ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第85話 イワヤマトンネル。

 

 

 

 

 ハナダシティからシオンタウンを繋ぐイワヤマトンネルは、わずか2階層しかないのに、踏破するのが難しい洞窟だと言われている。

 理由は至ってシンプル、恐ろしいほど暗いからだ。

 

「トンネル中に生えてるクロゴケって苔がな、光をすっかり吸収しちまうんだと。

 だから松明も懐中電灯も役に立たないんだとさ」

 

「へぇ……!」

 

 俺の説明に、マユは臆するでもなく好奇心いっぱいの眼差しで首を伸ばした。

 なんとか奥を見透かせないかと頑張る姿に苦笑する。

 まあ、無闇やたらに怖がられるよりは案内しやすい。

 彼女にピッタリ寄り添うガラガラに、離れてくれるなと目配せして、トンネル内部に踏み込んだ。

 

 入口を潜って10歩もいくと、もう周りが見えなくなってくる。

 

「わ、ほんとに暗い!」

 

「おうよ。はぐれたらもう会えねーぞ」

 

 驚くマユの手をしっかり握り、チクリと釘を刺してからボールを放り投げた。

 

『ハイハ〜イ! 久々の登場フーゴだヨ!

 お外歩けるの嬉しーナ!』

 

「うわっ、喋った!」

 

 人語を操る金ピカポケモン──サーフゴーのフーゴに、マユが目を丸くする。

 子供好きのサーフゴーは、ニコニコしながら金貨で出来た手を差し伸べた。

 

『はぁいプリンセス! 道化のフーゴだヨ! 

 フーゴ人間大好キ! だから言葉いっぱい覚えタ!

 フーゴと仲良くしてくれル?』

 

「もちろん!」

 

 マユは屈託のない笑みを浮かべて握手に応じた。

 もともと魂の家で大勢のポケモンに囲まれて暮らしているからか、多少の変わり種には動じないらしい。

 

「わたしマユ! こっちはガラガラのララ!」

 

『マユちゃんにララちゃんネ! オーケィ!』

 

「フーゴ。フラッシュと道案内頼んでいいか。

 お前さんならこの暗闇でも見えるだろ?」

 

『お任せあレ!』

 

 どむん、と胸元を叩き、サーフゴーの両目が光線を放ちはじめた。

 全身の金貨が輝いているのもあって結構明るい。

 サーフゴーを中心に半径10メートルくらいは見渡せるから、これなら地下への階段や曲がり道、はては危険な崖なんかも見落とさずに済むだろう。

 

「目標はガルーラだが、警戒心の強い種族だから出口のある1階には居ないと思う。居るなら地下(した)だ」

 

『なラ、降りられそーナ道を探せばいいんだネ!』

 

「そういうこと。頼んだぜ」

 

『アイアイキャプテン!』

 

 サーフゴーがびしっと敬礼する。

 俺はあくまでにこやかに、サーフゴーの肩を組んだ。

 

「……と、ここまでは表向きの話だ」

 

 雑談するフリをしてこっそり耳打ちする。

 

「このトンネルは子供連れで来ていい場所じゃない。

 テキトーなところで切り上げっから、本気(マジ)でガルーラを探す必要はねーぞ」

 

『あー、そユことネ』

 

 察しのいい道化はぱちんとウインクした。

 

『じゃあ気づかれない程度ニ同じとこグルグル回るネ!

 マスターがこんなちっちゃい子を暗いとこに連れてくるなんテおかしーナって思ったんだヨ』

 

「悪ぃな、気ぃ使わせちまって」

 

『ノープロブレム!』

 

 ブイ、と指を2本立てて、サーフゴーはずんずん歩きだした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 マユは、あちらこちら(といっても出口からほど近い場所)を歩きながら、ガラガラのララについて沢山のことを教えてくれた。

 

 マユが産まれた時は、まだカラカラだったこと。

 3歳の誕生日、リードの外れたガーディに追いかけ回されたとき、怒ったララが追い払ってくれたこと。

 5歳の七五三のときに一緒におめかしをしたら、なぜか進化したこと。

 毎晩一緒のベッドで寝ていること。

 朝はパンを焼くためにとっても早起きなこと。

 雷が落ちるとすごくそわそわしだすこと。

 

 最後の話にサーフゴーが首を捻った。

 

『雷が怖いのかナ?』

 

「うぅん……そういうのとは違うみたい。

 どっちかって言うと、わくわくしてるって感じかな。

 外に飛び出していきたそうな顔をするの」

 

「ふむ」

 

 家の中で飼い慣らされたポケモンは、自然現象に対して、野生で暮らす同種とは違う反応を示すことがある。

 たとえば水タイプのポケモンは、たいてい雨が降ると活発になるが、孵化してすぐに室内で育てられた個体は、むしろ体が濡れるのを嫌がるらしい。

 

 話を聞いた限り、ガラガラは随分長いこと屋内で生活しているようだから、派手な音を轟かせる雷に好奇心がくすぐられるのかもしれなかった。

 

(オーキド博士ならなんて言うんだろうなあ)

 

 ポケモン研究の世界的権威の顔を思い浮かべる。彼は確か、このカントー地方に研究所を構えているはずだ。

 

 かつては凄腕のトレーナーとして名を馳せたが、引退を機にナナカマド博士に師事して研究者の道を進み、数々の功績を築き上げた。

 

 とりわけ、ポケモンのタイプを測定するタイプ・チェッカーの実用化は、歴史を変えたと言っても過言ではない。

 現在は、特性を調べることの出来る特性チェッカーの開発を、シルフカンパニーとの共同研究で進めているらしい。完成した暁にはポケモン研究やバトルのレベルが飛躍的に向上するだろう。

 

(……ん、特性…………?)

 

「あー、そっか!」

 

 俺はぽんっと手を打った。

 

ガラガラ(ララ)のそれ、特性が関係してるかもしれないな」

 

「とくせい?」

 

 今度はマユがこてんと首を傾げた。

 

「おう。

 ポケモンにはタイプの他に特性ってのがあってだな」

 

 説明しかけて、ふと口を噤む。

 遠くから、ただならぬ声が聞こえた気がした。

 サーフゴーも異様な空気を察したようで、じっと耳を澄ましている。

 

 数秒の沈黙。

 今度は、さっきよりはっきりと聞こえた。

 

 間違いない。悲鳴だ。

 この先で何か起きている! 

 

 マユが俺の手を強く握りしめた。

 

「あ、アシタバさん! だ、誰かが叫んでるよ!

 助けに行こう!」

 

 マユの言うとおり行くべきだ。

 だが子供を連れていくわけには……

 

「ガルル!」

 

 惑う俺に、ガラガラが短く吠えてきた。

 

 この子はわたしが護る。

 そう言っているかのような、力強い眼差しだった。

 

「──おし、行くぞ! だけどムリはすんなよ!

 俺が撤退って言ったら撤退だ!」

 

「らじゃーっ!」

「ガルっ!」

 

 ガチグマを呼び出し、全員を背に乗せてもらう。

 かくして俺たちは、声のする方へと駆けだした! 

 

 

 〇〇〇

 

 

「こ、れは……」

 

 現場に到着した俺たちは、あまりの光景に絶句した。

 

 地上と地下を繋ぐ唯一の坂道の手前で、男たちが絶え間なしに叫んでいるのだが、なぜか全員生まれたままの姿だったのである。

 

 サーフゴーが光る視線をめぐらせれば、そこかしこに服が散乱しているのが見えた。

 

 おまけに、よーく耳をそばだててみると、叫び声には一定のリズムが流れているのに気づいた。

 がなっているせいで分かりにくいが、どうも「どっこいしょーどっこいしょー」と言っているらしい。

 

 祭りとかで神輿を担ぐときの掛け声にそっくりだ。

 しかし無論、こんなとこに神輿があるはずもない。

 

「……アシタバさん、あれなに?」

「見ナイデオコウネ」

 

 そっとマユの目元を掌で覆う。

 マユは小さく頷き、自分で耳も塞いでくれた。

 

 うん。聞かなくていい。

 鼓膜が汚れる。

 ていうかなんなんだよこいつら。

 全裸で祭りの練習でもしてんの? 

 心配して損したよ! 

 

「もーいいやガチグマ(ウルスラ)、帰ろうぜ。ごめんな、急がせて」

 

 ガチグマがゆっくりと反転する。

 顔を見なくても呆れ返っているのがわかった。

 

 だが、踵を返す刹那。

 サーフゴーの光が照らした()()()()に、俺ははっと息を飲んだ。

 

「ストップ! フーゴ、あれ見えるか!」

 

 サーフゴーが俺の視線の先を見やる。

 

 ────間違いない。

 サファリゾーンでケンタロスを怒らせた作曲家、ジョウさんのラジカセだ。

 誰がやったのか、真ん中から2つに裂けている。

 

 慌てて確認すると、どっこいしょの輪の中に、素っ裸のジョウさんが混じっているではないか。

 

「何やってんだあの人……。

 おーい、ジョウさーん!」

 

 呼びかけに、男たち()()が動きを止め。

 一瞬後、全く同じ仕草で振り返った。

 

 両目の焦点は覚束ず、口の端から泡を噴いている。

 

 どうみても、尋常ではない。

 

「……フーゴ」

 

『うン』

 

 サーフゴーの顔から笑みが消え、臨戦態勢に入った。

 

 男たちは祭りの練習をしていたんじゃない。

 極度の錯乱状態に陥っていたのだ。

 その原因は…………

 

「っそこだ!」

 

 指を突きつけた方向に、サーフゴーがコインを飛ばす。

 ギャッという短い悲鳴の後、ズバットが落ちてきた。

 途端、周囲の殺気が膨れ上がる。

 闇の中に、何十匹にも及ぶズバットの群れが犇めいているらしい。

 

「ひっ」

 

 剣呑な雰囲気に怯えるマユを、ガラガラが抱き締めた。

 

(…………やっぱり、な)

 

 ようやく、ここで何が起きたか見えてきた。

 

 たぶんジョウさんは、性懲りも無くポケモン・マーチを流したのだ。

 それが、聴覚を頼りに暗闇で生きるズバットたちの逆鱗に触れた。

 四方八方から超音波を浴びせられ、たまたま近くにいた人達も巻き添えを喰らい、みんなで混乱した挙句どっこいしょ音頭を奏でていたというわけである。

 

ルギア(レヴィ)。マユの傍から離れるな。

 常に神秘の布陣(まもり)を展開し続けろ」

 

「げる」

 

「ララ。マユちゃんを護ってくれよな」

 

「ガルルっ」

 

 ルギアもガラガラも頼もしい返事を寄越してくれる。

 俺はガチグマに、神秘の布陣の効果範囲から出ないこと、近づいてきた敵だけ対処しろと命じ、サーフゴーと並び立った。

 

 他のポケモンは出せない。

 これだけの数がいたら、どこから毒液だの超音波だのが飛んでくるかわかったものじゃないからだ。

 もしも仲間を操られたら、最悪、全滅も有り得る。

 

「……そんなわけで増援は出せない。

 踏ん張ってくれよ、フーゴ」

 

 言外に、かなりの危機(ピンチ)だと匂わせてみたのだが。

 

『マスターと2人っきりで戦うのなんて初めてカモ!

 フーゴいっぱい頑張っちゃウ!』

 

 道化は怖じけるどころか、黄金のからだを煌めかせ、実に楽しそうに笑ってみせた。

 

 

 

 

 




というわけで85話。
ロケット団もとち狂っちゃった、の巻。

アニポケで混乱状態になるとポケモンは自傷行為に走り、人間は奇行に走るってのがあると思うんですが、本作もそれに倣ってみました。
トンネルで全裸の男たちがどっこいしょと叫び踊りまくる。
ちょっとした恐怖ですね。

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