ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第80話 ちょうどいい距離感。

 

 

 

 サファリゾーンはウェルカムエリアを起点に3つの方角に分岐する。

 東方面のエリア1、北方面のエリア2、そして西方面のエリア3だ。

 そこから更に道が別れ、計8つのエリアが広がっている。初めて訪れた人間が全域を踏破することは、極めて難しい。

 

 ましてや今回俺が案内(ナビゲート)するのは10にも満たない女の子だ。体力を考慮し、彼女が会いたがっているポケモンの生息域にだけ連れていくことにした。

 

「で、クルミちゃんは何が見たい?」

 

 するとクルミは、その場でぴょんぴょん飛び跳ねながらこう言った。

 

「わたしっ、わたしねっ、ラッキーに会ってみたい!」

 

「oh」

 

 笑顔が引き攣るのが自分でも分かった。

 

 ら、ラッキー……すか……

 

 それは、珍しいポケモンが数多生息するサファリゾーンのなかでも、レア中のレアポケモンだった。

 なにせ物音や気配に敏感で、しかも筋金入りの臆病者ときたもんだ。争いごとを嫌い、縄張りに侵入者が現れるや戦わずして逃げていく。

 つまり、探せば探すほど遠ざかってしまうというジレンマに満ちた相手なのである。

 

 もう1つ厄介なのが、ラッキーは個体によって巣の好みが全く異なるという点だ。

 

 あるラッキーは見晴らしのいい山に住みたがり、またあるラッキーは森の奥深くに隠れ住まう。

 それは当然サファリゾーンのラッキーにも当てはまり、どのエリアに居るか職員すら把握出来ないのだった。

 

 それを見せろとな。

 

「……ウン、オッケー! 探シテミヨウネ!」

 

「ありがとうお兄ちゃん! でもなんでカタコトなの?」

 

「ソンナコトナイヨー!」

 

 …………さて、いかにして彼女に諦めてもらうか。

 俺は既にそんなことを考えながら、なんの根拠もなく北方面のエリア2へと向かった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 エリア2は瑞々しい草木が生い茂る森林地帯だ。

 入ってすぐの広場には季節の花々が咲き乱れ、草・虫・鳥ポケモンたちの楽園といった様相を呈している。

 

 噂によると、ここはガルーラがたまに現れるそうだが、俺はお目にかかったことがない。

 

「きれーい……!」

 

 クルミが目を輝かせ、花畑に向かって駆け出した。ひとつひとつの花から香る芳香を胸いっぱいに堪能している。

 

「げるる〜るる」

 

 頭上のルギアもいい匂いにご機嫌だ。

 

「ね、アシタバさん! これってなんの花かわかる?」

 

「おっ、とぉ」

 

 冷や汗が出た。

 まずい、俺が知ってんのはバラとひまわりとたんぽぽぐらいなんだが。

 せめてそのどれかであれと念じながら覗き込み、おや、と眉を上げた。

 

 大振りな桃色の花弁。

 分厚く柔らかな葉。

 

 花に疎い俺でも、これは知っていた。

 

「こりゃグラシデアの花だ」

 

「ぐら……?」

 

「グラシデア。

 外国の言葉でありがとうって意味らしいぞ」

 

「へえ……! 見た目も名前も素敵ね!」

 

 同意しつつ、俺は内心首を傾げていた

 

(こんな花咲いてたっけ……?)

 

 少なくとも、遠足などで見かけた記憶は無い。

 最後に来たのが14歳だからおよそ4年前。

 それだけあれば植栽も変わるだろうが……

 

「ね、アシタバさん! (あっち)いこ!」

 

「おわっ、お、おう!」

 

 クルミの存外力強い手に引っ張られ、思考はそこで途切れてしまった。

 

 

 森の中はポケモンの息吹で溢れていた。

 幹を這うキャタピーやビードルに、木から木へと飛び移るエイパムたち。

 睦まじく寄り添うニドランのオスとメス。

 目を転ずれば、ピカチュウとホシガリスがエサを取り合い、コンパンがうたた寝する横で、パチリスがきのみを齧っていた。

 

 平和そのものの光景。

 普通と違うのは、人間が近くを通ってもポケモンたちの反応が薄いところか。

 俺たちにまるで関心を示さない様に、おもわず苦笑してしまった。

 

 彼らがこうなるのには理由がある。

 実はサファリに来る客のほとんどは、ボールをひとつも投げずに終わることが多い。

 じゃあ何をするのかといえば、もっぱらポケモンの観察や撮影、録画などだ。

 

 そんなの勿体ないしつまらない、と思った読者諸氏。

 サファリゾーンで捕まえたポケモンは、原則、家に連れ帰って育てるよう定められているのである。

 

 面倒だからといって、絶対に適当な場所で逃がしてはいけない。生態系を破壊する恐れがあるからだ。

 

 どうしても育てられない場合はサファリゾーンが引き取ってくれるが、その際は永久出禁承諾書という恐怖の紙に署名させられる。

 噂によると、お前は二度とサファリゾーンで遊ばせない、という運営の怒りがひしひしと伝わる文面らしい。

 

 そもそも、ポケモンの飼育・育成には手間と時間と、なにより金がかかるものだ。

 プロトレーナーを目指すのでもなければ、一生のうち1頭()()のがやっとだろう。

 

 だから大抵の人は安易に捕まえようとせず、観る側に回るのである。

 

 それにポケモンたちからすれば、いざボールを投げられてもこれだけ身を隠す場所も逃げ道もあるので、警戒する必要に欠けるというのも大きい。

 

 ただし、例外もある。

 

 先述したラッキーを始め、《レアポケモン》と呼ばれるポケモンたちだ。

 ガルーラ、ラプラス、ミニリュウなどがそれに当たる。

 

 これらはとにかく見つけにくいし捕まらない。

 せっかくボールを当てたのにすぐに出てきて逃げられたという失敗談はあるあるだ。

 それでも欲しがる者が後を絶たず、しつこく付け狙われるので、レアポケモンたちは滅多に人前に出てこなくなってしまった。

 

「ラッキーいるかなあ?」

 

 そんなことはつゆ知らず、クルミは無邪気に笑った。

 俺も敢えて教えるような無粋なマネはしない。

 何事も、探している時や追っているときがいちばん楽しいのだから。

 

 そのとき、近くの草むらがガサガサ音を立てた。

 不用意に近づこうとするクルミを留め、一歩前に出る。

 

ルギア(レヴィ)、戦闘準備」

「げる」

 

 胸の前で曲げた腕にルギアが降り立つ。

 そのまま音のした方を凝視すると、1頭のツタージャがひょっこりと顔を覗かせた。

 

 眠たげな目が俺たちを見つめてくる。

 後ろに下がらせたクルミが身を乗り出し、悲鳴じみた歓声をあげた。

 

「か…………っわいい!! すっごくかわいい!

 アシタバさん、撫でてもいい?」

 

「んー、やってみる?」

 

「やってみる!」

 

「じゃあどうぞ」

 

 クルミがさっとしゃがみ、ツタージャに手を伸ばした。

 しかし相手の反応は実に素っ気ないものだった。

 クルミの手に尻尾を叩きつけ、それ以上近づけるなと全身で威嚇しだしたのだ。

 

 驚き硬直するクルミに、ツタージャの性質を教える。

 

「そいつは誇り高い生き物でな、他人からベタベタ触られることを酷く嫌うんだ。おまけに、自分が認めた人間しか近寄ることを許さない」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 少女はしゅんと項垂れてしまった。

 

「落ち込むことはない。

 ポケモンにも、人間と一緒で色んなのがいるってことさ。怒りっぽいとか、泣き虫だとか、怖がりだとか、好戦的とかな。

 そういう気質を見極めてちょうどいい距離感を探るのもサファリゾーンの醍醐味なんだよ」

 

 正直、クルミが触りたいと言った時に止めておけと忠告することは出来た。

 でもそれじゃあ、スクールで座学を受けるのと変わらないじゃないか。

 折角来たからには、実地で学び、感じて欲しかった。

 

(……まぁ、彼女の先生でもない臨時の案内人(ガイド)が考えることじゃないけどさ)

 

 俯いていたクルミがぱっと顔を上げ、小さな声で語りかけた。

 

「ツタージャさん。

 いきなり触ろうとしてごめんなさい。

 驚かせちゃったよね」

 

「…………」

 

「わたし、失礼だったね。ごめんなさい」

 

「…………」

 

 うんともすんとも鳴かないが、ツタージャの眼差しから敵意がゆるゆると薄まっていく。

 そして、クルミが腰を浮かしかけたとき、ツタージャがそっと尻尾を差し出した。

 

「…………?」

 

 きょとんと首を傾げるクルミに、そっと耳打ちした。

 

「尻尾の先の葉っぱなら、触っていいってよ」

 

「ほんと?」

 

「ああ。優しくな」

 

 クルミは慎重に指を伸ばし、尾の先端に生えている葉にちょんと触れた。

 

「グラシデアの葉っぱに似てる……」

 

 そう呟いてから、クルミはにっこりした。

 

「許してくれてありがとう、ツタージャさん!」

 

「…………」

 

 寡黙なまま、ツタージャは薄く微笑んだ。

 

 

 〇〇〇

 

 

 その後しばらく森を巡ってみたが、ラッキーのラの字も見つからない。

 

「エリア移動してみるか?」

 

「そうだね……この先はどんなところなの?」

 

 俺はこめかみに指を当て、記憶を探った。

 

「えー……と。たしか、雪原と岩山エリアだ」

 

 雪原エリアはドーム状になっている。

 人工雪を降らせ、氷タイプが住みやすいよう低温で管理された場所だ。

 入口で防寒着を貸してはくれるが、それでも寒い。

 

 対して岩山は、赤茶けた土とごつごつした岩が広がるエリアだ。

 岩・地面・鋼タイプは云うに及ばず、大勢の格闘タイプが日夜修行に励んでいる。

 さすがに闘弱点のラッキーがいるとは考えにくいけれども、「寒いのはいやだなあ」というクルミの提案により、エリア5の岩山に向かった。

 

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

 

 事実は小説より奇なり、とはよく言ったもんだ。

 

 俺とクルミは、呆然と()()を見上げていた。

 

「いた、な」

「いた、ね」

 

 それしか言葉が見つからない。

 

 俺たちは岩山に入ってすぐ、ポケモンたちに囲まれてしまった。

 と言っても彼らに殺気や敵意はなかった。

 見慣れないよそ者をじろじろ観察しに来た田舎者といった風情である。

 

 そのうち、腹の奥に響く地鳴りが聞こえ始め、てつへびポケモンのハガネールが姿を現した。

 

 それだけならここまで驚くに値しない。

 驚きの元は、ハガネールの頭頂部に君臨していた。

 

 レア中のレアポケモンが短い片手を振り上げ、勇ましい雄叫びをあげる。

 

 

らっきぃいいいい!!

 

 

 まわりのポケモンが一斉に膝をつき、(こうべ)を垂れた。

 物凄い求心力だ。

 

「……いや、なんでお前がボスやねん」

 

らっきぃいいいい!!

 

 俺のツッコミを意にも介さず、ラッキーは気の済むまで叫び続けた。

 

 

 

 

 




というわけで80話。
まさかの邂逅です。

みなさんは初代サファリゾーンでラッキーをゲット出来ていたでしょうか。
作者は姿すら見れませんでした。
せいぜいケンタロスか頑張ってミニリュウでした。
ガルーラも捕まえられなかったなあ……(遠い目)

あ、いまさらですが原作のサファリゾーンとはエリアの数とか状態とか全然違ってます。ご了承ください。
書きたいように書いたらこうなっちゃった☆

途中、ポケモン捕獲に対する意識とか意義みたいなんを盛り込んでみました。ゲームと違ってばんばん捕まえてばんばんBOXに送るができないので、慎重にならざるをえないと思うんですよ。

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