ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第91話 本能が告げるもの。

 

 

 

 

 翌日。

 ポケモンセンターで様々な検査を受けた結果、「痩せすぎている以外はばっちり健康体です」とお墨付きを頂けたミュウツーを連れ、グレン火山の登山口にやってきた。

 

 時刻は昼を回ったあたりだが、人の気配は無い。

 地元民にとって、わざわざ訪れるような山ではないのだろう。

 

「サカキ先生も来れれば良かったんだけどなあ」

 

「げるる」

 

 頭の上に陣取ったルギアが興味無さそうに一声鳴いた。

 

 サカキ先生は、トキワシティのジムリーダーの他にヤマブキ学院の学園長だか理事長だかも務めることになったらしく、めちゃくちゃ忙しいらしい。

 

「何かあったらすぐに電話しなさい」

 

 と言ってポケギアの番号を登録するや、さっさと船に乗って帰ってしまった。

 

「……ま、いっか。これもあるし」

 

 首から下げた懐中時計をぽんと叩く。

 別れる直前にサカキ先生からプレゼントされた時計だ。

 金鎖に金の刻印をあしらったデザインの、見るからに高そうな代物で、最初はとても貰えないと固辞したのだが。

 

 ご両親を亡くしてから今日までの頑張りにはそれだけの価値があると言われれば、あまり断るのも気が引けて。

 

 極めつけに、

 

「どうしても嫌ならトキワジムに返しに来なさい。

 私に勝てたら受け取ってやろう」

 

 ……なんて不敵に笑われたら、俺はもう、有難く頂戴するしかないじゃないか。

 ずっしりした重みが先生からの期待と激励に感じられて、いやでも背筋が伸びた。

 

「いつか挑戦してみてぇなー、トキワジム」

 

「げるる?」

 

 ルギアが手元を覗き込んできた。

 頼むから啄いたりしてくれるなよ? 

 大事なものなんだから。

 フリじゃないぞ。フリじゃないからな。

 

『これを登るのか』

 

 傍らで、ミュウツーが岩だらけの山道を見上げる。

 その拍子にズレた毛糸の帽子を、たどたどしい手つきで直していた。

 

 俺は、しばらくの間ミュウツーをボールに入れずに連れ歩くつもりだった。

 せっかくあの屋敷から出られたんだ、なんでも自分の目で見、触れてほしかった。

 しかし、そのままではあまりに目立ってしまう為、人に近い体型を生かして俺の服を着せることにしたのである。

 

 ジャンパーを羽織り、ズボンを履き、帽子を被せる。

 尻尾ばかりは誤魔化しようがないので、服の下で躰に巻きつけてもらったが、なかなかの出来栄えだった。

 遠目からならヒトに見えないこともない。

 

 俺は頷き、山肌に見える台地を指さした。

 

「今回はあそこの休憩所まで登るぞ。

 着いたら俺のパーティ全員と顔合わせして、そのあと飯にしよう」

 

『わかった』

 

「うし、出発(しゅっぱーつ)!」

 

 拳を突き上げる。

 ミュウツーは訳も分からず、俺のポーズを真似ていた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 冷えて固まった溶岩が剥き出しの上り坂を、ふたりと1羽で登っていく。

 ミュウツーは念力で浮くこともできるのに、わざわざ自分の足で歩いていた。

 ふうふうと苦しげに喘いでいる。

 

「少し休むか?」

 

『……まだ、いける』

 

 俺はふっと口角を上げた。

 

「そっか。キツくなったらすぐ言えよ」

 

 言いつつ、バレない程度に歩速を弛めた。

 大して標高のある山じゃないけれど、地下室にずっと引きこもっていた身空で辛くないわけがない。

 それでも弱音を吐かないあたり、どうやら相当意地っぱりのようだ。

 

 開始から1時間、ようやく目的地に到着した。

 

「よーし、みんな出て来いっ」

 

 ホルスターに収めたボールを開け放つ。

 カロスに置いてきたクチートとアマルルガ、日光に弱いサマヨールを除いた8体が、俺たちの前に並んだ。

 

『…………!』

 

 ミュウツーが、目を真ん丸に見開き、硬直した。

 こんなに大勢に囲まれたことも、種々様々なポケモンを見ることも、生まれて初めての経験だろう。

 見上げるほど大きなウネルミナモに匂いを嗅がれて、反射的に仰け反っている。

 

 最初に口火を切ったのはチーム一陽気な幽霊・サーフゴーだった。

 

『ハイハァイ! 道化のフーゴだヨン!

 昨日ぶりだネ! 覚えてル?』

 

『あぁ。あの暗闇ではギラギラ光っていたからな』

 

『いきなしシャドボぶつけてきたもんネ〜。

 さすがにフーゴもびっくりしたヨ』

 

 初対面で不意討ちされたのだ、普通は悪感情を覚えるものだろうに、サーフゴーは実にあっけらかんとして、まったく気にする素振りもなくニコニコ笑っていた。

 

 懐の深いポケモンである。

 

『今日からお仲間ってことデ、よろしくネ!』

 

『よろしく頼む』

 

 ふたりが握手すると、オーガポンが物珍しそうに寄ってきた。

 

「ぽに?」

 

『この子はオーガポンのステラちゃんダヨ! 

 マスターのことが大好きなお姫サマ!』

 

『マスターとはアシタバのことか』

 

『イエス!』

 

「ぬええ!」

 

 サーフゴーが親指を立てると、すかさずヌメラが割り込んできた。こんな女より自分を早く紹介しろとせっついているらしい。

 

『おっと失礼メルティちゃン。

 こちらはヌメラのメルティちゃんダヨ。

 彼女もマスターが大好き! 三角関係ってやつだネ』

 

『三角関係……ふむ、なるほど』

 

 ミュウツーがしかつめらしく頷く。

 

 あの、サーフゴー(フーゴ)くん? 

 いきなしそんな昼ドラ用語覚えさせなくていいです。

 もっと綺麗なものから覚えて欲しいんで。

 

『それでコッチの大っきいのがウネルミナモのミナモくんデ、こっちの熊さんはガチグマのウルスラくン!

 ふたりともすっごい力持ちダヨ! バトルも強いノ!』

 

『大きいな』

 

 ミュウツーが、ウネルミナモのマズルをそっと撫でた。

 ガチグマはさすがに体に触れることを許しはしなかったが、ミュウツーに敵意がないのは分かっているようで、リラックスした姿勢で休んでいる。

 

「よふー?」

 

 テッカグヤがとことこと近づいてきた。

 同じ鋼タイプだからか、それとも明るい性格(キャラクター)が好きなのか、ピクニックではサーフゴーの傍に居ることが多い。

 

 サーフゴーがテッカグヤをひょいと抱き上げた。

 

『こちらの素敵なプリンセスがテッカグヤの竹子嬢!

 ほんとはもっと大きいんだケド、普段はちっちゃくなってるんだヨネ〜』

 

「よふよふ」

 

『……そうか』

 

 ミュウツーの目元が優しさを帯びる。

 テッカグヤもくすぐったそうに微笑み返していた。

 

『それでマスターの頭に止まってるのがルギアのレヴィアタン。長いから、みんなレヴィって呼んでるヨ』

 

「げる」

 

 ぴよ、と片翼だけあげて挨拶したのが分かった。

 ミュウツーも真顔で片手を上げる。

 

 ……さっきから思ってたけど、こいつめちゃくちゃノリいいな……

 

『それで最後がカブトプスのカブルー。

 フーゴたちのリーダー!』

 

「ぎしゅ」

 

 カブトプスがかしゃかしゃとミュウツーに近づき、ぺこりとお辞儀した。

 

 ミュウツーが小首を傾げる。

 

『リーダーというのは何だ』

 

『フーゴたちのまとめ役ってコト! 

 あとネ、リーダーはこの中の誰よりも強いんダヨ!』

 

『……ほう』

 

 ミュウツーの瞳がきらりと光った。

 

『ではカブルーとやら。手合わせ願おう』

 

 俺は慌てて制止した。

 

「い、いや待て待て! これから飯を食うんだってば」

 

『駄目だ。いま戦う』

 

 ミュウツーは頑として譲らなかった。

 

『ワタシはまだ貴様の強さを知らぬ。

 貴様もまた、ワタシの強さを知らぬ。

 そんな者の命には従いたくない』

 

 おもわず呆気にとられたが、次にはミュウツーの考えが理解出来た。

 

 ミュウツーは元々、最強のポケモンを求めて生み出された生命体だ。

 戦いこそが生きる喜びであり、存在価値だと教えられてきたならば、己の強さを誇示するのは本能的欲求なのかもしれない。

 

 カブトプスが首肯し、仲間たちに目配せする。

 サーフゴー達はすぐさま距離を取り、ふたりが戦いやすいよう場を整えた。

 

 束の間の静寂。

 刹那、無数のシャドーボールが出現した────! 

 

 

 〇〇〇

 

 

「すみません、いま、なんと?」

 

 ロケット団本拠地の幹部室で電話を受けたアポロは、言われたことがにわかには信じられなかった。

 

 電話の相手──サカキは、気を悪くする風もなく指令を繰り返す。

 

『いま聞いたとおりだ。

 アシタバの抹殺計画は永久凍結。

 監視のみ続けろ。

 任務中に接敵した場合は抵抗せず逃亡してよし──だ』

 

 アポロは思わずデスクを叩いた。

 ソファで新聞を広げていたラムダが肩をびくつかせる。

 化粧を直していたアテナが何事かと振り返った。

 

「な、何故です!

 アイツはどんどん力をつけているんですよ。

 速やかに叩かねばいずれ我らを脅かす存在に……!」

 

『ならん。この私がいる限りな』

 

 短い言葉にこめられた自信は揺るぎないものがあった。

 混乱するアポロへサカキが囁く。

 その声は、欲しくて欲しくて堪らなかった玩具を買い与えられた子供のように、強い興奮が滲み出ていた。

 

『アレは、我らにとって福を運ぶ使者になる。

 故に殺すのではなく、手懐けるのだ。

 私が差し出した餌を喜んで喰らうほどに』

 

「…………!?」

 

 サカキは簡潔に語った。

 アシタバとの関係や、グレン島での出来事を。

 全て聞き終えた時、ようやくアポロにも得心がいった。

 

 確かに、ミュウツーを手に入れ、かつボールも造れるような人材はそうそう居るものではない。

 例えロケット団を目の敵にするような愚昧な輩であっても、使えるうちは使うべきだろう。

 サカキのカリスマ性があれば洗脳も容易いことだ。

 

 アポロはすっかり普段の冷静さを取り戻し、口答えした非礼を詫びた。

 

「委細承知いたしました、サカキ様。

 アシタバ(A)に関する指令はすべて変更致しておきます」

 

 その後、電話を切ると、訝しむラムダとアテナには一瞥もくれず、さっさと部屋を出て行った。

 

 廊下を歩きながら、サカキの台詞を何度も反芻する。

 

(アシタバは使える)

 

(手懐けよ)

 

(私の餌を喜んで喰らうほどに……)

 

 

ダン!

 

 

 きつく握りしめた拳で壁を殴りつけるアポロの目は、ゾッとするほど冷たい光を帯びていた。

 

「アシタバ……」

 

 食いしばった歯の隙間で磨り潰すように呟く。

 

 あの方の関心を集めるだけでは飽き足らず、時計まで贈られたというのか。

 例えそれが()()()()()()()()()だとしても、分不相応であろう。

 

 ああ、アシタバよ。

 お前は惨めに死なねばならぬ。

 私以上の寵愛を受けるなど許せるものか。

 

 

「今は手を出さないで差し上げましょう……。

 だが用済みになったその時は…………。

 

 

 

 ────私が直々に殺してやる」

 

 

 アポロの口辺に笑みが浮かぶ。

 

 悪魔のように美しく、酷薄な笑みだった。

 

 

 

 

 




というわけで91話。
みんなで仲良くピクニック。
その裏でアシタバ抹殺計画は中止!
いやーめでたいですね!
え、激重感情クソやば男がいる?
四六時中盗聴されてる?
HAHAHA、気のせいですyo!

引きこもってた期間が長すぎて右も左もわからんミュウツーは書いてて楽しい。
そんなんね、でっかい赤ちゃんみたいなもんですからね。
ここだけの話、おなやれおさんという絵師さんのミュウ&ミュウツーネタにかなり影響うけてます。
あれ可愛すぎるんじゃ。
知らない人はぜひTwitterで検索してみてください。可愛いので。

それとミュウツーにお洋服着せてみました。
ポケモンが服着てるの好きなんすよ。
ユナイトのホロウェアシステム大好き。
本編にも導入してクレメンス(土下座)

よければ感想高評価おなしゃす!

─追記─
アテナの名前誤字ってました汗
誤字報告送ってくださった方ありがとうございました!
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