとにかくのどかなところでね、大抵のひとは争いごとを好まんのさ。ポケモントレーナーよりブリーダーのが多いくらいだ。そりゃ良いことなんだが、ちっと物足りないのも事実だろ? 

 そこで!」

 

 男は誇らしげに建物を指さした。

 

「オイラが作ったのがこのジムオブカントーさ!

 カントーはクチバシティのジムを完全再現!

 ゴミ箱の底にあるスイッチを2つめっけて押せばジムリーダーへの扉が開くって寸法よ!

 もちろんジムトレーナーもいるぜ!

 どうだい! 腕試ししてみないか?」

 

 めちゃくちゃぐいぐい来るなこの人。

 ────まあ、気晴らしには持ってこいかもしれない。

 

「んじゃ、挑戦します」

「まいどありっ。挑戦料1000円ね♡」

 

 大人しく金を払う。聞いた限りじゃえらく大掛かりな仕掛けを施したジムらしい。そんなもんを再現したなら、維持費もバカにならんだろうな。

 

「ほい確かに! 1名様、ごあんな〜い!」

 

 ジムオブカントーの扉が開かれ、受付嬢がたおやかな手つきでカウンターに来るよう合図した。

 

「ようこそジムオブカントーへ。

 チャレンジャーの方ですね?

 バトルはシングルとダブルどちらになさいますか?」

「あ、選べんのか。えーと、じゃあダブルで」

 

 ガラルとイッシュで修行を重ねていくうちに、なんとなくダブルバトルの方が好きになっていたのだ。

 

「かしこまりました。

 それでは右手ゲートからお進み下さい」

 

 言われるまま足を進めると、整然と並んだゴミ箱に出くわした。いち、に、さん……とても数え切れないほど並べられている。

 これを1つずつ探ってスイッチを見つけるのか…………と、早くもうんざりしかけていた俺は、いきなり肩を叩かれた。

 

 振り向けば、まだ15にもなってなさそうな少年が不敵な眼差しで俺を見つめていた。

 

「よォ! アンタ見ない顔だな! 観光客か?

 ゴミ箱を漁りたきゃまずオレ様を倒していきな! 

 このグズマ様をよ!」

 

 そう言って少年────グズマはモンスターボールを突きつけてきた。

 

 

 

 

 




というわけで8話。

アローラは出したいキャラいっぱいいすぎて大渋滞起こしてもうてます。
とりまみんな大好きグズマさんから出してみました。
おおよそ10年前の出来事なので、この時のグズマくんは13歳くらいのイメージです。個人的には本編グズマくん20代前半くらいだと思うのですがみなさん何歳くらいだと思ってるんでしょうか。気になる。

今後は月1〜2更新ぐらいにまでペース落ちますが、まったりやっていきます。
いつも感想高評価ありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします!
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